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労働政策に関する要望

1999年7月8日
東京商工会議所

わが国の経済は、経済構造の大転換期の中で2年連続マイナス成長という厳しい景気低迷から脱出できず、完全失業率が最高水準で推移するなか、雇用情勢の悪化が将来の社会保障制度に対する不安とともに消費マインドの低下を招き、企業の生産・販売の低迷、価格の下落、設備投資意欲の減退にとつながり雇用不安を加速度的に増大させている。
 このような状況とバブル期の過剰債務、過剰設備の処理の遅れとが相俟って、雇用問題は今後の景気回復を図る上での喫緊の課題となっている。
 政府におかれては、こうした極めて厳しい経済情勢を正面から受け止め、引き続き景気回復に最大限配慮されるとともに、6月11日に決定した「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策」に全力を傾注されることを切に望むものである。
 また、これらの対策の実施にあたっては緊急雇用創出特別基金等を活用しつつ、人材情報ネットワークの強化などの即効性のある対策を早急に講じられたい。
 さらに、現下の厳しい経営環境の中にあって、雇用創出の担い手として活躍が期待される中小企業は、先行き不透明感、金融情勢の不安等から強い危機的状況に陥っており、中小企業が自律的に自らの活路を見いだし新たな事業を切り開いていくための環境整備が急務となっている。そうした意味からも産業政策及び経済政策と労働政策とが一体となって政策展開を図り、中小企業の活性化に向けて一層の規制緩和を実行し、延いては新規雇用の創出を図られたい。
 なお、今後の労働行政においては、労使自治のルールを最大限尊重し、法制化による政策誘導的手法は極力排除すべきであり、経済情勢の変化や中小企業の実態を十分踏まえた柔軟な対応を基本とされたい。
 以上のような認識のもと、今後の労働政策について下記の事項を要望する。

要望


1. 雇用の創出と安定化に向けて

(1) 労働移動円滑化のための環境整備(労働力需給ミスマッチの解消)
①中高年失業者に対する教育訓練制度の適正な運用
 中高年層に対する教育訓練制度の訓練期間の延長に際しては、雇用吸収力のある医療・介護などの成長が見込まれる産業分野や中小企業の求人実態を十分に踏まえ、再就職先で即戦力となりうる技能を身につけることができる訓練制度を確立することにより再就職の促進を図られたい。そのための一つの方策として、求人実態を把握している業界団体などに教育訓練を委託できる制度を検討されたい。
 さらに、制度運用に当たっては、モラルハザードの見地から、訓練期間延長に伴う求職者給付の受給期間の延長によって求職者給付の受給を目的とした訓練受講が行われることのないよう特に留意されたい。

②職場適応期間助成制度(仮称)の創設
 求職者が入手しやすい求人情報は公共職業安定所などに限られており、適職を選択するには情報が不足している。一方で求人企業が求職者の能力を適正に評価するためには面接や履歴書だけでは難しく、求職者と求人企業の双方が互いに慎重になり失業期間を長期化させる一因となっている。そこで、ドイツの事例に見られるように、労働力需給のミスマッチを解消する策の一つとして、仕事の内容や賃金等の労働条件に不安のある求職者がトライアル的に再就職するための職場適応期間助成制度(仮称)を創設し、この制度に基づき求職者を試用した中小企業に対して、試用期間中の賃金及び教育訓練費の一部を助成する制度を創設されたい。

③改正職業安定法及び改正労働者派遣法の早期施行
 有料職業紹介事業の原則自由化と労働者派遣事業のネガティブリスト化は、労働者の就業意識の変化と就業形態の多様化に対応し、労働力需給ミスマッチの解消を促進するものである。今国会で成立した改正職業安定法及び改正労働者派遣法を早期に施行し、自由な労働移動が可能となる労働市場の整備を図られたい。
 さらに、今後も一層の規制緩和によって産業構造変化への対応を積極的に図られたい。
 なお、労働者派遣の期間に上限を定めることについては、派遣期間は本来契約自由の原則によるべきものであり、当事者間の合意に基づく更新まで制限されるものではなく、現行の派遣期間の制限の在り方に統一すべきである。

④有料職業紹介事業及び労働者派遣事業の許可基準の緩和
 有料職業紹介事業及び労働者派遣事業の許可基準により禁止されている「労働者を職業紹介することを目的とした労働者派遣」については、派遣が適職選択の場となり常用雇用への機会が開かれるので、早急に許可基準を緩和されたい。

