改正会社法と中小企業への影響

 平成26年6月27日に公布された「会社法の一部を改正する法律」について、中央大学法科大学院 教授 大杉 謙一氏が解説します。

(1)スケジュールと中小企業が留意すべき事項

 平成26年6月27日に、「会社法の一部を改正する法律」が公布された。本稿では、会社法改正のポイントをお伝えする。 まず改正法をめぐるスケジュールである。改正法の元となる法制審議会の「会社法制の見直しに関する要綱」は、平成24年9月7日に決定されていたものの、同年末の政権交代を経て、本年6月に改正法の可決・成立に至った。「要綱」と「法律」では少し違いが生じているが、その点は内容の説明の箇所で述べることにする。改正法の施行日はまだ明らかにされていないが、平成27年4月から5月に施行される可能性が高いようである。 次に、今回の改正法の特徴を前回の平成17年会社法と比較すると、次の表のとおりである。  

 
平成17年会社法
平成26年改正
主たる対象
中小企業を含む会社全般
主として上場会社
改正の特徴
経営の自由度の拡大
経営者に対する規律の重視


 次に、改正法の内容について、特に中小企業にとっても影響のあるところを見ていく。 今般の会社法改正で大きな注目を集めたのが、多重代表訴訟である。「多重代表訴訟」とは、親会社の株主が、子会社の取締役・監査役などを訴えて損害賠償を請求することができる制度である。 この制度が適用されるのは、100%の親子会社関係(つまり、子会社の株式をすべて親会社が保有している場合)に限られる。そして、子会社のうちでも特に重要な子会社(子会社株式の親会社における帳簿価額が親会社の総資産額の20%を超える場合)だけに適用される。中小企業でもこの条件が満たされる可能性は皆無ではないので、企業経営者は自社でこの訴訟が提起される可能性の有無についてご点検いただきたい。 会社分割についても規制が整備された。債務負担に苦しむ会社が会社分割を使って債務を切り離すことは珍しいことではないが、債権者を害することを知ってこれを行う場合には、分割により設立された会社に対して債権者は債権を行使できることが法改正で明記された。 これは、会社分割を利用した事業再生スキームをすべて否定するものではない。事業に将来性があり、かつ事前に主要債権者ときちんと交渉して行うのであれば、新しく設立された会社への請求が認められる可能性は低い。ただ、一部の自称コンサルタント、アドバイザーが会社分割による倒産回避を助言していたことが、改正の背景にある。このようなアドバイスに従っても、根本的な問題解決にはならないことが多い。企業の経営者と銀行・取引先が真摯に協議することが、最善である。 また、監査役の登記についても法改正がなされる。定款に株式の譲渡制限を置いている会社は、監査役が会計監査のみを担当するか、業務全般についての監査の権限を持つかを、会社ごとに決定することができるが、多くの中小企業において監査役は会計監査しか担当しないこととされている。しかし、債権者など会社の外部のものは、いずれであるかを登記で知ることができない。今回の改正により監査役が会計監査のみを担当する場合は登記事項が追加される。法務省や商工会議所など中小企業団体の広報にご留意いただきたい。

(2)社外取締役・社外監査役など

 法制審議会の議論では、①上場会社(より厳密には、有価証券報告書の提出義務のある会社)に1人以上の社外取締役の選任を義務付けること、②社外取締役・社外監査役の「社外」要件を厳格化すること、③現在の監査役制度・委員会制度と並ぶ第3の機関設計を導入することが議論された。 激しい議論の末、②については親会社関係者や取締役らの親族には社外役員の資格を与えないことが決定され、③については「監査等委員会設置会社」の導入が決定されたが、①については、一律の義務化は見送られ、社外取締役を置かない場合にはその理由を事業報告に記載することが定められた。この最後の点については、政権再交代後の与党においてそれで十分といえるかが議論され、事業報告の記載に加えて、株主総会でも社外取締役を置かない理由の説明義務が課されることとなった。なお、③の改正に伴い、従来の「委員会設置会社」は「指名委員会等設置会社」と名称が変更される(表を参照)。以上は中小企業にほとんど関係のない改正であるが、監査役会を設置している企業があれば、②の改正については確認をしておくべきであろう。

表 上場会社の機関設計(2種類から3種類へ)

 
現状
改正
監査役会設置会社
上場会社の約98%
そのまま
委員会設置会社
上場会社の約2%
「指名委員会等設置会社」と改称
――
 
「監査等委員会設置会社」を新設


 他方、新株発行による資金調達については、中小企業にも関連のある改正がなされた。第1に、公開会社が第三者割当を行うとき、従来は発行価格が著しく低い場合(有利発行)にだけ株主総会決議が必要であったが、改正法により規制が強化された。具体的には、第三者割当を引き受ける者の議決権が50%を超える場合で、10%以上の株主が会社に反対の通知をすれば、第三者割当には総会決議が必要となる。ここでいう「公開会社」とは、上場しているという意味ではなく、「発行する株式の全部または一部について譲渡制限を行っていない会社」という意味であるから、いわゆる中小企業においても定款条項次第ではこれに該当する場合がある。 第2の改正点として、会社の設立や新株発行の際に出資を仮装した場合に関するものである。具体的には、いわゆる見せ金(一時的にお金を借り入れて、出資の形式を整えた後、会社からお金を引き出して短期間で貸主に返還する行為)や、会社資金による払込み(出資金の出所が会社資金である場合)などである。この場合、本来の出資を怠った者が会社に対する出資義務を免れないこと、不正に関与した取締役も同様の責任を会社に対して負うこと等が、法改正で明記された。 この点を少し補足説明すると、かつて株式会社の設立につき最低資本金制度が定められていた頃には、脱法行為として見せ金等による会社設立が問題になっていた。現在では、最低資本金制度は廃止されているため、設立時の問題は生じなくなった。しかし、最近では上場会社を含めて、取引先の信用を得たり、倒産を回避する目的で、新株発行の際に見せ金が用いられる事例が見られるようになった。 なお、出資の仮装行為については、銀行の役職員と共謀してこれを行った場合には預合い(あずけあい)罪(5年以下の懲役・500万円以下の罰金)が成立し、共謀がない場合にも、登記所で変更登記を申請し商業登記簿に記載をさせることが公正証書原本不実記載罪(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)にあたる。 そのほかにも、改正法により、親会社が重要な子会社の株式を譲渡する場合には、一定の条件が満たされれば、親会社の株主総会の承認を受けることが義務付けられた。ここではルールの詳細には触れないが、子会社を他に売却するような場合には法律相談を受けることをお勧めしたい。