※企業概要は受賞当時(2018年)の内容です。
●経営危機に際して顧客の「これが欲しかった」に応えるため、社内外からの反対を受けながらも事業を見直し、大きく業績を改善したこと。
お客様の“これが欲しかった”に応えられる料理道具専門店へ
当社は「かっぱ橋道具街」に店を構える包丁やおろし金などを取り扱う料理道具専門店です。1912年に創業し、精肉店用品専門店として繁盛していましたが、時代の変化を受け飲食店に必要な用品全般へと事業を拡大。結果、特徴のない品揃えとなり3億7,000万円あった売り上げは1億円程まで激減。当時、母が経営していたのですが「何とかしたい」と思い、2009年に当社へ入社しました。
売上を確保しようと、まずは安売りに手を付けました安く売るため、利益を削り、品質の悪い商品にも手を出しました。しかし、売上は減少の一途。さらには「扱っている商品の品質が悪くなってるよね」と、お客様からの信頼も失っていってしまったのです。
もがき苦しんでいた時、和食店を経営される方が立ち寄られ、舌触りを良くする繊細な刃を持つおろし金を探していると言われました。お客様の期待に応えようと奔走し、何とか見つけ提案すると、高額にもかかわらず「これが欲しかったんだ!」と納得して購入いただけました。この経験をもとに、お客様の“これが欲しかった!”と思える商品をちゃんと取り揃えることができれば満足してもらえると確信。料理道具だけに特化し、お客様のニーズに応えられるお店を作ろうと決心しました。
当時、料理道具は当社の売上の20%ほどでしたが、残りの80%を占めていた商品の取り扱いを全てやめ料理道具のみに絞り在庫を増やすこの案は、コンサルタントや社員から、「既存のお客様との取引をなくすのか」、「成功するはずがない」と反対されました。それでも私は説得し反対を押し切って改革を進めていきました。社員には「売れない売り方はあるが、売れない道具はない。売ることを目的にするではなくお客様を笑顔にすることを大事にしよう」と訴え、1個1個の道具を実際に使ったうえで、販売することを徹底。メーカーが用意した言葉ではなく自分たちが感じた本当の感想を伝えられるようになり、結果、お客様からの信頼も得ることが出来ました。
通常のお店ではフライパンの品ぞろえは10種ほどですが、私たちは約200種を用意。お玉も1cc単位で取り揃え2,000種を超え料理道具だけで8,000点を誇る専門店へと変えていきました。今では、当店なら専門家に話を聞きながら商品を買うことができると名指しで来ていただけるようになりました。
低迷していた売り上げは3億円以上に伸び、粗利率も安売りをしていた頃と比べて大幅に改善。お客様の声を基に仕入れを行うことで懸念された過剰在庫も抑制できました。これからもお客様の“これが欲しかった”に応えられる店を目指していきたいと思います。
当社は大正時代に創業した合羽橋の飲食店用品店「飯田屋」を営んできました。
2010年頃から料理道具専門店に特化し、1個在庫多品種展示の方針で現在約8,500アイテムの商品を扱っています。コロナ以前の当店の売上は月約3千万円、お客様の内訳は海外客15%、国内客85%で、国内客は業務用と家庭用でほぼ半々でした。
コロナの影響は、1月2月と海外客が緩やかに減ってきた事から始まり、3月には得意先である飲食店などの業績悪化も進んだため売上が一気に下がって4割減に。
しかし、その頃は新型コロナウイルスに関する情報もあまりなかったので、お客様や従業員への感染のリスクを第一に考え、緊急事態宣言より早く4月1日?5月末まで休業を決意しました。
そんな中でも従業員には休業中の給料を全額保証。また、こういう時だからこそ売上が落ち込んで困っている飲食店の方に報いたいと、社員全員に1人10万円の特別賞与を3月末に支給し、飲食店で使ってもらいました。
しかし、実店舗を閉めている間、当然売上はゼロなので打開策を考えなければなりません。やれることをやる、やるべきことをやる、それしかありませんでした。
まず、5年前に始めたまま開店休業状態だったオンラインショップの見直しに手をつけました。
それまで当店オリジナルTシャツしかなかった商品を一気に400種類まで増やし、商品を撮影し説明文を書いてどんどん構築していくと、売上はすぐに100万円、200万円と伸びたのです。2019年に出版したムック本『人生が変わる料理道具』の売れ行きが好調でそれを読んだ方が注文してくれることも多く、オンラインショップの活性化に繋がったのだと思います。
お客様から応援のメッセージをたくさんいただいたことも大きな励みになりました。
また、当社の商品をより多くの方に使ってもらうために卸売部門を設置しました。
当店にはお客様の声を集めた「ヒントノート」が何冊もあり、そこからニーズをキャッチして企画製造した、握力が少なくても楽に使える「エバーピーラー」と「エバーおろし」というオリジナル商品があります。百貨店や大型セレクトショップと取引のある仕入先の卸売業の方に当社の商品を提案し、全国の量販店で販売できるようにしました。すると、エバーピーラーは大型セレクトショップのピーラー部門売上で全国1位となる好評ぶりで、現在2021年7月出荷分まで受注でいっぱいの状況です。
こうして販売ルートを増やしたことにより、もしもまたコロナのような不可抗力の事態で実店舗を休業せざるを得なくなったとしても、会社全体の売上の大幅な減少を防ぐ体制ができたと思います。
6月には店舗の営業を再開しました。
お客様が戻ってきてくれるか心配でしたが、全くの杞憂に終わりました。売上は15%減りましたがそれは海外客の分のみ。多くのお客様が、再び飯田屋に足を運んでくださいました。
コロナはアクシデントですが、気づかされたこともあります。
お客様が来てくれることは当たり前のことではない、わざわざ来てくださっているのだと。本当の意味での店の繁盛とは一人ひとりのお客様が繰り返し来てくださること。そのためにはお客様一人ひとりをさらに大事にすることだと改めて学びました。
私たちが企画製造したオリジナル商品で日本の方々を驚かせられたので、来年からは世界の方々を驚かせたいと思います。 まずは2021年にアメリカでエバーピーラーの販売が始まります。完全にメイドインジャパンであることを謳って世界にその素晴らしさをアピールする意向です。 日本の料理道具を作る技術は、世界的に見ても飛び抜けている。世界のほとんどの料理道具は壊れたら買い換えるのを前提としていますが、日本の料理道具は丁寧に手入れや修理をしながら使い続けるように設計されています。 当社のエバーピーラーには替え刃があり、エバーおろしは受け皿やおろす歯の交換ができます。こうした日本の料理道具の魅力をさらに広めていきたいと考えています。
来年の夏、日本を訪れた色々な国の人に、日本の魅力、特にものづくりのすごさを知って欲しいとも願っています。当社の会長でもある私の母は茶道を教えており、常におもてなしの心を大事にしています。その姿勢で多くのお客様を迎えたいと2021年の夏を描くばかりです。