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平成12年度税制改正に関する要望 ‐日本経済の再生に向けて‐

1999年7月8日
東京商工会議所

基本的考え方
 わが国では現在、経済社会システムが成熟化し、少子・高齢化が急速に進行する中で、現行の社会保障制度のままでは、国民負担率は2025年には50%を超えるほどまでに増大するといわれている。これに伴い企業負担も急増することが予想され、企業活力の減退が懸念される。また、国・地方の長期債務残高もあわせて約600兆円にのぼっており、財政再建も重要な課題となっている。
 このような状況に対応し、今後とも経済活力を維持していくためには、「小さな政府」を目指して、国・地方を通じた行財政改革をさらに徹底し、国民負担率の上昇を可能な限り抑制することを前提として、負担構造そのものを見直さなければならない。特に、税負担については、長年にわたる制度改正で複雑化した税体系を、簡素・公平・中立という基本理念に立脚し、国民および企業で広く薄く負担する仕組みに改めるとともに、所得課税・資産課税・消費課税の「バランスのとれた税制」に向けて改革を進めることが大切である。
 一方、経済の現状は、長引く不況により消費と投資が低迷を続けており、政府は、大幅な減税措置を含む累次におよぶ経済対策を打ち出し実行してきた。しかし、失業率が過去最高水準で推移するなど、依然として厳しい経済情勢にあり、今後の景気の息切れも懸念されるため、引き続き政府の機動的な経済運営が求められる。
 このような状況のもと、わが国経済の喫緊の課題は、雇用の受け皿となる新産業・新事業の創出を促すこと等により、経済の活性化を図ることであるが、同時に国際化・情報化等の進展に対応した産業構造転換の展望を示した上で、規制緩和・自由化の促進を基本とした経済構造改革を推し進めることも重要である。また、企業自身も、競争力を強化し雇用機会を創出していくために、事業・組織の再構築、高付加価値化、新分野進出、高度な技能を持つ人材の育成などの経営革新を推進することが必要であり、これら官民双方による改革を通じて、早期に日本経済の再生を図らなければならない。
 したがって、税制面においても、企業の自助努力を支援するという観点から、諸施策の整備を図ることが望まれる。

 東京商工会議所は、以上のような基本的考え方に基づき、日本経済の再生に向けて、平成12年度の税制改正において、以下の諸点が実現するよう強く要望する。

要望


Ⅰ. 経済活性化のための税制の整備

1.中小企業活性化のための税制
 現在、情報・福祉・環境などの分野を中心に、SOHOビジネス・マイクロビジネスなどの増加が見られるものの、昨今の開業率は廃業率を下回っており、総体としては新しい産業と雇用を創出する活力が減退気味である。
 したがって、中小・ベンチャー企業の経営革新を支援するとともに、新産業・新事業の創出を促すため、以下のような措置が講じられるべきである。

(1)創業支援税制の拡充
 創業支援税制としては、現在、ベンチャー企業に投資することで損失が生じた場合の優遇措置を講じたエンジェル税制があるが、ベンチャー企業への投資意欲を更に促すため、以下の創業支援税制の拡充が必要である。
①ベンチャー企業への投資家の投資ロスと他の所得との損益通算を認めるとともに、投資家の中に法人投資家も含めるなどエンジェル税制を拡充すべきである。
②投資家がベンチャー企業やベンチャーキャピタルに投資する場合、あるいは、ベンチャーキャピタルがベンチャー企業に投資する場合について、その投資時点での優遇税制を創設すべきである。
③ベンチャー企業の人材確保に有用であるストックオプション制度に係わる税制を拡充すべきである。

 また、雇用を吸収し創出していく役割は、ベンチャー企業に限らず、商業やサービス業を含む幅広い分野での創業者にも期待されるので、こうした分野でも斬新なアイデアによる創業を促すような税制上の優遇措置を講じるべきである。

(2)中小企業の投資促進税制の拡充
①中小企業投資促進税制の適用期間を延長すべきである。
②特定情報通信機器即時償却制度の適用期間を延長すべきである。
③少額減価償却資産の取得価額基準(現行10万円)を引き上げるべきである。
④事業革新・新分野進出等のため、新規設備投資を行う場合の諸種特別償却制度を拡充すべきである。

(3)同族会社の留保金課税の廃止
 同族会社の留保金課税については、以下の理由により廃止すべきである。
①会社の株主あるいは出資者が限られているという理由のみによって、同族会社の留保金に対して税を課することは、税制上の中立性を著しく害している。
②中小企業においては、金融機関による融資先選別が厳しくなっている今日、設備投資資金や緊急の資金需要について社内留保など自己資本に依存する場合が多く、産業構造改革の進展に対応して経営革新を図っていくためにも、決算期ごとの利益を内部留保し財政基盤を強化することは、中小企業の健全な経営に不可欠である。

(4)中小企業軽減税率適用所得金額の引き上げ
 中小企業の体質強化を図るため、法人税の中小企業軽減税率について、適用所得金額(現行800万円)の引き上げ等を図るべきである。

2.法人事業税への外形標準課税導入に反対
 法人事業税への外形標準課税の導入については、現在、政府税制調査会において検討されているが、以下の理由から導入には反対である。
①外形標準課税は、企業の雇用や投資に抑制的に作用して経済活力を削ぐおそれがあるとともに、中小企業の活性化を図ろうとしているときにあって、担税力の乏しい脆弱な中小企業への課税強化となるほか、ベンチャー企業など新規開業の妨げともなる。
②応益課税の観点からの導入については、既に赤字法人も含めて、法人住民税(均等割)、固定資産税、事業所税等を負担しており、既存の応益課税との関係から明らかな二重負担となる。
③外形標準の規定の仕方によっては実務的に課税標準額の算定が困難なものもあるなど、事業者の納税事務コストおよび税務当局の徴税事務コストの増大が懸念される。
④地方の安定的な財源確保という観点からの導入については、納税者が納得できる行財政改革を徹底的に行うことが前提であり、今後、景気回復が確実になった段階で、税の自然増収や行財政改革による経費削減効果を明らかにしたうえで、地方分権の推移を見ながら、税体系の抜本的見直しの中で地方税体系の再構築を行うべきである。

