政策提言・要望

政策提言・要望

東京都の中小企業政策に関する要望~「政策誘導型産業都市づくり」の推進に向けて~

平成14年5月9日
東京商工会議所

 首都東京が、国際的なリーディングシティとしての魅力と活力と競争力を取り戻すことなくして、わが国経済の再生はない。
しかし現状の東京は、物価・地価の下落と景気の悪化が併存するデフレスパイラルの度を強めているうえ、土地の高度利用を阻む諸規制の存在や都市基盤整備の遅れによる経済効率の悪さなど、都市機能の低下も否めない。
東京都におかれては、一定地域内で特定分野の規制を総合的に緩和することで企業立地の集積を高める「特区構想」の実現に尽力するなど、今こそ、政策誘導型産業都市づくりを強力に進め、次世代をリードする地域・産業・企業の育成に邁進されたい。
その際、中小企業が直面する現下の苦境を直視し、企業自らが取り組む存亡を賭けた経営革新に対する支援を拡充強化するほか、産業空洞化対策やコミュニティビジネスへの支援に加え、起業の誘発やベンチャー企業の育成等にも注力すべきと考える。
また、国際ハブ空港をはじめとする高速交通・物流体系やブロードバンド時代に適応した情報通信基盤等のインフラ整備は、国際競争に堪え得る経済活動に不可欠であるのみでなく、関連需要の喚起策としても有効であり、国および首都圏各都市と連携のうえ早急に着手されたい。
さらに、市場競争が激化する中、企業はより良質な人材へのニーズを高めており、また同時に、経済社会の中で個人の意欲と能力が活かされ、多様な生き方が選択できる雇用環境の整備が望まれていることから、人材集積都市に相応しい雇用・能力開発・職業教育の実践が急務となっている。
東京商工会議所は、国際都市東京の再生に向け、産業界代表として与えられた役割を果していく所存であるので、中小企業政策に関わる下記要望事項につきその趣旨をご賢察のうえ、特段の配慮を賜りたい。



Ⅰ.次世代をリードする地域・産業・企業の育成に向けて

1.経済再生の起爆剤となる「特区構想」の推進
本年成立した都市再生特別措置法は、政府が指定した緊急整備地域において、地方自治体の了承により建物の容積率や用途制限の大幅な緩和を可能としたことから、地域経済の活性化に資する民間主導の都市再開発事業が円滑に進むものとして、多くの期待を集めている。
また、政府の経済財政諮問会議では、一定地域内で特定分野の規制を総合的に緩和し企業立地やサービスなどの集積を高める枠組みを「構造改革特区」として検討が進められており、このほどバイオ・ライフサイエンス、国際交流型経済、創業促進型経済再生など7分野が例示されている。
こうした動きに呼応し、すでに地方自治体の中には、地域産業の特性を活かすべく、候補地域の絞りこみや計画策定等に取り組んでいる例もある。
東京都におかれては、独自に進めつつある都市再生プロジェクトの推進にとどまらず、東京都として検討されている分野のほか、教育、医療、産学連携など多様な分野にわたる「特区構想」が実現するよう、政府に働きかけられたい。
<東京商工会議所の取り組み>
○企業関係者・行政等からなる「ライフサイエンス懇談会」を本年3月に設置した。設置の契機となった東京大学新井教授の「東京ゲノム・ベイ計画」基本構想では、バイオテクノロジー、IT、ナノテクノロジーの新領域の融合を図り、産学官のネットワークを構築し、東京ベイエリアをライフサイエンスの国際拠点とすることを目論んでいる。懇談会は、今後、ライフサイエンスに関する研究開発や産業化の推進などについて具体的に検討し、早期の事業展開や国等への提言・要望を行なう予定。