⑤職業紹介における官民の連携強化
 全国の求職者及び求人企業が相互の情報ニーズに対応した求職・求人情報を登録し、さらには行政サービスや労働市場に関する全てのデータを蓄積した求職・求人情報総合登録センター(仮称)を設置することにより、公共職業安定所と民間職業紹介所等との情報の共有化を進め、官民連携のもと職業紹介の効率化及び迅速化を図られたい。

⑥労働者評価システムの早期構築
 大企業から中小企業への転職の際、企業規模における賃金格差が雇用ミスマッチの要因の一つとして大きく影響している。求職者の経験、技術、年齢等の労働市場における価値が客観的に評価され、求人企業の業種、企業規模等による一般的な賃金水準が明らかになれば、雇用ミスマッチの解消につながり円滑な労働移動が可能となる。労働市場における求職者の価値と求人企業の賃金水準が客観的に把握できる評価システムを早期に構築されたい。

⑦労働者の自己啓発に対する支援
 企業における教育訓練は一般的にその企業で発揮されるための能力開発が中心となっている。今後、産業再生への取組みや労働者の意識変化によって、労働者が自主的に行う能力開発の必要性はますます高まってくる。こうした労働者の自己啓発に対する税制面での優遇措置や融資制度の創設など、政策的な支援措置を更に拡充されたい。

⑧中小企業向け確定拠出型年金制度等の創設
 現在の企業年金制度には人数要件があるため、多くの中小企業は制度に加入できず、その従業員の総数は約1000万人にのぼる。中小企業やベンチャー企業でも導入が可能で、労働移動に対応したポータビリティを確保できる確定拠出型年金制度等を創設し、税制の優遇措置と併せてできるだけ速やかに導入されたい。また、制度の設計及び運用においては中小企業の実情を踏まえ、極力簡素化を図られたい。
 なお、2000年より導入される企業の財務諸表に企業年金と退職一時金の積立不足額等を計上する新会計基準は、規模の大小を問わず企業経営に大きな影響を及ぼすものと思われる。新会計基準の導入に際しては、特に中小企業の実情等を踏まえ十分配慮されたい。

(2)雇用創出に向けた環境整備
①労働力需給ネットワークの強化
 雇用・失業情勢が悪化する中で、産業間や中小企業間の人材移動の円滑化に資するため、商工会議所等の公益団体が職業紹介事業等を行えるようにし、労働力需給ネットワークを強化されたい。

②新規成長分野における規制緩和の徹底
 政府が平成8年12月17日に閣議決定した「経済構造の変革と創造のためのプログラム」における今後成長が期待される15分野については、関係省庁が連携して総合的な施策を集中的に実施することになっているが、雇用創出の視点から中小企業やベンチャー企業の新規事業の進出、失業者等の創業支援を推進するため、新規参入を阻害する規制の緩和を早急に図られたい。

③創業支援助成制度の創設
 現行では創業にあたって労働者を雇用した場合に事業主に対して賃金の一部を助成しているが、将来の雇用創出の観点から雇用保険の受給資格者が失業を経ずに創業を行った場合、事業主に対して事業主本人の求職者給付の範囲内で一時金を給付する制度を創設し、早期の創業支援を図られたい。

2. 雇用保険制度について
 雇用保険制度は昭和49年の雇用保険法成立以来、数次に渡って主に制度の拡充を目的とした改正が行われてきた。今後失業率は経済成長の鈍化などにより中長期的にも上昇傾向にあり、雇用保険制度の安定的運用を確保するためには抜本的な見直しが急がれている。見直しに当たっては、国民負担率をできるだけ抑制する観点から制度の原理原則に立ちかえるとともに、現行制度の政策効果を明らかにすることが必要である。

(1)失業等給付の見直し
①支出の見直しと国庫負担率の原則復帰
 求職者給付の増大により雇用保険料の引き上げが一部取り沙汰されているが、雇用保険料の引き上げは中小企業をはじめ企業経営に大きな影響を与えることから、雇用保険はセーフティーネットであるとの認識のもと、保険料率を改訂する前に定年退職者への給付、掛け金満了者への一時金給付などの支出のあり方を徹底的に見直すべきである。
 また、平成10年から14%に引き下げられている国庫負担率は原則の25%に引き戻すべきである。

