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担保・執行法制改正要綱中間試案に対する意見

2002年5月10日
東京商工会議所

意見

 わが国経済の低迷が続く中で、担保・執行法制の改正は、不良債権処理・担保不動産の流通促進を進めていく上で、まさに的を射たものであり、経済再生への第一歩といえる。
 一方、近年の中小企業の開業率が廃業率を下回る状況は、わが国経済の活力減退につながるものである。したがって、経済の活力を増すためには、個人の起業意欲を高め、起業を促すシステムの構築が求められていると言えよう。
 当所は、先に『政府「総合デフレ対策」の追加措置に関する緊急要望』(平成14年3月14日)で、中小企業向け新融資制度の創設や、破産の際の自由財産の拡大等を提言し、中小企業の資金調達と事業再生のための環境整備を求めたところである。
 日本経済の活力の源泉である中小企業が元気の出せる社会になるよう、事業再生への環境整備、起業へのバックアップの視点で、「個人保証」と「差押禁止財産」の論点について、ここに改めて提言するとともに、合わせて、今回の中間試案の中で特に中小企業に影響を及ぼすと思われる事項を中心に、意見を申し述べるものである。

1.個人保証
 今回の中間試案の中には人的担保についての事項はないが、個人保証の問題は極めて緊急を要するものとして意見を申し述べる。
 中小企業が融資を受ける際、一般的に経営者の個人保証が要求されており、企業経営が破綻して返済に窮した場合、保証人は保証追求により、財産のみならず生活そのものを脅かされるという深刻なケースもある。また、中小企業では同族や出資者でない者が事業を承継しようとする場合、保証人になることを忌避し、それがために後継体制を組むことができないという問題が生じている。
 人的担保としての保証人のあり方について、経営責任とは別の角度から、法人信用の補完として、他の物的担保と同様の有限化の措置を講じられたい。
 現行の保証制度では、特定の債務を保証することを原則としているが、不特定債務を保証するとする包括根保証も存在し、特に後者の場合には、保証人は無制限に責任を追及されることになり、その危険性は計り知れない。他方、根抵当権の場合には、3年を経過したときには元本の確定請求をすることができ、担保提供者の保護が図られている。また、保証の一形態である身元保証においても、身元保証契約は原則として3年間しか効力をもたない。このように、将来的に発生する不確実な債務を担保・保証するにあたっては一定の法政策的配慮がなされているのであるから、根保証のあり方についても根本的に見直しすることを要望する。そして、緊急の問題としては、①保証額(極度額)を定めること、②保証人に確定請求権を与えること、を強く求める。

 以下、中間試案に掲げられている事項につき、意見を申し述べる。

2.差押禁止財産
 東京商工会議所は平成14年1月に会員中小企業を対象に、破産の際の自由財産(差押禁止財産)の範囲についてのアンケート調査を実施した。その結果によると、「生活を保証するための財産」については、必要生計費は最低でも3ヶ月分以上は残すべきとの意見が全体の大半を占め、必要生計費以外の財産では持ち家、生命保険が必要との意見が多かった。また、「再チャレンジ(起業)に必要な財産」については、現預金では全体の7割以上が500万円以上は必要と考えており、その他の財産では持ち家、土地が必要との意見が多かった。
 以上の調査結果を踏まえ、自由財産(差押禁止財産)について以下の通り見直しを求めるものである。

(1)生活を保証するための財産
 民事執行法第131条3号において定める必要生計費を、「1月間」から「3月間」に改正されたい。現行の1ヶ月分では生活を保証するには極めて不十分である。また、1ヶ月の必要生計費の額(現在21万円)については、昭和55年から改正されていないことに鑑み、見直しを行うとともに、物価水準に見合った改正を適時行うよう求める。更に、必要生計費を現金として保有する以外にも預金等の金銭債権として保有することも併せて認めるべきであり、同条同号において「金銭」を「金銭等」と改正されたい。
 また、遺族の生計維持を目的とした生命保険や高度障害保険等については差押禁止財産とすることを検討されたい。

(2)再チャレンジに必要な財産
 中小企業の場合、景気動向や社会の変動、国際情勢等、経営者本人の能力を離れた様々な要因により破産することもままあり、その場合、蓄えた経営手腕等の経営資質を全て無にしてしまうことは社会の損失でもある。
 今年度の「中小企業白書」によると、破産を経験した経営者が再び経営者に復帰する割合は、アメリカが47%であるのに対し、日本は13%ときわめて低く、中小企業の倒産と再起に対する政策的配慮の相違が浮き彫りとなっている。倒産者の再起については産業界からの強い要望でもあり、それゆえ、その法整備として、債務者の再起可能性が高い場合には、再チャレンジに必要と思われる最低限の財産を残すべきことを要望する。
 ちなみにアメリカの連邦破産法では、①個人が住居として使用している不動産(17,425㌦=約220万円以内)②乗用車(2,775㌦=約35万円以内)③衣服・寝具・家具等(9,300㌦=約120万円以内)④生命保険証書、公的給付受給権等が差押禁止財産として認められており、再チャレンジ可能性の基礎的条件が整備されている。
 このような政策的意義を考慮して、創業までの手元資金として、必要生計費を含め総額で500万円程度の財産が債務者の手元に残るよう検討されたい。

