株式会社今野製作所(本社:足立区扇、社長:今野 浩好)は、油圧ジャッキ製造や板金加工を手掛ける製造業です。自社ブランド「イーグル」の油圧ジャッキや油圧機器の設計・製作、ステンレス器具のオーダーメイドサービスをはじめとする板金加工事業を展開しています。その他にも、理化学・工学等の研究開発に必要な専用器具の開発・製作、福祉機器の開発・製造も行っています。

デジタルシフト・DXの取り組み


きっかけはリーマン・ショックによる売上減少
 同社は、拠点が複数(東京・大阪・福島工場)あり、拠点間でのやり取りが必要だったため、2000年代初頭からITを導入し、社内通信網やイントラネット、電子メール等を活用していました。ITを有効活用して順調に成長を続けてきた同社ですが、2008年のリーマン・ショックをきっかけに、需要が冷え込み、業績不振に直面します。この状況を打開しようと、同社では、油圧機器製造において、受注形態を見直し、オーダーメード(個別受注)型に移行、高付加価値化を図りました。それにより、受注は増加傾向にあったものの、仕事が複雑化したことで、2010年頃になると、従業員の負担が増大、残業時間も増加傾向にありました。  


専門家の支援を受けながら業務改善を実施
 この課題を解決するため、知り合いの中小企業診断士から紹介を受けた(特非)バリューチェーンプロセス協議会に相談したところ、「プロセス参照モデル」という業務プロセスの分析手法・ツールを紹介され、この理論に基づいた業務改善プロジェクトを社内で立ち上げることとし、協議会所属の専門家(中小企業診断士)支援のもと、自社の受注・調達・製造・出荷の業務の流れとその課題を可視化しました。


主に2つのツールで業務効率を大幅向上
 プロジェクトを通じて特定した課題に対し、主に生産管理・情報共有の分野でIT・デジタル技術を活用した効率化を進めることになりました。生産管理については、生産工学が専門の法政大学 西岡 靖之氏監修のもと設計された業務アプリ構築ツール「コンテキサー(株式会社アプストウェブ)」を導入します。ノーコード(プログラミング不要)である同ツールの強みを生かし、自社の業務にあった受注・調達・製造・出荷の一連の情報の流れを管理する「生産管理システム」を独自で制作しました。調達担当者は部材の入荷状況を荷受け場のPCで入力、生産担当者は、その入荷状況を手元のPCで確認しながら製作するなど、各担当者が進捗を都度システムに入力し、必要な情報が自動流用されることで、拠点間(工場⇔事務所)での情報のやり取りを大幅に省力化・効率化しました。部署内での情報共有については、同じくノーコードツールである「Kintone(サイボウズ株式会社)」を導入、引き合いから出荷まで、一連の業務アプリを自社制作し、社内外の連絡・情報共有を効率化しました。


システム間の連携によりさらに効率化
 引き合いから出荷までの一連の業務がアプリ&システム化したことにより、複数拠点に渡る社内での「情報共有・連携」が大幅に効率化されました。さらに、コンテキサーとKintoneをAPI連携し互いのデータを共有することで、例えば営業担当が顧客からの修理依頼をKintoneで入力するとその情報が現場の生産管理システム(コンテキサー)に流し込まれ、過去の納入履歴や部品の情報、修理費用の見積もりが作成でき、見積結果は自動でKintoneにフィードバックできるようになっています。


ITを活用した溶接技能継承の取り組みも
 東京都立産業技術研究センターの公募型共同研究として、熟練職人の金属溶接の様子をモーションキャプチャ(人体等の動きの記録装置)で撮影、データ解析を行い、次世代の技能者を育成する取り組みをスタートしており、複数社と連携し、毎週勉強会を実施しています。

デジタルシフト・DXの効果

 デジタルシフト・DXを進めてきた効果として、今野社長は、個別生産という形態もあり、定量的な生産性向上の数値は計り知れないとしつつも、定性的な効果として、従業員からも 「状況が分かるので心配することや、いちいち確認するストレスが少なくなった」 「自分のやったことが後工程に確実に伝わる」「休暇をとる人がいても最低限の代役がしやすい」といったチームワークに関する評価の声が挙がっているといいます。 また、取り組みを続ける中で、近年では、ノーコードという強みを生かしながら 業務上の困りごとを共有→対策を検討→業務アプリ・システムの制作・修正→現場で使用 というPDCAの流れが自然に回り始めており、今野製作所ではこの従業員による自律的な活動を「ITカイゼン」と呼んでいるとのことです。

中小企業経営者へのメッセージ

 今野社長は、中小製造業のデジタルシフト・DXについて次のように語ります。  「中小製造業のデジタルシフト・DXの要諦は、まず経営者の視点で業務全体を大きく俯瞰し整理したうえで、現場主体でITを活用した改善を積み重ねていくことです。情報の連関を見える化・明文化することが重要であり、ITを活用して情報がうまく流れ繋がっていく、『情報の清流化』がなされれば、生産性が大幅に向上します」



エトキ




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