2.新たな産業集積づくりの展開と多様な主体との連携推進
東京都におかれては、IT関連産業の世界的な拠点とすべく、秋葉原ITセンターを整備する方針を打ち出しているなど、新たな産業集積づくりに取り組まれている。
今後は、集積の相乗効果を高めるために、これまで以上に多様な主体との連携強化が不可欠となることから、国が進めるプロジェクトや各区および本商工会議所が行なう事業と連携のうえ、地域特性に応じた産業拠点づくりや関連イベント実施に係る財政支援策を講じられたい。
また、昨今、地域産業の振興に取り組むNPO法人が相次ぎ誕生しているところである。今後、NPO法人の産業集積づくりへの一層の参画を促すため、本年度から始められたNPO法人職員対象のセミナーの実施や財務・経理等の実務経験者の派遣等を通じ、活動基盤を強化すべく対策を推進されたい。
<行政等の関連動向>
○大田区における産学連携を視野に入れた起業者向けのオフィス整備計画や台東区におけるデザイナーやデザイン・芸術を志す大学生等に創作の場を提供したり、地場産業との交流促進を図る台東デザイナービレッジ事業構想など、独自の取り組みが見られる。
○ベンチャー企業向け投資ファンドの運営や起業家教育を行なう「杉並ベンチャーネットワーク」、中小・ベンチャー企業に対し大学や試験研究機関への産学連携の橋渡しを行なう「大田ビジネス創造協議会」、練馬区で子育てサービスに加え、地域通貨を発行する「北町大家族」など、地域産業振興の一翼を担うNPOも登場している。
○板橋区は、昨年、「板橋区地域経済活性化協議会」を設置し、コミュニティビジネスの先進事例の調査や支援に向けた行政の役割等について研究し報告書をまとめたほか、活動拠点の整備を進める方針。
<東京商工会議所の取り組み>
○北支部は、本年4月に産・学・公・NPO等13者で「社会福祉産業推進協議会」を立ち上げた。これは、ユニバーサルデザイン(共用品)の常設展示場を設置することにより関連産業・技能・情報の集積を促し、同区の新たな地場産業として育成するほか、将来的には集積拠点を中心に街づくりを進めることを目標としている。
○渋谷支部が運営する「渋谷地区IT(新都市産業)推進協議会」は、ベンチャー企業や創業予定者に対する経営支援を行なうための拠点として区立商工会館内に事務所を確保したほか、企業等が保有するソフトウエアや技術データのデータベース化、IT産業と従来型地場産業とが融合する街づくりを目指す観点から、地域内のIT普及度を多面的に把握するため、調査を進めている。
○杉並支部は、昨年4月に開催したアニメーション・フェスティバルを契機として、「アニメ産業振興協議会」を設立し、アニメ産業の振興を継続的に支援しており、杉並区が推進するアニメ博物館を創設する構想を支援している。

3.新規企業の創出・成長への支援
(1)経営指導員の人件費の安定的確保
本商工会議所本部および23支部においては、創業支援事業を含め小規模事業経営支援事業に注力しているところである。
ついては、これらを日常的に推進する経営指導員など補助対象者の人件費については、今後とも地域の商工業者の多様なニーズに木目細かく対応するため、十分な補助額を確保されたい。
(2)創業支援事業費の拡充
商工会議所等が行なう創業予定者に対する経営支援等に係る事業費についても、開業率の向上に資するため特段の配慮をされたい。
(3)税制面の優遇
新規性、新産業育成への貢献、空き店舗の活用など一定の要件を満たした企業については、法人事業税を一定期間非課税とするなど、税制面における優遇措置を講じられたい。
(4)創業資金融資への配慮
創業にあたっては、初期投資に係る資金調達に苦慮するケースが多いので、創業時の開
業資金の制度融資額は、自己資金以内とされる限度枠を緩和し、事業性や計画内容を評価し弾力的に決定されるとともに、信用保証制度の拡充についても併せて検討されたい。
(5)新規企業育成のためのファンドの拡充
東京都におかれては、東京中小企業投資事業有限責任組合に加え、今後の成長産業として期待されるバイオ産業を対象にしたジャイク・バイオ壱号投資事業有限責任組合に出資し、ベンチャー企業への資金供給に努めている。
ついては、ナノテクノロジーほか今後成長が期待される先端研究領域においても中小・ベンチャー企業が参入できるよう新たなファンドを創設されたい。
(6)創業直後の支援
多くの創業者が販路開拓に苦慮していることから、東京都等の物品・資材の調達については開業間もない中小企業にも積極的に受注機会を確保するとともに、商工会議所等が行なう創業者間あるいは創業者と既存企業経営者とのネットワークづくりへの支援など、事業が軌道に乗るまでのアーリー・ステージにおける支援体制を強化されたい。
<東京商工会議所の取り組み>
○平成8年度より開始した創業支援セミナー、開業相談等を通じ同13年度末までに約4,500名の創業予定者と接触を持っており、その中からこれまで一割を超える創業者を輩出しているほか、昨年度は、「NPO起業塾」と称し、NPO法人の形態による起業を目指す希望者を対象にセミナーを実施した。
また、一昨年、本商工会議所内に東京地域中小企業支援センターが開設されたことから、経営革新、新規事業開拓、創業等に関する相談、情報提供、専門家派遣など、事業内容の充実に努めている。
○同年度より「東商ベンチャーネット」事業を開始し、意欲あるベンチャー企業のビジネスプランを大手・中堅企業に紹介し、企業間の提携・協力を進めるなど、一貫した支援体制の構築に腐心しているが、本年4月には、ベンチャークラブと称する各種情報配信サービスを開始し、行政や各種団体事業やベンチャー企業の新製品、大手企業のニーズなどの情報を幅広く提供していく考え。

