「地球にやさしい」「サステナブル」など、実態が伴わないにもかかわらず、環境配慮を印象付けようとする「グリーンウォッシュ」。欧州ではグリーンウォッシュを取り締まり、広告を禁止する事例が相次いでいます。日本でも、消費者庁が根拠のない「生分解性」をうたう製品について、行政処分の対象にするなど、グリーンウォッシュへの目は厳しくなっています。
<目次>
・欧州の「グリーンクレーム指令」、環境主張に根拠求める・「グリーンウォッシュ」を6つに分類
・英広告基準機構が独航空会社の広告を調査
・消費者庁、根拠なき生分解性を行政処分の対象に
欧州の「グリーンクレーム指令」、環境主張に根拠求める
気候変動への危機感や環境意識の高まりに伴って、企業や組織が気候変動対策やサステナビリティ(持続可能性)を主張する例が増えています。一方で、実際の取り組みよりも過大に宣伝しているケースもあります。これを「グリーンウォッシュ」と呼びます。
グリーンウォッシュとは、英語で「ごまかす」「欠点を隠して良く見せる」という意味の「ホワイトウォッシュ」と、「グリーン」(環境)を組み合わせた造語です。
グリーンウォッシュの問題点は、消費者や投資家などが環境に配慮されていると思い込み、適切な選択肢を選べず、結果的に環境問題が深刻化してしまうことにあります。加えて、本当に環境に配慮している企業が、隠れてしまう可能性もあります。
欧州委員会が2020年に行った調査によると、環境主張の53%は「あいまい/誤解を招く/根拠がない」で、40%は「裏付ける根拠がない」という結果が出ています。
こうした懸念から、EU(欧州連合)は、グリーンウォッシュを取り締まるための法整備を進めています。欧州委員会は2023年3月、環境主張する際に満たすべき最低要件を定め、要件を満たさない環境主張を禁止する「グリーンクレーム(環境主張)指令案」を公表。5月には欧州議会が決議しました。同指令が発効すれば、環境主張をする際に、第三者が検証した根拠を提示することなどが企業に義務付けられます。
「グリーンウォッシュ」を6つに分類
英金融シンクタンクのプラネット・トラッカーは2023年1月、報告書を発表し、グリーンウォッシュを次の6つに分類しました。
1.グリーンクラウディング(Greencrowding)
多くの情報に紛れ込ませたり、企業連合などに参加したりして、自社への注目を避け、不都合な事実を発見されるのを回避する方法
2.グリーンライティング(Greenlighting)
自社の環境破壊的な活動から目を背けるために、どんなに小さなことでも、環境に配慮した特徴にスポットライトを当ててコミュニケーションする方法
3.グリーンシフティング(Greenshifting)
企業が消費者に責任を転嫁する手法。例えば、石油・ガス業界で、CO2排出の責任を消費者に負わせるマーケティングキャンペーンなどで使われるという
4.グリーンラベリング(Greenlabelling)
「地球にやさしい」や「サステナブル」など、環境配慮を表示して誤解を招く行為。例えば、「100%海洋プラスチック」をうたった製品でも、実際には海洋からプラスチックを回収していない場合もある
5.グリーンリンシング(Greenrincing)
目標を達成する前に定期的に目標を変更する方法。野心的な目標を設定したが、それを達成できなかった企業に、この傾向が見られるという
6.グリーンハッシング(Greenhushing)
投資家の監視を逃れるために、企業の経営陣が持続可能性に関する実績を故意に過小報告したり、隠したりする行為
参考:報告書「The Greenwashing Hydra」(Planet Tracker)
プラネット・トラッカーのジョン・ウィリス・リサーチディレクターは「グリーンウォッシュがどのように繰り返されるかを特定することで、消費者や投資家が環境に配慮した意思決定を行う際に、より注意を払い、適切な選択肢を選べるようにしていきたい」とコメントしています。
英広告基準機構が独航空会社の広告を調査
海外では、グリーンウォッシュ広告を巡り、規制当局が禁止をしたり、訴訟が起きたりする事例が相次いでいます。
英広告基準機構(ASA)は2023年3月、独ルフトハンザドイツ航空が展開するキャンペーン広告の調査に乗り出しました。同社の「世界をつなぎ、その未来を守る」というキャッチコピーが、航空機の環境インパクトが少ないという誤解を与えるとしています。
イタリアの競争市場庁は2020年、伊石油大手エニ社に対し、同社のディーゼル燃料が「グリーンである」と主張する広告に対し、消費者の誤解を招くとして、500万ユーロ(約8億円)の罰金を科し、宣伝活動を禁止しました。
ノルウェー消費者庁(NCA)は2022年6月、H&Mに対し、同社が環境負荷測定ツール「Higg MSI」のデータを根拠に環境負荷が低いと主張することは、マーケティング統制法に違反する可能性があると通知しています。
米国では、米デルタ航空の「世界初のカーボンニュートラルの航空会社になる」という表現がグリーンウォッシュに当たるとして、米カリフォルニア州の消費者らが集団訴訟を起こした例もあります。
消費者庁、根拠なき生分解性を行政処分の対象に
こうしたグリーンウォッシュを取り締まる動きは、日本でも起きています。
消費者庁は2022年12月、「生分解性」をうたっていたプラ製のカトラリー類やレジ袋などの表示が「優良誤認」にあたるとして、10社に対し措置命令を行いました。生分解性プラは、「特定の環境下」で生分解しますが、土壌や海中でも分解するかのような誤解を与えると判断したためです。2023年10月には、そのうちの1社に対し、課徴金納付命令を発出しました。
生分解性プラは、原料となる樹脂によって、温度や時間など生分解する条件が異なります。しかし、「土に還る」「環境にやさしい」と表現されることが多く、「使い捨てても大丈夫」という誤解が広まっていることも問題になっています。
そうしたなか、消費者庁は「生分解性」をうたう製品に対し、景品表示法違反(優良誤認)として行政処分を行いました。表示に対する「合理的な根拠」がなかったためです。
環境問題に取り組む増本志帆弁護士は、グリーンウォッシュについて「海外では、消費者の誤解を招かないため、広告主に言いっぱなしを許さず、真実性についての立証責任を課す流れが進んでいます。日本の規制は海外に比べて遅れているものの、状況は変わりつつあります。無自覚にグリーンウォッシングに加担することのないよう、企業にも意識の変革が求められています。消費者の側にも、問題意識をもってウォッチしていく事が求められています」と強調しました。
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