※企業概要は受賞当時(2015年)の内容です。
●鉛筆製造時に排出される約40%の「おが屑」の再利用により、木の粘土、木の絵の具、着火用薪などの製品開発に成功。子供から大人まで楽しめる製品として商品化し、「循環型鉛筆産業システム」を構築したこと。
●平成元年の工場建て替えを機に、子供向けの工場見学をスタート。平成22年には、「東京ペンシルラボ」という子供向けの学習施設を開設し、子供の教育面に貢献していること。
葛飾区の京成電鉄押上線四つ木駅近くに一見して鉛筆関係の会社だろうと分かる建物。その建物が、創業64年の老舗鉛筆メーカーの同社工場である。
「鉛筆は、我が身を削って人のためになり、真ん中に芯の通った人間形成に役立つ立派な職業だから、利益にとらわれないで、鉛筆のある限り、家業として続けるように」という創業者である祖父の教えである「鉛筆の精神」を受け継ぎ日々奮闘する4代目社長に大きな転機が訪れたのは事業承継してから6年目のことであった。
同社の歴史は、屯田兵として北海道開拓時代に木の豊富さに目を付け杉谷木材を開業したことに始まり、鉛筆用の鉛板を製造し内地での販売としては第一号企業であった。
元々、東京を中心に全国200 社以上あった同業者もパソコンの普及などに押され現在では都内で32社にまで減少。そうした中で、鉛筆製造の存在価値を推進する中から「循環型鉛筆産業システムの構築」事業化に成功する。
鉛筆製造時に排出される「おが屑」は過去において銭湯、工場燃料として利用されていたが、利用減少、環境問題などから新たな「おが屑」再利用の研究をされ木の粘土、木の絵の具、着火用薪等の再商品化の道筋を付ける。
また平成26 年に工場見学と鉛筆学習施設を併設する「東京ペンシルラボ」をオープンし、子供から大人まで楽しみ学べる教育面、観光面で業界の新しい存在価値確立に貢献。昨年は、年間1万人を超える見学者を集め鉛筆製造の木工工程、「おが屑」の再商品化工程を伝えている。
さらに循環型商品以外でも子供主体の鉛筆ユーザーを大人へ拡げるべく「大人の鉛筆」を市場投入してヒットさせるほか、大人になってからでも正しい筆記具の持ち方を練習したい人や、筆記具の正しい持ち方を子供に教えたい人に向けた親子で学ぶことのできる「大人のもちかた先生。」など独自商品を開発している。
代表の夢は、「おが屑」を原料にした火力発電であり、平和で住み良い地球環境を次世代に繋いでいくという更なる挑戦に終わりはない。
今回の勇気ある経営大賞に応募したのは、先祖・先代から受け継いだ開拓精神を基に、現在の役員と従業員がチャレンジした「循環型鉛筆産業システム」の成功を会社の節目と考えたからです。大賞には届きませんでしたが、特別賞を頂くことが出来大変うれしく感じています。
(北星鉛筆株式会社/杉谷 和俊 社長)
当社では、創業者の言葉「鉛筆は、我が身を削って人のためになり、真ん中に芯の通った人間形成に役立つ立派で恥ずかしくない職業だから、鉛筆のある限り利益などは考えずに家業として続けろ」を代々受け継いで今日まで事業を継続しています。
事業を継続することと維持とは意味が違う。維持というのはそこで止まっており、長い目で見るとじわじわと低下していくこと。維持ではなく、変化しながら継続していかなくてはなりません。そのためには時代ごとのニーズへの対応も不可欠で、現代の生活様式に合ったノック式の鉛筆や、鉛筆製造において発生するおがくずを活用した粘土など、環境に優しい製品も開発してきました。
また、鉛筆の歴史が学べたり当社商品を体験できたりする鉛筆学習施設「東京ペンシルラボ」を工場に併設しています。創業70年の歴史においては様々な試練を乗り越えて来ましたが、鉛筆業界の縮小傾向にあっても当社の業績は堅調でしたし、東日本大震災の時でも鉛筆への需要が減ることはあまりありませんでした。
