※企業概要は受賞当時(2022年)の内容です。
●消費者嗜好の変化により鮮魚売上が大きく減少する中、刺身・寿司等の加工施設を新設。加工品を他の小売店にも販売し業績を回復したこと。
“魚屋さん”の情報リテラシーを高め、業界初の水産加工体制を確立。
当社は1949年に荻窪で開業した〝魚屋さん〟で、デパ地下や小売店内に出店しています。私は4代目になりますが、2010年に入社した時は事業承継の気持ちはなく、いずれ大学院に戻る予定でした。しかし、当時の会社の状況は働き方改革や消費者のライフスタイルの変化により収益が悪化しており、社員たちから「このままでは会社が立ち行かなくなる」と直談判され、雇用を守るため当社の改革を決意しました。
まず、経営判断を迅速に行うための改革に着手。紙伝票が溢れて処理に何日もかかっていた現状から、棚卸しを行うための受発注システムを自社で開発。魚は種類によって「匹」「尾」など単位が異なり、成長すると名前が変わるなどの課題を乗り越えて2年で完成し、その結果、原価率は62%から55%に改善。また、全店舗にiPadを導入し、売上管理や仕入管理などをリアルタイムに集計できる体制を構築、営業利益の予測など、経営判断のスピードアップを可能にしました。
次に、“魚屋さん”の構造改革です。従来の店舗は、商品を陳列する店頭スペースよりもはるかに広いバックヤード(魚の加工や保存を行う場所)が必要で、特に都心ではそのスペースの賃借料が高額で、防水などの経費コストもかかります。そこで、バックヤード不要の店舗を実現するため、業界初の生食を扱う刺身加工施設「東信館」を2018年6月に立ち上げました。首都圏に増加したミニスーパー・小型店舗にターゲットを絞り、即食性の高い主力の刺身製品に力を入れました。その結果、接客販売人員の強化が図れるとともに、製造時間の短縮に成功し、残業を減少することができました。こうして、刺身加工施設「東信館」の製品導入後の2020年1月には、店舗の売上117%アップ、粗利益5.7%改善、人件費12.9%減少、営業利益も大幅に改善しました。さらに、同じような課題で困っているのは当社だけではないので、刺身加工施設の製品を他社にも利用してもらえるようにしました。2022年8月現在、刺身加工施設の納品先は84店舗まで増えています。また、当社開発システムの導入も他社に展開しています。このような様々な挑戦の結果、2019年度の9,500万円の赤字から、2022年度は8,000万円の黒字となり、大幅な改善を果たすことができました。
さらに取り組んでいるのが刺身の冷凍化です。今は水産資源が不安定で危機的な状況にあり、漁獲量を確保するために漁師は過酷な労働を強いられている現状がありますが、刺身の冷凍化が実現できれば年間を通じて安定した供給が可能となり、漁業関係者の労働の安定化と若手人材の採用に寄与できると考えています。合わせて、2025年度までに冷凍刺身の物流の開発も実現していく構想です。