3.留置権
 留置権の効力を見直し、留置権者に優先弁済権を与えることについて賛成である。また、留置権と他の競合する担保権との優先劣後関係については、実効性を確保するため留置権を最優先とするべきである。

4.商事留置権及び不動産工事の先取特権
 不動産について商事留置権を認めた場合、企業が資金調達をする際、不動産の担保としての評価額が減価するおそれがあるため、商事留置権は不動産については成立しないものとすることには賛成である。但し、法律上当然に発生するはずの法定担保物権である商事留置権の効力が制限されることに鑑み、不動産工事の先取特権制度を改良して、工事請負人の権利を保全する必要がある。
 不動産工事の先取特権の効力を保存するには、工事開始前にその費用の予算額を登記しなくとも、工事完了後直ちにその費用の額を登記すれば足りるものとすることには賛成である。尚、登記をすることが不可能な工作物もあり、これについての手当ても具体的に検討されたい。

5.先取特権
 失業問題をめぐる社会的不安の軽減、及び中小企業の連鎖倒産を未然に防止するため、一般の先取特権についての見直しを求める。一般の先取特権の順位においては、租税債権が最上位に位置しているが、従業員への未払い賃金・退職給与等の労働債権を最上位に位置するよう改正されるとともに、倒産処理の中で、中小企業の少額の一般債権が優先して弁済を受けられるよう法整備されることを求める。
 但し、労働債権に関する先取特権について、その一定の範囲については、何らの公示手段も要さずに最優先の効力を認め、特定の財産の上に存する抵当権等の担保権にも優先するものとするべきとの意見に対しては、企業の資金調達の際に困難が生じるおそれがあるため反対である。

6.不動産の収益に対する抵当権の効力等
 抵当不動産の賃料に対する物上代位の効力については明文化された規定がなく、学説も本来議論のあったところであるが、最高裁判例(最2判平1・10・27民集43巻9号1070頁)により認められているところである。しかし、実務において物上代位を認める範囲が広すぎるとの批判がある。特に、オフィスビルなどにおける共益費込みの賃料の場合、全て抵当権によって捕捉される結果、ビル全体の共益費の確保が図られず、結果的に物件の劣化、陳腐化が加速度的に進み、他の一般のテナントが不利益を被るという問題が生じている。従って、強制管理に類する制度を設ける場合、次の点に留意すべきである。
 一つに、賃料に対する物上代位について、共益費込みの家賃における共益費部分の確保を徹底するべきである。また、物件の価値の維持を図るため、管理人の権限の範囲を賃料の管理のみではなく経営管理(更新契約、新規のテナント募集等)まで認めるべきである。更に、共益費については、強制管理に類する制度にかかる費用に組み入れてはならないことを明確にすべきである。また、強制管理にかかる費用をテナントに負担させるべきではない。

7.滌除(第三取得者の主導によって抵当権を消滅させる制度)
 不動産の流通に資するため、任意売却に関する交渉過程で現れる一つの枠組として滌除制度の改善を図ることは意義がある。手続の透明性の確保を図り、抵当権者の過重負担を緩和し、第三取得者の地位の安定化を図ることにより、滌除制度本来の機能が発揮されるよう改善されたい。

8.短期賃貸借
 賃借人は、入居時に当該物件の抵当権の有無などを調べないのが実情であり、調べないことをもって過失とするのは酷である。また、賃貸借が解除される場合には、賃借人は他の場所で同一的な物件を探さなければならないが、中小企業や個人事業者にとって、物件の立地条件は事業を継続するためには死活問題であるといえる。更に、法務部などの法律に精通した人材を擁していないことが殆どであるため、抵当権の実行によって受ける幾多の影響に対処するためには時間的猶予が必要である。
 従って、悪用、乱用を規制する目的での改正は妨げないが、①賃借人に対して明渡し猶予期間を与えること、②賃借人が差し入れている敷金等の承継を保証すること、の2点を是非とも実現されたい。そして、①の点については、前記した立地条件等勘案のため、最低でも3ヶ月の明渡し猶予期間を認めるべきである。また、②の点については、敷金等の返還義務の承継は最低でも6ヶ月分相当額を保証すべきである。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所