平成15年度税制改正に関する要望
東京商工会議所
基本的考え方
わが国の景気に「持ち直しの動きがみられる」という議論があるが、企業の設備投資や個人消費は依然として冷え込んでおり、特に中小企業は、長期のデフレや地域産業の空洞化などに直面し、底入れすら実感するには至っていない。今後、円高傾向や米国経済の回復力が懸念される中、景気の先行き不透明感は払拭できない。わが国経済を持続的成長路線に導くためには、早急にデフレを克服し、経済活力を取り戻すとともに、経営革新や技術革新に裏打ちされた企業の国際競争力を強化する必要がある。
平成15年度の税制改正に当たっては、経済活力・国際競争力強化のため、経営革新や技術革新に向けた企業の自助努力を支援する税制改正が必要であり、特に、地域経済の基盤を形成し、雇用の源泉である中小企業が、持ち前のフロンティア精神と創意工夫を発揮し、新ビジネス分野を開拓しやすい環境を税制面で整備する必要がある。他方、必ずしも収益の向上が見込めず、また、資産価格が低下傾向にある経済状況下において、損失の発生や資産価格の低下に適切に対処し得る環境を整備し、経営基盤の安定、強化を図る必要もある。
その意味で、企業の前向きな自助努力に抑制的に働く税制改正や単年度の税収中立にとらわれた税制改正は厳に慎むべきであり、財源確保といった狭い視点からのみ税制改正を考えるのではなく、経済活力・国際競争力強化という経済のダイナミズムを引き出す広い視点からの税制改正が強く望まれる。
また、歳出面についてもわが国経済を持続的成長に乗せるための抜本的な構造改革が必要であることも忘れてはならない。
東京商工会議所は、以上の観点から、今後の税制改正において、下記の諸点が実現するよう要望する。
要望
1.企業活力を促す法人課税制度の見直し
(1)外形標準課税の導入反対
法人事業税への外形標準課税導入の理由の一つとして、地方自治体の財政安定化があげられているが、所得を課税標準とし、実質的に応能負担の観点から課税が行われてきた法人事業税に、税収の安定確保という理由のもと、「本来は応益負担であるべきである」との考えから外形標準課税を導入することは、到底、容認できるものではない。応益負担という観点では、現状、法人は固定資産税・法人住民税均等割等により、既に多くの負担をしており、今後の改革に際してはそれらの整理こそが必要であるにもかかわらず、逆に新たな応益税を設けようとすること自体が不可解である。また、法人は、地域のサービスの受益者であると共に、従業員の雇用などを通じて、地域経済社会に大きく貢献していることを忘れてはならない。
一方、総務省案は、賃金等の付加価値等を課税標準とする内容であることから、企業の雇用や投資に抑制的に作用し、経済活力を削ぐ虞があるとともに、収益性の低い中小企業への課税強化となり、また、①付加価値に課税する消費税や②付加価値が配分されて株主、債権者、従業員の段階で課税される所得課税との二つのことからも二重課税であると言える。さらに、黒字企業の場合は、付加価値割の単年度損益が「所得」となることから、「所得」が二重に課税対象となってしまう。
他方、外形標準課税は「雇用、競争力に悪影響がある」として、ドイツでは「営業税」、「賃金課税」、「資産課税」を、フランスでは「職業税」、「賃金課税」をそれぞれ廃止している。
以上のことから、法人事業税については現行の課税方式を維持するべきであり、外形標準課税導入には反対である。
(2)中小企業投資促進税制の拡充
国内における設備投資を促進し、産業空洞化を防ぐためにも、中小企業投資促進税制を拡充し、中小企業者の取得する機械・設備等についての特別償却率(30%)及び税額控除率(7%)の大幅な引上げ等を図るべきである。
(3)成長産業分野投資及び高度情報化投資活性化策の導入
環境・バイオテクノロジー・ナノテクノロジー等、成長産業分野における潜在的投資意欲の喚起、及び事業革新の牽引車たる高度情報インフラの整備促進に資する下記の措置を3年に期間限定し、講じるべきである。
①新たな研究施設・設備に対する加速度償却又は即時償却の特例
②試験研究費に対する一定率の税額控除特例
③情報インフラ整備に係るハードウェアに対する加速度償却又は即時償却の特例
④外部発注および自社開発(販売用を除く)ソフトウェアに対する一定率の税額控除特例
(4)欠損金の繰越控除期間の延長と繰戻還付の適用等
企業損益の算出方法については、現下の経済状況および国際的な状況等に鑑み、損失や減価償却の処理を適切に行い企業の法人税負担を軽くすべきであることから、以下の措置を講ずることで適正に税務処理ができるように改めるべきである。
①繰越控除期間(現行5年)の10年への延長
②特定の要件を満たす企業を除き不適用になっている繰戻還付の適用
③減価償却制度の抜本的見直し
(5)留保金課税の廃止
同族会社への留保金課税制度は、法人形態と個人形態における税負担の差を調整するために設けられた制度と言われているが、企業活動の自由を過度に制約するものであり、中小企業の資本蓄積と発展を阻害するものとなっている。
