2025年 小林会頭 年頭所感 ―新たな成長への飛躍の年に―
東京商工会議所
明けましておめでとうございます。
2025年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。
さて、昨年は内外ともに不透明かつ混迷の度合いが深まった1年でした。世界ではロシアによるウクライナ侵略の長期化に加え、中東情勢の悪化など、地政学的リスクが拡大しました。また、経済面では米国経済が堅調さを維持する一方で、中国経済の停滞が懸念される年になりました。加えて、昨年は主要国で選挙が相次ぎ、米国では4年ぶりにトランプ氏が次期大統領に就任する結果となり、保護主義や自国第一主義の台頭に対する懸念が再び高まっています。
国内に目を転じますと、1月の能登半島地震や9月の奥能登豪雨といった痛ましい災害に見舞われた1年でありました。また、秋の衆院選では与党が30年ぶりに過半数を大きく下回り、少数与党へ転じるなど政治的変動が生じる一方で、経済では、歴史的円安や物価高が続く中、設備投資は好調で日経平均株価も史上初の4万円台を記録しました。日本銀行はマイナス金利の解除に踏み切るなど、金融政策にも大きな転換点が訪れました。特に昨年は「賃上げ」をテーマとした1年でもあり、中小企業の賃上げ率も3%台半ばに達するなど、物価と賃金の好循環に向けた大きな一歩を踏み出した1年であったと総括できます。企業の自助努力とともに、官民を挙げた価格転嫁の取り組みが効果を示した結果でありますが、賃上げを行った中小企業の約6割が収益改善を伴わない中で、人手確保のための防衛的賃上げを迫られたことも事実です。賃上げのモメンタムをいかに持続可能な形に転換するかが、停滞から成長のステージに向けた今年の大きな課題となります。
成長の両輪は中小企業の強化と地方創生
日本は経済立国であり、経済成長なくして将来はありません。デフレ脱却を確実にし、成長型経済への転換を進めるためには、GDPの6割を占める個人消費の拡大が不可欠です。その実現は、全企業数の99.7%、就業人口の約7割、地方部では約9割を担う中小企業・小規模事業者の生産性向上と持続的な賃上げにかかっているといっても過言ではありません。成長の両輪の一つは中小企業であり、そのデジタル化、省力化投資を含めた設備投資、技術革新、知的財産の活用・保護といった生産性向上への不断の努力と自己変革によって付加価値を高め、賃上げ原資を生み出す必要があります。東京商工会議所は本年もこうした前向きな挑戦を続ける中小企業を全力で支援してまいります。また、労務費を含む価格転嫁対策のさらなる推進やBtoCでは企業側の「値を上げる勇気」も必要です。消費者にも「良いサービス、良いモノには値が付く」という認識を持っていただき、国民全体のデフレマインドを払拭することも今年の大きなテーマでありますので、消費者意識の改革とともに経済環境の改善を目指していきたいと思います。
また、成長の両輪のもう一つは「地方創生」です。地方の発展なくして日本の再生はありません。地域への人材・投資の呼び込みや「稼ぐ産業」の育成、インフラ整備などを通じて地域の経済循環を強化し、地域の強みと潜在力、いわゆる「地域力」を引き上げるべく全力を傾ける年にしなくてはなりません。地域の経済インフラを担う中小企業および小規模事業者の強化は、地方創生の取り組みとも表裏一体であり、政府、地方自治体、民間が三位一体となって取り組む必要があります。
特に首都・東京については、国際競争力の強化と国内外の人・モノ・カネ・情報を全国と結びつける「ゲートウェイ」としての役割が求められます。本年4月には、大阪・関西万博が2005年に開催された愛・地球博(愛知万博)に続き、20年ぶりに日本で開催されます。東京からもこの一大イベントを盛り上げ、わが国全体の成長の契機としてまいりましょう。
渋沢翁の精神を胸に新たな成長ステージへ
昨年7月には、東商初代会頭・渋沢栄一翁が肖像となった新1万円札が発行されました。明治の混迷期に日本経済の礎を築いた渋沢翁を支えたのは、「民の繁栄が国の繁栄につながる」という信念でした。この精神を胸に、われわれ民間こそが繁栄の主役となり、新たな成長ステージへの道を切り拓いていきたいと考えています。
東京商工会議所は本年も、本部と23支部が一丸となり、会員企業の繁栄、首都・東京の発展、そして日本全体の経済社会の成長に向けて挑戦を続けてまいります。会員企業の皆さまにおかれましては、引き続きのご支援とご協力を心よりお願い申し上げ、新年のご挨拶とさせていただきます。
小林 健