WWFジャパン担当者に聞く、COP27の成果とCOP28への展望(前編)


地球

エジプト東部のシャルムシェイクで約2週間にわたって開催されたCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)が、11月20日に閉幕しました。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に関するCOP(締約国会議)はグローバルな気候変動対策の方針を決める場として、1995年から続いています。今回のCOP27では何が決まったのか。2023年にUAE(アラブ首長国連邦)で開催されるCOP28への展望は――。国際環境NGO・WWFジャパンの山岸尚之・自然保護室長に、2回にわたってお聞きします。前編では、COPの概要やロス&ダメージ(損失と損害)などについて解説していただきました。

 <目次>

COPが始まった経緯とは?
なぜロスダメ基金が設立されたのか
基金は「支援」ではなく「保障」

このまま温室効果ガスの排出が続けば、あと6年244日で気温上昇が「1.5℃」に 達することを示す「クライメート・クロック」 (C)UNclimatechange


COPが始まった経緯とは

―まず基本的なことから教えてください。そもそもCOPとは何でしょうか。

山岸:歴史を簡単に振り返りましょう。1992年、ブラジルのリオデジャネイロで国連環境開発会議が開催されました。「地球サミット」または「リオ・サミット」とも呼ばれるこの会議は、地球環境問題にフォーカスした初の国際会議で、中でも気候危機を世界に知らしめるきっかけとなりました。

この会議で署名開始となったのが「気候変動枠組条約」(1994年発効)です。この条約の締約国による会議がCOPです。第一回目は1995年にドイツ・ベルリンで開催され、97年のCOP3(日本・京都)で採択された「京都議定書」で、先進国各国に温室効果ガスの削減目標が課されました。

それから毎年各地開催され、2015年のCOP21(フランス・パリ)で採択された「パリ協定」が、現在の世界的な気候危機対策のベースになっています。ここで「世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃より充分低く保ち、1.5℃に抑える」という長期目標が掲げられました。

そして2021年のCOP26(英スコットランド・グラスゴー)で、パリ協定の長期目標が2℃から1.5℃に強化され、現在に至ります。


――山岸さんはCOP26とCOP27と続けて現地参加されました。近年はどのような傾向がありますか。

山岸:一つ顕著なのが、企業や自治体、NGOなどの非国家アクターが存在感を増していることです。COPは政府レベルで気候危機対策のルールを形成する場ですが、近年はそれに加えて非国家部門のイニシアティブが声を上げる場という側面も強まっています。

一例として「Race to Zero」というキャンペーンがあります。これは2021年のCOP26に向けて機運を作り出すために開始されたもので、2030年までに温室効果ガスを半減させ、50年までにネット・ゼロという目標を掲げています。同キャンペーンに参加する企業や団体の数は11309(22年9月時点)となり、この1年で2倍近くに増えています。

日本からは「気候変動イニシアティブ」(JCI)がCOP27の会場でもイベントを開催しました。JCIは国内の非国家アクターによるイニシアティブとして2018年に発足し、現在は700以上の団体が参加しています。今回は企業、機関投資家、自治体などからメンバーが登壇し、ネット・ゼロへの意気込みを語っていました。

なぜロスダメ基金が設立されたのか


――「COP27で決まったことを教えてください。大きなトピックが「ロス&ダメージ」に対する基金の設立が決まったことだそうですね。

山岸:ロス&ダメージ(ロスダメ)とは、気候危機による災害で被った「損失と損害」を意味し、途上国はロスダメに特化した資金支援を求めてきました。その背景には、温室効果ガスを大量に排出してきた先進国よりも、排出量の少ない途上国の方が大きな被害を受けているという事実があります。

ロスダメに関する議論は、これまでのCOPでも行われてきました。しかし、国際社会の公正な支援を求める途上国サイドと法的責任や補償を問われかねない先進国サイドの間で、議論は平行線をたどっていました。

COP27ではホスト国のエジプトが、初日(11月6日)にロスダメへの資金支援を正式な議題にすると決めました。今回も議論は難航したものの、最終日ギリギリになって基金の設立が決まりました。

ただし、資金を提供するドナーは誰になるのか。先進国は当然として中国やインドのような新興国、既存の資金メカニズムや多国間・二国間組織、NGOなどの民間組織は含むのかなど、幅広い資金源が検討されることにはなっていますが、詳細までは決まっていません。

資金の受け手についても「特に脆弱な」途上国とされただけで、何をもって「脆弱」とするか、国や地域を特定しているわけではありません。これらの具体的な議論はCOP28以降に委ねられることになりますが、基金の設立に合意したことだけでも大きな前進です。

COP27は「ロスダメCOP」とも呼ばれますが、COPの歴史の中でターニングポイントとなることは間違いありません。

基金は「支援」ではなく「保障」

―基金設立が決まったのは、気候危機の被害をもっとも受けているアフリカの代表としてエジプトがリーダーシップを発揮したことが大きかったのでしょうか。

山岸:それも当然ありますが、気候危機による損失と損害が先進国にも及んでいることも影響していると思います。アメリカでは熱波による山火事が、欧州でも広範囲にわたって熱波や豪雨が起きています。2022年は国土の3分の1が水没したパキスタンの洪水もあり、もはや気候危機を他人ごとと言える国は存在しないでしょう。

ここで理解しておきたいのが、ロスダメに対する意識の違いです。例えば日本は、基金をODA(政府開発援助)などと同じ「支援」ととらえがちです。これは脆弱な国を「助けてあげる」という先進国の目線そのものです。

しかし、途上国にとっての基金は先進国がもたらした被害に対する「補償」であって、当然行わるべき償いという見方も相当強いということです。これまで対策を遅れに遅らせてきた日本を含む先進国は加害者として見られるという視点もあることを、しっかりと理解することは、今後の議論に臨むにあたって重要です。

※後編では、COP28に向けての展望を解説しています。後編はこちら





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