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東京の新しい都市づくりに関する提言 ~首都東京の再生に向けて~

2000年7月13日
東京商工会議所

日本の首都として大きな役割りを果たしてきた東京は、今や世界の代表的な都市としての魅力や活力を失いつつあり、21世紀の新しい時代の要請に応える都市づくりや都市機能の創造・再生に迫られている。
 その危機感を背景に、政府および東京都では東京圏・東京の将来像に関する検討を進めているが、東京の将来ビジョンを描く上で、「世界の中の日本」そして「日本における東京」といった戦略的な視点は極めて重要な要素となる。大交流時代の激しい国際競争に勝ち残るためにも、日本の牽引役を担うべき東京の役割と位置付けを国家的・国民的コンセンサスとして再認識する必要がある。
 一方、都市マネジメントに関しては、地方分権一括法が施行され、都市開発においても地域の実情に応じた合理的な都市計画制限を行うために都市計画法が改正されるなど、今後ますます自治体の権限や力量、行政のリーダーシップが問われることになる。
 東京の新しい都市づくりにおいては、日本新生の鍵を握る東京の再創造という観点から、新世紀を見据えた東京のグランドデザインと都市づくりにおける戦略的なマスタープランの策定とともに、その実効性を高める新たな都市開発のシステムづくりが強く求められている。
 以上の認識を基に、東京の新しい都市づくりについて下記のとおり提言する。

提言



1.21世紀の魅力ある首都東京の創造
(1)東京の国際競争力の向上
 新しい時代に対応した交通基盤や情報通信基盤等の社会インフラの未整備が、東京の都市としての魅力を低下させており、国際的にヒト・モノ・カネが集まりにくい状況になっている。さらに、首都圏における交通インフラの未整備が高コスト体質の一因となり、わが国の国際競争力の低下を招いているとの指摘もある。東京のインフラ整備の遅れは、日本経済の活力低下にも直結しており、国際的視野に立ったビジネス環境を整備するとともに世界から共感を持たれる生活しやすい都市機能の整備等を通じて、首都東京の国際競争力を高めることがわが国にとって喫緊の課題となっている。
 一方、東京の過密解消を主眼として浮上した首都機能移転に関しては、法制定当時とは社会経済情勢が一変しており、移転の意義そのものを根底から再考すべき状況にある。現在わが国では、国と地方を合わせて600兆円を超える借金を抱え、財政再建が大きな政治課題とされる中で、新たな首都建設という膨大な財政支出が許される状況ではない。首都は一国を象徴する都市として、政治・経済・文化など多様な機能を備える複合都市であることが望ましい。地方分権の推進と国際都市東京の魅力向上を優先させ、限られた財源を東京そして首都圏におけるインフラ整備に重点配分することこそが国益に適う選択である。

 (2)21世紀に対応すべき課題
 現在の東京は、交通渋滞、遠距離通勤、ゴミ処理問題、物流問題、防災性の不安など、多くの都市問題を抱えている。来るべき新世紀に向けて、これら20世紀の課題として今も残る都市問題の解消には、これまで以上にスピードを上げて取り組む必要がある。
 同時に、本格的な高齢社会の到来、IT革命に象徴される情報化・グローバリゼーションの進展、環境共生・環境対策の高まりなど、都市を取り巻く環境変化については、適応可能な都市機能の再構築・再創造が求められる。これら次代の潮流を捉えた都市戦略として、「福祉とまちづくりの連携」、「資源・エネルギーの効率的利用と環境保全型都市」、「機能的な次世代情報都市」、「国際的感性溢れる文化・複合都市」を指向すべきである。そのため、世界に開かれた利便性の高い国際空港や高速・大容量の情報通信基盤などの基本インフラ整備は極めて重要な課題であり、国家プロジェクトとして早期の取り組みが求められる。

2.東京の都市づくりビジョン策定に向けて
(1)東京が目指すべき都市像の明確化
 現在、東京都において検討が進められている都市構想やビジョン策定は、日本の将来にも多大な影響を与える重要な指針となる。東京都が提唱している『政策誘導型の都市づくり』を展開する上でも、新世紀を見据えて都民が共有できる「夢」のあるビジョン・目標を明確に示すことが肝要である。同時にビジョンの推進にあたっては、これまでの都市づくりのあり方や仕組みを抜本的に改革する行政のリーダーシップが強く望まれるところである。さらに、こうした都市政策の展開にあたっては、東京圏全体を視野に入れた広域的な視点から、7都県市の連携による地域構造を踏まえた実効性ある広域行政機能が確保されなければならない。
 東京が目指すべき都市像は、「ビジネスチャンスが多く、安全・快適で利便性と文化性の高い、活力のある魅力的な都市」である。そのためには、経済、文化、交流等の諸活動が都市を舞台に活発に展開されるような「職・住・遊」のバランスがとれた、かつ地域ごとの歴史や文化を反映した都市へと再編整備されなければならない。都市構造も都市を取り巻く環境の変化に伴い、用途分離型のものから、用途混在・職住近接型のコンパクトなものへと転換する必要がある。

