事業承継事例

きめ細やかな品揃えとIT活用で飛躍的な成長をつづける

1953年に創業した衣料品小売業。三軒茶屋に本店があり、「美と健康」をコンセプトに女性用下着を中心に商品を取り揃え、地域に深く根ざしたお店です。大手が量販している商品には無いサイズを取り扱うなど、根強いニーズがある多様な品揃えで、大手には難しいきめ細やかな顧客志向が最大の特徴です。
また、このようなニッチ志向をとりながらも当社の成長を支えているのが、IT活用です。歴史がありながらも、いち早く2003年にインターネットショッピングのバーチャルモールに参入。これまでベストショップとして数多く表彰されています。
ITを活用しながら飛躍的成長をいかに遂げたのか、株式会社三恵 代表取締役飯島祥夫さんに伺いました。


飯島社長

先行きの危機回避のためEC事業に参入


飯島社長は三恵の二代目社長です。アパレルメーカーが花形成長産業だった70年代に女性服の人気アパレルメーカー勤務を経験しています。その後、二十代後半で三恵へ入社。2004年に先代から事業承継しました。前述したインターネットショッピングのバーチャルモール参入したのは、それに先立つ1年前の常務時代です。

そのまま実店舗だけ経営していくという選択肢もあったのかもしれません。しかし、90年代後半にデフレが深刻化し、物価の価値が下落しました。
問屋の倒産に伴い、商品の供給先が減少。大手メーカーはデジタルを活用しながら在庫を管理し、これまでのように価格の低い商品を仕入れられなくなりました。
「路面店舗の衣料小売りという従来の方法では先行きは厳しい。」飯島社長(当時は常務)は危機感を抱いていました。

当時の飯島社長が着目したのがEC(電子商取引)事業でした。きっかけは大きく2つありました。
ひとつは、取引先の一社が、過剰在庫品を取扱う企業間取引(BtoB)サイトを成功させるのを間近で見ていたこと。同社は、売り上げを順調に伸ばし、大企業へと成長していきました。
もうひとつは、業界紙が主催する講座に参加した際に、同業他社の下着・ランジェリー通販で成功していた関西地区の会社社長の講演を聞いたことでした。EC事業にいち早く乗り出し、すでにバーチャルモールで大きな売り上げを立てていました。

「その社長さんが講演で、『いろいろな売り方があるけれど、一流のバーチャルモールに参加しなくては意味がない。そこは“銀座”と似たようなもの』と話されました。実店舗でさほど売り上げがなくとも、月商3,000万円程度と聞いて、インターネットで販売したらそんなに売れるのかと驚いたものです」(飯島社長)

インターネットを介した新しい商取引に、従来とは異なる新時代の幕開けを予感した飯島社長は、新たなる一歩を踏み出しました。


EC事業に乗り出すも支払いサイトに苦しむ

着々と準備を進め、三恵は2003年にバーチャルモールに進出しました。先代は当初、飯島社長の興した新規「EC事業」を横目に、まさかそれほど売り上げが伸びるとは思っていなかったようです。ところが、インターネット黎明期の追い風もあり、下着のモール参入は消費者に歓迎されました。

三恵の商品は瞬く間にモールで注目を集めましたが、売り上げが跳ね上がると同時に、資金繰りが急速に悪化しました。これまでは小売業で毎日小銭が入ってきていたにもかかわらずEC事業で支払いサイトが発生し、入金が遅れました。1カ月に1、2度と定められた入金日までは何としても持ちこたえなければなりません。

バブル崩壊で背負った多額の借金をようやく返済したところ直面した窮地でした。担当の公認会計士からは、「そんな海のものとも山のものともつかないものに大きなお金をかけるべきではない」と猛反対されました。それでも、飯島社長は「これからはEC事業の時代だ」と押しきり、自分でお金を工面しに奔走しました。

その結果、日本政策金融公庫や信金が助け船を出してくれて、懇切丁寧に資金繰りの仕方についてアドバイスをもらいました。こうして販売額は徐々に右肩上がりになりました。

ウェブサイト内にONLINE SHOPを設置


一日100件が限界だった出荷作業が、 余裕の一日3,000件に

翌2004年に事業承継し、ECの販売額が大きくアップ。変化を支えたのは“ITソリューション”でした。当時の飯島社長は、ITを導入することで「数日徹夜しなければ実現できないことが、ほんの10分、15分で終わったような感覚」を体験したといいます。

