政策提言・要望

政策提言・要望

東京における「都市観光」政策に関する提言 ~活力ある東京の実現に向けて~

1999年9月14日
東京商工会議所

 世界の各都市では、「都市の魅力を高め、外国人ビジターを含めた交流人口の増加を促進することが都市の活性化に繋がる」との観点から「都市観光」の振興が重要な都市政策課題となっている。今日的な「都市観光」は、従来の名所・旧跡を観ることのみならず、「産業経済」の視察、「芸術文化」の鑑賞、「最新アミューズメント施設」の娯楽、「商業施設」での買物、「飲食街」でのグルメ探訪、「居住者」との交流等々の複合的で多様な都市の魅力を楽しむことに加え、都市が有するインフラを活用して開催される多種の国際会議、イベント、展示会等々を含む広汎、多岐にわたるものである。

 この結果「都市観光」がもたらす経済波及効果は、広く全産業におよび、直接、間接を含め、年間約4兆2千億円(東京都試算)と推定されている。また、都市への外国人ビジターの誘致は、経済波及効果にとどまらず国際交流という側面での社会的、文化的波及効果も大きく、21世紀に向けた新しい都市づくりの活力を生み出す大きな源泉となる。しかしながら、現在、我が国を訪れる外国人ビジターの総数は年間410万人(うち6割が東京を訪れる)にとどまり、国際比較では世界第32位、アジアでも8位に低迷している。また、東京で開催される国際会議の件数では世界の都市別順位で25位、アジアでも4位であり、その国際的地位は極めて低い水準にある。こうした状況は、重要な都市政策としての「都市観光」に対する認識が極めて希薄であったことと、国際化への対応に後れをとっていることが、その背景にある。

 今後、グローバル化に対応し、魅力と活力ある世界の東京を実現していくためには、「都市観光」の東京の国際化、活性化に果たす役割を強く認識し、「都市観光」を産業振興、都市政策の重要な一環として位置付けていく必要がある。

 以上の認識を基に、東京商工会議所では、独自に行った「世界主要都市との観光魅力度比較」の調査結果等を踏まえて下記のとおり提言する。

提言



1. 東京を売り込む「シティセールス」の積極的展開

 日本最大の都市としての東京は東京を売り込む「シティセールス」の積極的展開、都市の持つ多様で複雑な魅力を最大限に有する。都市における広範な活動を含む概念を「都市観光」とすれば、その意味からも、東京は日本で最大の観光地と言える。
 しかしながら、このような観光インフラは揃っていながらも、それを活かし、付加価値をつける演出やPR、トータルのイメージ作りに対して、東京は極めて消極的であった。海外における東京のイメージも経済面のみが先行し、国際的な観光都市としての評価は得られていない現状にある。その原因は、ビジター誘致の重要性が認知されてこなかった東京の決定的な「宣伝・PR」不足であり、国際社会での理解を得るためにも、解消されなければならない極めて重要な課題として、東京を海外に売り込む「シティセールス」を積極的に展開する必要がある。

(1)東京のイメージコンセプトの策定

  国際的な「シティセールス」を展開するためには、東京特有の「歴史・伝統・文 化・風土」を背景としたイメージと同時に、従来の固定概念にとらわれず、「変 わり続ける東京の新たな個性」をも表現する「シンボル」となるものについての イメージコンセプトを策定することが重要である。

(2)行政・産業界・都民による一体的取組み

 「シティセールス」については、行政・産業界・都民が一体となった地域ぐるみ のプロモーション展開という気運の醸成が先ずもって必要である。そのためには 、都行政のトップが、東京の顔として世界に向けたメッセージの発信やトップセ ールスを行い、その牽引力となることが重要である。  また、都民一人一人が、東京のスポークスマンであるとの自覚を促すよう、例え ば、旅先で東京について話すためのきっかけとなるツールの配布や、世界で活躍 する東京出身の、あるいは東京にゆかりのある文化人、スポーツマン、経済人、 政治家等の言わば東京大使への任命等も考えられる。

