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海外ビジネス相談コラム

英文契約書作成のポイント

契約書作成の必要性

契約書は、何のために作成するのでしょうか?また、契約書がないと契約は成立しないのでしょうか?実際には、契約書がなくても口頭の合意だけで契約は成立します。しかし、契約書がないと、お互いの合意内容が実は一致していないのに、互いに一致していると思い込んでしまうなど、誤解やトラブルが生じる可能性が高くなります。このような事態を避けるため、つまり合意内容を明確にして、将来の紛争を防ぐために、契約書が必要なのです。
特に国際契約では、お互いの国で使われている言語、文化、宗教、法律、慣習などが異なるため、齟齬が生じやすくなります。国内取引と比べて、国際契約ではこのような齟齬が起こるリスクが非常に高いため、契約書に合意内容を詳細に書面で残すことが、国内取引以上に重要です。
また、取引中に争いが生じた場合、口頭での合意だけでは「言った・言わない」の水掛け論に発展してしまうことが多いです。しかし、契約書があれば、その内容を基に問題を解決することができます。契約書は、将来の紛争解決の際に役立つルールブックとしての役割も果たします。





契約書の作成の流れ

まず、相手方と取引条件をしっかり交渉し、合意内容を明確にすることが大切です。取引条件は企業によって異なるため、どういった取引をするのかを自社のビジネスに合わせてしっかり検討しましょう。これは、取引を円滑に進めるためだけでなく、将来のトラブルや紛争を防ぐためにも重要です。
次に、自社の国内取引で使用している契約書を見直し、取引条件が明確かどうか確認しましょう。必要であれば修正を加え、それを基に国際契約で必要な条項を作成する方法が効率的です。いきなり国際契約書を作成するよりも、既存の契約書を活用して国際取引に対応させる方が、手間とリスクを減らせます。
海外との取引先との契約書を作成する際には、国際取引に特有の留意点を確認するため、信頼できる機関が作成したひな型(テンプレート)を参考にするのがおすすめです。たとえば、日本商事仲裁協会では、さまざまな取引形態に応じた英文契約書のひな型を販売しています。自社の取引内容に合った雛形を参考にし、国際取引特有の条項や留意点を確認しながら相手方と交渉を進めましょう。雛型には、標準的な条項やその解説が含まれているため、これを利用することで、交渉の際にどの点に注意すべきかが分かりやすくなります。
ただし、各取引には個別の事情があるため、ひな型をそのまま使うことはできません。ひな型を参考にしつつ、自社の状況に合わせて修正が必要です。最終的な契約内容が固まる前に、弁護士に確認してもらうことが重要です。もちろん、予算が許せば、交渉の初期段階から弁護士に依頼することで、より適切なアドバイスを受け、交渉を有利に進めることもできます。


国際取引特有の条項

国際取引特有の条項の主要なものとしては以下のものが挙げられます。

1. 準拠法

準拠法とは、契約書の内容をどこの国の法律で解釈するかを定めるものです。たとえば、中国企業と取引する場合、準拠法を日本法に定めると、その契約は日本の法律に基づいて解釈されます。一方、中国法を準拠法とした場合、その契約は中国の法律に従って解釈されます。
日本企業にとっては、日本法を準拠法とした方が法律に詳しく、予測もしやすいため、有利なことが多いです。その反対で、中国企業は中国法の方が有利ですから、中国法を準拠法とするように主張するでしょう。双方が自国の法律を準拠法として主張して折り合えないこともあります。そういった場合、第三国(この場合、シンガポールなど)の法律を準拠法にすることも考えられます。

2. 紛争解決機関

紛争が発生した場合に、どの機関で解決するかを決める条項です。一般的には、裁判所か仲裁機関のいずれかを選びます。裁判所を指定する場合、準拠法と同様に、自国の裁判所を選ぶ方が有利です。しかし、折り合えない場合、被告の所在する国の裁判所を指定するというケースもあります。
ただし、裁判所を使うと不都合が生じる場合もあり、そのような場合には仲裁機関を使用します。紛争解決機関として裁判所が不都合な場合とはどのような場合でしょうか。たとえば、中国の企業に日本の会社が商品を輸出したところ、中国の企業が合理的な理由もなく代金を支払わなかったとしましょう。その場合、契約書に日本の裁判所で裁判をすると紛争解決機関の指定があったとします。日本の企業は日本の裁判所で訴訟を提起して勝訴したとしましょう。その場合、実際に債権を回収するには相手方が任意で支払ってくれない場合、債権の差押えなど強制執行をする必要があります。そして、国際的にはある国の裁判所の判決を執行に使うには執行をする国の裁判所において承認をしてもらう必要があります。しかし、中国の裁判所は日本の裁判所の判決を承認してくれないのです。したがって、日本の裁判で勝訴しても中国国内の財産に対して強制執行はできず、判決は絵に描いた餅になってしまいます。こういった場合には、紛争解決機関として仲裁を利用することが適切といえます。
また、裁判より仲裁の方がメリットが大きいと判断して仲裁を利用するケースもあります。仲裁には、以下のようなメリットがあります。

