※企業概要は受賞当時(2010年)の内容です。
●医療用材料開発製造の技術を深化させ、皮膚保護機能を持つ国内初の人工肛門装具「セルケア」を開発。装具脱着の繰返しによる皮膚損傷に長年苦しんできた多くの大腸がん患者やその家族に生きる希望を与えた功績は顕著。高齢社会が進む中、医療・福祉・健康分野をはじめ多くの企業にとり良き模範になるものと極めて高く評価。
●創業からの長きに亘り、医療現場と患者の間に立ち双方のニーズに真摯に向き合い続けてきた経営姿勢は秀逸。単なるメーカーの枠にとどまらず、患者とその家族、医療現場の情報交換・交流の場づくりに積極的に努める他、医学と工学を融合させた独自の研究開発体制や次世代経営人材育成に向けた独自の能力開発システムも評価。
大腸がん等の手術により腹壁に排泄口(ストーマ)を造設した人を"オストメイト"と呼ぶ。専用の装具を腹部に貼ることで溜まった排泄物を処理していることから、日常的に装具を交換する必要がある。昭和30年にギプス包帯等の衛生用品メーカーとして創業とした同社は、昭和40年に国立がんセンターからの要請を受け、国産第1号となるストーマ装具「ラパック」を開発したことを機に、ホームヘルスケア事業に進出した。
「ラパック」発売後、あるオストメイトから装具へのクレームと改善を嘆願された。当時の装具には、その用途から強い粘着剤が使用されていたため、貼って剥がすことを繰り返すうち、皮膚に相当なダメージを与えてしまっていた。こうしたオストメイトの長年の苦しみは、メーカー側に直接伝わることがほとんど無かったため、同社はこれを機に、困っている患者の目線で商品を開発することを決意、品質向上のための研究開発に着手した。
研究開発費用は当時としては多額であったが、化粧品メーカーから研究者を招き入れることでスキンケアのノウハウを得て改良を重ねた。また、品質向上には情報交換の場が不可欠と考え、昭和58年「第1回オストメイトの集い」を開催(現在も継続)、患者と医療現場との地道な交流促進活動に努めた。
こうした活動を経て平成20年に販売された「セルケア」は接着性と皮膚保護機能が大幅に改善され、多くの患者から高い支持を受けた。海外製品が席巻する同種製品の市場において、現在も国内患者シェアの約4割を占めるまでに至っている。
経営面での工夫においては、特に研究開発と人材育成に注力している。研究開発面では、医学と工学を融合させた「医工学研究所」を設立。大学や医療機関、素材メーカー等との共同研究を重ね、スポーツケア製品(テーピング等)という新市場への展開を果たした。また、人材育成面では、「アルケア経営塾」と名付けた独自の社員教育体制を構築。Will(意思)、Can(可能性)、Must(責任)、3つのベストバランスを求める人材像とするユニークな研修により、次期経営幹部の育成にも力を入れている。
"鬼手仏心"…手に持ったメスは真の仏心によって活かされる、という医の倫理を諭す言葉を、同社は経営の根幹としている。「企業の利益(鬼手)はマキシマム49%、社会への貢献(仏心)はミニマム51%」との理念に基づき、創業から一貫して弱者の立場に立ったものづくりを心がけ、あらゆる人のQuality Of Life 向上を目指す。
人情味溢れる下町だからこそ、半世紀にわたり事業が継続できたと思います。ここはリソースが豊富な地。医療現場から要望を受け、患者さんの負担軽減を考え器具を開発しますが、その際に必要な材料は地元で揃えることができました。問題は人ごとに対応する多品種、少量生産ということ。採算面では厳しい。それでも苦しんでいる患者さんのためならば、と創業時は地元の職人さんたちに助けられました。
医療現場への貢献、患者さんのためだけを念頭に無我夢中で進んできました。今回、身に余る賞を頂き、評価された喜びとともに、これまでの歩みが間違いないことを確信できました。ようやくこれでスタートラインに立つことができると感じています。助走段階から全力疾走へと向かうパワーが湧きあがる思いです。
医療器具の開発は、骨折の治療に使用する石膏ギプスからです。医院ごとに品質が安定しなかった状態を何とかしたいと思い、メリヤスを用いる技術を開発しました。もちろん材料は地元産です。医師から開発依頼を受け、看護師さんから使い勝手のよい器具を要望されるなどニーズに沿って開発してきました。そこには患者さんのため、という観点がなければいい製品は作れません。人工肛門では相談センターを開設して、使用者の意見を聞いてきました。今年で32年になります。
>企業存続には利益追求が不可欠です。しかし、それに固執すれば患者さんを気遣う細心さが欠けます。これをどこで線引きすべきなのか。当社は「利益は最大49%、社会への貢献は最小51%」として、決して利益に偏らないことを経営理念に置いています。それをベースに医学と工学の融合を図る研究体制の整備などで事業の拡充を図ってきました。