事業承継事例

「攻めのIT」で自社の強みをさらに強化する

学習塾の「翼学院」と児童発達支援・放課後等デイサービス「つばさクラブ」を軸にして、幼児から中高大学受験、就職まで一貫して発達障害やグレーゾーンの子どもたちをサポートする“ワンストップサービス”で寄り添う株式会社ツバサ・翼学院グループ。独自に編み出した指導法で、学校で進学先がないと言われた子どもたちそれぞれの才能を開花させ、ふさわしい場所に進学・就職するよう導いてきました。
現在は葛飾区内に5つの教室を展開するほか、2020年からはオンライン授業で全国に生徒を増やしつつ、規模を拡大しています。自社の強みをさらに強化する「攻めのIT」について、代表取締役 学院長の芦澤唯志さんに伺いました。



芦澤学院長


お金をかけないIT化で勝負


創業は2008年。発達障害・グレーゾーン・ギフテッド(生まれつき高い知能や才能を持つ方)の子どもの専門塾は、独自の指導法とともに実績が話題を呼び、着実に塾生を増やしています。

実は、現職に取り組む以前は、インターネットに関するビジネス誌で連載を持つほど、インターネットへの造詣が深かった芦澤学院長。豊富な知識を活かして、コロナ禍ではいち早く行動してお客様(保護者と塾生)にも働きかけて、お客様も含めた塾全体、グループ全体のIT化を図りました。

「中小企業は、いかにお金をかけずにIT化を図るかがカギになると思っています。まず無料で使えるフリーウエアやアプリを活用すること。その状況を発展させることができれば、今度は比較的廉価なシェアウェアやアプリを、自社が使いやすいようにカスタマイズして使う。自社用にゼロから開発したシステムと比較するとかなり節約できます。ITは社内の業務効率化を図る一方で、重要なサービス提供・マーケティングツールにもなるので、自社の強みをさらに強化する攻めのITが必要だと考えています」(芦澤学院長)


全国からの問い合わせからオンライン展開へ

創業当初から芦澤学院長は、教室数を増やして会社を拡大するのではなく、ナレッジを集約・提供することで安定した経営を図れないかと模索していました。

「“持たざる経営”が私の信条でした。学習塾の定石である教室数を増やして規模を拡大することに危機感を覚えたのです。しかし2012年に著書を出版すると、たくさんの読者から“全国に翼学院をつくってほしい”“うちの地域にはできないんですか”といったご要望をいただきました。
とはいえ実際問題として、葛飾区だけで展開している中小企業が、いきなり全国に拡大して出店するような設備投資などできるはずもなく。熱くご要望をいただいているだけに心残りでした。

教室数を増やすのではなく、何かいい方法があるのではないか探りました。翌2013年には東京都からの支援事業として、オンライン学習塾に取り組もうとしましたが、当時は今のようなクラウド型ビデオ会議システムも充実しておらず、オンラインの中でできるものが限られてしまい、断念しました。

同時期にポータルサイト(集客を目的に作られるインターネットのサイト。企業のサイトでは接触できないユーザーと接触する機会ができる)も作りたかった。弊社は発達障害の子どもの指導に長けていますから発信したい情報もたくさんあります。しかし中小企業では予算も人的な資力も限られてしまいます。思案しているうちに、後発の大手同業他社にあっさり先を越されてしまいました」

心残りを芦澤学院長はずっと胸に秘めていました。
いつかオンライン学習塾は必ず需要が高まるはずだ。通常の業務のかたわら研究や調査を進めて、システムが普及してきた2015年に迅速に行動を起こしました。
手始めに既存の塾生に利用してもらい、教室間をクラウド型ビデオ会議システムでつなぎ、試行錯誤を重ねました。

「最初のうちは通信回線がダメだとか、複数の拠点とつなぐときに混乱するとか、うまくいかないこともよくありました。講師とは別に中継をサポートする専任スタッフがいないとまわらないことにも気がつきました。オンラインならではの気配りが必要になってきます。コロナ禍以前からそういうことにひとつひとつ対処し、それがコロナ禍で結実したような印象を持ちました」


