※企業概要は受賞当時(2022年)の内容です。
●職人の手作業による医療機器製造を高度な加工が可能な機械化に転換。医療現場の生の声・ニーズを把握し、高付加価値製品を開発したこと。
製造技術を安定させるため機械化へ。DXにより世界的メーカーに成長。
西洋医学で使用されるメスの生産法を曽祖父が編み出し、創業したのが当社です。私が18歳で入社した当時(1983年)は、3代目社長である父親と数人の職人という体制で、年商約3千万円で累積赤字と不良在庫もあり厳しい経営状況でした。全て手作業で設計図もないため、技術継承が難しく品質が安定しない製造技術、鍛造された中間品を当社が加工仕上げし、研磨を外注して納品する労働集約型の製造工程、材料も単価も納期も商社のコントロール下にある商流。全てが時代に合わず、会社の将来が危ぶまれていたのです。
学生時代に勉強していた機械工学の知識を生かし会社の機械化とデジタル化を目指そうと考え、1988年23歳の時、世界的な医療機器供給国のドイツに単身で視察に行きました。そこで、1つの工程において特殊工具と治具で鍛造品を固定し、複数台並べて1人の作業者がセットし、スタートする光景に衝撃を受けました。「これなら省力化できる!」と閃き、帰国後、早速CAD を購入し、既存製品の図面化に着手。ひとつひとつ職人の感覚や勘頼りだった製品の図面を数値化することに成功し、デジタル化への第一歩を踏み出しました。
父親が引退し私が34歳で社長になった時は、累積赤字6百万円、マイナスからのスタートでした。そんな折、先代が手がけていた脳神経外科のマイクロハサミの開発者・上山康博医師から「このはさみは切れるが、2回目から切れなくなる」とクレームが入ります。父親が量産化していた製品ですが、昔ながらのやり方だったので常に納期遅れも起こしており、商社からドイツの別のサプライヤーに変える話が出ていました。私は必死になって耐久性のあるはさみの開発に取り組み、改良を重ね、ついに上山医師のお墨付きの製品が完成。機械化された工程により納期も改善され価格を上げることにも成功。この製品は爆発的に売れ、さらにISO13485(医療機器品質マネジメント)、ISO9001の認証取得により全ての製品のデータ化と製造工程のマニュアル化を実施し、品質の安定および職人の育成期間短縮を実現したのです。
その後、医師の許可を得て手術室に同室するようになり、そこで様々な現場のニーズを把握して、バイパス手術で使用する滑らないピンセットをはじめ新たな製品開発を推進してきました。現在、自社製品の割合は売上の6割を占め、国内だけでなく海外50カ国でも販売し、2021年度の売上高は5億6千万円。従業員の平均年齢は27歳で大学院卒など高学歴の有能な人材が集まり、さらに当社の開発力を高めています。