商法改正中間試案に対する意見
東京商工会議所
世界的な市場経済化と情報化の進展に伴ない、経済活動はますますグローバル化し、企業を取り巻く環境は大きく変化した。
そのような状況下、企業は経済活動における迅速かつ的確な意思決定を行い、資金調達や企業形態の再編等を機動的に行うことが求められており、企業関連法制もこれにあわせて抜本的な見直しを進めることが必要である。見直しに当たっては、企業の自由な活動と自主的な運営を基本として、国際基準との整合性を図りつつ、市場において公正な競争が行われるよう、ルールを整備するべきである。
これに基づき、企業は自己責任原則のもと定款自治により活動し、経営の透明性を確保するためディスクローズを進め、市場におけるチェックを受けなければならない。
また、日本企業の太宗を占める中小企業は、日本経済の活力の源泉であり、その柔軟性と機動性を十分に発揮できるような環境整備が行われなければならない。
以上の認識に立ち、この度法制審議会・会社法部会が公表した「商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案」について、次の通り意見を申し述べるものである。
【株式関係】
1.新株発行規制並びに授権株式数に係る制限
中間試案では発行済株式総数の一定比率を超える新株の発行について株主総会の特別決議を要するとされているが、新たにこのような規制を設けることは、企業再建のための緊急な資金調達など企業活動の機動性を阻害するおそれがあり、従来通り授権株式の範囲内であれば、取締役会の決議事項とするべきである。
なお、今回の中間試案では、譲渡制限会社において4倍規制の廃止が打ち出されたことは評価できるが、そもそも4倍内の規制を置くことについては、根拠が不明確であり、その必要性もないと考える。したがって、商法166条3項および347条による授権株式数を発行済株式数の4倍内とする規定を緩和するべきである。
2.種類株主の取締役の選解任権
特定の種類株主に取締役の選解任権を認めようとする趣旨は、ベンチャー・キャピタルなどによるプライベートエクイティファンド(未公開会社への投資)により、公開前企業のコーポレートガバナンスを強化することにある。その点に鑑みれば、取締役の選解任権についてのみの種類株式の発行は合理性のあるものであり、これを認めるべきである。
【会社の機関関係】
3.株主の議題等提案権の行使期限
株主の議題等提案権および少数株主による株主総会の招集権について、行使期限が現行の6週間前から8週間前に延長されることは、実態に即した改正案といえる。しかし、公開会社においては、少数株主による株主総会の招集権の行使期限が8週間前では、実務的に要する時間からして十分とはいえず、これを10週間前とするべきである。
4.子会社の株式の譲渡等
「会社が有する重要な子会社の株式の全部」を譲渡する場合、「経済的実態として子会社は親会社の営業の一部とみなし、株主総会の特別決議を必要とする」案が出されている。しかし、純粋持株会社における子会社とそれ以外の子会社を「重要な子会社」として、同一の取扱いとすることには限界があると考える。M&A等企業再編を機動的に行う上からも、望ましい制度ではない。子会社の全部譲渡に関しては、従来通り取締役会の決議事項とするべきである。
5.大会社における社外取締役の選任義務
大会社において社外取締役の選任を義務化することについては、反対する。社外取締役一人で会社のチェック機能を強化することは実効性に乏しい上、わが国には従前より監査役制度があり、社外取締役を義務化するよりはむしろ、監査役制度を充実することで会社のチェック機能を強化することが望ましいと考える。
6.会計監査人の会社に対する責任についての株主代表訴訟
会計監査人は会社の内部機関ではないので、株主代表訴訟の対象とすることについては慎重に検討されるべきである。株主に代表訴訟を認めることにより監査費用が高騰することになれば却って会社の利益が損なわれる。少なくとも会計監査人の責任制限の制度を設けるなどの措置を前提として、この問題を検討するべきである。
7.大会社における取締役の任期
取締役の任期については、一律に1年と法定化せず、現行の制度の通り2年以内とするべきである。コーポレートガバナンスにおいて株主が期待する取締役の役割に多様なものがあることから、取締役の任期は、各社の経営方針・実態にあわせて取締役と株主との間で取り決められるべき事柄であると考える。
