事業承継事例

若者層への訴求のために使ったSNSが思わぬ好循環に

株式会社ヤマト屋は、100年以上続く老舗のバッグメーカーです。明治25年(1892年)、浅草仲見世に和装小間物の小売業「大和屋」として創業し、昭和25年(1950年)に株式会社ヤマト屋に改組しました。その後、洋装に合うバッグの製造・販売へとシフトし、顧客の声を反映したさまざまな機能やデザインのバッグを発表し続けています。
三世代の顧客をもつ老舗ならではの課題は若者層への訴求です。2008年、4代目に就任した正田誠社長にSNS(ネット上で社会的なつながりを提供するサービス)を活用した取り組みについて伺いました。



正田誠社長


老舗ゆえの悩みはファン層の高齢化
現代にマッチした商品開発と訴求のためにSNSを活用することを決断


2022年には創業130年を迎える株式会社ヤマト屋は、和装小間物の販売からはじまり、洋装にも合うラインナップ、機能性に富んだバッグの開発・販売と、時代とともに扱う製品は変化してきました。顧客の要望を時代とともに実現させてきたヤマト屋ブランドには、古くからのファンが多くいます。

「ヤマト屋のファンを〝ヤマラー〟と呼んでいるのですが、ヤマラーの最高齢は101歳です。70代が中心で、50年来のお客さまがたくさんいらっしゃいます」(正田社長)

百貨店などに出店している店舗に来店するお客様は三世代にわたっていました。昔からのファンの祖母が娘と孫を連れてくる、あるいはお母さんが子どもと一緒に来るといった構造で、若者層の取り込みは早急な課題でした。

現在30代の女性が、30年後に今の60代のファッションをしないだろうと考えています。30代の女性の個性は30年後も続きます。必要なのは、現代にマッチした商品の開発と、効果的な訴求のやり方でした

正田社長は、異なる三世代の内、30歳以上の世代をターゲットにした商品開発に着手しました。2015年、30歳以上の世代をターゲットにした商品『NV151』シリーズの販売を開始。企画から裁断、縫製、検査までを日本国内で行っている信頼性の高さ、さまざまな特許・実用新案・意匠を駆使した利便性、水や光に強い素材を用いた使いやすさなど、商品力はヤマト屋の伝統に裏付けされています。問題は、ターゲット層への訴求、認知度のアップでした。

ヤマト屋オリジナルブランド「RaviRavi (ラビラビ)」。
30代のターゲット層への認知度向上を目指しSNSの活用に着手する。


そこで、正田社長はSNSを活用して展開をはかることにします。直接ターゲット層とつながって訴求するには、時代にマッチしたSNSを活用するしかないと感じたからでした。


SNSから商品開発まで女性モデルとの情報交換はリアルタイム&ダイレクトに

2019年にインスタグラムをスタートしました。
インスタグラムは、写真や短時間の動画を投稿し、それをスマートフォンやPCで閲覧できる無料のサービスです。「インスタ映え」という言葉が流行するなど、スマートフォン世代を中心に人気を博しています。

やるからには毎日写真をアップしようとはじめましたが、思ったような効果が上がりませんでした。その理由は、フェアの告知やテレビショッピングに出演するといった、一方的な情報ばかりを掲載していたからです。

正田社長は、インスタグラムの閲覧者や顧客目線でリニューアルを試みます
投稿するメインの写真を、女性モデルがヤマト屋のバッグを持ったさまざまなシチュエーションの写真に変更します。 まずはじめに、6人のモデルとプロダクションを通して契約。そのときに、以下の条件を決めました。

 ① 6人のモデルが日替わりで、毎日写真をアップすること。
 ②写真はプロの撮影でも自撮りでもOK。
 ③写真の版権はヤマト屋に帰属する。
 ④月に一回全員で集まってミーティングを行う。
 ⑤ミーティングの内容は、次月のテーマの確認と持つ商品の選択、さらにモデル自身が使う側からの目線で商品開発のアイデアを提供する。

というものでした。

ヤマト屋のInstagram。販売ターゲットと同世代のモデルを起用し、“映える”写真でバッグを紹介。


「モデルのみなさんが競い合うように写真を撮ってくれているので、写真の質がどんどん向上しました。月に一回のミーティングで思いもよらないユニークなアイデアが出てきました。このミーティングのアイデアから幾つもの商品を生み出しました」