(2)ビジョン策定にあたっての視点
 東京の都市づくりビジョンを策定するにあたって着目すべき点は、第一に経済活力の維持・向上という視点である。都市の魅力を創造し、維持していくための根底には、先ず産業の活力が不可欠であり、優秀な人材が育成され、集まり、そして活発に交流するための質の高い空間が提供されなければならない。そのため、交通・情報インフラなどの経済活動を支える基本インフラの整備や今後の経済成長をリードする都市型産業の集積の促進、少子・高齢化の進展に対応した高齢者や女性が働きやすい雇用の場が確保されるような環境整備が求められる。また、世界的な大交流時代において、外国人ビジターやコンベンションの誘致を促進させる都市観光という視点も欠かせない。
 第二に、快適さ・安心・安全の確保という視点である。誰もが安心して快適に生活できる住環境を形成するため、時間的なゆとりを実感できる職住近接の実現、地震・火災等に対する防災性能の向上、触れ合いのある地域コミュニティの形成、すべての人にやさしいユニバーサルデザインのまちづくりといった生活空間の質の向上を目指すべきである。
 第三に、都市ストックの形成という視点から、これまでの拡大する需要対応に追われてきた都市政策を転換し、歴史的・文化的資産や景観の保全、美しい品格のある街並みや都市づくり、快適な住環境を提供する住宅供給など、次世代に継承すべき質の高い社会資本ストックの形成に重点を置くべきである。

3.求められる重点施策
(1)緊急を要する基本インフラの整備
 計画段階から完成に至るまでに長期間を要するインフラの整備において、3環状をはじめとする道路整備の推進と首都圏における抜本的な空港容量の拡大、そして高速・大容量の情報通信基盤の整備は、東京の競争力を高める上で極めて緊急性の高い課題である。
 その際、投資効率の高い東京の社会資本整備を通じて東京の活力を回復させ、延いては日本の発展に貢献していくとの認識が極めて重要である。その意味から、地方交付税のあり方を含め、公共投資の費用対効果分析を徹底させ、税財源の首都圏・東京への重点配分が図られるべきである。
① 道路整備の推進
 東京における慢性的な交通渋滞は、環境問題のみならず4兆9千億円とも試算される経済的損失など、市民生活や経済活動に極めて深刻な影響を与えている。渋滞解消にあたっては、TDM(交通需要マネジメント)をはじめとする行政・都民・事業者が一体となった取り組みが必要であるが、道路整備においては特に都心通過交通の回避を図る上から、東京外郭環状道路、中央環状線、首都圏中央連絡自動車道の早期完成が求められる。
② 空港容量の拡大
 首都圏における空港整備については、国内・国際航空ともに堅調な拡大傾向にある需要にキャッチアップできていない状況にあるだけでなく、先進諸国および国家政策として強力な取り組みが図られている近隣アジア諸国に比較して著しく遅れをとっている。国際・国内便間のリンケージの弱さもかねてから指摘されており、羽田空港の国際化を前提とした成田空港との機能的な役割分担を実現するとともに、現空港処理能力の最大限の活用に向けた努力と柔軟な対応が関係各方面から求められている。
 加えて、今後指向すべき「少量多頻度運航」への転換においても、羽田空港の抜本的容量拡大は東京のみならず地方を含めた日本全体の国家的戦略との認識に基づく取り組みが必要である。さらに、今後の空港建設・整備においては、未だ候補地の選定すら行われていない首都圏新空港の早期対応を図るとともに、空港整備財源を過度に利用者に依存する現行の仕組みは、国の基本インフラとして一般財源の投入を拡大し改善していくべきである。
③ 情報通信基盤の整備
 IT革命の進展がもたらす様々な経済的・社会的効果をいち早く享受するため、情報通信基盤を早急に整備する必要がある。情報インフラの整備は、経済の活力や生活の利便性を向上させるとともに、国際的な都市間競争での優位性を確保するための重要な要素となる。そのため、通信事業における自由競争の環境を確保しつつ、光ファイバーなどの高速・大容量の情報ネットワークを迅速に整備し、低コストでの通信インフラの利用を実現する必要がある。

