※企業概要は受賞当時(2021年)の内容です。
●先代からの多額の負債を抱え、31歳の若さでどん底からの挑戦。逆境においても注力し続けた人財・研究を強みとしたソフト型経営への転換を果たしたこと。
経営再建に追われる中でも、人財と研究開発を重視した「勇気」。
大量の原料仕入れ・設備投資のハード依存から、人や研究開発の強みを活かすソフト企業へ舵切り
私の祖父、父と代々薬学の研究者が経営してきた当社は、医薬品・健康食品の原料の開発・製造を行う企業です。私も大学・大学院で研究生活を送りメーカーに就職しましたが、1年後の2007年に父から「会社が大変だから戻ってほしい」と言われて承諾。ところが想像を超える内情で、売り上げの増加やシェアの拡大を目的に、大量の原料仕入れと過剰な設備投資を行っていたため、約40億円の負債を抱え、債務超過で銀行管理下にありました。社員の不満も募るばかり。
10年、31歳で社長に就任した私は、旧経営の在庫・設備重視のハード企業から、当社の強みを生かせる人財・研究・技術開発のソフト企業への転換を決意。
この志向に反発する父の代からの古参の社員たちは退職していきました。そして経営基盤の立て直しとして、あらゆるコストを削減し、60年に渡り蓄積された原料・製品の在庫22億円分を少しでも換金し、老朽化が進んでいた工場を稼働させて資金を捻出し、支払いサイトの長い会社と取り引きするなど、できることは全て行い、返済を進めました。そんな苦しい中でも、博士クラスの新卒採用を積極的に続け、学校で子どもたちのための実験教室を開催して化学や植物の魅力を伝える社会貢献活動も行い、企業としての誇りや社員の希望を保ち続けました。
15年に父が急逝すると、当時すでに15億円の返済は済んでいたものの、銀行への度重なるリスケ申請により対応は厳しくなる一方。社長である自分の仕事は金融機関対応だと覚悟し、ひたすら粘って交渉を続け、ついにシンジケートローンという形で22億円組成・実行にこぎつけました。長い再建の出口が見えました。
現在は、120人の社員のうち大学院卒以上が32人(うち、博士が12人)、薬剤師が5人おります。このような社員たちが生み出す研究成果は、市場から高い評価を受け、業績もV字回復しています。社内の研究部門では、入社間もない頃から販売するための開発に取り組む視点を常に持つように教育しています。また、工場の生産管理にも経験と理論を兼ね備えた博士クラスの社員が携わり、顧客からの高度なニーズに対応しているのも当社の特徴です。
父が亡くなった時、「いつか博士号を取って世界の常磐を目指す」「創業70周年時には学術シンポジウムを開催して社会に恩返しをする」という2つの約束をしました。会社再建ができなければ不可能な夢でしたが、なんとか約束が果たせて本当に幸せです。29年の創業80周年までには社員の給料を30%アップし、経常利益4億円、売り上げ50億円を目指します。
そして、創業100周年に向けて「世界一の植物化学企業」を目標に掲げ、植物の力を活用して社会に貢献できる企業を目指していきます。