Ⅱ.空洞化問題を乗り越えるための地域産業活性化に向けて

1.中小製造業の競争力強化に関する支援
(1)製造業の振興ビジョンの明示
大企業を中心に中国等への生産拠点の移管が進む中、中小企業者は、グローバリゼーションの進展による受注の急減などを受け、事業の再構築を迫られている。
東京都におかれては、現在、中小企業振興対策審議会において、ものづくり振興のあり方について検討を進めておられるが、都内企業の生産性向上や技術開発の推進など競争力強化のための方策を盛り込んだ、中小製造業の振興ビジョンを早期に策定されたい。
(2)都立産業技術研究所を中核とする産学公連携の推進
同研究所は、中小企業の研究開発支援拠点として、一層の試験研究機能の強化を図るとともに、産学公連携コーディネーターによる相談を本商工会議所においても行なうなど、同事業を拡充されたい。
(3)知的財産権政策の推進
知的財産権の重要性はますます高まっているので、①中小企業が国内外において知的財産権を取得・維持する際の補助制度の創設、②知的財産権を担保にできる制度融資の創設、③特許等の証券化についても検討されたい。
さらに特許流通アドバイザーや検索アドバイザーによる相談機能を強化し、休眠特許の流通促進を図られたい。
(4)立地・操業に係る規制の改革
国においては、工業等制限法が廃止される見通しであるが、東京都におかれても、工場の立地を規制する東京都特別工業地区建築条例を早期に撤廃されたい。
また、中小製造業の立地を確保し、操業環境を維持するため、都市計画法や建築基準法については、国に緩和を強力に働きかけられたい。
(5)関連制度融資・助成制度の拡充
技術・事業革新等支援資金融資制度は、予算規模を拡充するとともに、技術力や事業性の評価機能を担う審査会に参画する本商工会議所等産業界の意見を一層尊重されたい。
また、関連助成制度については、単年度制ゆえの問題点も見受けられることから、運用にあたっては、利用する企業の事業計画に配慮し、その募集・審査時期の設定や決定後の速やかな助成金の交付等について配慮されるとともに、知的財産権の取得費用も使途として広く認められたい。
(6)販路開拓に関する支援
需要不足が深刻化する中、企業にとって従来とは異なる販売ルートの開拓が急務となっているので、広域的な開催が予定されている産業交流展事業や市場情報提供事業を拡充するとともに、中小企業振興公社が経過措置として行なっている販路開拓支援事業を制度化したうえ強化されたい。
(7)企画・マーケティング分野の人材育成に関する支援
中小製造業において企画・マーケティング分野を担う人材が不足しているので、ベンチャー・マーケティング道場事業については既存企業が広く参加できるようPRに努めるなど、さらに拡充強化されたい。
(8)技能継承の円滑化に関する支援策の拡充
製造現場における技能者の評価を高め、中小企業における円滑な技能継承を促進するため、優秀技能者に対する表彰制度を拡充するほか、大田技術専門校で実施した「東京ものづくり名工塾」事業を他地域においても早急に実施されたい。
<東京商工会議所の取り組み>
○中小企業の産学連携の推進を目指し、「東商テクノネット事業」を平成12年よりスタートさせ、大学研究室への訪問や教官が扱う具体的研究テーマ等の情報収集に関するサポートなどを行なっている。平成14年3月末現在の登録企業数は約600社、協力大学・研究機関数は22箇所。主な活動は、大学等研究機関での見学・交流会が全22回(84研究室)の訪問で、延べ239社、286名が参加しているほか、大学・研究機関・行政等のイベントや補助金・助成金に関する情報提供を週1回程度行なっている。
○中小企業に対する人材育成・採用担当者などへの情報提供や担当者間の交流による資質向上、課題解決を目的に「人材育成リーダーズネット」を本年2月に発足し、本年度は一千人程度のネットワークの構築を目指している。

