※企業概要は受賞当時(2021年)の内容です。
●日本初導入の印刷機で高品質な小ロットパッケージ提供と経営理念の再構築と浸透で経営危機を超克
お茶パッケージなど食品包装資材の製造を行っている当社の強みは2つ。1つは自社での一貫生産。小ロットなど商品の状況に応じた企画にも柔軟に対応できます。もう1つは社員が主人公である会社であること。
私は3代目の社長ですが、先代の父の時代にはトップダウンそのものの会社。社長である父が指示を出し社員がそれに向かって動くやり方でした。しかし、私は父の下で働いて、社長の指示頼みでは時代の急激な変化に対応できない会社になってしまうという危惧を覚えておりました。社長に就任してからは、会社の進むべき方向を社員皆と考えていくことがベストだと考え、行動に移しました。
会議では職位に関係なく発言する全員参加型の手法を取り入れるなどして意見を出しやすい環境に整備。特に大事にしているのは「何故それをやりたいのか?」というニーズ。異なる解決策で対立する前に、そもそもその解決策を選んだのはどんなニーズがあるからなのかを出し合うのです。お互いのニーズを共有し、双方のニーズを満たす解決策を模索するのです。
「ニーズは何か?」これは、どんな未来を創りたいのか、という問いです。社員一人ひとりが変化に振り回されるのではなく、変化を自分たちが作るものだという思いで日々の仕事に取り組む。そういう環境を作るるのが私の仕事だと捉えています。
2020年に生じた新型コロナウイルス感染拡大のリスクは、まず公共交通機関の利用だと思いました。全国6カ所の拠点のうち、地方はマイカー通勤が多いので、東京が最もそのリスクが高い。そこで在宅勤務中心にしてオンライン活用を考えました。実は、オンライン会議アプリについて、情報システム部門の社員は以前から台風の時などに使用していましたが、私自身は全く知らない有様。今後のビジネスにオンラインのコミュニケーションをどう活用していくかが課題でした。
当社は包装資材の中でも日本茶向けがメインで、パッケージだけでなく茶器など日本茶周辺の仕事を企画して全国のお茶屋さんに提案し受注しています。毎年5月の新茶シーズンのピークを目がけて1月から内覧会などを行います。新型コロナウイルス感染症拡大の時期は、内覧会から新茶のハイシーズンまでを直撃したため、4月だけで売上は1億円ダウン、5月はさらに悪く、結局前年度比2割ダウンの月が続きました。
さらに2020年夏に実施されるはずだった東京2020大会に向けてインバウンド向けの商品開発を進めてきましたが、延期により製造した商品はすべて不良在庫となり見込んでいた売上は消滅。静岡や鹿児島など産地の茶市場は閉まり、百貨店は休業。さらに、返礼品としてお茶が使われる仏事関係では、お茶の袋だけでなく、しおりや手提げ袋などに当社の既製品を活かしていたのですがそこも売上が激減。業界を絞ることでカタログ掲載の既製品を持つことを強みと思っていましたが、それがいかにぜい弱かを思い知らされたのです。
コロナ禍によりこれまでの脆弱な部分を痛いほどに気づかされたことは、今が変わるチャンスだと神様が言っているのだと思いました。 そこからの行動は早かった。
まず、お茶屋さんは中小零細規模の企業でITに不慣れな方も多かったため、当社が試行錯誤で得たノウハウを提供するオンラインセミナーを開催しました。その後、オンラインによるお茶屋さん向けの内覧会、ワークショップのサポートなどを実施。離島や北海道の方などはこれまでは遠くて足を運べなかった内覧会にオンラインだと気軽に参加できると喜ばれたり、当社がプラットフォームとなりお茶屋さん同士が繋がったりと多くのメリットや気づきを得られました。
社内では、普段工場で機械と向き合っていている社員はオンラインに抵抗感があると思ったので、4月に各自が持っているスマホに会社から毎月千円支払うのでオンラインアプリを入れて使って欲しいと依頼。こうして全社員のオンラインによる社内のコミュニケーション環境を整備し、情報共有を徹底しました。社内での感染対策として、「消毒大魔神」というネーミングの担当者を決め、消毒の方法をオンラインで共有するなどのリーダーとなってもらう工夫も。これもコミュニケーションをベースとした当社らしい取り組みです。
2年程前から自社開発の茶器を手がけようと日本茶ドリッパーの開発に取り組んできました。500回を越える試作のうえに出来上がった茶器を、お茶屋さんにご案内したのですが、「うちの店では売りにくい」という声が圧倒的で行き詰ってしまっていました。コロナ禍で不安の中、途方に暮れましたが、当社は「未来を創造する」と謳っているのにこれで諦めていいのかという社員の声から、クラウドファウンディングに挑戦することになりました。
結果、799人から約700万円が集まりました。クラウドファウンディングでは支援者の属性もわかるのですが、30?40代の男性が多かった。実はそれまで当社では女性をターゲットとしてお茶の様々な企画をしてきたので、この結果は新発見。在宅勤務が増え、家の中でオンとオフに切り替えるとか健康志向とかの理由でお茶に対する男性のニーズも増えたとわかりました。
今まで気づかなかった消費者に向けて一歩踏み出せた好機ともなり、早速、お茶屋さんに対してもクラウドファウンディングのオンライン講座を実施して情報共有を図りました。当社のメインユーザーであるお茶屋さんに新しく発見した消費者ニーズを伝えることで、新しい日本茶の需要が掘り起こせそうとワクワクしています。
総務省の統計資料によると、1世帯当たりコーヒーの出費は11,000円(カフェやコンビニを除く)、ペットボトルのお茶は7,800円、自分で入れて飲むお茶は3,800円。日常生活ではペットボトルが定着し、国民飲料はコーヒーとなっているのが現状です。これによりお茶産業は低迷、高級茶の産地は疲弊し放棄農園になっていきます。お茶は茶摘みできるまでに10年かかる、一度失われたら取り戻すのが大変な貴重な産業なのです。日本の飲み物であるお茶をもっと知って体験して好きになってもらう場を作りたい。それが当社の大きな役割だと認識し、これまでもこれからもお茶の情報発信に努めます。
もうひとつ、当社の大きな目標は2027ビジョンです。2027年は私が経営のバトンを4代目となる後継者に渡すと明言している年。そこに向けての経営計画である2027ビジョン策定にあたり社員から「経営を退く年のビジョンを社長が策定するのは違和感がある」との声が上がりました。今回のコロナ禍でデジタルを活用して20代の社員達が力・自信をつけたことも感じていたので思い切って社内公募を行い、オンラインでプレゼンしてもらいました。その場で全員で投票をして決定したことで、皆が納得して目指すものができたと感じています。このビジョンが今後の当社のベクトルとなります。
毎年、決算後の経営計画発表会の企画設営は入社4年目の社員による担当制ですが、2020年はオールオンラインで6拠点を結んで成功を収めています。この発表会は丸1日かかる長丁場でスマホではきついし社員の半分は工場のオペレーターでパソコンを所有していないのでどうするかと思ったら、担当社員たちは補助金を活用してiPadを全員に支給した。しかもオンラインだと拍手でなくチャットで書き込めるから言葉が伝わる。「オンラインで本気でやったら、リアルでできないこともできるんだ」と学びました。社員が自らやりたいと思うことが大事。たとえ失敗しても、きちんと振り返り皆でフォローし合う。このようにコロナを契機に世代交代を感じつつ、未来に向けて多くの期待ができる喜びも感じています。