「経営者の個人保証を外すことができる?」(相談事例3)
- Q私は会社の代表者であり、会社の全株式を所有しています。今般、子供を後継者として代表権も株式も承継させることを考えています。ただ、子供とその家族は、経営者になると会社の借入金について個人保証をしなければいけないと考えており、承継に大きな不安を感じています。事業承継に際して経営者の個人保証を解除できることがあると知り合いの経営者から聞きましたが、どのようにすれば解除できるのでしょうか。
また、仮に個人保証を解除できない場合で、会社の業績が悪化し、廃業せざるを得ない状況となったときは、個人保証があるために経営者も破産せざるを得ないのでしょうか。 - A経営者の個人保証については、平成26年から運用が開始された「経営者保証に関するガイドライン」(以下、ガイドラインとします。)を利用することにより、一定の条件を満たせば、事業承継に際して先代経営者の個人保証を解除したり、後継者が個人保証をせずに事業承継を実現したりすることが可能です。
また、条件を満たすことができず、経営者の個人保証が解除できない状況で会社の業績が悪化し、借入金の全額の返済ができないまま廃業せざるを得なくなった場合でも、ガイドラインを利用して、経営者が個人破産をせずに保証債務を整理することが可能です。ただし、ガイドラインに基づき、金融機関などと交渉することが必要となります。経営者個人で交渉を進めることは難しいため、ガイドラインに精通した弁護士に依頼することがほとんどです。なお、早期にガイドラインを利用して債務整理を開始すれば、破産手続よりも多くの資産や華美でない自宅などを経営者に残すことができる可能性があります。また、金融機関は信用情報機関への登録をしないことが求められていますので、いわゆるブラックリストなどに載らず、個人としての信用を守ることが可能となります。
(解説)
1.そもそも保証とはどのようなものか
保証とは、今回のケースであれば、会社が会社の借入金を返済できない場合、保証人である経営者が代わって、返済をしなければならないことを指します。
保証には、単純保証と連帯保証の2種類があります。単純保証の場合、保証人である経営者は、債権者である金融機関に対して、まず主たる債務者である会社に返済を求めるよう請求することができます(これを「催告の抗弁」といいます)。加えて、会社に返済する資金力があり、かつ、支払能力があることを経営者が証明すれば、金融機関は先に会社に請求しなければいけません(これを「検索の抗弁」といいます)。
これに対して、連帯保証の場合、このような請求を行うことができず、金融機関が期限の到来した借入金について保証人に支払を求めた場合、会社に支払能力があっても経営者が金融機関に対して支払わなければなりません。
中小企業の経営者が金融機関に対して行う保証は、通常は連帯保証です。
2.保証解除のために必要なこと
平成25年12月に制定された「経営者保証に関するガイドライン」を利用して経営者の保証を解除するためには、主として次の3点が必要となります。
- 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
金融機関や信用保証協会は、法人のお金が経営者個人に不当に流れることを懸念しますので、そのような懸念がないことを示すことができれば、保証を解除しやすくなります。 - 財務基盤の強化
主たる債務者である法人の財産状態が良く、法人の財産で十分返済できる状況にあれば、経営者から個人保証を取る必要性は低下しますので、個人保証が解除しやすくなります。 - 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
金融機関などの債権者が、法人の損益状況や財産状況を十分に把握できなければ、借入金の回収リスクが増え、そのリスクに対応するために個人保証を取る必要性が高まります。そのため、保証解除においては、財務情報を適切に開示して、経営の透明性を確保する必要があります。
3.保証債務の整理が必要となる場合
残念ながら法人の経営が行き詰まり、法人の財産と保証人個人の財産をもってしても金融債務を全額返済できない場合、従来は、保証人も個人破産を余儀なくされ、それまで蓄えていた財産や社会的信用を全て失う結果となっていました。
しかし、ガイドラインを利用することで、破産手続をとらなくても手元にある資産の範囲で、一定の保証債務を返済すれば残額を免除してもらうことが可能となりました。
また、金融債務を全額返済できない場合も、事業を第三者に譲渡してその対価で一定の返済を行ったり、廃業せざるを得ない場合も早期に廃業を決断し、その後の資金流出を防いだりすることによって、破産手続をした場合よりも金融機関などの回収見込額が増加する場合は、破産手続よりも多くの財産を保証人に残すことができ、一定の条件の下では自宅を残す余地もあります。
4.専門家に早めに相談しましょう!
このようにガイドラインを活用することによって、経営者の個人保証を解除したり、やむなく保証責任を求められる場合も個人破産を回避して保証債務を整理したりすることが可能です。
ただし、ガイドラインを利用するためには一定の条件があり、個別事情によって、対応可能な範囲も異なってきます。
そのため、保証の解除や保証債務の整理を検討される場合は、専門家、特にガイドラインに精通した弁護士に相談して、金融機関との協議・交渉についてもサポートを受けることが大切です。
経営安定特別相談室は、会社の経営が厳しいときの対応に通じている専門家を紹介できますので、お一人で悩まずに、お気軽にご相談ください。
著者プロフィール
大宅 達郎(弁護士)
大江・田中・大宅法律事務所 パートナー弁護士
東京商工会議所経営安定特別相談室専門スタッフ
日本弁護士連合会中小企業法律支援センター創業・事業承継プロジェクトチーム座長(2021年~)
創業から成長支援(資金調達、M&A等)、事業承継、事業再生、廃業支援まで、中小企業の経営全般の支援を行う。
弁護士会の活動や各種公的機関の専門家派遣等を通じて、中小企業支援、特に事業承継支援に精力的に取り組んでいる。
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