※企業概要は受賞当時(2012年)の内容です。
●進歩を続ける医療の現場において、独特の繊細さや微妙な調子が求められる手術用の鋼製小物を、職人的技能や独自のコア技術を活かして、作り続けていること。
●大正5年に創業以来、およそ100年にわたり職人的技術を伝承・進化させつつ、後進の育成にも力を注ぎ、医療技術の進歩や医療現場での負担軽減に大きく貢献していること。
●新しい手術法に対応する器械・基部の開発・製造にも挑戦を続けており、従来の分野にない知識や技術の修得、ネットワークづくりを行っていること。
シーボルトにより西洋医学が日本に持ち込まれた時代、メスやハサミといった手術道具は刀鍛冶が作っていたという。
手術用の器械は、ドクターの手の延長(代わり)となり、直接身体を治療する道具なので、ドクターの手の大きさや力加減などに合わせて調子を整えなければならない。また、患者の負担を少なくするため、より小さい切開部から手術が行えるよう、さまざまな角度や形状が要求され、素人目には何に使うのか全く想像がつかない。新しい手術法が開発されると、新しい手術器械が必要となる。我が国医療の進歩の陰には、不可能を可能にしてきた職人の技術があった。同社は、医療用器械の職人集団としておよそ100年、ひたすらその道を歩んでいる。
ある日、整形外科の先生から、脊椎手術用の特殊なワイヤーの製作を依頼される。既に十数社に製作を依頼し、断られた果ての訪問だった。
これまでの鋼製の小物類と違い、全く新しい分野の器械であったが、開発に取り組むことを決意する。ワイヤーの材料探しから加工方法の工夫、試作・実験・改良を繰り返して、何とか完成にこぎつけた。これにより、血管や腸管を傷つけるリスクを低減することができ、患者の負担軽減と同時に、医療事故の少ない画期的な手術法が可能となった。
次なる挑戦は、小児外科。子供専用の医療器械は、市場が小さいため、殆ど開発されていない。小児外科医は大人用の器械を使っての手術を余儀なくされており、苦労している事実を知る。医療器械メーカーとして捨ててはおけない。繊細なサイズや調子が求められるからこそ、同社の技術力が活きると信じて、長い道のりを歩み始めている。
同社の人材育成は徹底した現場主義と承継。器械を使う人の立ち位置や使う角度、全体の動きを把握する。そして日本人の手の大きさや力加減に合った道具を作る。職人の作業台の間には、何代もの職人が使い続けてすり減った木製の道具が並び、試作を繰り返しながら一人前に育てている。日本のものづくりが絶えないように、昔ながらの修行を整った労働環境の中で行えるよう社内制度改革にも積極的に取り組み、若手職人育成に強みを発揮している。
次の100年に向けた同社の挑戦と承継はこれからも続く。
次の100年に向けての事業展開へ
100年という歴史の中で、”けがや病気の人たちのため、医療従事者に対し出来うる限りの助力をすること”を経営理念に、ものづくりに励んできた結果が評価され大変うれしい。今まで支えてくださった方々に感謝するとともに、これからの100年に向う大きな励みとなった。
3年後、当社は創業100年を迎える。これまでの歴史に感謝し、次の100年に向けてさらなる技術の修練や新製品の開発とともに、日本の職人技術が作りだした手術器械をブランド化し、世界に一流品として認識してもらえるような事業戦略を展開していきたい。
(株式会社田中医科器械製作所/田中 一嘉 社長)