②失業理由による支給要件等の細分化
 倒産・解雇などの非自発的失業と自発的失業を比較した場合、失業はその理由によって生活への影響が大きく左右される。求職者給付の支給要件及び給付額については、例えば非自発的失業者と自発的失業者とで格差を設ける等、失業による生活への影響度に応じて給付の見直しを図るとともに、特に若年層の安易で反復的な自発的失業を抑制すべきである。

(2)3事業の見直しについて
①雇用調整助成金の見直し
 雇用調整助成金については、円滑な労動力移動の観点から、産業構造の変化への対応と景気の変動等による一時的な雇用調整への対応に重点を置くべきである。
 なお、景気回復時に新規労働力の確保が難しい中小企業に対しては、支給対象の拡大や要件の緩和、暫定措置の延長等を行うなど制度の拡充を図られたい。

②助成金・給付金の整理・統合
 助成金等の利用状況等を踏まえ現行の各種制度の整理統合を行うとともに、労働行政機関、公益法人等、複数の窓口で行われている助成金・給付金等の受給手続きを窓口機関の整理統廃合を行うことによって窓口の一元化を図り、さらに、助成金等の申請手続きの簡略化によって担当者を置くことが難しい中小企業の利便性を図られたい。
 また、企業が民間職業紹介機関の紹介で労働者を雇い入れた場合でも公共職業安定所と同様に、雇い入れ企業に対して各種助成金・給付金を支給されたい。

3.少子高齢化への対応

(1)女性の社会進出支援と少子化への対応
 本年4月1日に改正男女雇用機会均等法が施行され、また、男女共同参画社会基本法案が今通常国会で成立するなど、女性の社会進出を促進する法整備は急速に整いつつある。しかしながら、一方で女性が仕事と育児を両立し、安心して働けるための社会環境整備は十分とは言えない状況にあり、女性の社会進出をなお阻害し、さらには少子化を促進する一因となっている。保育・託児施設の増設や延長保育、夜間保育、低年齢児保育等のサービス機能の拡充などを関係省庁が一体となって推進されるとともに、補完する制度として、ファミリー・サポート・センターの一層の普及を図られたい。

(2)高齢者雇用の促進
①高齢者のための多様な自己実現選択システムの構築
 定年制の65歳延長については、本人の体力・能力に応じた個人対応を基本とし、企業と高齢者本人が多様な選択を出来るシステムを構築すべきであり、行政指導あるいは法制化によって一律に実施すべきでない。
 なお、選択肢のひとつとしてはNPOの活用があり、行政におかれても積極的な支援をお願いしたい。一例としては、アメリカ合衆国SBA(中小企業庁)の組織で有能な高齢ボランティアコンサルタント集団である SCORE(Service Corps of Retired Executives/退職管理者サービス組合)と同様の組織を日本に設立することなども考えられる。SCOREでは企業を退職した経営的な専門知識のある13,000人のボランティアが起業家支援を行っており、創業支援と高齢者活用の二つの面から大きな効果を上げており参考とされたい。

②継続雇用定着促進助成金の要件緩和
 現行の制度では60歳以上の定年を定めている事業主であって、65歳以上の年齢まで雇用する制度を導入した10人以上規模の事業主に支給される。しかし、就業が可能な年齢は個人差が大きく必ずしも65歳まで働けるとは限らない。さらに、高齢者の雇用促進が制度の目的であることと中小企業にとって5年間の継続雇用はハードルが高いことを考え合わせ65歳以上という制限の緩和を図られたい。

4.労働時間法制について

(1)割増賃金率の現行維持
 時間外及び休日労働の法定割増賃金率の引き上げは、平成9年4月に週40時間労働制が導入されたばかりであり、企業にとって更なるコストアップをもたらすとともに、現下の深刻な経済情勢において、生産性の向上によるコストの吸収や価格への転嫁は事実上困難であるため、中小企業に与える影響は極めて大きく、現行基準に据え置かれたい。

(2)裁量労働制の対象業務の範囲拡大
 裁量労働制は研究職及び専門職に加えて平成12年4月から新たに企画部門の裁量労働制が認められることになった。今後とも労働者の勤労意識の変化や就業形態の多様化に対応して、対象業務の範囲を拡大されたい。

5.その他

(1)小規模事業場における労働者の健康確保
 地域産業保健センターの更なるサービス向上と制度普及を推進することによって、小規模事業場における健康管理の向上を図られたい。

(2)最低賃金制度について
 地域別最低賃金が全国的に整備・適用され定着をみた今日、これに屋上屋を重ねる産業別最低賃金は廃止されたい。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所