(2)重点地域を指定したモデルプロジェクトの推進
 新しい時代の要請に応えられる都市づくりを推進していくためには、先導的役割を担うモデルプロジェクトを通じて、目指すべき都市の具現化と普及促進を図ることが極めて効果的である。
① 防災性能の向上
 東京には、木造密集地域や昭和56年の新耐震基準以前に建設された建物が数多く存在し、これまで防災上の課題が指摘されながらも、その改善は遅々として進んでいない。当該地域は、土地・建物の権利が細分化されており、個別の更新に依存するだけでは、道路の拡幅やオープンスペースの確保といった地域としての防災機能は向上しないことから、行政の強力な指導力と思い切った誘導策のもとに、街区主義を取り入れた建て替えの推進による防災性能の向上が急務とされる。優先的に整備すべき地域を戦略地域として指定し、必要に応じて用途地域や容積率などの都市計画の見直しを行なうとともに、都市基盤整備公団などの公共セクターの参加が必要である。
② 臨海地域の活用
 幕張から横浜に繋がる臨海地域は東京の都市構造を変えるための大きなインパクトを与えることができる地域であり、モデルプロジェクトを積極的に進めるべきエリアである。
 「道路・鉄道・船舶・航空が体系化された効率的な交通ネットワークの構築」や「最新のリサイクル・廃棄物処理施設の整備」などを臨海地域で行なうことにより、物流機能の整備やゴミ処理問題など東京に今なお残る都市問題を解決するためのプロジェクトを推進しなければならない。
 また、臨海副都心を中心とする臨海地域は、水辺を活かし緑溢れる快適で活力のある居住空間・アメニティ空間を創造することで、世界に誇れる魅力的な都市づくりを戦略的に行なうことが期待される地域であり、大胆な開発規制の緩和や期限を切っての減税、PFI手法の活用等、民間へのインセンティブの付与に重点を置いた制度の導入を図り、迅速にまちづくりを推進する必要がある。
③ 産業・文化を活かしたまちづくりの推進
 今後の都市づくりにおいては産業集積や地域文化などの個性や強みを発揮することが地域の活性化に繋がり、こうした地域が多数存在することが都市の活力を生み出すことになる。そのためには「地場産業や伝統的文化を継承する地域」や「都市型産業の集積や起業・新産業創出の拠点となる地域」などを重点的に整備する必要がある。公・民・NPOなどが一体となって地域を活性化するためのシステムを構築することが急務であるとともに、産業が生まれ育ち都市に活力が与えられるよう特定地域を指定し、税の減免や通信・エネルギーコストの優遇等を行い起業と産業集積を促進する施策の実施が望まれる。

4.これからの都市づくりのあり方
 東京の新しい都市づくりを円滑に推進する上で何よりも重要なことは、自らのまちづくりという意識のもとで住民・企業・行政が一体となって推進できるシステムの構築である。現状では、合意形成が遅々として進まないことによる都市づくりの停滞が少なからず散見されるとともに、バブル崩壊後の弱体化している都市開発システムに対する信頼性の回復が急務となっている。都市計画法の改正を受けて、東京都と区市町村との関係および官民の役割分担を含め、公益と私権の調和、情報開示の徹底、PI方式(パブリック・インボルブメント)の導入、時間の概念が明確になったシステム等を通じた新たな合意形成の仕組みづくりが求められている。
 とりわけ、公益と私権の調和については、わが国において根本的な意識改革が求められる課題であり、「公共の利益を尊重する社会」を実現していく必要がある。その前提には徹底した情報公開と地域のまちづくりを主体的に運営する第三者機関の存在が不可欠であり、都市経営の拠点となるTMO、NPOや住民参加のまちづくり推進に向けた取り組みが、より実効性あるものへと定着させていくための行政施策が強く求められている。
 東京商工会議所としても、「街づくり3法」を踏まえつつ、地域の活性化に積極的に取り組んでいかなければならない。特に、地域特性を活かした個性あるまちづくりにおけるコーディネーター的役割が求められており、地域の基本計画を担う地元行政が果たすべきリーダシップの責任ある一端を担っていきたい。

 最後に、21世紀のわが国が引き続き世界の枢要国として存続していくためには、首都東京の再生を国家的戦略として位置付け、公共投資の「選択と集中」をより一層高めていくことが重要との認識を改めて強調したい。地方分権の大きな流れの中で、社会資本整備や都市政策における国と地方、行政と民間の領域・役割分担を明確化し、大都市そして首都であるが故により多くの課題を抱えている東京問題の解決に向けて、必要な財源確保が図られるような税配分の見直しが強く求められる。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所