2.商店街の活性化と個店強化に関する支援
(1)コミュニティ支援機能の強化
住民の都心回帰が顕著となる中、地域におけるコミュニティ機能の回復が喫緊の課題となっている。商店街は、従来よりコミュニティを支える役割を担ってきたが、高齢化の進展等から、今後はさらにその重要性が増すものと思われる。
したがって、宅配サービス、子育て支援・高齢者向けサービス、リサイクル活動など、コミュニティビジネスに取り組む商店街に対しては、支援策の拡充を図られたい。
(2)個店強化策の実践
魅力ある個店の存在は、商店街の集客力や魅力づくり等に欠かせないことから、個店に対する助成制度を創設するなど、商店街全体を牽引するような個店づくりについての支援にも取り組まれたい。
(3)退店に係る支援策の充実
個人事業主が営業する個店は、店舗と住居が一体になっているケースが大半であることから、廃業後も商店街の一角を占め、空き店舗となっているケースが多いので、住居を分離し貸し店舗として整備する際においても、現行の制度融資が活用できるように改められたい。
(4)店舗用共同ビル整備に対する支援
地域商店街における小規模な再開発を円滑に進めるため、協同組合を組織していない複数の商店主が共同で商業ビルを整備する際に利用できる東京都独自の制度融資を創設されたい。
<東京商工会議所の取り組み>
○練馬支部は、「ネリマ名店創造塾」事業を通じ、経営等に関するセミナーの実施にとどまらず、個別企業に特定の経営指導員が継続的に支援をし、ともに経営課題の克服にあたることにより、地域における名店の創造に取り組んでいる。
○杉並支部は、空き店舗対策として、商店街の新規入居者に対し出店費用補助を行うなど、独自の取り組みを始めている。

3.資金調達の円滑化に関する支援
(1)CLO(ローン担保証券)発行の推進
東京都におかれては、本年の発行に際し、初めて信用保証協会による信用保証制度に頼らない純民間ベーススキームを構築されたが、より多くの中小企業が参加できるよう引き続き内容の充実に努められたい。
(2)新たな無担保・無保証人制度融資の創設
健全な中小企業の経営維持が可能となるよう、代表的な中小企業専門金融機関である信用金庫・信用組合等による無担保・無保証人による融資制度を創設されるよう国に働きかけられたい。
その際、上記制度の融資限度額は5,000万円程度、公的保証制度は融資額に応じて50%~80%まで弾力的に適用できるものとし、金融機関・信用保証協会双方にリスク負担を求めるものとされたい。
(3)売掛債権担保融資保証制度の普及
本制度の普及にあたっては、取引基本契約書等に存在する売掛債権の譲渡を禁止する特約が阻害要因となっている。
東京都におかれては、このたび同特約を率先して撤廃されたが、民間企業間の取引においても本制度が活用されるよう、引き続き広くPRに努められたい。
(4)特定社債(私募債)保証制度の普及
本制度の一層の普及・定着に努められるほか、社債発行基準や保証料率の引き下げが実現するよう、国に働きかけられたい。
(5)資金計画対応融資制度の普及促進
極度額の範囲内における反復継続利用について円滑に行なわれるよう特に配慮されたい。
(6)信用保証制度の弾力的な取扱い
中小企業金融安定化特別保証制度利用者の返済条件の変更については、引き続き柔軟に対応されたい。
また、一般保証制度については、保証決定までの審査期間の短縮化を図るため、東京信用保証協会の審査陣容の強化および保証力増強と経営基盤強化に配慮されたい。

