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提言:再挑戦が可能な社会づくりに向けてⅡ ~企業・事業融資における経営者等による個人保証のあり方~

2004年1月8日
東京商工会議所

 はじめに

東京商工会議所は、一昨年7月、「提言:再挑戦が可能な社会づくりに向けて~中小企業の再生インフラのあり方~」を発表した。この中で、中小企業が早期の事業再生に円滑に取り組むためのインフラとして、中小企業向け私的整理に関するガイドラインの必要性をはじめとして、相談・調整機能等を有する公的機関の拡充、破産法における自由財産および民事執行法における差押禁止財産の範囲拡大など、経営者に対するセーフティネットのあり方について提案したところである。
爾来、政府による産業再生機構の創設や各地域における中小企業再生支援協議会の設置などが推進されているほか、所要の法改正も近く予定されているなど、再生のためのインフラは徐々にではあるが整備されつつある。しかしながら、これらの取り組みは総じて緒に就いたばかりであり、引き続き関係各層の努力が求められていることは言うまでもない。とりわけ中小企業向け融資における個人保証については、早期の事業再生着手への妨げとなっているとの指摘も根強いので、そのあり方について以下のとおり提言する。

提言

Ⅰ.個人保証問題に関する基本的考え方

1.中小企業向け融資の今後の方向性
わが国では、中小企業経営者が融資を受ける際、自宅その他の個人資産の担保提供とともに代表者等経営者本人あるいは第三者が連帯保証人となることが一般的となっている。
こうした慣行により、企業が法的倒産手続の申立てをした際、代表者等経営者が担保権の実行や保証履行の請求によって生活基盤を失い破産に追い込まれたり、保証履行を回避するあまり法的整理の申立てが遅れ、再建の機会を失う結果となっている。
そのため、中小企業向け融資の今後の方向性としては、代表者等の経営資質、事業の成長性、企業が保有する技術力や販売力などの定性的な要因も含め審査基準の明確化を進めることによって過度な保証や担保への依存を軽減することが望まれる。
近時、財務制限条項を活用した融資やプロジェクトファイナンスなど事業のキャッシュフローに着目した融資や官民協調によるシンジケートローンなどへの取り組みが普及しつつあり、こうした動きが従来の貸し手・借り手間における交渉力格差の是正や新たなモニタリング体制の構築に寄与することも期待される。
一方で資本と経営が明確に分離されていない中小企業では年度決算が納税額算出を優先した計算書類となっているため、金融機関が求める水準の財務分析結果を示し得る態勢に乏しく審査自体を困難にしているとの指摘も根強い。
今後は、中小企業も自らが金融機関に対して適確な経営情報を開示すべく、決算書などの財務諸表の整備に努めていくことが不可欠であるばかりでなく、政府においても、取締役会や監査役制度等の実効性確保に資する所要の法改正や財務責任者育成などに係る公的支援策の拡充を急ぐべきである。
加えて、計算書類の質向上については、すでに中小企業庁をはじめ日本税理士会連合会、日本公認会計士協会により、中小企業の経営実態に即した簡便かつ有意な財務書類作成のガイドラインも示されていることから、商工会議所がこうした取り組みを普及・定着させる役割を果たしていくべきと考える。

<参考>
□中小企業の会計基準のあり方に関する取り組み
○経済産業省中小企業庁:中小企業の会計に関する研究会「中小企業の会計に関する研究会報告書」(平成14年6月)
○経済産業省中小企業庁:中小企業政策審議会企業制度部会「中小企業の会計の質の向上に向けた具体的取り組みに関する報告書」(平成15年11月)
○日本税理士会連合会「中小会社会計基準」(平成14年12月)
○日本公認会計士協会「中小会社の会計のあり方に関する研究会」(平成15年6月)

2.包括根保証の早期撤廃と合理的な保証制度の確立を
従来の中小企業向け融資では、代表者等経営者本人の個人保証や第三者による保証人の徴求が貸出(借入)条件として常態化している一方、企業倒産が高止まりする中、中小企業経営者から個人保証について見直しを求める意見が多数寄せられているなど、貸し手・借り手間の認識に差異が生じているケースも見られる。
このため、法制度の見直しに加えて、取引慣行の是正に向けた努力を積み重ねていくことが求められるが、とりわけ極度額および期限について定めのない包括根保証については撤廃に向けて早期に法制化を図るほか、合理的かつ客観的な基準に基づく保証制度の確立を急ぐべきである。
特に、政府系金融機関および信用保証協会の積極的な対応が望まれるところであり、代表者等経営者の保証を必要としない新たな融資制度の創設が一部の機関で検討されている中、第三者による保証人の徴求について率先して廃止を検討し、民間金融機関への波及を企図すべきである。
さらに、協同組合や第三セクター向け融資等において、広く地域経済社会の利益増進に資するような事業についても、機関代表者等に対する共同連帯保証人の機械的・画一的な徴求が散見されることは望ましくなく、関係各層において所要の改善策の検討を進められたい。
なお、やむを得ず保証を徴求する場合においても、物上保証(担保)を原則とし、保証人の徴求は物上保証による信用力が不足する場合に限ってなされるべきである。
<参考>
□個人保証の実態と経営者の意識
○経済産業省中小企業庁「企業資金調達環境実態調査」(平成13年12月)(従業員規模別メインバンクへの保証提供)
従業員20人以下では85.1%、21人~100人では82.0%、101人~300人では62.8%、301人以上では33.9%。
(従業員規模別メインバンクへの保証提供種類)
代表者個人の提供は、従業員20人以下では75.3%、21人~100人では74.3%、101人~300人では55.4%、301人以上では24.7%。代表者以外の役員の提供は、従業員20人以下では32.9%、21人~100人では27.0%、101人~300人では10.5%、301人以上では2.4%。代表者親族の提供は、従業員20人以下では20.7%、21人~100人では13.6%、101人~300人では4.0%、301人以上では0.8%。会社と関係のない第三者、資本関係のある会社、資本関係のない会社の提供(合計)は、従業員20人以下では7.8%、21人~100人では6.4%、101人~300人では6.0%、301人以上では7.0%。
○東京商工会議所「経営課題に関するアンケート調査」(平成14年3月、平成15年3月)
(企業・事業融資における経営者等の連帯保証について)
経営者本人の連帯保証はやむを得ないが、第三者の連帯保証は排除すべきは、14/46.3%、15/46.1%、経営者本人の連帯保証も第三者の連帯保証も排除すべきは、14/35.0%、15/36.0%、経営者本人の連帯保証も第三者の連帯保証も現状認めざるを得ないは、14/14.7%、15/13.2%。