  • 公開での解決:裁判は公開の法廷で行われますが、仲裁は非公開で進められるため、紛争内容が外部に知られることを避けたい場合に有効です。
  • 迅速な解決:裁判は上訴が可能ですが、仲裁では一度決まった判断に異議申し立てができないため、より迅速に解決できます。
  • 公平性:裁判では国によっては自国の当事者に有利に判断されることもあり、仲裁の方が公平に解決できる場合があります。
  • 言語の選択:仲裁では、契約時に使用する言語を指定できますが、裁判では現地の言語に翻訳する必要があるため、仲裁の方が翻訳の手間暇を省けるメリットがある場合があります。

3. 言語

契約書を作成する際、どの言語を使うかも重要なポイントです。国際取引では、一般的に英語が使用されますが、双方の国の言語を併記する場合もあります。併記をした場合にはどちらの言語が優先するか、またはいずれも正文であるかを明確にしておくことが必要です。また、行政機関への届出等との関係で、翻訳を作成した場合に翻訳はあくまで参考であるといったことも定めておく方がよいです。



契約書の締結前にチェックする点

契約書を作成したら、以下のポイントをチェックしましょう。


1.
合意内容が全て記載され、明確かどうか
契約書には、双方の合意内容が正確に記載されていることが重要です。これにより、後々の紛争を防ぎ、万が一トラブルが発生した場合にも適切に解決することができます。
2.
契約相手が正しいかどうか
国際取引では、契約相手がどの法人なのかが不明確になる場合があります。相手方の登記情報を取得し、住所や設立準拠法が正しく記載されているか確認することが大切です。 相手方に通知を送る際にはメールが使われることもありますが、万が一メールが届かない場合に備えて、住所に通知を送ることもできます。
3.
署名者に署名権限があるかどうか
契約書に署名する人が、実際にその契約を締結する権限を持っているか確認する必要があります。日本の場合、登記簿で代表取締役の署名権限を確認できますが、海外の企業では異なる手続きが必要になることもあります。
4.
契約成立日を明確にすること
契約成立日から契約の効力が発生し、双方の権利義務が発生しますので、契約が成立した日付を明記しましょう。
5.
現地の法律に注意すること
相手国の法律により、現地の言語を使用することが義務付けられていたり、証人の署名が必要だったりする場合があります。必ず現地の法律を確認し、適切な手続きを取りましょう。

相手方とのサインの取り交わし

日本では、契約書に押印することが一般的ですが、海外では会社の印鑑が存在しない国が多いです。そのため、海外では通常、署名権限を持つ者が署名をして契約を締結します。
偽造防止のために、日本では袋綴じを行うことがありますが、海外では各ページに署名者がイニシャルを記入することが一般的です。
契約書は2通作成し、双方が1通ずつ保管するという点は国内取引と同じです。


基本契約と個別契約の使い分け

最初の取引では、相手方が信頼できるかを確認するために、まず単発の契約を締結してみることも一つの方法です。一定の取引を経て、相手方が信頼に足ると確認できた場合には、基本契約を締結し、それに基づいて個別契約を結ぶのが一般的です。また、初めから詳細な取引条件を決めて基本契約を結ぶケースもあります。
基本契約と個別契約の使い分けですが、基本契約には各取引において共通して適用される条項を定めます。たとえば、以下のような内容が含まれます。

①契約の目的
②商品やサービスの内容
③価格の決め方
④支払条件
⑤引渡条件
⑥貿易条件
⑦品質保証
⑧損害賠償
⑨契約の終了
⑩契約期間
⑪準拠法
⑫紛争解決機関

一方で、個別契約では具体的な取引ごとの条件が定められます。たとえば、複数の商品がある場合には、どの商品を何個注文するかなど、具体的な内容を記載します。個別契約は通常、1枚程度のシンプルな書面で、ひな型に取引内容を記載するだけで完成します。
基本契約と個別契約の使い分けは、国内取引と国際取引で大きな違いはありません。


最後に

海外との契約は慣れないことが多いため、専門家の適切なサポートを受けながら、自社に有利な内容の契約を結ぶことが重要です。






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