4.企業経営の活性化に資する税制改正の推進
東京都におかれては、23区内における商業地などの小規模非住宅地の固定資産税・都市計画税を本年度分について2割減免されるが、中小企業を取り巻く経済環境に配慮し、当面、本措置を継続されたい。
また、すでにその役割を終えた特別土地保有税や事業所税、留保金課税については、率先して廃止に向け活動されたい。

5.ITを企業経営に活かすための支援
(1)IT化に関する相談体制の整備
中小企業が急速に進むIT化に乗り遅れることがないよう、本商工会議所としてもパソコンやネットワークの導入・活用に関する支援に努めているところである。
東京都におかれては、企業経営者の身近な相談相手となり得る「ITヘルパー」等人材の育成に努め、また、本商工会議所各支部にITヘルプデスクを設置できるよう相談体制の整備に取り組まれたい。
(2)技術・事業革新等支援資金融資制度の充実
中小企業の情報化投資をさらに促進するため、「IT対応資金」の貸付にあたっては、迅速な審査等を含め、弾力的な運用を図られたい。
(3)IT化に対する助成事業の拡充
助成対象を企業の情報化投資の促進にとどまることなく、人材育成等経営革新に資する取り組みについても助成するなど、他企業のモデルとなる先進事例の創出に努められたい。
(4)電子入札に係る支援
IT化の進展に伴い、官公需の入札が電子媒体を通じて行なわれる例が増えつつあるが、入札参加の際に必要となる電子認証の取得が中小企業にとり負担となっているので、取得に係る財政支援を講じられたい。
<東京商工会議所の取り組み>
○中小企業が電子政府・電子都庁構想に的確に対応し、また、電子商取引に乗り出せるよう各種のパソコン修得実務セミナーの開催やパソコン等情報機器の導入支援に取り組んでいるおり、本年2月には、「ITウイーク」と称し、セミナーや相談会からなるイベントを行なっている。

6.企業の環境対応への支援
(1)中小企業への配慮
中小企業が廃棄物対策、自動車排ガス対策、地球温暖化防止策などにおいて応分の役割を果たせるよう、具体的な施策展開に際しては、相応の猶予期間の設定や費用負担の軽減など、実施手法、スケジュール等について十分な配慮をされたい。
(2)土壌汚染対策法の施行に伴う支援
来年1月に施行が予定されている本法は、土地所有者等が汚染土壌の調査を行ない、実施結果を報告する義務を明記している。本法の適用は、中小企業にとって過分な負担が生じる懸念があるので、調査費用に対する補助や関連制度融資についてのPRなどに配慮されたい。
(3)ISO取得企業への配慮
中小企業に対するISO14001(環境マネジメントシステム国際規格)認証取得に係る助成枠の拡大、取得後の定期審査や更新審査の負担軽減のための助成制度等の創設とともに、認証取得企業への優遇措置として、行政手続きにおける各種提出書類の免除等簡素化を図られたい。
(4)PRTRの周知徹底
特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)が昨年施行され、中小企業も化学物質の排出量・移動状況を都道府県に届け出るよう法制上義務づけられている。本法律については、引き続き普及・啓発が必要な段階と思われるので、PR等に努められたい。
(5)中小企業のPCB対策への配慮
東京都は、使用中のPCB(ポリ塩化ビフェニル)の適正管理を事業者に求める独自の指導要綱を昨年6月から施行しているが、中小企業にとっては、PCBの処理、保管にかかる経済的負担が大きいことからコスト負担軽減のための支援をされたい。
また、中央防波堤埋立地に建設予定である国の処理施設については、早期完成・稼動を目指し、協力されたい。
(6)屋上緑化に係る支援策の拡充
東京都は、昨年より一定以上の敷地面積を持つ建築物について条例で屋上緑化を義務づけている。
ヒートアイランド現象の緩和に有効な手法であるので、一層の普及を図るため、屋上緑化した建築物に対する補助制度の拡充、税制優遇措置などのインセンティブを検討されたい。
(7)本商工会議所事業への支援
本商工会議所としても、独自事業を通じ、特にリサイクルについて企業の環境対策に対する支援を行なっているところである。東京都におかれては、その趣旨を理解のうえ、関連法規・制度・システム等の周知徹底に努められたい。
<東京商工会議所の取り組み>
○平成8年より小規模事業所向けオフィス古紙回収事業「東商エコ・リーグ」を展開しており、現在12支部を通じ約2200事業所の参加を得ている。
○平成9年より再生品普及事業「東商エコ・ショップ」を展開し、現在約380社の登録を得ているほか、商店街の空き店舗に出店するなどPR活動に努めている。
○平成10年よりコンサルティング費用を低減したISO14001認証取得支援講座を実施している。
○昨年の容器包装リサイクル法の完全実施に伴い、リサイクル義務を課せられた中小企業の申告手続きおよび指定法人への契約の代行を行ない、本年度は約3000社の事務負担の軽減を図っている。

