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動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱 中間試案に対する意見

2004年4月8日
東京商工会議所

 

提言

Ⅰ 総論
 中小企業においては、資金調達手段の確保は経営上の最大かつ喫緊の課題である。長期デフレによる資産価値下落の状況下、金融機関にあっては不動産担保並びに第三者保証等への過度の依存から脱却した新しいビジネスモデルを確立し、キャッシュフローのモニタリングを行うとともに、企業にあっては経営状態の適切な開示などにより、金融市場全体として健全な融資慣行を確立することが現下の急務となっている。
 その趣旨から、在庫等の動産を担保として活用し融資を受けることを可能にすることは、資金調達方法の多様化を実現し、中小企業の経営安定化に寄与するものと考える。
 しかし、集合動産、個別動産を問わず、現在それらを担保とする融資モデルは、わが国において機能していない。これは、在庫等の動産担保は、第三者対抗力の有無を外形上識別できず、したがって担保としての予見可能性、安定性に欠けている現行の譲渡担保制度に要因があると思われ、この見直しが、動産担保を定着させるためには不可欠である。
 加えて、債務者が特定されていない将来の債権を担保目的で譲渡しようとしても、現行では、そのような債権の譲渡として公示することができないとの指摘があり、これを可能とする制度を早急に整備することが求められている。
 以上の観点から、このたび法制審議会動産・債権担保法制部会がとりまとめた「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱中間試案」(以下、本試案と言う)に対し、まずもって賛意を表するものである。すなわち、本試案は動産担保及び債権担保の実効性をより一層高め、中小企業の資金調達の多様化、具体化に資するものであり、その実現を強く要望するとともに、以下、本試案に対する具体的な意見を申し述べるものである。

 
Ⅱ 各論
1 本試案「第1 動産譲渡に係る登記制度の創設」関係
① 動産譲渡に係る登記制度の創設について
 登記制度の対象となる譲渡の譲渡人については、法人に限定することに賛成である。すなわち、個人事業主は店舗兼住宅等を所有することが多々あり、個人用の動産、家財等々と事業用の在庫、機械等が同一の場所に置かれている場合があり、その資金調達にあたって、それを一括して譲渡担保に供するよう債権者から強要されるおそれがあるためである。
 登記の対象となる動産は個別動産、集合動産であるかを問わないことに賛成である。すなわち、在庫、商製品のみならず、大型の機械・設備、もしくは高価品等の購入にあたり、当該物件のみを担保として資金調達することも十分に想定されるためである。
 
② 登記の効力等について
 A1案に賛成する。
 ただし、担保目的譲渡のみならず、資産の流動化・証券化等、資金調達目的の譲渡を加えるべきとの意見があった。

 譲渡担保の場合の対抗要件は「引渡」であるが(民法178条)、引渡しは、占有改定で足りるとされている。
 占有改定によって対抗要件が具備されている場合には、既存の譲渡担保が存在しても、外形的にはこれが判然としない。そのため、債務者のもとにある動産に譲渡担保を設定しようとする際、予定していなかった既存の担保権が存在する場合があるが、占有改定による即時取得が認められていないため、後発の譲渡担保は、既存の譲渡担保に劣後することになる。
 こうした点への懸念から、動産に担保権を設定しての融資は金融機関から敬遠されがちである。なお、習慣上、明認方法を利用することがあるが、倉庫に貼り紙をするといった明認方法は、債務者側からの抵抗感も強いため利用しづらく、また剥離等もあるので、占有改定による公示性の低さを補うための公示手段として、はなはだ不完全である。このような動産譲渡担保の公示手段の不十分性が、動産に対する譲渡担保の安全性を低くしており、動産の担保としての活用の障害となっている。
 本試案は、公示手段として新たに創設される動産譲渡登記の効力等について、A案とB案を併記している。A案、B案とも、動産譲渡は登記をもって第三者に対抗することができ、占有改定という対抗要件具備方法を排除せず、登記という新たな対抗要件具備方法を認めるものである。一方、これらの案は、担保目的の動産譲渡について登記を具備すれば、当該登記より先に占有改定によって対抗要件を具備した担保目的の動産譲渡に対抗することができるものとする規定を設けるか(A案)、設けないか(B案)という点で異なる。また、A案、B案は、それぞれ1案と2案とを併記しており、登記対象譲渡および登記により対抗力が付与される譲渡について、1案は担保目的に限定し、2案は真正譲渡を含む動産譲渡一般とするものである。
 これらを比較検討するに、登記制度を創設することは実務上優れて有用性が認められ、これは対抗要件として占有改定と同等もしくは劣位に置かれるものではなく、むしろ優先させることにより、予見可能性、取引の安定性等がより一層確保できるものと考えられる。よって、B案よりもA案が適切である。
 更に、登記の対象となる動産譲渡及び登記により対抗力が付与される動産譲渡に、真正譲渡を含むとするA2案、B2案については、制度の利用者に誤解を与え混乱を招くおそれがあること、譲渡担保取引以外の場面においても登記を具備・調査するという取引慣行が形成され、動産取引の迅速性が阻害されるおそれが懸念されること等が指摘されており、当会議所においても同様の懸念を共有する。
 従って、このような懸念を払拭する手当てが講じられないかぎりは、取引の実務においては、冒頭に述べた予見可能性、取引の安定性(わかりやすさ)の見地から、あくまで「担保目的の動産譲渡」として登記の対象を明確にすることが望まれるところである。
 なお、占有代理人の下にある動産の譲渡については、中小企業にあっては、動産が倉庫営業者に寄託されている場合や第三者に賃貸されている場合が往々にしてあるので、登記をもって対抗要件を具備することが妥当である。
 
