※企業概要は受賞当時(2014年)の内容です。
●漢字のプリント入りTシャツの企画販売を行っていた同社は、「前掛け」が絶滅の危機に瀕していたことを受け、商人魂、職人魂の宿る前掛けを消すまいと決断し、前掛け専門店に転身したこと。
●前掛けのデザイン性にも着目し、ハイセンスなカフェや美容室、花屋等さまざまな店舗の制服として新たな使い方を提案。国内はもとより海外の需要も積極的に開拓したこと。
米屋や酒屋の腰に巻かれた前掛けは、日本伝統の仕事着として、働く人の腰を守り、衣服を傷めず、汚さない役割を担っている。時代の流れとともに衰退していく前掛けの捲土重来を期して「前掛け専門店」をオープンさせたのが同社だ。
漢字のプリント入りTシャツを企画・販売していた同社は、無地の前掛けにTシャツと同様のプリントを入れてホームページに掲載したのが前掛け販売のきっかけだった。大口の注文が立て続けに入ったのを機に生産現場を訪問すると、日本唯一の前掛けの産地、愛知県豊橋市の織布工場では需要の減少、職人の高齢化といった問題から工場は激減。このままでは前掛けが世の中から消えていくことは目に見えていた。「Tシャツ屋は日本中どこにでもあるが、前掛け屋はどこにもない。前掛けの伝統文化を後世に残すことが自分の使命だ」との想いから、Tシャツ販売を止め「前掛け専門店」として前掛けと向き合っていくことを決心した。
前掛けの復活には需要の創出が必須だ。最近では、大量生産・大量消費の時代のような均質的で廉価なモノよりも、多少高くても高品質でオリジナルのモノを、というニーズが増えている。そこで1枚でもオリジナルの前掛けを作れるように体制を整えたり、ネット通販を駆使することで注文が急増。購入者の利用シーンをホームページで発信したことで、これまでの前掛けが持っていた「裏方の力仕事」というイメージを払拭し、カフェやパン屋、美容室などのオシャレでファッショナブルな店舗の制服や個人の贈答品としての需要を開拓した。また、「市場は国内だけではない」とニューヨークの日本料理店への飛び込み営業を敢行。展示会も複数回開催し、日本食ブームに沸く海外の需要も取り込み、グローバル企業としての礎を築いた。現在は、後継者不在の問題を解決するため、若い社員を採用し、職人技の継承にも力を注いでいる。
職人による伝統の製造手法を守りつつ、現代のオンデマンド印刷技術との融合やネット通販の活用、海外展開など、「不易」と「流行」という相反する概念が結合し、消えかけていた前掛けに新たな命が吹きこまれ、世界中に広がっていこうとしている。
この度は「勇気ある経営大賞特別賞」を頂き誠にありがとうございます。数年前に、ある先輩経営者が受賞されたのを聞き、我々も将来、受賞できればと漠然と考えていたのですが、まさか実現するとは思ってもいませんでした。前掛けに出会い、国内外への発信を続けていますが、まだまだ道半ば、いや、1割程度進んだだけです。日本の伝統文化、仕事を未来へつなげていけるよう、一層精進したいと思います。ありがとうございました。
(有限会社エニシング/西村 和弘 社長)