Ⅱ.個人保証への依存の軽減に向けて

1.個人保証契約締結時の留意点
(1)保証人の対象
保証人の対象は、原則として主債務者である企業等の代表者に限定すべきである。
また、第三者による保証人の徴求については、借り手企業等の担保余力が著しく不足するなどの特段の事情がある場合に限り有効とするとともに、今後は主債務者と連帯しない保証の活用も再認識されるべきである。
(2)保証の対象
保証対象は、金額、期間、範囲を限定すべきである。
保証履行金額については、主たる債務者が倒産法による処理を申し立て、または適正な私的整理を行った場合(以下「倒産手続」という)の代表者等経営者たる保証人の保証債務の返済は、例えば、主債務者の倒産手続に伴う保証履行請求時に所有する個人資産に加えて、事後に得られる可処分所得の1/4を5年間にわたって弁済することを限度に請求を行わないなどの慣行を確立すべきである。
また、昨年9月の法制審議会答申「破産法等見直しに関する要綱」において、自由財産の範囲拡大とともに、裁判による自由財産の範囲拡張の方向性が示されたことは、かねてからの東京商工会議所の要望趣旨に沿っており、早期の法改正を期待するものである。とりわけ裁判所による自由財産の範囲の拡張については、企業経営者の破産に際しての収入を得る見込みについて十分斟酌されるなど、その再起が円滑に進むよう留意すべきことが強く望まれる。
保証期間については、融資契約で定められた返済期間を限度とし、債務の返済期間が延長された場合はこれに従うこととなるが、第三者による保証人については、返済期間の延長に際し、保証意思の確認を改めて行うべきである。
なお、個人保証問題の是正にも資するべく、破綻懸念先以下の債務者について、金融機関の自己査定を以って無税償却の対象と認定する制度の導入、貸出金の直接償却に係る保証人の支払能力の認定について、より弾力的な運用が図られるよう法人税基本通達を改訂する等、企業・事業再生に資する関連税制措置を早急に講じるべきである。
(3)金融機関の遵守事項
保証契約締結時に保証内容やそのリスク等について、関係法令の趣旨および信義則上求められる説明責任を十分に履行するとともに、説明態勢の整備や相談・苦情処理態勢の強化に尽力すべきである。特に保証契約の必要性については、予め策定された客観的かつ合理的な基準を明示のうえ、説明が行われることが望ましい。
特に、第三者による保証人について契約締結を行う場合には、より厳格な保証意思確認が求められる。また、第三者による保証人に対しては、主たる債務者が債務の返済状況等を適宜報告すべきであるが、例えば債務企業の返済状況等については年1回程度の定期報告を原則化し、その他貸出条件の変更があった場合は速やかに報告することを契約によって義務化する等の慣行・ルールを確立すべきである。

<参考>
□説明義務ルールについて
○私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律「優越的地位の濫用」
○消費者契約法
○預金等受入金融機関の顧客への説明態勢及び相談苦情処理機能に関する事務ガイドライン(平成15年7月改正)

2.個人保証履行請求時の留意点
(1)債務不履行時の取扱い
債務不履行時においては、第三者による保証人が代表者等経営者の保証人よりも過度な履行請求がないよう配慮すべきである。
また、主たる債務者に対して債権放棄が行われた場合は、当該放棄額に係る保証人の保証債務についても免除されることが望まれる。
(2)小規模個人再生手続の適用範囲の拡大
個人についても民事再生法の利用が定着しつつあることは、再起を促すものとして望ましい方向と考える。
この際、多重債務を抱える個人が破産せずに再生を図ることを可能とする小規模個人再生手続の適用範囲を拡大し、主たる債務者たる企業が倒産し多額の保証債務を負った場合においても、保証人たる個人が破産ではない再生の道をより簡易に選択出来得る法的インフラを整備すべきである。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所