たとえば60代向けの既存の製品でも、30代のモデルの使い方ひとつで新たな魅力を発信できるようになりました。
「そのバッグをエコバッグとして使うんだと、驚きの発見があったりします。服とバッグのコーディネートの参考にもなります。実は、モデルの一人が妊婦となったのですが、お客様が妊婦であった場合に共感してくれるような提案をしてくれそうで楽しみです」

届けたい年代層と直接顔を合わせて話ができるようになったことで、リアルタイム且つダイレクトな情報交換ができるようになったのは、とても大きなメリットでした



情報のやり取りは出張先でもいつでも可能

毎日、写真をアップするとなると、その写真や掲載する文章を毎日チェックしなければなりません。ヤマト屋では、正田社長がすべてを確認しているのですが、ITの活用なくては実現不可能でした。

「モデルさんとは、IDとパスワードを共有していて、出来上がった写真はクラウド(インターネットなどのネットワークでつながり、利用者が共有して利用できるサービス)に掲載してもらいます。私は出張することも多いので、出張先ではタブレット端末で確認します。インターネットでつながっているからできることです。確認済みや修正を加えた写真は、確認済みのフォルダーに移します。そうしておけば誰もが進行状況を把握できます。メッセージを送るのは、スマートフォンやタブレットなどで利用できるメッセージサービスを使っています」

クラウドに掲載した写真は、インスタグラムを活用しながらヤマト屋のECサイトへ誘導しました。
15分程度のショート動画の掲載も可能になったので、正田社長自ら出演してTVショッピングの動画を月に2回掲載するようになりました。

SNSの活用は、インスタグラムに留まりません。インスタグラムに投稿した写真は、FacebookやTwitterにも活用しています。
「それぞれのSNSを利用している人は、年代も閲覧者数もみんな異なっています。ひとつの素材をさまざまなSNSで展開することは、訴求の拡大にもつながると感じています」

このインスタグラムの展開は、デジタルデータが蓄積されるだけでなく、アナログにも活用されています。インスタグラム用に撮影された写真はすでに1万点以上。そのデータを、ポスターやハガキとして印刷し、ディスプレイや売場のPOPに使用しています。

さらに、2021年春夏総合カタログは、ほとんどをモデルが写った写真で構成しました。
「商品を並べただけのカタログではなく、使っているシチュエーションが見えるのがいいところです。三世代で見ながら、これがいいとか、あなたにはこれが似合うとか、会話が弾んでくれていることでしょう」

店舗から、お客さまからの要望が増えているのですぐに送ってほしいという連絡が相次いだため、これまでのカタログの約5倍を印刷しました。


IT活用の効果・今後の展望

さらなるSNS活用に取り組む

2019年から始めたInstagramの活用については、その後も女性モデルを起用した投稿を続け、前回の取材時(2021年3月)から1,000名近くフォロワー数を増やしています。Instagramのライブ配信も続けており、専用のワイヤレスマイクやジンバル(動画撮影時に手ブレ等を防ぐ機器)を新たに導入し、よりクオリティの高い動画づくりを心掛けています。さらに、他の媒体と比較しても安価であるInstagram広告の出稿も行い、SNS経由での顧客を増やしています。

また、LINEの公式アカウントの運用については、昨年度、PR強化を目的に友達登録数を増やす取り組みを進めたところ、現在は5,000人以上の友達登録があり、ユーザー層の幅広さと通知機能による訴求効果の高さを感じています。

SNSの活用以外にも、新型コロナウイルスの感染拡大の長期化する中、直接訪問して自社商品のプレゼンをすることが難しい取引先に対し、自社製品の解説動画を制作、リモート展示会を実施するなど、動画や写真を軸とした販売プロモーションを展開しています。

徹底した業務効率化の追求

正田社長は、経営リソースの限られる中小企業こそ業務効率化が重要と考え、現場から意見を吸い上げて業務を改善することを大切にしています。この考え方のもと、従前より課題だった商品の在庫管理について、2022年に入ってから順次、商品タグにJANコード(商品用の流通コード)を付加し、自社倉庫内で効率的に商品の管理・出荷ができるよう整備しました。今後は、さらなる効率化のために、RFIDやICチップを用いた在庫管理を検討していくことのことです。

また、社員用のPCの一部をデュアルディスプレイ化(2画面化)し、4k(高精細画面)ディスプレイを用いたり、リモートで業務ができるようクラウドシステムを導入するなど、社員が効率的に仕事をできるよう、社長自ら旗振り役となって職場の環境整備も進めています。




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