政策提言・要望

政策提言・要望

労働政策に関する要望

2004年7月8日
東京商工会議所

 国内の景気は、大企業を中心として一部回復傾向にあるものの、依然デフレからは脱却しておらず、中小企業は厳しい状況が続いている。本年6月にとりまとめた「労働政策に関するアンケート調査」(以下アンケート)によれば、各社の業況水準は昨年同時期と比して「変わらない」「(大変)悪くなった」を合わせると約7割(69.0%)に上っている。
 一方、労働分野を見れば雇用のミスマッチや若年・高齢者の高い失業率、外国人労働者の受入れなど大きな課題を抱えている。企業にとっては、高齢者の継続雇用や年金・医療・介護など社会保障制度の見なおしによる負担増など、雇用は非常に難しいものとなっている。
 わが国が健全で安定的な経済発展を続けるためには、労働分野における規制の緩和と雇用の受け皿である中小企業の活性化が不可欠である。また、労働行政については、厚生・労働としての一体的な取組みや教育や経済など関連省庁との政策的な連携を深めることにより、効果的・効率的な施策が求められる。
 以上の認識に基づき、今後の労働政策に関し下記の通り要望する。

要望



1.今後の労働政策に関する重要課題
(1) 改正高年齢者雇用安定法に関する取り扱い

 平成16年の国会において成立した改正高齢法は、企業に対し原則65歳まで継続雇用制度を求めるものであり、導入まで中小企業は制度導入後5年間、大企業は3年間の経過措置期間が盛り込まれている。
 今後の労働力人口の減少や高齢者人口の増加に鑑みれば、雇用延長の必要性は理解できるものの、企業にとっては総人件費の上昇につながる懸念も大きく、積極的に取り組む状況にない。また若年雇用が依然として深刻であり、高齢者の雇用延長が法制化された場合、結果として若年の採用がさらに抑制されるなど、企業の人員構成に影響を与えることが懸念される。従って経過措置期間終了後は、企業の実情について改めて調査し慎重に対応すべきである。
 
(2) 若年者の就労教育と雇用促進
 有効求人倍率が上昇しているにもかかわらず、依然若年層の失業率は高止まりしている。アンケートにおいても20歳代の労働力が「不足」と「やや不足」を合わせて64.4%となっており、中小企業においては基幹的な戦力となり得る若年労働者の確保が困難になっている。若者の就労意欲の低下や手軽な就労を好む傾向などについては対策が必要である。例えば、在学中からライフプラン(生涯設計・生き方)やキャリアプランの描き方を教育するシステムの導入を検討してはどうか。
 平成16年度より導入された日本版デュアルシステムは、若年雇用の促進に対して一定の役割を果たすものと考えられるが、企業負担が重くなれば受入れ企業数が伸びずその成果は期待できない。OJT中に学生へ支払われる賃金は最低賃金の適用除外とし、企業負担をほぼ解消するレベルの助成金を設置するなどの施策が必要である。
 
(3) 外国人労働者の受入れ体制
 中長期的に見てわが国の人口は確実に減少すると推計されており、将来の労働力不足は避けられない。国内労働力の掘り起こしや有効活用にも関わらず人手が不足する分野については、外国人労働者の受入れを検討すべきである。特に、不熟練・単純労働分野に従事する外国人労働者の受入れについては「労働許可制」により管理を徹底するなど、具体的な検討を進めるべきである。尚、従来より受入れている専門的・技術的外国人労働者に関しては、資格要件の緩和や手続きの簡素化など引き続き一層の拡充が必要である。
 一方、国民の間には、不法就労者や外国人による犯罪の増加に伴い、外国人労働者の受入れに対する不安も広まっている。外国人労働者受入れ問題は外国人と共生する市民の意識を醸成する観点から、規制緩和だけを議論するのではなく受入れにあたっての治安対策、生活環境の整備、子弟教育など行政のビジョンを示し国民的コンセンサスを得る必要がある。
 
2.企業負担の軽減及び在り方の見なおし
(1) 週40時間内における時間外割増手当の導入に反対
 厚生労働省の仕事と生活の調和に関する検討会議の報告書では、労働時間短縮の一環として、一般労働者、短時間労働者を問わず週40時間内の割増残業手当を導入するよう言及している。週40時間は労働基準法による法定労働時間であり時間外手当の割増には反対である。
 
(2) 雇用保険三事業の見なおしと保険料引下げの検討
 昨今の雇用保険三事業は、助成金の一部整理統合や勤労者福祉施設の払下げなどだけが目に付くが、雇用安定、雇用福祉、能力開発による雇用の成長と発展といった本来の目的に対する成果が見えてこない。またアンケートによれば助成金を「しばしば利用する方だと認識している」とした回答は、全体の11.6%に過ぎず、中小企業にとって使用しづらい制度となっている。一方、保険料の使途に関しては依然事業主にとって不明な点が多いため、情報をわかりやすく開示したうえで一層の助成金の整理統合を進め、保険料を引下げるべきである。また、財源は全額事業主負担となっているがその在り方についても検討を進めるべきである。
 
(3) 確定拠出年金など企業年金・退職金制度の見なおし
 企業年金に関しては、公的年金の給付額が将来的には削減されるため、老後の生活を補完する観点から制度構築すべきである。確定拠出年金の拠出限度額についてはさらなる引上げが必要であり、加えてマッチング拠出の導入や特別法人税の撤廃を図り、将来的には非課税限度額が少なく事務手続きが煩雑な年金財形制度との統合を視野に入れ、より充実した年金制度とすべきである。
  2012年(平成24年)3月末に税制適格年金制度(以下適年)の廃止が決まっている。今後とも中小企業が年金・退職金制度を維持するためには、多様な選択肢が必要であり、中小企業退職金共済制度(以下中退共)へ移管できるだけでは不十分である。中退共は加入できる企業規模に制限があるため、制限のない特定退職金共済制度を適年の移管先に認めるべきである。
 
