平成14年度税制改正に関する要望 -構造改革による「健康な日本」の創造をめざして-
東京商工会議所
基本的な考え方
現下のわが国経済は、グローバル化の進展による競争激化、バブル崩壊の後遺症に加え、民需・外需がともに減退するなど景気の後退局面にあり、今後も厳しい環境が続くものと予想される。このような閉塞状況を打破し、景気を自律的な回復軌道に乗せるためには、わが国経済社会の病巣にメスを入れる聖域なき構造改革が不可欠である。
構造改革の牽引車となるのは、個々の企業の、組織や事業の再構築に向けた果敢なアクションである。とりわけ、わが国企業の99%、従業者の81%を占める中小企業の多くは資本と経営の一体化によって高い機動性と柔軟性を備え、独自の技術や企業文化を脈々と伝承してきたファミリービジネス群であり、持ち前のフロンティア精神と創意工夫により新しいビジネス分野を開拓し、常に経済活力の源泉となり地域雇用の大きな受け皿であり続けている。そうした中小企業がこれまで以上に経営改善・経営改革に向け自助努力を積み重ねることこそが、構造改革の最大の推進力となることは間違いない。
政府においては、構造改革に伴う痛みに耐えることを民間に求めるばかりでなく、痛みを最小限にとどめるための制度整備は勿論のこと、地方交付税・国庫補助負担金等の見直しを含む国・地方を通じた行財政改革に本格的に着手することにより、民間部門に対して構造改革推進の範を確実に示すことが肝要である。特に税制については、中小企業等民間の経営改革に向けた自助努力を阻害する税制を取り除くと共に、自助努力を促す税制を整備し、企業活力の早期復活、維持・強化を図る必要がある。併せて、バブル経済崩壊後の停滞感を払拭し、経済全体の活力維持・強化を図るための税制の整備も必要である。
東京商工会議所は、以上のような官民双方による構造改革への取り組みが明日の「健康な日本」の創造に繋がるという信念を持って、平成14年度の税制改正において、下記の諸点が実現するよう強く要望する。なお、「事業承継円滑化のための税制」については、日本商工会議所と共に別途要望するものとする。
要望
記
Ⅰ.企業活力の維持・強化のための税制の整備
個々の企業が経営改善・経営改革をすすめ、政府の諸施策と相俟ってわが国全体としての経済構造改革に結びつけていくには、企業の経営基盤強化と事業再構築等による企業活力の維持・強化が不可欠であり、税制面においても所要の整備を行うべきである。
1. 経営基盤強化のための税制
大競争時代の中で経営改善や経営改革に向けて自助努力を行う企業の経営基盤強化を側面的に支援する税制を整備すべきである。
(1) 法人事業税への外形標準課税の導入反対
賃金等を課税標準とする法人事業税への外形標準課税は、企業の雇用や投資に抑制的に作用し、経済活力を削ぐ恐れがあるとともに、収益性の低い中小企業への課税強化となる。また、諸外国でも廃止や見直しの方向にある外形標準課税の導入は、国際的な潮流に逆行するものであり、その導入には反対である。
そもそも、地方自治体の財政安定化が外形標準課税を導入すべきとする理由の一つにあげられているが、最初に財政安定化ありきでは地方行政事務の合理化への努力に水を差し、本末転倒となりかねない。まずは納税者が納得できる行財政改革を徹底的に行うことが前提であり、安易に税制の見直しによる税収確保の方策を求めるべきではない。
(2) 中小同族非公開会社への留保金課税の廃止
金融機関による融資先選別が厳しくなっている今日、外部資金の調達が容易でない企業、特に中小同族非公開会社にとっては、将来の設備投資資金や緊急の資金需要に対応するために十分な社内留保を確保することが不可欠である。
そもそも同族会社への留保金課税制度は間接的に配当支出の誘因としての機能を果たしつつ法人形態と個人形態における税負担の差を調整するために設けられた制度と言われている。