(3)様々な媒体を利用した積極的情報発信

  東京がビジターを歓迎する都市であることを伝えるため、様々な媒体を通じた情 報発信を積極的に展開する必要がある。具体的には、飛行機内での東京のプロモ ーションビデオ上映、空港をはじめリムジンバスや成田エクスプレス等でのウェ ルカムキットの配布、リージョナル紙やタウン誌とのタイアップによる東京の生 きた情報の紹介、ケーブルテレビ等における多国語によるテレビ番組の作成等が 考えられる。
  また、国内にとどまらず海外に向けたPR展開においては、国際主要都市におけ る国際観光振興会を中心とする活動とともに、インタ-ネットや海外メディアの 活用、在日海外ジャーナリストや海外報道機関等への東京の観光情報に関する定 例記者発表および対応する報道担当官の設置といった戦略的な情報発信を展開す る必要がある。

(4)「シティセールス」キャンペーンの効果的な展開

  「シティセールス」キャンペーンの実行にあたっては、ミレニアムイベントとして の位置付けや2002年のワールドカップサッカー開催等、国際的な行事・イベ ントのタイミングを捉えて効果的に展開する必要がある。同時に訪都インセンテ ィブにつながる優遇措置や商品開発について早急に具体化しなければならない。

2. 東京の魅力の再評価・再発見・再創造(=都市観光の再生)

 都市に人が集まるのは、産業、文化、街、人、情報といった多様な要素が複雑に作用し合って生み出される都市の魅力によるものである。既存の観光資源を最大限に活かす観点から、東京・日本特有の魅力を再評価し、有効に活用されていない施設・要素について、観光資源化するとともに、それを活かし、付加価値を高める演出方法の企画開発が求められる。

(1)新旧の観光資源を活用した観光ル-トの開発

①行政区域を超えた多様な観光ルート

観光資源は行政区域を超えて数多く存在しているにも関わらず、観光の取組 みにおいては個別的かつ限定的な対応にとどまっている場合が多い。ビジタ ーに対する多様な観光ルートを確立するため、区市町村の観光関連部局、コ ンベンションビューロー、NPO、事業体等の連携による行政区域を超えた 新たなテーマルートや徒歩での散策エリアガイド等の共同企画・開発が望ま れる。さらに、広域展開を視野に入れ、例えば、東京・千葉・神奈川にわたる ベイエリアについて、事業体と自治体が協力してPRすること等も考えられる。

②ビジターのニーズに基づくテーマ観光ルート  ビジター誘致の対象となる国々については、各々の国民性や国情等からビジター の傾向やニーズが異なっている。こうしたことから、現地の旅行関係業界や自治 体、観光関連団体との協力体制を確立し、それぞれのニーズに適合する多様な観 光ルートを企画開発することが必要である。

(2)既存施設の再生・利用

①ビジターに魅力ある街や商店街づくり  中心市街地の空洞化が課題となって久しいが、今後、ビジターを意識したまちづ くり、景観に配慮した個性あるまちづくりを通じて、地域の活性化を図るととも に地場産業の育成や伝統的文化の継承に繋げることが重要である。

②ビジターのニーズに対応した柔軟性  観劇・観覧後の飲食やショッピングのニーズに応えられるようなビジターを意識 した周辺商業施設での営業時間の見直し、日本特有の文化である相撲や歌舞伎等 の時間帯別チケットの販売等、旅行者やアフターコンベンションの需要が高い分 野においては、相応の利便性を確保する必要がある。

③公共施設等の開放・活用 コンベンションや関連行事は、その特定施設でのみ行うのではなく、国・東京都 の公共施設、公園、寺社、そして一般企業の施設等を広く開放し有効に活用する ことで、ビジターに対してユニークな東京・日本の印象を与えることが可能であ る。

3. 外国人ビジター受入れ体制の整備

 東京は日本で最大の観光地であるにもかかわらず、東京に暮らし、働く、都民・企業・行政においては、ビジターを受け入れるという意識が希薄であったと言わざるを得ない。また、外国人ビジターにとっては、「言語の壁」が大きな課題となっている。今後、より多くの人々に東京を訪れてもらうためには、ホスピタリティ・マインドに溢れた旅行しやすい環境を整備する必要がある。

 また、ビジターに対してのみならず、都民にとって住みやすく、働きやすく、生活しやすい、誇れるまちづくりが、東京の都市としての魅力となり、ビジターを惹き付けることになる。こうした都市政策の視点からも、外国人ビジター誘致に伴う受入れ体制の整備は喫緊の課題となっている。

