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工業部会ものづくり分科会

ものづくり人材育成計画事例 vol.1

工業部会

株式会社夏目製作所 
代表取締役 夏目 知佳子 氏


ビジネスモデル変革の実現に、
ものづくり人材育成ゼミが一役買う



ものづくり人材育成計画事例

代表取締役 夏目知佳子氏



1.ものづくり人材育成の現状と課題


浮き彫りになった営業部と製品部の”違い”


 当社は、動物実験に関連する実験・飼育機器を製造・販売しているメーカーです。 工場を持たないファブレスメーカーの利点を活かし、ライフサイエンス研究をはじめ医薬品、医療機器等の研究開発に携わる国内外の大学、研究機関、企業などのあらゆる要望や依頼にフレキシブルに対応し続けてきました。 1946年の創業以来、開発したオリジナル製品群は大型設備・機器からハサミに至るまで約700種類に及びます。動物実験というニッチな市場で、関連するすべての製品を網羅している企業は、国内ではおそらく当社だけではないでしょうか。

 私は2019年に、父の後を継いで4代目社長に就任しました。そのころ、ちょうど経験豊富なベテランの社員が定年を迎え、代わりに20~30代の社員が入社して世代交代が進んでいる時期で、このタイミングで以前から温めていたさまざまな経営改革に着手したのです。その一つが組織改革。まず実践したのが、お客さまと接する営業部、協力企業と連携し製品を開発する製品部(当時は製品開発部。以下、製品部)、バックオフィスを担う管理部の3部体制を構築し、各部のミッションと役割を明確にしました。

 組織を改編して浮き彫りになったのが、営業部と製品部の“違い”です。営業部はお客さまから受注を獲得し、製品部に「はい、これつくって」とオーダーする。製品部はそれを「わかりました」と受ける。知識も情報量も豊富な営業部の立場が強く、製品部には営業部が持ってきた情報を元にものを作る、という体質が根付いていて、自分たちで情報を取りに行くという仕組みがありませんでした。
もちろん営業部にも課題がありました。これまでは「一人親方」のベテラン社員が属人的に知識やノウハウを持っていたのですが、時間をかけて得てきたそれらのノウハウを言語化して次の世代に伝えるのはとても難しく、人の入れ替わりと共に営業力はどうしても低下していました。

 このような課題を抱えていたところで、「ものづくり人材育成ゼミナール」のことを知りました。今の課題に合わせた組織変革を図る上で、製品部に特化した人材育成を考える必要があるとともに、私自身がそこに特化して考える必要があると感じ、受講を決めました。

夏目製作所

当社の幅広い製品群



2.東商ものづくり人材育成ゼミナールにおける自社の取り組み


ケーススタディを通じて自分の考えの確認作業ができた


 ものづくり人材育成ゼミナールでは、講師の体験にもとづく具体的な事例を、講義やワークショップを通じて学べるだけでなく、一緒に受講した他企業の事例も聴くことができ、追体験できたのも大きな学びにつながりました。

 同時に、事例を聞きながら「自分が考えていること、取り組んでいることと一緒だな」と共感できる点が多々あったことで、少しですが自信もつきました。一例を挙げると、人事評価制度です。当社でも私が代表に就任してから評価制度を変更しましたが、その中では社員一人ひとりに自身のキャリアプランを語ってもらうよう求めています。なぜならば「自分がどうなりたいか」が明確でないと会社としても成長の支援ができないからです。その評価制度に対する自分の考えも、講義を通じて「いまやっていることは間違いではなかった」と再認識ができました。

 また、研修カリキュラムは全6回のシリーズとなっていたため、前回の講義で聴いた話を「あれ、何だったっけ?」と振り返ることができます。1つのテーマを何度も反芻することで、学びが定着していくのを実感できました。
研修という形で、人材育成について考える時間を物理的に確保できたのも個人的にはよかった点です。



3.取り組みの成果と今後


ものづくりから「ソリューション企業」への変革を目指す


 最終課題として策定した人材育成計画では、①コミュニケーションの質の改善、②各グループの「仕事」と「責任」の再定義、③改善ビジネスマインドの定着、の3つのテーマを掲げました。その先に見据えているのは、当社のビジネスモデルの変革です。

 当社では、ここ数年「動物実験のコンシェルジュ」をスローガンに掲げています。
「コンシェルジュ」とは、単なる耳障りのいいキャッチコピーではありません。お客様がすでに見えている課題に対してモノを提供するだけではなく、それに関しての適切な使い方や正しい情報、合わせてご案内すべき周辺機器についての情報などをお伝えすることで、お客様の実験が成功すること、更に動物福祉や労働環境の改善にも寄与できることを目指しています。動物実験にまつわるお客さまの困りごとを聞き出し、それに対してソリューションを提供する会社へと生まれ変わる。その決意が「コンシェルジュ」の言葉に込められています。

 ビジネスモデルの変革を実現するうえで、不可欠なのが人材育成です。営業部は困りごとを聞き出す力や提案力を高め、製品部はモノを作るだけでなく、どう使われるのかを正しく理解して、協力企業と連携してソリューションを作り出す。社員一人ひとりが成長しながら、2つの部が車の両輪のように連携する、そんな組織を目指しています。

 当社は来年の2026年に創業80周年を迎えますが、この節目のタイミングで「動物実験のコンシェルジュ」のメッセージを改めて社員に伝えるつもりです。それをどんな言葉で、どう伝えるべきか。人材育成計画の策定を通じて思考を整理できたのも、「ものづくり人材育成ゼミナール」を通じて得られた成果の一つですね。

 『ライフサイエンスの未来とともに』――当社の経営理念です。動物実験は、世界のライフサイエンスをはじめ医薬品、医療機器等の研究開発を陰で支える存在です。主要なお客さまである大学や研究機関、企業は、日々最先端の研究に取り組んでいます。しかしながら、当社が旧態依然のままでは、ライフサイエンスの未来に貢献することはできません。だからこそ歴史や実績に甘んじず、新しいことに挑戦し続けていきたいです。




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東京商工会議所 中小企業部03-3283-7754