3.企業損益の適正化のための税制
 企業経営の改善を図るため、企業損益の算出方法については、国際的な状況も踏まえ、適正に税務処理ができるように改め、投資の促進、国際競争力の強化へとつなげていく必要があり、以下の措置を講ずるべきである。

(1)欠損金繰越期間延長と繰戻還付の適用
①欠損金の繰越期間(現行5年間)を10年間とすべきである。
②欠損金の繰り戻し還付については、一部を除き、平成12年度までに生じた欠損金について不適用となっているので、適用を認めるべきである。

(2)評価損・有姿除却の弾力的運用
 長期遊休資産や本来価値を失った資産については法人税法または法人税基本通達によって、それぞれ「評価損」「有姿除却」として処理できることになっているが、これら現行規定の弾力的運用を図るべきである。

4.土地流動化・住宅取得促進のための税制
 土地の流動化による有効活用の促進と景気回復に寄与する住宅取得の促進を図るため、土地・住宅税制については、以下のような一層の軽減措置が不可欠である。

(1)固定資産税の見直し
 長期にわたる地価の下落にもかかわらず、依然として税負担の増加傾向が続いている固定資産税については、平成12年の評価替えにあたって、土地の評価方法と税率のあり方を、以下のように見直すべきである。
①土地評価方法等の見直し
 商業地等に係わる土地の固定資産税については、その実効負担率(土地の時価に対する固定資産税額の割合)の上限を、評価額上昇以前の最高水準とされる0.4%程度とすべきである。そのためには、土地の評価方法(調査方法・評価額・評価割合)と税率の定め方を抜本的に見直すことが必要である。なお、長期にわたる地価下落の状況に鑑み、地価下落地域において評価額の修正を行う特例措置を引き続き講じる必要がある。
②経年減点補正率の見直し
 減価償却資産の耐用年数の改正に伴い、家屋への課税にあたって、経年減点補正率の見直しを行うべきである。

(2)不動産取得税・登録免許税の見直し
 土地の流動化と住宅取得を促進するため、個人・法人の不動産取得税を廃止すべきである。また、登録免許税についても登録事務・管理コストを負担するという観点から、手数料程度へ更に軽減すべきである。

(3)その他の土地・住宅関連税制の見直し
①住宅ローン控除制度ならびに住宅譲渡損失繰越控除制度の適用期間を延長すべきである。
②個人の長期所有土地等の譲渡益課税軽減措置の適用期間を延長するとともに、その税率を引き下げるべきである。
③不動産所得に係わる損益通算の特例を廃止すべきである。

Ⅱ. 経済構造の変化に対応した税制の整備

1.事業承継税制の確立
 現行の相続税制ならびに贈与税制のもとでは、中小企業の事業を承継しようとする者の税負担が過重であるために、企業経営の健全性が損なわれるばかりでなく、雇用の大きな受け皿となっている中小企業の存続そのものが脅かされることも少なくない。中小企業の円滑な事業承継を確保するため、以下の措置を講じられたい。

(1)事業承継税制の創設
 個人資産における事業用資産を別枠とし、事業承継にあたっては、分離課税制度・生前贈与制度・納税猶予制度を創設すべきである。

(2)取引相場のない株式の評価方法の改善
 取引相場のない株式の評価方法について、全ての規模の会社に類似業種比準方式または純資産価額方式の選択適用を認めるなどの改善を図るとともに、収益還元方式の導入について検討すべきである。

(3)相続税の負担軽減
 相続税の最高税率(現行70%)を、所得税の最高税率引き下げにあわせ、50%まで引き下げるとともに、税率の累進構造を緩和すべきである。

2.企業年金税制の整備
 今後、企業年金の役割が増すものと思われることから、現在課税が凍結されている企業年金の積立金に課せられる特別法人税を廃止するとともに、原則として企業年金税制は拠出・積立時は非課税、給付時に一括課税とすべきである。
 また、雇用の流動化や年金・退職金債務に関する新会計基準への対応策のひとつとして、企業負担が相対的に軽く、中小企業でも導入しやすい新たな確定拠出型年金制度の創設が急がれる。その際、企業および従業員個人の拠出金の受皿としての個人勘定の導入と大幅な所得控除が必要である。

3.連結納税制度の創設
 2000年3月期からの連結決算重視への会計制度の移行に伴って、税負担についても企業グループ単位で考えていく必要があることから、連結納税制度を創設すべきである。

4.納税者番号制度の導入
 経済活動のボーダレス化、金融資本取引の多様化、電子商取引拡大等の情報化・電子化の進展に伴い、現行制度のもとでは所得の正確な捕捉が難しくなることが予想されることなどから、課税の公平化・適正化を図るため、納税者番号制度導入の国民的合意に向け、検討を進める必要がある。
 しかし、本制度の導入にあたっては、導入コストの抑制を十分念頭におくとともに、情報漏洩の防止に万全を期し、目的を逸脱した使用には強い罰則規定を設けるなど、プライバシー保護の配慮を行うなど、国民から受け入れられ易い制度とすべきである。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所