高村ゆかり教授「気候変動対策とエネルギーセキュリティは表裏一体」(後編)


環境

気候変動問題が深刻化するなか、パリ協定では、世界の平均気温上昇を「1.5度」以内に抑えるため、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目指しています。一方で、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、日本をはじめ世界各国でエネルギー危機に陥っています。エネルギーの最新事情とカーボンニュートラルについて、高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授にお聞きしました。その内容を2回に分けてご紹介します。

前編はこちらからご覧いただけます。


 <目次>

気候変動対策しなければ「選ばれない」
競争力維持するために脱炭素化が重要

気候変動対策しなければ「選ばれない」

世界の金融機関がカーボンニュートラルへの移行を推し進めている


――前編では、エネルギーを巡る課題や気候変動対策とのかかわりについてお話し頂きました。気候変動問題が深刻化するなか、企業も危機意識を持って、GHG(温室効果ガス)排出量削減目標を設定しています。何がこうした動きを後押ししているのでしょうか。

世界的にESG(環境・社会・ガバナンス)投資が広がり、金融業界も活発に議論しています。2021年11月に英グラスゴーで開催されたCOP26では、2050年のカーボンニュートラルを目指す「GFANZ(グラスゴー金融同盟)」が発足しました。世界45カ国から500社を超える金融機関などが加盟し、その資産規模は約130兆USドルにも上ります。

その傘下にあり、世界の主要銀行が立ち上げた「ネットゼロ・バンキング・アライアンス」(NZBA)は、2050年までに「投融資ポートフォリオのカーボンニュートラル」を目指しています。

日本からも三菱UFJフィナンシャル・グループやみずほフィナンシャルグループといったメガバンクが参加し、8月時点で世界の115行が加盟しています。いよいよ金融機関や投資家が本腰を入れて、投融資先の脱炭素化を推し進めているのです。

これからは、気候変動対策にしっかり取り組んでいるかどうかが、取引先の選び方にもかかわってくるでしょう。どのくらいGHGを排出しているのか、減らす努力をしているのか、情報開示をしていくことがますます重要になってきます。

こうした金融機関の動向は、日本企業の事業活動にも影響しています。最近では、大企業だけではなく、脱炭素を推進する国際機関「SBTイニシアティブ(SBTi)」の認証を取得した中小企業も増えてきました。SBTはサイエンス・ベースド・ターゲットの略称で、パリ協定が求める水準と科学的に整合した削減目標という意味です。


――SBTiの認証を取得することは簡単ではありません。それでもなぜ中小企業は認証取得を目指すのでしょうか。

背景には、グローバル企業が、事業者自ら排出するスコープ1(燃料の使用)、スコープ2(電気や熱の使用)だけではなく、自社以外の間接排出であるスコープ3(原料調達から製品の廃棄まで)に関しても、具体的な年限を決めて削減目標を設定し始めていることがあります。それがサプライヤーにも影響を与えているのです。

米マイクロソフトは、2030年までにGHG排出量よりも吸収量が上回る「カーボンネガティブ」を目指していますが、排出量の削減を取り引きの条件にしています。2030年までにサプライチェーン全体のカーボンニュートラルを目指す米アップルは、サプライヤーに再エネへの転換を促しています。

日本でも、ソニーグループや日立製作所などが、取引先の気候変動対策を検証する取り組みを始めました。

このように、企業自らが変化を踏まえて中長期的にGHGの排出を減らしていかなければ、「選ばれない」企業になってしまう、つまり事業基盤を失ってしまうことになるのです。


競争力維持するために脱炭素化が重要

モノづくりの現場でも、GHG排出削減が求められる


――中小企業の脱炭素化は喫緊の課題なのですね。

エネルギー起源CO2が多い日本の中小企業にとって、削減は簡単ではありません。

東京都が呼び掛けているように、まずは「HTT(電力を減らす・創る・蓄める)」といった自社でできる取り組みが重要ですが、それだけではやはり限界があります。日本全体で再エネ比率を高めていかなければ、事業者が競争力を失ってしまいます。事業者が取り引きを継続するために、製造拠点を海外に移転しなければならないかもしれません。

いまだかつてない環境変化が起きています。エネルギー基本計画の脱炭素化は、気候変動対策でもあり、日本の事業者が競争力を持って事業活動を維持していく上でも重要です。雇用や地域の経済にもかかわってきます。

中長期の国の戦略が重要です。エネルギーシステムは明日変わるわけではありません。「2050年カーボンニュートラル」という目標が明確になりましたので、国として道筋をしっかり描くことが大事です。地道に着実に進め、何か問題が起これば、途中で直していけば良いのです。


――脱炭素化に向けて個人でできること、またエコピープル(eco検定合格者)に期待することがあれば教えてください。

私たちの暮らしは、企業が提供する製品やサービスで成り立っています。ですから、生活者がより環境負荷の低い製品やサービスを購入することで、気候変動対策に貢献することができます。そうした企業を応援することにつながりますし、生活者と企業が連携することが重要なのです。環境問題やSDGsに関する正しい知識を持ち、日々行動するエコピープルの皆さんが率先して行動に移し、日本のサステナビリティをリードしてくださることを願っています。


【参考:eco検定概要】
eco検定は、環境と経済を両立させた「持続可能な社会」の実現に向けて、環境に関する幅広い知識を身につけ、環境問題に積極的に取り組む「人づくり」を目的に2006年に創設されました。ビジネスパーソンから次代を担う学生をはじめとする、あらゆる世代の方が受験し、受験者数は延べ54万人を超え、合格者(=エコピープル)も約33万人を超えています(2022年3月現在)。 「合格して終わり」ではなく、検定試験の学習を通じて得た知識を「ビジネスや地域活動、家庭生活で役立てる=現実の行動に移す」ことを促しています。2008年からは毎年、エコピープルの活動を表彰する「eco検定アワード」を開催しています。


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