「破産したら経営者はどうなる?」(相談事例2)
- Q私は会社の代表者ですが、会社の業績は厳しく数か月後には資金ショートする見込みです。後継者もおらず、事業を引き取ってくれる先がないか探してみましたが、金融機関からの借入金が大きいため、見つかりませんでした。私自身もこれ以上経営者を続ける気力がなく、会社を破産せざるを得ないと考えています。私は会社の金融機関の借入金を連帯保証しています。会社が破産すると、経営者の私はどうなるのでしょうか。会社の債務はどうなるのでしょうか。会社の従業員や私の家族はどうなるのでしょうか。気を付けるべき点を教えてください。
- A会社が破産した場合には、破産管財人が全て清算の業務をするため、社長は経営の責任からは解放されますが、破産管財人の業務に協力する必要があります。社長の連帯保証債務は、経営者保証ガイドラインや破産などで債務免除を受けることができます。会社が破産しても、金融機関や取引先などの債権者への配当はゼロか少ないことが多いですが、債権者には税務上の一定のメリットがあります。また、従業員は、会社の破産により、未払賃金立替払制度を使うことができます。会社が破産をしても、社長の家族が会社の債務を保証していない限り、家族が責任を負うことは原則としてありません。
(解説)
1.会社が破産した場合、経営者はどうなるのか
会社の経営が苦しく資金ショートが間近だが、後継者もおらず、事業を引き取ってくれる先がなければ、会社の破産を選択することもやむを得ないでしょう。大切なのは、事業が続けられないからといって、夜逃げや放置はしないということです。会社を放置すれば、従業員や取引先が大変困りますし、会社を破産させても、経営者や従業員が守られる制度があります。会社をきちんとした形で閉めることも、経営者の務めです。
社長が裁判所に会社の破産の申立てをすれば、裁判所は破産手続開始決定を出します。社長一人で申立手続きを行うことは難しいので、弁護士を代理人に立てるのがよいでしょう。決定後、社長の権限がなくなり、裁判所が選任する破産管財人(代理人とは別の会社と利害関係のない弁護士)が会社を管理することになります。これにより、日々決断を迫られるという経営の責任から解放されます。ただし、社長には法律上説明義務があるため、破産管財人からの質問に答えて、破産管財人の業務に協力する必要があります。説明義務を果たしていれば、基本的に拘束されることはなく、再就職活動を行うなどの自由があります。
会社の社長は、通常、金融機関の借入金に連帯保証しているため、会社が破産した場合、連帯保証債務を一括で返済しなければならなくなります。社長が連帯保証債務の免除を受けるには、(1)「経営者保証に関するガイドライン」(2)自己破産、(3)個人再生、(4)民事再生、という選択肢があります。(1)については【相談事例3】を参照してください。(3)は借入金などの債務額の制限があり、(4)は一定の債権者(金融機関など)の同意が必要で費用負担も大きいことから、(1)が難しい場合には(2)の自己破産を選択することになるでしょう。
自己破産をすると、免責不許可事由(例えば、特定債権者のみへの返済など)がない限り、免責を受けて債務は消滅します。破産開始決定時に自分が所有している財産は換価(換金)されて債権者への配当に充てられますが、自由財産(現金99万円など、医療費等の必要があれば拡張されることもあります)は保障されます。破産手続開始決定後の収入は破産者本人のものとなります。なお、破産の事実が戸籍に載ったり、選挙権が制限されたりするといった不利益はありません。ただし、クレジットカードを作ることが一定年数(5年から7年とも言われています)できなくなる点に注意が必要です。
2.会社が破産した場合、会社の債務はどうなるのか
会社が破産した場合、破産管財人が会社所有の資産を換価して(売掛金を回収する、在庫商品を売却するなど)、換価した金員(金銭)から必要経費を控除した残りを債権者に配当します(債権額に比例した按分弁済になります)。
ただし、税金や社会保険料、従業員の給料や退職金は、一般の債権(取引先の買掛金や金融機関の借入金)よりも優先して弁済されますので、一般の債権者(取引先、金融機関)への配当は、少ないかゼロであることが多いです。
それでも、取引先や金融機関などの債権者は、債務者が破産することにより、回収できなかった債権を無税償却(損金に計上)するというメリットが受けられます。
3.会社が破産した場合、従業員はどうなるのか
会社が破産した場合、従業員は解雇されます(破産管財人が一定期間補助者として雇用することはあります)。未払いの給料や退職金は優先債権として扱われますが、会社に資産が残っていなければ、従業員への支払いはできません。ここで、労働者健康安全機構の未払賃金立替払制度を使えば、従業員は未払いの給料や退職金の一定割合を国から立て替えて支払ってもらえます。会社が破産しないとこの制度を使うのは事実上難しいので、この制度を使えるのは破産の大きなメリットです。
また、雇用保険に加入している会社が破産した場合、解雇された従業員は離職票を提出する等の必要な手続を踏むことで、失業給付を受けることができます。
未払賃金立替払制度や失業給付には、破産管財人の協力が必要です。破産申立ての代理人の弁護士とよく相談し、その弁護士と破産管財人が連携してもらうとよいでしょう。
4.会社が破産した場合、経営者の家族はどうなるのか
会社が破産した場合、社長の家族は、自分で金融機関の借入金の連帯保証をしていない限り、原則として法的な責任を追及されたり、金銭的な負担を強いられたりすることはありません。
ただし、破産の申立てをする直前に、家族に会社の資産を移したり、理由のない支払いなどをしていたりすると、会社の破産後に破産管財人から否認権を行使され、家族に賠償請求がされるリスクがあることに注意してください。
上記のことに限らず、自分にとって不利益となりうる事実であっても、破産の申立てにあたっては、破産管財人に包み隠さず明らかにすることが大切です。
5.専門家に早めに相談しましょう!
会社の経営が芳しくなく資金繰りが厳しくなってきたら、迷わず専門家、特に法的な手続に詳しい弁護士に相談しましょう。どういう選択肢があって、その選択肢を取ることによってどんなリスクがあるのか、弁護士からきちんと説明を受けられれば、安心して次のことを考えることができます。
会社が破産することで、経営者の命を取られるようなことはありません。むしろ日々決断が迫られる経営者の責任の重荷から解放されることは大きいです。
経営安定特別相談室は、会社の経営が厳しいときの対応に通じている専門家を紹介できますので、お一人で悩まずに、お気軽にご相談ください。
著者プロフィール
堂野 達之(弁護士・中小企業診断士)
堂野法律事務所 所長弁護士
東京商工会議所経営安定特別相談室専門スタッフ
東京弁護士会中小企業法律支援センター本部長代行(2019年度、2020年度)
東京弁護士会副会長(2021年度)
日本弁護士連合会中小企業法律支援センター事業再生プロジェクトチーム座長(2014年~2019年)
中小企業の経営全般の支援を行うが、事業の再生・承継・清算を得意とする。
専門家によるコラム記事はこちら
- 相談事例1「代表者が緊急入院(その後死亡)、会社はどうなる?」
- 相談事例2「破産したら経営者はどうなる?」
- 相談事例3「経営者の個人保証を外すことができる?」
- 相談事例4「廃業の判断のタイミングは?自分の会社はいつまで持つの?」
- 相談事例5「自力再建はできないが、なんとか事業を残せないか?」
経営安定特別相談室の無料相談について
破産・倒産の不安を抱える中小企業等のための相談窓口です。秘密厳守を徹底しているため、安心してご利用いただけます。
東京商工会議所にて運営されており、相談は無料です。
メールでのお問い合わせ
無料相談もこちらから