(4) 短時間労働者への公的年金の適用拡大に反対
 平成16年に成立した年金制度改革関連法において、短時間労働者への厚生年金の適用拡大は、5年後に再検討されることとなった。公的年金制度については抜本的な見なおしが必要であるが、短時間労働者への適用拡大は、人件費率の高い中小企業にとって死活問題であり、事業が成り立たなくなる惧れもある。雇用機会の逸失と失業者の増大にも繋がりかねないため、安易な導入には絶対に反対である。
 
3.今後の労働関連法規について
(1) 裁量労働制の更なる規制緩和
 業務の遂行を大幅に労働者の裁量に委ねる裁量労働制に関心が高まっているが依然導入は進んでおらず、特にホワイトカラー層の能力を有効に引き出す制度として期待される企画業務型裁量労働制の普及率が伸びていない。企画業務型裁量労働制は今般の法改正により、「本社等」に限定されていた対象事業所の制限が撤廃され規制緩和が図られたが、アンケートによれば、「今後とも導入の予定なし」の企業が50.8%を占めた。これは現行の業務制限では対象者の特定がしにくく、労使委員会の立上げや労働基準監督署への諸届など導入時の手間や制約が多いことなどが理由に挙げられる。使用者が個人の裁量に委ねることが可能と判断する業務に関しては対象に加え、導入時における諸手続きにおいては更なる簡素化を図るなど、より一層の規制緩和が望まれる。
 なお、裁量労働制の効果を最大限に発揮するには、将来的に労働時間規制を管理監督者と同様、適用除外とすべきである。
 
(2) 企業の実情に配慮した「金銭賠償方式」の検討
 平成15年の労働基準法改正では解雇権に関する規定が明文化されたが、解雇無効の場合の労使双方からの申し立てによる「金銭賠償方式」の法制化は見送られた。本件は、慎重に取り扱うべきものと認識しているが、労使紛争の解決は相当の時間がかかる上、労働委員会は実態として調停機能がなく、解雇無効となった場合は職場復帰しか方策がないなど、問題は残されたままとなっている。現実には職場復帰するケースは少なく、大半は金銭によって退職している実態を考慮すれば、紛争解決の選択肢を広げるという観点から改めて「金銭賠償方式」の是非を検討すべきではないか。但し、その際の解決金額については一律に設定するのでなく、企業の実情に応じて労使の合意に委ねるべきである。
 
(3) 今後の最低賃金の在り方の見なおし
 ベースアップの据え置きや定期昇給の廃止をする企業が増えているにも関わらず、最低賃金だけが右肩上がりで推移してきた(但し過去2~3年を除く)。アンケートによれば中小企業の景気は未だ回復に及んでおらず厳しい状況であることから、地域別最低賃金の額についは引き続き据え置くべきである。また、産業別最低賃金制度の在り方については「規制改革・民間開放推進3ヵ年計画」の中で平成16年度中に見なおしが示されており、地域別最低賃金制度があるなかその存在意義は乏しく速やかに廃止すべきである。
 
(4) 労使自治を主体とした労働契約
 長期雇用慣行が崩壊し労働契約の多様化・個別化が進行している中で、労働契約の在り方に一定の法制化を求める動きがあるが、想定される配転・出向・転籍・労働条件変更・退職等については、既に判例法理が確立しており、新たな法制化による企業経営・雇用管理等の規制強化が大いに懸念される。アンケートでも「法制化については労使合意の尊重が必要」が51.8%、「柔軟性を縛る法制化はなじまない」が35.1%と回答しているので、検討にあたっては中小企業の実態に配慮すべきである。
 
(5) 今後の労働安全衛生の在り方について
 労働安全衛生法は、そもそも戦後の製造業における安全と衛生の確保を目的として整備され、高度成長期における重厚長大産業の健全な発展にその役割を果たしてきたが、現在の第3次産業中心の中では機能しにくくなっている。
 また事業所の分散や企業の分社化が進むことにより事業所ごとに適用される現在の制度が負担となる一方、独自に安全衛生対策を講じてきた中小企業にとっても一律な制度が多大な負荷をもたらしている。労働安全衛生の在り方については企業の現状に配慮する方向で検討を始めるべきである。また労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS)導入義務化の動きが検討されているようであるが、企業規模や業種に応じて適用の是非を区分すべきであり一律導入には反対である。
 
(6) 労働者派遣法の更なる規制緩和
 平成16年の改正労働者派遣法に関しては製造業務への労働者派遣解禁など大幅な規制緩和が図られたが、欧米各国と比較すると依然制限を残す結果となっている。派遣期間や禁止業務を撤廃するなど一層の緩和促進が必要である。また派遣先による派遣労働者の事前面接に関しては、労使双方にとって意義があり紹介予定派遣の場合と同様早急に解禁すべきである。
 
(7) 保育など関連行政との連携による雇用均等政策のさらなる推進
 将来の労働力不足への対策の一つとしてポジティブ・アクションなど雇用均等政策が実施されているが、最大限の効果を発揮するには働き手の意欲と能力を適正に評価する企業側の意識改革と働き手の実情を勘案した制度作りの両面が必要である。特に少子化への歯止めは将来の日本経済の成長を支える上での大きな課題である。
 現在、働きながら育児を行う女性に対する支援は、育児休業期間の延長や有期雇用労働者への適用拡大、取得回数の複数化など企業負担によるところが大きい。東京都の「認証保育所」を「大都市型保育所」として制度化し、ニーズの高い「ゼロ歳児保育」や「延長保育」に対応するなど保育サービスの充実が必要である。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所