しかし、2020年の新型コロナウィルス感染症拡大においては、鉛筆が一番使われる学校が全国一斉休校となり、さらにイベント関係のキャンセルで記念品需要もなくなり、動物園や水族館などの土産物としての売上も止まり、鉛筆の需要が激減しました。一番売上が落ちたのは2020年7~8月で前年比の半分程度になり、他の月も2?3割の減少。現在でも売上減少から完全に回復したとは言えない状況です。
売上が減ったら製造を減らしてその時々に応じた体制を整えていけばいい、それよりも常に鉛筆の存在価値を追求し発信していくことが大切だというのが私の信条です。
2020年、創業70周年を記念して13色の「大人の色鉛筆」を開発・製品化し、それが台東区・足立区・墨田区・葛飾区に在る町工場が開発した新製品を評価する「2020東京TASKものづくりアワード」大賞を受賞しました。
色鉛筆は自分の好きな色やよく使う色のものだけがどんどん短くなってしまいがちですが「大人の色鉛筆」は木軸フォルダータイプ&ノック式なので持つ部分の長さはずっと変わらず、芯の出し具合によって筆圧も変えられます。金具に新しく開発した機構を採用するなど一層進化した色鉛筆で、絵を描くという用途に限らず、受験生がラインマーカーのように使ったり、手帳にアクセントを書き込んだりするなど色鉛筆の可能性を広げた〝ベスト〟の色鉛筆だと自負しています。
商品とは「思い」です。思いを商品にどれだけ込められるかが決め手。思いのこもっていない商品は使う側にとっても面白くない。こういうことを求められているのではないかと先回りして汲み取り、皆さんが共感できるような商品を作っていくのが当社の考えるものづくりであり、商品のあり方です。そのような姿勢で日々鉛筆のことを考えていると、「あ、これはどうだろう」「あれもできそうだ」と色々な商品のアイデアが浮かんできます。
2021年から「鉛筆画・色鉛筆画コンテスト」を、小学生・幼児部門、中高生部門、一般部門に分けて実施します。パソコンやスマホが普及したこともあり、手で書くことが減っている時代。工作も完成品を見せてから作るようなパッケージ的なやり方が多い時代。そうではなく、何もない状態から生み出していく創造という経験を日常の中でできないかと考えたのがこの企画です。絵を描くことにより鉛筆の文化を根付かせることを目指し、このコンテストは今後も通年で募集して毎年実施していきます。
コロナ禍の今、一人ひとりの価値観で行動し、思いがバラバラになっていると痛感しています。そんな時だからこそ、東京2020大会はぜひ開催していただき、みんなで一つになって応援することを通じて、コロナ解決に向けて絆作りのきっかけになってくれればと願っています。新しい時代へのエポックメーキングとして期待したい。
当社も次の時代に向けて考えていることが多々あります。鉛筆業界の中で他社がやらないことをやって攻めていく、それは戦略でもありますが、やはり商品に込める思いの実現という当社の目指すことに他なりません。
鉛筆業界の今後を担うという役目において当社は要の部分を持っているという矜持もあります。ある意味、当社がどう動くかで鉛筆業界の動きが変わる。例えば、SDGsの時代に生きる子どもたちが鉛筆を使うことによってエコが学べたり発想が豊かになったりする商品を製造し提案していくこと。当社には、短くなった鉛筆をつなげて最後まで使い切ることでゴミを出さない商品もありますが、そのように子どもたちが鉛筆を使うことでいろんな気づきが得られる新しい商品を生み出していきたい。
気づきを生み出す商品にするためには、何も考えずにすんなり使える鉛筆ではなく、何か1工程プラスするなど、工夫も必要です。つまり、気づきを与える商品づくりには当社自身の気づきがなくてはならない訳で、そのために鉛筆の魅力を考えていく日々をこれからも積み重ねていきます。
そして、やがては100年企業を目指し、いつまでも鉛筆製造という事業を続けながら社会に貢献していきたいと思っています。