③ 登記情報の開示-登記情報の開示方法について
 動産譲渡の登記情報の開示に関しては、法人の所有する資産の内容は、本来、営業戦略、企業秘密にもかかわるものであり、全部の登記情報について利害関係のある者に対してのみ開示するべきであり、何人に対しても特段の制限なく開示することは心理的要因も含めて懸念が存する。
 
④ 登記情報の開示-法人登記簿への記載について
 担保取引の予見可能性を高めるという冒頭の趣旨等からすると、公示自体、明確な導線が必要であり、そのために登記内容の具体的な情報を開示するに至るまでに担保権が存在することを広く知らしめる契機となる制度上の工夫(シグナルと言うべきもの)を講ずることが望ましい。それがあれば、爾後の当事者間交渉において、担保内容の詳細を債務者から提供されれば足りる。従って、法人登記簿への登記情報の転載は必要最小限(譲受人の表示等)のものである限り止むを得ない。
 ただし、法人登記簿への記載がいわれのない風評被害を生ずることのないよう、関係当局・団体におかれては本公示制度の意義を社会的に周知徹底されるよう強く要請する。
 
⑤ その他
 登記の技術的事項や登記申請に関わる手数料等の問題は、中小企業にとって大きな関心事であり、今後、登記実務が円滑に運用されるべく的確な制度整備を望む。
 なお、登記面の運用ならびに執行面について、以下の点を申し添える。
  第一に、実務上問題となるのは担保物件の特定方法であり、如何なる登記方法とするか、更に実務者の意見をよく聴取しつつ検討を進めていただききたい。
  第二に、将来の課題として、動産担保の執行方法についても、より使い勝手が良い執行手段が講ぜられるよう法整備をお願いしたい。
 
2 本試案「第2 債権譲渡に係る登記制度の見直し」関係
① 債務者不特定の将来債権譲渡の公示について
 中小企業とりわけ設立間もないベンチャー企業においては、技術力、将来性を有していながら、資金調達の道がなく、資金不足となり、事業継続が困難となることがある。将来の売買契約成立時の代金債権等、債務者が特定していない将来債権の譲渡についても登記制度の対象に含まれることにより担保化が図られることが望ましいので賛成である。
 なお、事業会社が商品を納入した場合、現在はその商品を第三債務者に売却した際、債権を先取特権の物上代位として差押し回収することが可能であるが、債務者不特定の将来債権の公示制度が実現した場合、こうした債権回収の途が閉ざされることのないよう、その点をも対象として検討を進められたい。
 
② 法人登記簿への記載について
 上記「1-④ 登記情報の開示-法人登記簿への記載について」に同じ。
 
③ その他
 上記「1-⑤ その他」に同じ。
 
Ⅲ 結語-今後の課題
①過剰な担保要求の防止
 本公示制度の整備は、本来、適切な使途の資金を調達するために活用されるべきであるが、一方、債権者と債務者との力関係において、既往借入金の一方的な保全強化のみに運用されるおそれも無いとは言えない。そのような濫用を防止するため、関係当局・団体、および当事者会社の所要の措置が望まれる。例えば、平成15年7月に金融庁が発出された「与信取引に関する説明態勢の整備に関する事務ガイドライン」にあっては、担保契約等与信取引の諸要素について債務者から説明を求められれば、債務者の知識、経験および財産の状況等を踏まえた客観的、合理的理由を説明する態勢が整備されることが求められている。中小企業にとって誠に有益な内容であり、預金取扱い金融機関のみならず債権者一般においてもその考え方を尊重し、担保取得は専ら新規融資のために行うべく努められたい。
 すなわち、合理的な説明のないままに担保提供を過度に求めること、あるいは債務者に十分な信用が備わっているのに、更に動産担保、債権担保を求めるのは厳に戒められるべきである。
 
②動産担保融資スキームの確立
 動産担保とりわけ集合動産(在庫)担保融資においては、①担保評価・管理・換価を通じて、不動産担保融資に比べて手間のかかる融資方法であるため、きめ細かな担保管理等を得意としない金融機関にとっては消極的対応になりがちであること、②中古品市場が必ずしも十分に整備されていないことが、動産の評価額の低廉化につながっていること、等から、これまでも金融の道が講じられることが甚だ遅れていた。従って、ひとり公示制度の整備のみならず、中古品処分市場の創設やそのプレーヤーの養成、担保評価手法の確立と定着化等が必要である。この点は、民間の自発的な活動が基本となることは勿論であるが、行政当局および担保権者の立場からも積極的な支援が望まれる。また、このような動産担保融資スキームの定着化と発展のための「呼び水」として、現在、着実にその利用が増加している「売掛債権担保融資保証制度」と同旨の信用保証制度の創設を強く希望する。
 
③最後に
 冒頭に述べたように、健全な融資慣行は、債権者において信用リスクを的確に管理し、融資後にもキャッシュフローのモニタリングを行うこと等により、経営状態を的確に把握していくことによって確立されていくと考えられる。その意味で、在庫等の動産や売掛金を担保として取得することは、より綿密に事業状況やキャッシュフローを重視し、不動産担保等に偏らない融資のあり方を追求するためにも極めて有効であり、今後の立法化に向けて一層精緻な議論が展開されるよう望んでやまない。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所