(1)サイン・地図表記の統一

①行政・交通機関・観光関連施設等のサインの統一化等

 現在、公共交通機関・観光施設等において様々なサインは表示されているもの の、誰にでも見やすく、統一されている状況とは言いがたいことから、外国人ビ ジターの目線から一定の基準を設け、地図表記も併せて統一・充実することが必 要である。
  また、その際には併せて、周囲の景観に対する十分な配慮とともに、英語表記 や外国人や子供を問わず一目でわかる共通ピクトグラム(絵文字)の併用も望ま れる。
 特に、地下鉄は海外主要都市と比較しても優れた国際的な交通機関であること からも、現在、ビジターに好評である色による路線の区別とともに、ルートナン バーをつける工夫等が望まれる。

②外国人ビジターが必要とする情報についてのサインの統一表示

 観光案内に限らず、交番等を含めた多言語対応が可能な案内所のサインや、外 貨両替機関、国際通話・クレジットカード利用が可能な公衆電話等について、各 々わかりやすく統一表示する必要がある。

(2)外国人ビジターへの情報提供機能の拡充

①都内各地域の観光案内所のネットワーク構築

 「外国人総合観光案内所」は、国際観光振興会によるTIC(ツーリスト・イ ンフォメーション・センター)が全国で東京・京都の2ヶ所、東京都による観光 に限定しない外国人案内所が東京・新宿駅にある程度で、その数は極めて不充分 である。
 こうした案内所の不足を補い、外国人ビジターに対する情報面でのサービス向 上を図るため、都内の各地域を紹介するために任意に設置された既存の観光案内 所をネットワーク化し、蓄積した外国人対応のノウハウやツールの共用、新たな 情報共有や共同PR等において、外国人からの照会頻度が高い施設等の協力も仰 ぎつつ、連携を強化していくことが必要である。

②東京独自のインフォメーションセンターの設置

 東京は、日本のゲートとして大勢の外国人が訪れることから、東京の顔となる 場所にあらゆる照会・ニーズに応えられるような求心力のあるインフォメーショ ンセンターを設置する必要がある。
 この際、旅行会社等との協力体制による観光情報提供と宿泊施設・ツアー申し 込み等をワンストップ・サービス化するとともに、東京以外の地域に対するイン フォメーション機能を併せ持つことが望ましい。

③多国語による次世代情報提供ツールの充実

 東京において、滞在に必要な多国語での情報は十分に整備されているとは言え ない現状から、外国人ビジターの利便性に基づいた情報を、様々な形で提供して いかなければならない。紙媒体はもとより、インターネットによる情報サービス 、また、日本のイメージの一つである最新技術(PHSによる所在地確認やGP Sを利用した携帯案内端末等)を使った、情報提供ソフトや機器のレンタルサー ビス等の開発も考えられる。

(3)価格イメージの刷新による魅力づくり

①ビジターの価値観・ニーズに合ったメニュー紹介

 残念ながら、「東京は物価が高い」というイメージは、国際的に定着してしま った感がある。このイメージを払拭するためにも、低廉な観光の仕方やビジター の価格ニーズに合った幅広い多様な滞在メニューがあることを積極的に情報提供 することが重要であると同時に、訪都の呼び水となるような価格設定も必要であ る。

②テーマ別ウェルカムカードの発行

 外国人ビジターが博物館、美術館、宿泊施設、飲食店等を利用する際、割引の 優遇措置が受けられるウェルカムカードについては、広範囲で少額の割引を行っ ても、実際の割高感の解消にはつながらない。そのため、コンベンション・留学 ・特定地域の観光といった訪都の目的や趣味・嗜好に応じたテーマコース別のウ ェルカムカードを設定して、価格面での魅力や共通カードによる利便性を高める ことが重要である。

③コンベンション誘致のための商品・サービス開発

 コンベンションによるビジターについては、需要予測が容易であることから、 行政と民間の共同開発によるコンベンションレート、ウェルカムカード、交通機 関共通割引パス等の限定サービスが可能である。こうした優遇制度は、コンベン ションの誘致活動を展開する上で極めて重要な要素であることから、行政・コン ベンション主催者・サービス提供事業者が一体となった商品・サービスの開発が 急務である。

