※企業概要は受賞当時(2009年)の内容です。
●従来の鋳造技術では細やかな模様を施した錫の薄板を鋳造することは困難とされる中、永年培った合金鋳造技術の深化と新たな発想により、世界初の錫による内装建材「コンウォール」の開発に成功。他社が追随できない技術により新市場を開拓したこと。
●販売を商社やディーラーに依存してきた体質の脱却を図り、企画・プロモーション・営業まで自社で行う体制への移行に挑戦し、業績を回復させた経営手法。独自に海外への販路開拓を図っている点も高く評価。
創業95年を迎える同社を率いる田邊豊博氏は3代目。同社の歴史は、合金製造という中核技術を堅持しながらのイノベーションに彩られている。
創業時から昭和40年代までは大手新聞社等向けに活版印刷用地金の供給を行っていたが、印刷の形態が急速にオフセット印刷や光学印刷へと変化し、瞬く間に活字用地金の需要が消失。このため同社は、主力製品をアクセサリー等となる装飾用合金(キャストメタル)に転換。これまでの活字用地金で培った鋳造性の良い合金技術を活用することで他社との差別化を図り、現在でも国内シェアの大半を誇るまでに成長、業績を回復させることに成功した。
しかし、このキャストメタルも、時代の流れとともに中国シフトが鮮明となり、シェアは高いものの国内マーケットそのものが大幅に縮小し、先行きが懸念される状態に直面する。
そこで同社は、生き残りをかけ、自社の技術を活かしたイノベーションに再び挑戦。簡単に他社には真似されない、付加価値の高い新製品の開発に取り組み、その結果、世界で初めてとされる錫の鋳造による内装建材「コンウォール」の開発に成功する。
錫を板状にするためには、圧延する方法がほとんどで、これではステンレス板のように真っ平らになってしまい、内装材には向かない。鋳造方法では、狭い隙間の金型に錫を流し込むことが非常に困難で、量産は不可能な状況であったが、約100年にわたり伝承された技術をもとに、特殊な金型と離型材を開発。これにより、狭い隙間にも錫を板状に鋳造することが可能となり、さらに離型材に模様を付加することで、デザイン性の高い錫の内装材が誕生。今や高級内装材として有名な新型ビルやレストラン等に採用されている。
経営手法にも特徴がある。人的資源に限りがある中小企業では、営業を商社・ディーラーに任せきりとなる体質になってしまうことが少なくないが、同社は「コンウォール」の開発を機に、製品の企画・開発・プロモーション・営業を自社で行う体制を確立。イニシアチブを握ったことにより無理な取引条件を飲むことも少なくなり、財務面の強化に成功した。さらに、"ビジネスの起点は現場にある"ことを再認識できたことが、財務面以上に収穫だったと社長は語る。現場における顧客の状況や志向、ニーズを肌で感じることは、機動力を武器とする中小企業にとって不可欠なプロセスなのである。
また、東京都やJETRO等の公的助成を有効に活用し、積極的に海外の見本市に出展する等、海外展開にも力を注ぐ。日本の中小企業にとって、海外市場の開拓はまだまだ高いハードルだが、同社はその先駆モデルになることにも挑戦している。