Ⅲ.首都に相応しい都市機能の向上に向けて

1.都市基盤整備の推進と都市環境への配慮
(1)都市づくり基本条例(仮称)の早期施行
都市計画審議会答申にある、密集地の再開発の促進などを目的とする同条例については、関係者との協議のうえ、早期に施行されたい。
その場合、再開発事業は、権利調整に時間を要するケースが多いので、民間事業が容易に進まない場合においては、シビックバリューを重視し、公的セクターが一定の範囲においてインフラ整備などプロジェクトに関与できる態勢を確保することが望ましい。
また、国の都市再生特別措置法の成立により建築規制等の緩和が可能となったものの、時限立法であるうえ、その期待効果も限定的となることが懸念されることから、一層の規制緩和を働きかけられたい。
(2)首都心の整備推進
東京都におかれては、わが国の政治・経済・文化を牽引する原動力たる首都心をセンター・コアと位置付けている。
この地域は、経済的ポテンシャルの高い地域であり、民間セクターによる積極的な投資が期待できることから、公共性の高い建築計画については、現行の都市開発諸制度の見直しにより容積率、斜線制限等の緩和などを進め、国際的なビジネスセンターとして再生するよう政策的な誘導を図られたい。
(3)広域幹線道路の整備等による渋滞対策の推進
都内交通の約2割におよぶ都心通過交通が慢性的な交通渋滞の主要因となっていることから、それらの解決を図るべく交通基盤整備を推進されたい。
具体的には、首都圏三環状道路の早期完成など広域幹線道路の整備促進や連続立体交差化、交差点の改良等渋滞原因となっているボトルネックを解消し、早急に道路交通の円滑化を図られたい。
また、違法駐車が交通渋滞の大きな要因となっているので、荷捌きスペースや駐車場・駐輪場の確保をはじめスムーズ東京21事業を強化し、警視庁と連携のうえ取締りを強化されたい。
(4)情報基盤整備推進に係る支援
ブロードバンド時代に適応した情報通信基盤等は、経済活動に不可欠なインフラである
ので、民間企業が主体的に基盤整備を進める際は、都所有の都市施設を安価に提供するなど、側面的な支援策を強化されたい。
(5)東京国際(羽田)空港の機能拡充
首都圏空港における国際および国内旅客・貨物輸送実績は堅調に推移しているが、海外からの路線新設・増便要求に適切な対応がなされていないのが現状である。
今般、新滑走路の整備を内容とする羽田空港の拡張計画が方針化されたが、東京の国際競争力を高めるためにも、次世代超音速機が運行可能な水準の機能整備を目指し、早急に取り組まれたい。
また、同空港の国際化についても、首都圏各都市と連携のうえ、早期に実現するよう国に働きかけられたい。
(6)港湾機能の拡充による物流ネットワークの強化
港湾機能についても国際競争力の低下が懸念されるので、東京港外貿コンテナ埠頭の大水深・高規格化を進めるとともに、24時間365日通年荷役の実現に向け取り組まれたい。
また、東京港臨海道路等の早期完成により東京臨海地域における交通・物流ネットワークを強化されたい。
(7)ロードプライシングについて
昨年6月、東京都ロードプライシング検討委員会による検討結果が公表された。
東京都は、これを基に住民や関係団体等の意見を反映した実施原案を本年度中に策定することにしているが、拙速にならぬよう関係者との十分な議論に努められたい。
(8)都市内物流システムの構築
都市内物流システムの構築が急がれるので、交通基盤整備や都市再開発の推進とともに、都心ビルにおける荷捌きスペースの付置促進に係る支援等をさらに拡充されたい。
(9)ディーゼル車規制について
平成15年10月施行予定のディーゼル車規制については、深刻な経営環境にある中小・小規模事業者にとって新たな負担となっている。
DPF(排ガス浄化)や酸化触媒の装置および装着費用に係る補助制度を平成15年度も引き続き継続するほか、税制上の優遇措置や低硫黄・高燃費の軽油使用にあたっての補助制度の導入についても検討されたい。
また、低公害車の導入促進のため、CNG(圧縮天然ガス)スタンドの設置と同車輛購入に係る補助制度についても拡充されたい。
(10)防災都市づくりの推進
東京都におかれては、本年4月に現行の第七次震災予防計画を改定し平成16年度までの三ヵ年計画として「震災対策事業計画」を策定された。これまでが予防対策を重視したものであるのに対し、新計画は予防から応急対策、復興対策まで視野を広げている。
ついては、防災都市づくり推進の観点から、各区が個別に地域の企業と結んでいる防災協定等を尊重しつつ、大規模災害発生後におけるライフラインの確保や物資の緊急配送・配給など、企業の役割の大きさを再確認し、本商工会議所等経済団体との防災に関する新たな協定等の締結を検討されたい。

