政策提言・要望

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「金融検査マニュアル別冊[中小企業融資編]等の 改訂案」に対する意見

2004年1月21日
東京商工会議所

企業の資金繰りや金融機関の貸出姿勢に関する判断指数には若干の改善傾向が窺われるものの、民間金融機関の貸出金残高は減少を続けているなど、中小企業金融は依然信用収縮状況にある。
東京商工会議所は、中小企業の資金調達環境を改善するためには、早期の金融システムの安定化・再生はもちろんのこと、金融セーフティネットの万全な構築とともに、金融検査マニュアルとこれを基にした金融検査のあり方を大企業向けとは明確に区分するなど、中小企業の経営実態に即した内容に改めることが不可欠であると訴えてきた。
今般の改訂案では、債務者の与信額等により検査対象としない範囲を定めた所謂足切り基準が引き上げられたほか、貸出貸出条件緩和債権についても事例等が拡充されているなど、これまでの東京商工会議所の要望趣旨に沿うものとなっている。
また、金融機関による債務者(中小企業)の経営実態の把握や企業・事業再生への取り組みが重視されるとともに、債務者区分の判断等についても中小企業の経営・財務面等における特性や特有の融資実態を踏まえることが明記されている。
内容については概ね評価するところであるが、より実効性を確保するため検査現場における趣旨の徹底に努めるほか、未だ不十分と思われる以下の点については、修正等を検討されたい。

提言


Ⅰ.債務者との意思疎通について

本別冊の改訂において、金融機関自らが日頃の債務者との間の密度の高いコミュニケーションを通じて、債務者の経営実態の適切な把握など的確な債務者管理に努めていることを前提として、債務者区分の判断において、金融機関の評価を尊重することが明記されたことは望ましい方向である。この際、金融機関による説明責任の履行については、事務ガイドラインの遵守に留まらず、債務者および保証人に対するより精度の高い説明態勢の整備を求めた上で、金融検査において検証すべきである。


Ⅱ.債務者区分の判断基準等について

1.キャッシュフローに関する定義の明確化について
債務者区分の判断にあたって、バランスシートのみでなく、本業のキャッシュフローやその見通しをより重視すべきと明示されたことは望ましい方向である。
しかしながら、財務書類の整備が不十分であるとの指摘も多い中小企業にあっては、その算出が簡易になされることが前提条件である。
したがって、まずは、キャッシュフローを明確に定義づける(営業キャッシュフロー)ほか、中小企業にとって利用が平易な計算書の様式についても明示するとともに、その普及定着に努めるべきである。


2.経営者の資質の判断について
債務者区分の判断にあたって、過去の約定返済履歴等の取引実績、経営者の経営改善に対する取り組み姿勢、ISO等の資格取得状況、人材育成への取り組み姿勢、後継者の存在等、経営者の資質に関する評価の重視が明示されている。
経営者の資質を重視することは望ましい方向と言えるものの、例示の中にはいささか具体性に欠けるものも見受けられることから、より具体的な記述とすべきである。
また、例示に加え、財務諸表など計算書類の質向上や経営情報の開示、社外人材の登用など取締役会や監査役制度の実効性確保によるガバナンス強化等に関する積極的な取り組みについても重視すべきである。

3.法律等に基づき承認された計画や専門家による評価の活用について
債務者区分の判断にあたって、法律等に基づき技術力や販売力を勘案して承認された計画や企業の技術力、販売力、経営者の資質等に関する中小企業診断士等の評価の活用が明示されたことは望ましい方向である。
この際、法律等に基づき承認された計画については、地方公共団体や関連公共団体により承認された計画等を加えるほか、技術力等の評価に関しては、公設試験研究機関や大学などの第三者機関による評価についても例示すべきである。

4.事業基盤資産に係る借入金の取扱い
総じて資産に乏しい中小企業においては、事業継続上は必要不可欠でありながらも短期的にはキャッシュフローに貢献しない営業保証金などの事業基盤資産に要する資金についても、借入金で調達しているのが通常である。
こうした借入金が多額にわたる場合、債務者はキャッシュフロー自体は確保できても、金融機関による資産査定においては過剰負債状況とみなされ、債務者区分を要注意先あるいは要管理先に判断されかねない懸念がある。
このため、中小企業の経営における事業基盤資産については、期限一時弁済契約等の場合を含め、中小企業の財務面の特性を考慮して、債務者区分が判断されるべきである。
5.新たな融資システム普及に係る引当てについて
今後、法改正による借主範囲の拡大が期待されるコミットメントライン(特定融資枠)契約のほか、すでに取り組みが見られるシンジケートローンなど、財務制限条項の設定によるコベナンツ付き融資が広がりつつある。こうした融資システムについては、金融機関による積極的な取り組みが求められている企業・事業再生支援の場合と同様、当該債務者の実績データが豊富に存在し、信用リスクは低減されているものと思われることから、それ以外の債務者と区別してグルーピングすることにより、引当率に格差を設けることを可能とすべきである。

6.「基準金利」の明確化
貸出条件緩和債権の検証にあたって、債務者に有利となる取決めか否かについては、「基準金利」(当該債務者と同等な信用リスクを有している債務者に対して通常適用される新規貸出金利をいう。)に着眼するとしているが、「基準金利」そのものの定義をより明確化すべきである。

7.既往債権の資本的劣後ローンへの転換に係る取扱い
実態としてエクイティと判断できる部分については自己資本とみなすことが本来は望ましいものの、本別冊の改訂において、経営改善計画の一環として金融機関により資本的劣後ローン(DDS)への転換が行われた場合には、債務者区分の判断においてDDSを自己資本とみなすこととしたことは、資本的性格の資金を借入金で調達していることが多い中小企業にあっては一歩前進と考える。
ついては、DDSが今後広く活用されていくために以下の点について見直されたい。
(1)DDSが「合理的かつ実現可能性が高い経営改善計画と一体で行われること」から、DDSが貸出条件緩和債権となり、当該債務者が要管理先となった場合の当該債務者への貸出全体に対する引当が過大とならないよう、引当基準を明確にすべきである。
(2)DDSに対する引当についても、概ね1年以上のモニタリングを経た後、引当率が100%から減少していく旨を明示すべきである。

最後に、金融検査が、金融機関の業務の健全性と適切性の確保を目的とし、金融情勢を踏まえ、リスク管理態勢の確認に重点がおかれていることは十分理解できるものの、金融機関の存在意義は、広く経済やその根幹を担う中小企業の育成・発展に寄与することにほかならない。
中小・地域金融機関にとりリレーションシップバンキングの機能強化が課題となる中、金融機関には、債務者(中小企業)との間のより密度の高いコミュニケーションの構築が求められている。今後は、債務者(中小企業)に対する査定結果の開示などについても一層の積極性を期待するところである。
加えて、金融検査の実効性を確保するためには、金融検査マニュアルの精度向上とともに、検査官に対する研修・指導態勢の一層の整備が図られるべきである。

平成15年度第18号
平成16年2月12日
第544回常議員会追認

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所