しかしながら、昨今の厳しい経営環境の下、同族・非同族を問わず社内留保の充実は重要であり、税制によって配当支出の誘因を図ることは企業活動の自由を過度に制約し、税制の中立性に反するものである。加えて、同族会社の留保金に対してのみ法人税とは別に税を課すことは、明らかに二重課税であり、税制上の公平性を著しく害している。また、法人税率と所得税の最高税率の格差が大幅に縮小されている今日、課税当局が主張する留保金課税の存在意義は失われたものと言える。
したがって、国際的にも例を見ない二重課税である留保金課税は、全ての中小同族非公開会社に対して廃止すべきである。
(3) 欠損金の繰越控除期間の延長と繰戻還付の適用
企業損益の算出方法については、国際的な状況等に鑑み、以下の措置を講ずることで適正に税務処理ができるように改めるべきである。
① 繰越控除期間(現行5年)の10年への延長
② 一部を除き不適用になっている繰戻還付の適用
(4) 少額減価償却資産の取得価額基準の引き上げ
国のIT戦略に沿った情報装備強化のため、少額減価償却資産の取得価額基準(現行10万円)を50万円程度に引き上げると共に、当該資産は固定資産税の対象から除外すべきである。
(5) 中小企業軽減税率の適用所得金額の引き上げ
企業体質の強化のため、昭和56年以降据え置かれている適用所得金額(現行
800万円)を1,500万円程度に引き上げるべきである。
(6) 費用性の明らかな支出に対する課税の見直し
法人として社会通念上必要とされる祝金や香典、その他業績拡張に資する透明性の高い費用については、損金算入を認めるべきである。
(7) 土地に係る固定資産税の負担適正化と課税標準算出方法の簡素化
昨年度の固定資産評価替えの際、負担水準の引き下げによって部分的に固定資産税の負担が軽減されたが、長期にわたる地価の下落にもかかわらず、公示価格の7割評価を基に負担調整措置を図るという評価方法が採られており、商業地、特に都市部に立地する企業にとっては依然として過重な負担となっている。商業地等に係わる固定資産税については、実効負担率(土地の時価に対する固定資産税額の割合)を評価額上昇以前の最高水準とされる0.4%程度にするとともに課税標準の算出方法を地価の動向に連動した、簡素でわかりやすい方法に改めるべきである。そこで、実効負担率を0.4%程度とするため、現行の7割評価を基とした複雑な課税標準算出方法に代え、課税標準を時価の3割程度とすべきである。
2. 事業再構築のための税制
(1) 中小企業投資促進税制等の特別措置の延長
中小企業投資促進税制、中小企業技術基盤強化税制など、中小企業の新規設備投資や試験研究に係る環境整備に資する特別措置の適用期限を延長すべきである。
(2) 連結納税制度の創設
事業組織の再構築を円滑化する観点から、一定の企業グループを課税単位とする連結納税制度を創設すべきである。
連結納税制度創設に当たっては、昨年度の税制改正で措置された会社分割税制との整合性を図りながら、企業グループ全体の透明性を促し、且つ成長に寄与するための機動的な措置が望ましい。そのため、同制度の適用の対象は、子会社等垂直型連結だけではなく、オーナー経営者が同一である並列型連結も含めるべきである。また、連結対象に中小企業が含まれる場合、連結納税額算出においても軽減税率等を適用すべきである。
(3) 国際課税制度の整備
世界的な企業組織再編、企業連携が活発化する中で、出資比率が25%以下の外国子会社が設立される事例が増加している。わが国企業のグローバル経営を側面支援するために、外国税額控除の対象となる外国会社の範囲を主要国並みに拡大すると共に、対象企業の出資比率を25%から10%程度に引き下げるべきである。
(4) 企業年金税制に係わる特別法人税の廃止
確定拠出年金の創設により企業年金制度再構築のための環境が整備されつつあるが、企業年金に係わる税制はまだ十分とは言いがたい。特に適格退職年金および確定拠出年金など企業年金の積立金に対して課せられる特別法人税(1.173%)は平成14年度まで凍結されることとなっているが、新しい企業年金制度への企業の機動的な対応と年金資産の安定的な運用のために、当該税は廃止すべきである。
