「代表者が緊急入院(その後死亡)、会社はどうなる?」(相談事例1)
- Q私は会社の代表者の妻で、従業員として経理を担当しています。先週、夫が突然倒れ、意識不明のまま入院してしまいました。医師からは残念ながら助かる見込みがほぼないと言われていますが、会社の運営はどうしたらよいでしょうか。
また、仮に、夫が亡くなった場合、後継者もおらず、会社の業績も良くなく、多額の負債を抱えているため、会社をたたみたいと思っていますが、気をつけるべき点を教えてください。 - A社長の回復を祈りつつ、社長が戻ってくるまでの間、役員や従業員が、何とか会社の運営を維持していくほかありません。意識不明のまま社長の入院が長引く場合には、別の代表者を立てることが必要になることもあるでしょう。
社長が亡くなられた場合には後継者がいないため会社をたたみたいということですが、この場合、多額の負債の整理が課題になります。また、社長が負債に対して経営者保証(連帯保証)を行っているケースが多く、社長の妻など相続人がいる場合には、相続するか、相続放棄をするかを検討する必要があります。
(解説)
1.社長が緊急入院した場合、会社の運営はどうしたらよいか
社長が病気等で緊急入院された場合、当然のことですが、社長の業務を担う人がいなくなります。会社の運営を維持するためには、役員や従業員がこの社長の業務をカバーする必要があります。
入院していても社長が入院先から業務を指示することができれば、他の役員や従業員が業務を代わりに行うこともできます。しかし、今回の相談事例のように社長が意識不明の場合には、社長に業務内容を確認することすらできません。したがって、役員と従業員で手分けして現場で分かる範囲で緊急対応していくほかありません。
もっとも、社長が意識不明の場合には、さすがに他の者が代表行為を行うことはできません。入院が長引き、その間に重要な契約を締結する必要が生じた場合などには、社長の代わりに代表行為を行う者を選ぶ必要があります。
その場合、代わりに代表になる者がそもそもいるか、定款では代表取締役の定めがどうなっているか、(代わりの者が取締役ではない場合には)取締役を選任するための株主総会が開けるかなど、会社ごとに解決しなければならない実務上の課題も異なってきます。
2.社長が亡くなり会社をたたむ場合、会社の多額の負債はどうなるか
社長が亡くなった場合には、まずは、役員や従業員で話し合って、事業の継続を希望するのか、それともたたむのかを決める必要があります。
事業の継続を希望する場合には、親族や役員・従業員に後継者がいればその方が代表取締役になり、後継者がいなければM&Aにより会社を売却することを考えます。多額の負債を抱えている場合でも、事業譲渡という方法で、事業を残すことができる場合があります(詳しくは、【相談事例5】をご覧ください)。
今回の相談事例のように、後継者もおらず、会社の業績も良くなく、多額の負債を抱えている場合、実際には、会社をたたむことを希望するケースが多いと思われます。その場合、会社をたたむ手続に入りますが、その際に課題となるのが負債の整理です。
まずは、どのような負債がいくらあるのか確認することから始めます。金融機関からの借入金、取引先の買掛金、従業員の未払賃金、リースを解約した場合の残リース料、事務所・店舗を明け渡す際の原状回復費用、滞納している消費税等の税金や社会保険料など、全ての負債を確認します。
その上で、現状ある現預金、売掛金の回収資金、在庫や不動産などの売却資金などで、その負債を返済できるか考えます。
負債を完済できない、いわゆる債務超過の場合には、通常清算手続ではなく、倒産手続に進むことが必要になります(【相談事例2】も併せてご覧ください)。
倒産手続の代表例は、破産手続です。
破産手続は、裁判所から選任された破産管財人が、破産者の財産をお金に換えて、債権者に平等に配当することを目的にした制度です。全額の配当ができなくても破産手続が終了すると、会社の登記が閉鎖されます。
また、ケースによっては、裁判所の特定調停手続を利用して、金融機関などの債務免除を得て、破産手続によらずに廃業することができる場合もあります。
どのような方法で会社をたためばよいのかは、専門知識がなければ判断できません。一人で悩まずに、経営安定特別相談室にご相談ください。
3.社長の経営者保証(連帯保証債務)などの負債はどうなるか
社長は、会社の金融機関からの借入やリース契約について連帯保証人になっていることがあります。これを経営者保証といいます。
経営者保証以外にも、住宅ローンや、金融機関、クレジット会社、消費者金融、親戚、知人などから社長自身が借り入れしているケースもあります。
会社を倒産手続でたたむ場合には、社長に対する経営者保証の請求が始まることに加え、自社から役員報酬を得られなくなりますので、自らの借入金についても返済が難しくなります。
社長が亡くなった場合には、これらの社長の負債が相続の対象になりますので、原則、相続人(今回のケースの場合、代表者の妻など)が支払義務を負うことになります(相続人が被相続人(社長)の権利義務を無限に承継することを「単純承認」といいます)。
もしも、相続人が、この債務を負いたくないという場合には、相続人とならないようにするために「相続放棄」を選択することができます(ほかに、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人(社長)の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続を承認する「限定承認」という方法もあります)。
今回のようなケースでは「相続放棄」を選択することが多いと思われます。その場合には、次の点に留意してください。
- 負債だけではなく、自宅不動産などの資産も相続することができなくなります。
- 相続放棄の申立てができるのは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」です。この熟慮期間内に判断がつかない場合には、家庭裁判所に期間伸長の申立てをしてください。
- 相続放棄は、その選択をした相続人が、それぞれ家庭裁判所に申立てをします。
いずれにしても、一度、経営安定特別相談室の専門家にご相談いただくと、頭の整理になります。
著者プロフィール
関 義之(弁護士・中小企業診断士)
関&パートナーズ法律事務所 代表弁護士
東京商工会議所経営安定特別相談室専門スタッフ
東京都よろず支援拠点コーディネーター
東京弁護士会中小企業法律支援センター嘱託(2014年度~2021年度)、副本部長(2022年度~)
弁護士会の活動や各種公的機関の専門家派遣等を通じて、中小企業支援、特に事業承継支援に精力的に取り組んでいる。
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