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工業部会ものづくり分科会

ものづくり人材育成計画事例 vol.2

工業部会

株式会社品川測器製作所
代表取締役 細田 純代 氏


人材育成計画を策定する「アウトプット」の機会があることで、
学びを「自分ごと」として咀嚼し落とし込めた



人材育成計画事例

代表取締役 細田 純代 氏



1.ものづくり人材育成の現状と課題


新たな事業計画のテーマは「人材育成」


 当社は、1947年創業の計測器メーカーです。かつては圧力計が主力製品でしたが、現在は発電所や変電所で使用される大型変圧器、遮断器などに使用される特殊計器を主力製品としています。当社の競争力の源泉は、特殊な製品をオーダーメイドで製造する、熟練した技術力です。

 私は2009年に3代目の社長に就任しました。しかしその半年後、長く会社を牽引してきた父が急逝。さらに東日本大震災をきっかけとした原子力発電所の停止等の影響を受けて、業績は右肩下がりとなりました。  その状況に歯止めをかけるべく、社内に事業改革チームを立ち上げ、3カ年の事業計画をスタートさせたのが2019年。具体的には、自動車メーカーの事例を参考に、クロスファンクショナルチーム制を採り入れ、トップダウンから社員主体の組織体制への転換を図りました。社員の活躍で、改革を始動してなんと2年目には黒字に回復できました。

 2024年が2回目の3カ年事業計画の最終年だったため、2025年からの新たな3カ年事業計画の構想を練っていましたが、その際、自社のさらなる発展のために必要なのは人材育成だと考えていました。偶然にもそのタイミングで「ものづくり人材育成ゼミナール」のことを知り、受講を決めました。

 また、日々会社経営に携わっていると、一つのことだけに集中する時間がなかなか持ちにくいものです。この「ものづくり人材育成ゼミナール」の全6回のスケジュールは年末年始にまたがっており、まとまった時間を確保しやすいのも受講の決め手になりました。

品川測器製作所

変圧器の事故を未然に防ぐ各種継電器



2.東商ものづくり人材育成ゼミナールにおける自社の取り組み


最終課題の人材育成計画を、実際の事業計画に反映


 実際に本ゼミナールを受講してみて、講師やほかの受講者の話を聞くと、みなさん悩みを抱え、試行錯誤しながら人材育成に取り組んでいることがわかりました。それを知るだけでも、大きな気づきで、「悩んでいるのは自分だけはない」と勇気を得られる機会となりました。

 最終課題では、自社の人材育成計画を策定します。インプットだけでなくアウトプットの機会があることで、受講した内容を自分の中で咀嚼し、形にできたのも大きな学びになりました。

 実際、策定した人材育成計画は、課題のまま終わらせず、当社の新しい事業計画書にほぼそのまま反映しています。 具体的には、当社ではこれまで、新規事業のプロジェクトを任せることでリーダーを育成するアプローチをとっていました。しかし、本ゼミナールで受講した内容を自社の現状に紐づけると、実はそれ以前に「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」や「報連相(報告・連絡・相談)」など、ビジネスパーソンとしての基礎スキルの不足が課題として浮かび上がりました。この基礎スキルの底上げを、人材育成計画では大きな柱としています。

人材育成計画の実践にあたっては、1人の男性社員をリーダーに任命し、彼と話し合いながら進めています。彼も「社長、新規事業の前にそもそも5Sさえできていない社員はたくさんいますよ」と遠慮なく意見をぶつけてくれるので、現場の意向を反映した実効性の高い推進体制が構築できていると感じています。



3.取り組みの成果と今後


人材育成を「手段」ではなく「目的」として考える好機になった


 本ゼミナールでの学びを改めて振り返ると、私自身これまで、人材育成のみに特化して考える機会がありませんでした。どちらかというと、新規事業や既存事業をどう進めていくかが最優先課題で、そのために人材をどう補うか、育てるか、という「手段」としてとらえていたのです。本ゼミナールは、人材育成を「目的」として、長期的にどう取り組んでいくか、そのための推進体制はどう構築するか、さまざまな視点から考える絶好の機会となりました。

 あらためて、新しい事業計画を構想するタイミングでゼミナールを受講できたのが質の高い学びにつながったと実感しています。「教えてもらおう」という受け身の姿勢で臨むと、せっかく得た学びを「自分ごと」として咀嚼し、落とし込もうとせず、結果として「こんなものか」で終わってしまいます。

 もちろん、ゼミナールで得られた学びが10あるとしたら、実践できるのは1つか2つかもしれません。でも、その1つ、2つを拾えるかどうかは、受講する側の姿勢次第ではないでしょうか。

 当社ではこれまでも、社員が主体的、自律的に動ける組織づくりに注力してきました。これからはさらに、社員一人ひとりには会社という「器」を使って社会のため、お客さまのためになることには積極的にチャレンジしてほしい。社長としても、そのチャレンジを支援していきたいと考えています。

 私が組織づくりにおいて理想に描くのは、城の石垣のような組織。大きい石が集まるだけでは不安定ですが、そこにいろんな大きさや形の石、さらに砂利や砂も混ざることで強固な石垣が組み上がります。

 中小企業を取り巻く状況として、M&Aによって合理化を図る動きもあります。しかし、当社としては多少非合理、非効率であっても、社員一人ひとりの多様な個性を大事にする石垣のような組織づくりに取り組んでいきたいですね。




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東京商工会議所 中小企業部03-3283-7754