8.経営委員会制度
中間試案では、経営委員会は、一定の事項について、取締役会の委託により、株式会社の業務執行を決定するものとなっており、また「中間試案の解説」によると、経営委員会を取締役会の監督下に置くこととし、経営委員会に委託できる事項の範囲、代表取締役との関係等についてなお検討することとなっている。企業に新しい選択肢が与えられること自体は好ましいことではあるが、現在の「常務会」等の実態を勘案すると、提案されている内容では、却って実務に混乱を招く恐れがある。経営と執行の関係をいかに構築するかは各社ごとに異なっており、法律によってこれを一つの枠に押し込めるべきではない。
そもそも、経営委員会制度を設ける趣旨が取締役会を機動的に開催できない弊害を解消することであることに鑑みれば、取締役会の決議事項をより簡素化した上で、各社の創意工夫が生かされるよう、取締役会が経営委員会に授権できる権限の範囲のみを法定するべきである。
9.大会社における各種委員会制度並びに執行役制度の導入
中間試案では、監査委員会、指名委員会及び報酬委員会制度並びに執行役制度を一括して採用した場合、監査役を置くことを要しないこととなっている。しかし、そもそも会社においては、監督機能、業務執行機能、監査機能が明確にされることが重要であり、 各会社が定款自治のもとに、必要と認められる制度を選択して取り込めるようにするべきである。
また、各制度を選択できるとしても、各委員会において取締役を3名以上とし、そのうち過半数を社外取締役とすることでは、制度として利用を狭めるものである。社外取締役は半数以上または3分の1以上とするなどにとどめるべきである。
一方執行役制度における執行役は、米国型の制度を意識した設計となっており、現状日本において採用されている「執行役員制度」との権能の相違について誤解を招く可能性がある。執行役の権能を明確にするとともに、日本における執行役員の実態を踏まえて、執行役制度における執行役の責任は、取締役に比して過剰にならないよう制限されるべきである。
【会社の計算・開示関係】
10.貸借対照表等計算書類の公開
株式会社の太宗を占める中小企業は、そのほとんどが会社の所有と経営が一致し、株式の譲渡制限を行っている非公開会社であり、株主や債権者は通常少数である。こうした実態を無視して、開示範囲を大規模な公開会社を念頭においた強行規定と一律に扱うことは適切でない。費用対効果を無視した義務付け、一本化を行うのではなく、積極的に情報開示を行っていこうとする中小企業を支援していく姿勢が望まれる。具体的には、開示の対象を現行の範囲にとどめ、むしろこの開示を実効あらしめるために、提供を一律に義務づけるのではなく、これまでの官報または日刊紙への掲載による公告に加え、各社のホームページでの公開など、多様な手段の中から1つを選択すれば足りるよう規定を整備するべきである。
この手段の多様化については、大会社においても同様である。
11.資産評価に関する規定の方法
時価会計は有価証券報告書の提出会社に適用されることとなっているが、資産評価規定等の法務省令への移行後も、有価証券報告書の提出会社以外については、取得原価主義を基調とする現行の会計原則が堅持され、中小企業に会計処理の過剰な負担を課さないようにするべきである。
【その他】
12.資本減少手続の合理化
減資の際の公告事項および通知事項を充実させるとあるが、これらの事項の明確化・充実化が図られれば、公告あるいは通知のいずれかの選択を認めるべきである。すなわち、現行の株式会社の合併と同様に、資本減少、会社分割においても、何らかの手段で公告した場合には、知れたる債権者への個別の催告は不要とするべきである。
なお、現在は公告の手段として、官報または日刊紙への掲載となっているが、ホームページ等による公告も認め、手段を多様化するべきである。
13.外国会社-営業所設置義務の廃止と代表者の責任強化
規制緩和の流れの中で営業所設置義務を廃し、代替として日本における代表者の責任を強化するとの趣旨は理解できるが、外国企業の登記を却って減らす可能性があり、これが国内債権者の保護の観点から望ましい制度となるか疑問のあるところである。国内の債権者保護の観点から、有効な方策を引き続き検討されたい。
東京商工会議所