(4)外国人ビジターと都民の交流促進

①外国語によるコミュニケーション円滑化の努力

 「善意通訳運動」は、個人の善意に基づいて外国人旅行者等の手伝いをしよう という運動であり、現在都内でも7,700人以上が登録し、活動の拡充と資質の向 上を目指した組織化も進められている。このような、都民一人一人が自分の出来 る範囲でビジターを受け入れていく活動に対して、地域全体として盛上げていく ための普及・支援策が望まれる。  また、学校教育においては、実際に話せることに重点を置いた語学教育をさら に強化すべきである。

②姉妹・友好都市等との交流プログラムの活用

 姉妹・友好都市は、都市間の包括的・持続的な友好関係をベースとして、行政 レベルでの交流とともに、文化・芸術・スポーツ等の多彩な交流事業が展開され ている。国際的な相互理解が進展している関係にもあり、ビジター誘致や東京の PRという視点も取り入れつつ、相互の訪問促進に繋げる交流プログラムをさら に発展・拡大させていく必要がある。

③東京のファンを育てるための工夫

 一般家庭への滞在や訪問を目的とするホームスティ、ホームビジット制度は、 東京での生活を実際に体験できる絶好の機会となるので、一層の拡充・普及促進 を図る必要がある。さらに、神社・仏閣での体験修行、伝統工芸や日本料理の1 日弟子入り等、東京実体験のバラエティを持たせるメニューの工夫も考えられる。
 また、バックパッカーや留学生等の若年ビジターに対する優遇措置は、将来の 東京・日本のファンを育成する支援体制として重視すべきである。

(5)ノーマライゼーション対策の推進

 身体に障害を持つ人や高齢者を含めた全ての人々を迎える視点から、交通機関 、観光地、宿泊施設等におけるハードのみならず、ソフト面をも含めたノーマラ イゼーション対策を推進する必要がある。具体的には、障害を持つ人のための観 光マップ上での情報提供、観光にあたっての事前の相談窓口の設置等、また施設 ・サービス提供者に対する啓発・教育も重要な課題である。

4. 施策実現のための政策的要件

(1)「都市観光」の重要性に関する啓発・普及活動の推進

 東京がビジターを歓迎する都市であることを内外に向けて明確に示すとともに 、具体的施策を着実に前進させていくためには、その前提として、都をはじめと する行政、産業界、そして都民の「都市観光」の重要性に対する共通認識の醸成 と3者が一体となった取組みが必要不可欠である。
 そのための啓発・普及活動を推進するとともに、国においては、観光・ビジタ ー産業がもたらす波及効果を継続的に実態把握し、「観光白書」において、GD Pに占める割合、生産波及効果、雇用における貢献度を客観的データとして積極 的に発表・PRすること等を通じて、我が国における基幹産業としての位置付け を確立していくことが極めて重要である。

(2)ビジター誘致振興財源の確保

 観光振興財源については、ビジター誘致が東京ひいては日本経済の再生に向け て強力な牽引役を担う観点から、産業振興財源といった枠組みの中で、優先度の 高い予算として位置付ける必要がある。なお、平成11年度末をもって廃止される こととなっている特別地方消費税の2%が観光事業振興助成交付金の原資となっ ているが、廃止に伴う同交付金の代替財源を確保するとともに、将来的には、特 定財源としての新たな税の仕組みについて検討する必要がある。

 また、ビジター誘致は各省庁の様々な施策に関連することから、目的別に整理 ・統合するとともに、各助成制度の使途の弾力化や各種助成金の観光関連活用に ついてのアドバイザリー体制を整備することが望まれる。

(3)「都市観光」政策を一元的に担う行政機能の整備

 「都市観光」政策への取組みという新しい時代の要請に応えられる行政機能を果 たしていくためには、都庁内において、当該施策を産業振興・都市政策の中枢と して一元的に担う組織を整備する必要がある。同時に、東京コンベンション・ビ ジターズ ビューローについては、行政と一体となった具体的施策の牽引役とし て総合力が発揮できる体制と環境を整備することが必要である。  東京商工会議所としても、国際会議をはじめとする海外との会合や交流の場に おいて、東京をPRする視点を積極的に取り入れるとともに、商店街やまちづく りの推進におけるコーディネーターの役割を果たしつつ、地域活性化の実現に向 けた取り組みを強化しなければならない。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所