※企業概要は受賞当時(2022年)の内容です。
●高齢男性のみの「銀ロウ付け溶接加工」の町工場に新卒女性の採用・定着を実現。女性従業員が新事業の企画を行い、会社が劇的に活性化したこと。
業績が悪化している会社の改革のため、新卒の女性を採用する前代未聞の取り組み。
当社は創業65年の町工場で、私(現常務)の父親が現在3代目社長を務めており、2000年代前半まで好調な業績を維持してきました。しかし、私が入社した2014年頃には、過去約10年連続赤字で製品不良と納期遅延が頻繁に発生し、昇給ストップとボーナス無しで退職者が相次ぎ、残った社員は高齢の男性ばかり。社内は暗くよどんだ雰囲気で希望の見えない職場になっていました。
私は会社の改革を目指し駆け回り、新規開拓に努め、一旦は売上を1~2割伸ばすことができたのですが、現場は「やったことのない仕事はやりたくない」と及び腰で、経営陣からも大反対される始末。結局、個人プレーでは会社の改革は長続きしないと気付かされる苦い経験を味わいました。
会社の業績がギリギリの苦境の中、私が気付いたのは「この業界には女性が極めて少ない」という現実です。“当社で行っている銀ロウ付け等の仕事は、細かい作業で、本来女性が得意とするものではないだろうか”“女性の管理能力の高さにより、不良率や納期遅延の改善が図れるのではないか”“経験者を採用するより新卒採用で若手人材を育成した方が会社に愛着を持って長く勤務してくれるのではないか”そう考え、新卒採用の開始を決意。まずは、休日出勤や残業が当たり前だった勤務体制の改革や社内の美化なども行い、環境を整備。そして、学校訪問を重ねて当社の存在をアピールし、インターンシップも始めました。自社ホームページにブログを立ち上げて私の想いも発信しています。
2015年、新卒の女性を初採用。未経験でも自らロウ付けを習得し、懸命に作業している女性社員の姿を見ていたベテラン職人が、次第に指導にも協力的になりました。さらに、これまでなかった広報部門を新設。女性社員を配属して、会社報「銀ロウたより」の企画・発行等による広報活動を推進しました。インターンシップや入社前の面談等で社内の様子や私の想いを共有しているので、入社後のギャップがなく離職もありません。また、女性社員のアイデアを取り入れて、アクセサリー等の修理事業や銀ロウ付け体験教室、小学生向け金属加工体験教室、雑貨販売等を開始し、従来のBtoBだけでなくBtoCも行うようになり、業績が向上してきました。以前は数千円だった売上単価が数万円に上がり、20社程度だった取引先は今や400社を超えるまでになっています。
なかでも一番感動したのは、若い女性社員達の頑張っている姿がベテラン男性職人たちの心を動かし、社内のコミュニケーションが活発になり明るくなったこと。何歳になっても人は変われる、ということです。男性中心の業界における女性活躍という当社の挑戦は、およそ10年かかりましたが、令和3年度「東京都女性活躍推進大賞」を受賞することができました。今後も、ものづくり女子が活躍し続け、社員全員の笑顔と元気があふれる企業でありたいと考えています。