配信動画の撮影スペースが自社にある。文字入れやBGMなどを合わせるのも全部スタッフが行っている。
画像合成ができるようにグリーンバックで撮影する。



コロナ禍で一気にIT化が進む

前述した通り、コロナ禍ではいち早く行動を起こした芦澤学院長。2020年は緊急事態宣言に先立つ一斉学校休校の際、元首相が国民に向けて語りかけるTV中継を横目に、全社をあげて手分けして保護者に電話をかけ、今後の翼学院の対応方針を説明。IT化に移行していきました。

まず全家庭と校舎をメッセージアプリをつなぎ、双方向で連絡が取りあえるように徹底。 次のステップとして、緊急事態宣言が発出されるまでの猶予期間に、あらためてクラウド型ビデオ会議システムの活用セミナーをオンライン上で塾生と保護者に対して行いました。自社で作成したマニュアルを配布して、新たなITツールをどのように活用するかを丁寧に案内しました。接続サポートまですべて翼学院で行い、オンラインで説明会を開きました。
その甲斐あって実際に緊急事態宣言が発出された段階では、ほぼ全家庭とメッセージアプリがつながり、塾生と保護者側もクラウド型ビデオ会議システムが使えるようになっていました。

メッセージアプリで保護者が見る学習管理システム(LMS)の画面。成績の推移をグラフで追うことも可能。


満を持して同年3月、念願のオンライン学習塾を開講。
今や北は北海道から南は沖縄まで塾生がおり、芦澤学院長をはじめとする専任講師による指導を、自宅の環境で受講してもらえるようになりました。

授業の板書の内容はあとで見返せるようにメッセージアプリで塾生に送るようにしている。



SNSを活用し、より多くの方へ情報を届けられるように

広域の生徒を指導できるオンライン学習塾を作ったからにはより多くの人に告知しなければなりません。
インターネットのリスティング広告(検索連動型広告)を考えましたが、広告会社に依頼すると通常は月に100万円ほどかかると高額です。

芦澤学院長はSNSで知り合ったリスティング広告の専門家にサポートしてもらい、月額10万円程度でお願いすることができました。
すると2カ月ほどで、大手検索サイトで「発達障害オンライン学習塾」で検索すると翼学院が1位にあがるようになりました。

さらなる布石として、2020年10月に著書の改訂版を発刊。本の通販サイトの教育書ランキングで最高位3位にまでのぼり、問合せ増加につながっています。
あわせてTwitterやFacebookなどのSNSもほぼ毎日情報発信。YouTubeも2つのチャンネルを持ち、こまめに発信。経費節減のため動画制作はすべて自社で行っています。
費用をかけず、自社でできることをコツコツ積み重ねて、結果を作ってきました。最近ではクラブハウスで芦澤学院長の話を聞いたという問い合わせもあります。

「今、ウェブのネットワークでどうつながっていくかとはとても重要だと言われます。たとえばSNSで、『出版したので本買ってください!』とアピールした瞬間に、SNS上の仲間は離れていきます。けれど、本に述べた内容を少しずつ見せていくなどは大丈夫。『あなたにこういうふうに役に立ちますよ』ということは拒絶されないのです。『儲けよう』ではなくて、『自分たちはなにを社会に還元できるのか』という意志を持つことが、ネットワーク時代の中小企業には欠かせないのではないでしょうか。

弊社は、授業や本や動画など、多くのコンテンツを持っていることが最大の強みです。これらのコンテンツをどう有料配信していくのかはひとつの課題でもあります。また、かつてできなかったポータルサイトにも、形を変えてコンパクトに、もう一度チャレンジしたい気持ちも残っています。
私は子どもたち一人ひとりに、それぞれ異なるすばらしい才能があることを知っています。ですから、今までは手が届かなかった人たちにも手を差し伸べることで、企業として成長していきたいのです。」




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