2.総合的なまちづくりへの支援
(1)まちづくりNPO「地域創造センター」(仮称)創設に関する支援
本商工会議所は、地域内外の多様な主体と人材のネットワーク化を図り、その活用により、地域のまちづくりを円滑に進めるための機能を備えるべく、支部にまちづくりNPO「地域創造センター」(仮称)を創設することを検討しているので、創設に際しては、特段の配慮を賜りたい。
(2)中心市街地活性化策の推進
中心市街地活性化策については、商店街活性化策にとどまることなく、まちづくり推進の観点から、在住・在勤者も含めた市民参加の検討、交通基盤整備の推進や再開発計画等との整合性確保、容積率や税制上のインセンティブの付与による土地の有効活用、駐車場の固定資産税の軽減など、総合的な支援策を講じられたい。
(3)公共施設の移転への対応
中心市街地からの公共施設の移転に際しては、地域住民・企業に対する必要かつ十分な情報提供に努められるほか、施設跡地の利活用についても企業等関係者からの意見聴取に努め、地域経済の発展に資するよう配慮されたい。
(4)TMOへの支援
各区におけるTMO(タウン・マネージメント機関)に対しては基金を通じ継続的支援を行なうとともに、地域においてまちづくりを担う人材の育成、タウン・マネージャー養成など関連事業の一層の拡充を図られたい。
(5)大規模小売店舗立地法の円滑な運用
大規模小売店舗立地法が施行され約2年が経過したが、各区の条例・要綱を含め本法の具体的な運用・手続き方法等については、出店者、住民、地域商業者など関係各方面に引き続き周知徹底し、出店等に係る混乱が生じないよう努められたい。
また、東京都および各区は、従来にも増して相互の連絡調整に注力されるとともに、本商工会議所への情報提供にも引き続き配慮されたい。