たとえば、出荷に際して全て手書きだった伝票について、周囲からの勧めでネットショップの受注管理システムを導入した途端に手書きの作業がなくなり、バーチャルモールから配送依頼が来ると伝票がそのまま打ち出され、作業は即座に完了するようになりました。取引先運送会社のシステムも次々に導入され、手を煩わせずに出荷作業を完了させてしまうシステムは圧巻でした。

それまでは従業員総出で出荷作業をしていましたが、システムを導入した途端にすべて解決できたことは、まさに夢のようでした。昔は一日100件出荷するのが精一杯でしたが、今では一日3,000件を容易に出荷できます。」

効果を実感したからこそ、ITを導入した課題解決に取り組みました。
「今ではIT活用の効率化について、専門のコンサルタントが定期的に提案をくれます。弊社の管理職の大半が外部のコンサルタントです。システムをはじめ総務、人事、店舗担当、下着関連のコンサルタントと契約しています。もともと私と妻を会社の中枢に据えながら、パートタイマーが存在するという組織で、管理職はほぼいませんでした。会社の規模が大きくなり、そのような役割が必要となったときに外部の専門家に依頼することを選びました。現在は、何人もの相談役がパートタイマーや社員にアドバイスする形で業務を進めています。この方法が、当社に合っていたと実感しています。」


顧客の悩みに寄り添った品ぞろえは、ECがあってこそ

「バーチャルモール」といっても、当初は不明点が多かったという飯島社長。ECサイトに掲載した画像も「ピントがぼやけている」とお客様からお叱りを受けることもあったといいます。そんなやりとりをバネに、その道のプロの力を借りながら、ECサイトを洗練させていきました。

バーチャルモールの「コンサルタント」と呼ばれる担当者にも支援を仰ぎました。飯島社長の奥様が担当者に毎日電話し、「売り上げがアップした」「教えてもらったアイデアがうまくいった」「売り上げをさらに伸ばすためには何をすればよいか」など対話を続けました。飯島社長と奥様は、一人当たり100社200社を受け持つ担当者が応援したくなる企業を目指した結果、モール内での成績が飛躍的に向上しました。

また、必ずしも顧客層は厚くないが、体形の悩みなど、お客様のニーズにきめ細かく対応した商品の充実を図りました。ニッチでありながらも、事業として十分成り立っている背景は、「店舗販売では難しい、全国を相手に商売ができる、ECがあったから」だと飯島社長は解説します。顧客の悩みに寄り添った品ぞろえは、根強い支持があり、当社の象徴となりました

こうした取り組みを経て、現在ではオリジナル商品開発も手掛けており、グラマラスな胸を小さく見せるブラ「ルルスマートブラ」は累計56万枚を売り上げる大ヒット商品に成長しました。同製品はバーチャルモールでのリピート率1位を獲得。女性の気持ちに寄り添う提案は支持され、オンリーワンの存在感を放ち続けています。

IT活用 その後の効果・新たな取り組みは (2022年8月取材)

EC販売の更なる伸長

新型コロナウイルスの感染拡大が長期化する中で、元々高かったECサイトでの販売比率はさらに高まり、また、マスクや消毒用品の取り扱いも始めたことも寄与し、ECサイトでの売上が前回の取材時(2021年3月)と比べてもさらに伸びました。

学生服販売の改革に取り組む

従前から行っていた区内指定中学校の学生服の販売について、毎年12月~翌年3月の一定期間に業務が集中し、人員の確保が難しく、業務効率化が課題になっていました。

  そこで、かねてより付き合いのあるITエンジニアの協力を得て、スクラッチ(パッケージを使わず、オリジナルのシステムを開発すること)で業務システムを制作中で、発注書をはじめとした書類のペーパーレス化・自動作成、メール送信等のシステム化、レジとの連動等を実現させて、業務を効率化すべく、現在取り組みを進めています。

今後は海外展開も視野に

2022年5月にシンガポールのインフルエンサーを招き、主力商品である女性向け肌着の販売をライブコマース(アプリ等のライブ配信を通じて商品の魅力を伝え、ネット上で販売すること)で試験的に行ったところ、想定を上回る売り上げを記録し、今後の継続的な実施や他国向けの実施も含めて、今後本格的な海外展開を視野に入れていきたいと飯島社長は語ります。




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