<事業承継事例 No.3>【オーナー経営者のための事業承継】これからの美容室経営の選択肢 ~“承継”と“成長”と“夢”の実現のために~


事業承継事例


日本には、コンビニエンスストアの約4.5倍の25万軒を超える美容室があり、東京都内では、そのほぼ1割の2万4,000軒を超える美容室に約7万5,000人の美容師が働いています。そして、美容室の多くは、オーナー経営者兼スタイリストという小規模事業者で、他の業界と同様、事業承継問題と隣り合わせの経営を続けています。

そうした中、東京都心で美容室を展開するk’s International株式会社(本社:東京都港区。以下、「コレットグループ」)は親族承継でも、第三者承継(M&A)でもなく、「ファンド」に託す、という選択肢を選びました。“株式の譲渡相手”として、また“会社の成長を支援するパートナー”として選んだ相手が、「TOKYOファンド」(※)でした。

  • 東京都が主たる出資者として参画し、日本プライベートエクイティ株式会社(以下、「JPE」)が出資者から委託されて運営する事業承継ファンド。

悩み多き業界 ~事業承継も!経営も!コロナも!~


国内の美容業界の市場は1.5兆円ともいわれるなか、最近は、業務委託型の低価格美容室チェーンが急成長しており、価格競争や人材確保など競合が激化しています。直近では、業績悪化による理美容業の倒産は過去最多(2019年度時点)となり、また新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けるなど、厳しい事業環境にあります。

事業承継という観点では、25万軒以上もある美容室の約半数の経営者が60歳以上で、約8割が後継者不在といわれており(厚生労働省調べ)、廃業率も開業率も高い業界です。また、スタイリストとして常に体力も感性も求められる世界ゆえ、一般的な中小企業経営者の平均引退年齢とされる70歳よりも20~30年ほど早く事業承継の時期が訪れるといっても過言ではありません。しかし、現実は、創業経営者が、気力と体力の続く限りは現役でハサミを持ち続けているという店がほとんどです。

さらに、美容室の約8割は従業員4人以下の小規模な事業所であることから、経営という観点では、3年で8割という離職率に象徴されるように、給料、労働時間、人間関係、キャリアアップへの不安など、業界特有の人事労務の課題に加え、中小・小規模企業ならではの経営課題も多く抱えたままという、悩み多き業界でもあります。

創業者として、オーナー経営者として、美容師として

コレットグループの創業者でオーナースタイリストの布施慶士代表は1981年生まれの40歳。2008年に27歳で独立して池袋に1号店となる『Collet(コレット)』をオープン。以降、高品質と高付加価値にこだわった経営で池袋3店舗、新宿1店舗、銀座2店舗と合計6店舗を都心部に展開し、総勢30名を超えるスタイリストを抱える規模になりました。

しかし、ますます厳しさを増してくる業界のなかで、厳しい競争やさまざまな経営課題を乗り越えて成長を続けるには、オーナー個人主体の経営では限界を感じていたこと、また、美容室の業界でも、規模の大小を問わず、第三者への承継=M&Aという選択肢をとるオーナー経営者が広がりつつあったことから、会社のこと、仲間のこと、自分自身のこれからのことを考えるなかで、M&Aが事業承継の選択肢として挙がってきました。

ただ、美容室は、スタイリスト一人ひとりへの依存が高い属人的なビジネスであり、業務委託契約をベースに成り立っている組織であることから、必ずしもM&Aが最善の策というわけでもありません。買い手にとってもM&A後にスタイリストが残留してくれるかどうかという不安は常につきまといますし、オーナー経営者としても、“チーム”として苦楽を共にしてきた仲間との連帯感やモチベーションを今のまま維持したいと考えると、同業にM&Aで売却するという選択肢は積極的には考えづらいものでもありました。




誰にどう託すか? ~事業承継は前向きな選択~

10代から美容師という職業に憧れ、現場で学び経験を積み、トップスタイリストになって稼ぎ、独立開業して“自分の城”を持つという夢を叶えて40代。そして、はや、事業承継や成長、経営という壁に突き当たります。この後、共に築き上げてきた仲間と城をどう残すのか?伸ばすのか?誰にどう託すべきなのか?

布施代表としては、『チームのメンバーと会社の成長を安心して任せることができる』『今の会社のいいところをそのまま承継してくれる』『みんなと一緒に成長を続けてくれる』という相手が理想でした。結果、事業承継の相手に選んだのは、事業会社ではなく、中立的で色のつかない株主で、メンバーと共に成長を実現するパートナーとなる“ファンド”でした。そして、ファンドのなかでも、実績と信頼感、事業やオーナーの想いへの理解といった観点から選んだ相手がJPEであり、さらに、東京都という出資者の顔が見えること、その設立趣旨からしても安心感を得られたのが“TOKYOファンド”です。

ちなみに、株式譲渡の協議を進める過程で、布施代表が、ファンドとの面談にトップスタイリストの方を同席させるという場面がありました。通常、オーナー経営者が会社を売却しようとしていることを社員が知るというのは、一つ間違えば、会社が空中分解するリスクがあるため、すべて秘密裏に進めます。特に、美容室は、属人的で業務委託型という、人間関係が希薄になりがちな組織でもあるので、リスクはより高まります。

