平成28年年頭挨拶(東商新聞掲載)
東京商工会議所
明けましておめでとうございます平成28年の新春を迎え、謹んでお慶び申しあげます
東京・日本商工会議所の会頭に就任して、3回目の新年を迎えました。昨年は、株価、為替水準、物価水準等にそれほど大きな変動がなく、また期待された民間設備投資に顕著な伸びがみられなかったことなど、一見すると動きの少ない静かな一年だったように見えますが、構造的な課題の解消に向けた〝大きな転換の年〟であったと言えます。
■国内の構造的課題が解決へ
海外においては、新興国から米国・EU・日本といった先進国が世界経済をリードする体制へ移行した年だったと言えます。これに伴い、さまざまなリスクも指摘されていますが、明るい面を見れば、年末に9年半ぶりに利上げを行った米国経済は堅調ですし、EU、日本も緩やかではありますが回復基調にあります。中国経済が軟着陸できるか不安視する声もありますが、日本は既に輸出相手国の第一位が中国からアメリカに入れ替わっていますし、対外直接投資も中国からASEANにシフトするなど、民間のリスクに対する手当が進んでいます。地政学的なリスクもありますが、今後は、不安定な新興国中心の世界経済ではなく、安定した経済力を有する先進国が力強く世界経済を牽引することが、期待できると思います。
日本では、六重苦のいくつかが解消、または解消の方向に向かった年でした。為替レートはほぼ1ドル120円近傍で安定し、法人実効税率は当初予定より早く20%台に引き下げられることが決まりました。また、2基の原発が再稼働したことで、後続の再稼働にも道筋がたち、電力料金が下がることが期待されます。国際関係においても、大型かつ高度な通商協定であるTPPが大筋合意され、全ての主要CO2排出国が参加し、公平かつ実効性のある国際的枠組みであるパリ協定がCOP21で合意されました。石油価格の下落により、今年は、さらに資源価格が下がることも期待できます。さらに、構造的な課題であった人口減少問題についても、政府として初めて明確な目標を設定し、具体的な取り組みが始まりました。
このように、昨年はわが国において、長らく停滞していた構造的な課題が、解決に向け良い方向へ大きく動き出した年と言えます。今年は、いよいよデフレマインドから脱却し、民間が前向きなマインドで設備投資等を実行し、力強く成長すべき年だと言えます。こうした中、商工会議所として重点的に取り組むべき課題を3点ご説明します。
■中小企業の経営支援に注力
まず、中小企業の経営支援です。設備投資に関しては、大企業より中小企業がより積極的に行うなど、中小企業にも前向きな投資主体としての動きがみられるようになりましたが、依然としてまだら模様で力強い動きとはなっていません。賃上げについても人手不足を背景とした防衛的なものとなっています。構造的には、輸出比率が2%台の中小企業は円安のメリットを享受できず、むしろ原材料コスト増に苦しんでいます。
商工会議所として、価格転嫁等の構造的な課題、さらには軽減税率の導入といった新たな課題について、政府に粘り強く制度的な支援を要請するとともに、商工会議所の相談・教育支援機能の強化、小規模事業者への伴走型経営支援の推進等に力を入れてまいります。同時に、中小企業自身も例えば、TPPを活用して輸出増を図るなど、自らの競争力強化に全力を挙げることが重要です。
■地方創生は時間軸をもって具体的に
次に地方創生についてですが、昨年は、各地方が自主的に地方版総合戦略を作成し、生き残りをかけてスタートを切る初年度となりました。日本一出生率の低い東京ももちろん他人事ではありません。大都市も地方も、自らの課題を真摯に受け止め、時間軸をもって具体的に解いていくことで、双方ともに発展していくことが大事です。
地方創生の切り札として期待される観光は、訪日外客数が昨年約1900万人と急増しましたが、観光客と観光消費が、東京・大阪のゴールデンルートなど、一部の主要都市に集中しているのが現状です。昨年、既存の地方空港等を活用して、新たな地域観光の核となる「交流拠点都市」を構築し、周辺地域とのネットワークを形成することで、全国各地への旅行者の分散・拡大の推進を図る構想を商工会議所として提唱しました。これを実現するためには、商工会議所観光ネットワーク(CCI観光NET)をうまく活用し、行政区分を超えた「広域観光連携」を強力に推進する必要がありますので、各商工会議所間の連携強化をよろしくお願いいたします。
もうひとつの切り札である農林水産業については、200を超える商工会議所で農協が会員となるとともに、それぞれ100以上の商工会議所で漁業・林業団体が会員となっており、新商品の開発や商流の開拓で連携を進めています。農林水産業に関する規制緩和が進む中、関係者が連携して、創意と工夫を凝らせば、まだまだ農林水産業は地域の中核産業として力を発揮できるポテンシャルがありますので、商工会議所として積極的に推進していただきたいと思います。
また、今年で5年を迎える震災復興に関しては、風評被害の払しょくと販路の回復・確保に全力で支援を行っていきたいと思います。
■人口減少問題には恒久財源を
地方創生と並んでわが国の大きな構造的な課題が、人口減少とそれによる人手不足問題です。既に中小企業では半数以上の会社が、人手不足を深刻な経営課題として受け止めています。出生率1.8が国家目標として設定されましたが、文字通りありとあらゆる施策を総動員し、2020年までに人口減少トレンドを変えなければ達成できません。
そのためには、施策の実行に必要な恒久財源を確保することが必須ですので、高齢者から少子化対策への思い切った財源のシフトが必要となります。わが国の財政状況を踏まえると、高齢者の応能負担を含めた社会保障の重点化・効率化はまったなしの課題であり、成長と果実の分配だけでなく、社会保障費の削減など負の分配も同時に実現していかなればなりません。安定政権でなければ実行することのできない困難な課題ですので、現政権にはその実行を大いに期待したいと思います。
商工会議所としては、婚活事業など地道な活動を継続するとともに、女性や高齢者を単なる労働力としてではなく、その多様な能力を生産性向上等にフルに発揮できる柔軟で働きやすい労働環境の実現、仕事と育児・介護の両立支援の充実を図ってまいります。また、企業が従業員の健康管理をコストとして捉えるのではなく、生産性の向上や社員の幸福に大きく寄与する経営戦略として捉える「健康経営」の普及も促進して参ります。
■成長するためには実行あるのみ
構造的な課題が解決され、または解決される方向となった中、本年は東京23区内の会員企業が、個々の強みを生かしながら、ネットワークを活用して、自信をもって大きく飛躍すべき年です。舞台は整えられつつありますので、われわれ民間企業が将来に自信を持ち、TPP等の活用に最大限知恵を絞った上で、新しい時代にふさわしい行動を積極的にとらなければなりません。皆さまの一層のご支援とご協力を心からお願い申しあげます。