3.観光政策の推進
(1) 多様な主体の連携によるシティセールスの強化
シティセールスの強化による観光客の増加や国際コンベンションの誘致は、東京の国際ビジネスセンターとしての地位を大いに高めるものと期待されるところである。
各区や本商工会議所各支部においても、観光資源の発掘・整備とその活用に取り組んでいるので、東京都におかれては、(社)東京コンベンションビジターズビューローを中心に多様な主体との連携によりセールス機能を強化されたい。
(2)都市型エンターテインメント施設の整備
有力な集客施設であるカジノほか、都市型エンターテインメント施設の整備についても検討されたい。
(3)都市標識のデザイン統一
外国人ビジターの受入れ体制を整備するため、行政・交通機関・観光関連施設等のサイ
ン・地図標記の統一や情報提供機能の強化などに速やかに取り組まれたい。

Ⅳ.人材集積都市に相応しい環境づくりに向けて

(1)再挑戦が可能な包容力のある社会づくり
起業やベンチャー企業を生み育てるためには、チャレンジ精神が尊ばれ、その志を成就
した社会的成功者が尊敬を集め、一方で、倒産等を経験した事業者には、敗者復活が広く認められるような包容力のある社会の形成が待たれる。
東京都は、本年4月「意欲ある人が再挑戦できる社会システムの構築研究会」を設置し、同趣旨の実現に向け仕組みづくりを検討される予定であるが、今後は、一層、本商工会議所等経済団体との連携を強化し、世論形成等に努められたい。
(2)能力開発・雇用への配慮
公共職業訓練は、企業や個人の多様なニーズに応えるべく、例えば、ITや介護福祉分
野等は民間機関を活用するなど、政策転換が望まれる。
東京都におかれては、昨年9月、緊急雇用・経済プロジェクトの一環として、職業訓練事業や求人情報の提供事業を拡充するなど、独自の支援策に取り組まれているが、一層の整備を推進されたい。
また、雇用・就業に関する情報の一元化を図り、TOKYOはたらくネットの拡充を図るほか、求人・求職のマッチング機能を強化するため、求職情報の効果的な開示と相談体制を整備されたい。
(3)職業教育の拡充
初等教育から中高等教育にかけて徐々に主体的な職業観・勤労観を身につけさせ、ひいては起業家精神の醸成を図るような教育課程の提供と豊かな創造性を育むための就業体験の機会を拡充されたい。
(4)教育現場への経営者の参加
今後の公立学校のカリキュラム編成にあたっては、本商工会議所等経済団体と連携し、経済や経営の実態を踏まえたプログラムを取り入れていくよう努められたい。
また、地域の企業経営者の参画機会を用意し、地域経済の礎をなす中小企業に対する適正な理解を促す仕組みづくりを検討されたい。
(5)都立大学改革への期待
昨年、都立4大学(都立大学、科学技術大学、保健科学大学、都立短期大学)の改革についての大綱が策定された。
この際、都民の最高教育機関として、都内の地域産業振興を目的に、特に産学公の連携推進、社会人向け教育コースの充実、都内中小企業の人材育成に努められたい。
(6)都立高校改革への期待
現在、東京都教育委員会では、商業、工業など都立の専門高校生が企業で働きながら技術や技能を身につけることを「労働」と称する単位で認定する制度の創設を検討されているが、高校卒業者の自立に役立つものであるので、実現に向け取り組まれたい。
(7)都立高等専門学校における専攻科の設置
都立高等専門学校(品川区:工業高等専門学校、荒川区:航空工業高等専門学校)は、多くの実践的な技術者を輩出しているばかりでなく、共同・受託研究、技術相談等を通じ産業界との接点も多いなど、地域における産学連携拠点としての役割も大きい。
言うまでもなく、近年の研究開発に求められるスピードや技術水準の高度化にはめざましいものがあるので、より専門性の高い教育を提供するとともに、産業界からの高度なニーズに対応するため、上記二校に「専攻科」を設けられたい。
<東京商工会議所の取り組み>
○教育・保育機関等と連携し、インターンシップ、職場訪問・見学の受け入れ、講師派遣等学校行事への参加など教育支援活動を行なっている、または今後行なう意向がある会員企業のリストや育児休職制度、育児勤務制度の整備など従業員が教育・子育てをしやすい職場づくりに取り組んでいる企業の事例をサイトに掲載した「教育支援ネットワーク」を昨年開設した。

以上