Ⅱ.経済活力の維持・強化のための税制の整備
わが国経済を自律的な回復軌道に乗せ、それを維持・強化するためには、資本や資産を流動化させ付加価値生産性を高めるための仕組みが不可欠である。特に経済の牽引役を担う東京等大都市部での都市再生策、預貯金に偏重した個人金融資産の流動化策(証券市場活性化策)、新産業および将来性豊かな企業の育成策が喫緊の課題であり、税制面においてもこれらに係わる制度整備を早急に行なうべきである。
1.都市再生のための税制
わが国の不動産税制の中には、バブル経済期までの一貫した地価上昇を背景に、投資抑制を目的とする税制が依然として残っており早急な見直しが求められるとともに、都市再生を促進する観点から不動産の有効利用と土地の流動化を図るための税制の構築が必要である。
(1) 不動産の有効利用・流動化のための税制の見直し
都市再生に資する大都市部での投資促進を図るため、過大な税負担となっている流通税をはじめとする以下の税制の見直しを行うべきである。
① 不動産取得税の廃止
② 登録免許税の手数料程度への軽減
③ 個人の長期譲渡所得課税の特例制度における税率の更なる軽減
④ 事業用資産の買い換え特例の繰延べ割合の100%への引き上げ
⑤ 住宅ローン減税の更なる拡充
(2) バブル期税制の撤廃
かつての地価上昇を背景に、土地の有利性縮減と投資抑制を目的とした下記税制が依然として残されているが、これらについては完全に撤廃を図るべきである。
① 事業所税の廃止
② 特別土地保有税の廃止
③ 不動産所得に係る借入金利子の損益通算制限の廃止
④ 法人の土地譲渡益重課の廃止
⑤ 地価税の廃止
2.証券市場活性化のための税制
株式の持ち合い解消など、株価押し下げ要因が憂慮される中で、預貯金に偏重した巨額の個人金融資産を如何に証券市場にシフトさせるかが重要課題となっている。企業が投資家からの信頼性の向上に努めるのは勿論のことであるが、税制面でも株式への投資意欲を喚起し証券市場全体の活性化を図るべく、下記の見直しを行なう必要がある。
(1) 株式譲渡益の申告分離課税の税率の引き下げ
申告分離課税(現行26%)は配当・利子に係る税率(20%)よりも高く、リスクテイクの度合いに合致しないため、これを10%程度に引き下げるべきである。
(2) 株式譲渡損失の繰越控除制度の創設
申告分離課税における現行の譲渡損益通算に加え、譲渡損失の繰越控除制度を創設すべきである。
(3) 投資信託に係る税制の整備
投資信託の源泉分離課税の仕組みを維持した上で、元本割れ等による損失が生じた場合、確定申告による他の株式譲渡益や投資信託運用益との損益通算や損失の繰越控除を認めるべきである。
3.創業支援のための税制
わが国における開業率は廃業率を依然下回っており、新しい産業と雇用を創出する確固たる足取りが充分に見えていない。新たに生まれてくるベンチャー企業群がわが国経済構造の変革を促すための税制の整備が必要である
(1) ベンチャー企業に対する投資促進のための税制措置
個人投資家のベンチャー企業への出資や株式取得を促すため、個人投資家が被った投資損失を他の所得等との損益通算および損失の一定期間までの繰越控除が可能となるよう、いわゆるエンジェル税制を拡充すべきである。
(2) 特定区域に参入する新設企業への税制措置
IT、バイオ、アニメなど新たな産業の集積を推進するため、特定区域に参入する新設企業に対する固定資産税などの減免措置を講ずるべきである。
4.国民から信頼される公平・適正な税制確保のための措置
現行の税制は、制度の設計や仕組み、徴税制度などの面で納税者に理解されにくくまた、「取りやすいところから取る」という不信感を納税者に与えていることも否定できない。今後、税体系の抜本的改革を推し進める際には、税務行政の信頼性を高め、「納めるべきところが納める」という公平・適正な税制への転換を図るべきである。
東京商工会議所