しかし、布施代表は、『事業承継やM&Aが前向きな選択である』、また、『新しいことに常に前向きに挑戦できるチームである』ということに絶対的な自信を持っており、むしろ、しっかりと伝えることが必要であると考えての行動でした。こうした行動が自然にできるのも、チームとの信頼関係に自信があること、そして、事業承継が“会社を売る”という感覚ではなく、会社の成長や、みんなの将来に必要な“資本と経営のパートナー”を自信をもって選んだという確信があったからなのでしょう。



“変えるべきもの”と“変えるべきでないもの”

資本と経営の新たな担い手となったTOKYOファンドの役割は、事業の“承継”と“成長”を実現することです。事業を見極め、“変えるべきもの”を変え、“変えるべきでないもの”を強くしていくことです。

例えば、先の『新しいことに常に前向きに挑戦できるチーム』を形成する一人ひとりの意識や意欲、こうした組織の風土は変えてはならず、更に強くしていくべきものです。

また、『高付加価値経営』も、コレットグループで“変えるべきでないもの”の1つです。創業当初から低価格中心の美容室チェーンとは一線を画し、高付加価値経営にこだわり、客単価1万5,000円を越える高価格帯と顧客満足を両立させてきました。この両立は容易にできることではありません。しかし、客数ではなくサービスを追求し、スタイリスト一人ひとりが技術と感性を磨き続けることで成り立つ高付加価値経営は、都心に限らず地方でも、“生涯美容師”として好きな仕事を続けることを可能とするものです。コレットグループで“変えるべきでないもの”は、地域における美容室の経営や小規模企業の事業承継など、今後、業界としてあるべき一つの姿を示すものであり、次の時代へと承継していきます。


“変えたこと”~新しい経営体制の構築~

もちろん、“変えたこと”もあります。事業承継後の新しい経営体制です。 今回、TOKYOファンドが経営を承継するにあたり、新しい組織に適任と考える経営者人材を探し、代表取締役CEOとして派遣。“会社経営を担うCEO”と“現場を統括するCOO”の二人三脚での経営を主軸とし、TOKYOファンドが社外取締役として支えるという経営体制を構築しました。

代表取締役CEOには、大手コーヒーショップチェーンなどの流通店舗事業で小さい店舗から大きな組織まで幅広いチームマネジメントの経験を有する末吉亨太氏(42歳)を迎え、CEOが『経営計画の策定・実行』、『出店・人事などグループとしての成長戦略』といった経営全般の課題を担うこととしました。また、現場を統括する取締役COOには、トップスタイリストであり、現場の要である高梨雄一氏(38歳)を選任し、COOが『店舗とスタッフの統括・管理』、『店舗業務の推進と効率化』、『人材育成、顧客満足とサービス向上』といった、日々の業務の推進を担うこととしました。あわせて、JPEも、『経理・労務等の管理体制整備』を進め、経営の“見える化”を社外取締役として支援しています。

こうして、CEOとCOOは役割と責任を分担し、互いに補完や共有もしながら、全員が1つの船に乗り、組織経営への移行を進めています。


左から:創業オーナー 布施氏、取締役COO 高梨氏、JPE代表 法田氏、JPE担当マネージャー 伊東氏


志を継いで 夢をカタチに ~TOKYOファンドが果たす役割~

今まさに大きな変革の時期にある美容室は、業界の特性、組織の規模や成り立ちからして事業承継が構造的に難しい業界といえます。だからこそ、事業承継にあたってはM&Aだけでなく、業界や企業規模、地域、企業文化、オーナー経営者の想いなど、それぞれのニーズや特性に沿った解決策を柔軟に提供できる「事業承継支援ファンド」のような存在と役割が必要とされるはずです。

東京都内2万4,000軒を超える美容室のオーナー経営者のみなさん、そして、お店で働く7万5,000人の美容師のみなさんが、美容師としての人生設計を前向きに描けるように、『美容師という職を選んでよかった』と生涯思える人が一人でも増えるように、美容師としての夢の叶え方を一緒に考えて一つ一つ具現化していく、ファンドとしては、そんな役割を果たしていけることが望みです。

各社の情報・お問い合わせ

TOKYOファンド
https://tokyo-fund.jp/

k’s International株式会社
http://collet-group.jp/mallely/

日本プライベートエクイティ株式会社(JPE)
https://www.private-equity.co.jp/

連載記事

<事例 No.1>事業承継ファンドを通じて、元銀行員が個人で製造業を引き継いだ事例
https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/column_jirei1/

<事例 No.2>親族でもなく、M&Aでもなく、「ファンドに託す」という選択肢
https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/column_jirei2/

<事例 No.3>これからの美容室経営の選択肢 ~“承継”と“成長”と“夢”の実現のために~
https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/column_jirei3/

<事例 No.4>ファンドを選択した事例(前編)
https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/column_jirei4/

<事例 No.5>ファンドを選択した事例(後編)
https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/column_jirei5/




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