また、法人税と所得税の最高税率の格差が大幅に縮小されている今日、存在意義そのものが既に失われていることに加え、法人税とは別に税を課すことから、明らかに二重課税である。
企業の発展に必要な設備投資や緊急の資金となる社内留保の蓄積に対して税が抑制的に作用しないよう、本来的には留保金課税の全廃が望ましいが、先ずは、資金調達手段の乏しい中小同族非公開会社に対して留保金課税を廃止すべきである。
(6)企業年金税制に係わる特別法人税の廃止
確定拠出年金の創設により企業年金制度再構築のための環境が整備されつつあるが、企業年金に係わる税制はまだ十分とは言いがたい。特に適格退職年金および確定拠出年金など企業年金の積立金に対して課せられる特別法人税(1.173%)は平成14年度まで凍結されることとなっているが、新しい企業年金制度への企業の機動的な対応と年金資産の安定的な運用のために、当該税は廃止すべきである。
2.経済活力に配慮した個人所得課税制度の見直し
(1)住宅税制の拡充
わが国の住宅ストックは質的に未だ充足されたとは言い難く、住宅の質的向上に対する国民の潜在的な需要は高い。また、今後、更に進む少子・高齢化や環境問題に対する意識の高揚などを踏まえると、バリアフリー化、省エネ化、耐震化のための建替えや改築需要の高まりが見込まれ、これらに対する税制の優遇措置は依然として必要である。現行の住宅ローン減税の恒久化とさらなる拡充、および住宅ローン利子所得控除制度の創設が必要である。
(2)証券税制の拡充
株式譲渡益課税については、昨年秋の税制改正で現行の源泉分離課税方式(売値の1.05%)が本年12月31日に廃止され、来年1月1日からは申告分離課税(譲渡益の20%)に一本化され、併せて、長期保有株式に係る譲渡益課税の減免措置等が施されることとなっている。しかし、このような一連の措置は内容が複雑で必ずしも投資意欲を促すに十分とは言い難い。
そこで、証券市場の本格的な活性化の起爆剤とすべく株式譲渡益に対する非課税措置を3年に期間限定し講じるべきであり、少なくとも、源泉分離課税方式を当面存続させるべきである。
また、「間接金融から直接金融へ」という大きな流れの中で、株式譲渡益に係る申告分離課税については、個人株主の拡大等、証券市場の拡大を図るため、申告分離課税への一本化がなされる際には、その税率を国税、地方税あわせて10%程度に引下げるべきである。
(3)エンジェル税制の拡充
創業・ベンチャー企業の投資促進税制を拡充するために、投資損失の他の所得との損益通算および損失の5年間(現行3年間)の繰越控除が可能となるよう、所謂エンジェル税制を拡充すべきである。
3.わが国の経済社会構造に対応した資産課税制度の整備
(1)住宅資金贈与に係る特例の拡充
現在、住宅取得に係る資金の贈与を受けた場合には、特例として550万円の非課税措置が設けられているが、住宅建築・取得・リフォーム及びこれらに付随する消費財購入に対する民間の潜在需要を集中的に喚起すべくこれを、適用期間を3年間に限定し、平均住宅取得額に相当する3,000万円程度に引き上げるべきである。
(2)固定資産税の負担軽減等
平成15年度に評価替えを迎える固定資産税制度については、長期にわたる地価の下落にもかかわらず、公示価格の7割評価を基に負担調整措置を図るという評価方法が採られており、商業地、特に都市部に立地する企業にとっては依然として過重な負担となっている。その結果、実効負担率(土地の時価に対する固定資産税額の割合)は、過去最高水準を更新する状況が続いている。
商業地等に係わる固定資産税については、実効負担率を評価額上昇以前の最高水準であり、また、地価税(平成10年以降課税停止)導入時の政府答弁において、固定資産税と地価税をあわせた妥当な負担水準とされた0.4%程度にするとともに、課税標準の算出方法を地価の動向に連動した簡素でわかりやすい方法に改めるべきである。
そこで、実効負担率を0.4%程度とするために、現行標準税率の1.4%を前提として、課税標準を時価(地価公示価格)の3割程度とする(1.4%×0.3≒0.4%)ことを考えるべきである。
(3)バブル期等税制の廃止
わが国の不動産に係る税制は、かつての地価上昇を背景に、土地の投機的取引の抑制等を目的としたものが残っており、その過重な負担が土地の有効利用や不動産への健全な投資による不動産の流動化を阻害しているため、以下の措置を講じるべきである。
①不動産取得税については、固定資産税の前取り的性格を有しており、現在のように固定資産税が高止まりしている状況ではその必要性は失われていることから、廃止すべきである。
②事業所税については、応益課税の観点からは、固定資産税等との二重負担であり、また、大都市での事業所の新増設を阻害するなどから廃止すべきである。
③特別土地保有税・地価税・法人土地譲渡益重課は、土地投機の抑制等を目的として創設されたものであり、資産デフレの状況下においては、廃止すべきである。
④登録免許税は、かつて手数料として徴収されていたものであり、本来の主旨に従い手数料化すべきである。
(4)都市再生のための優遇税制
「都市再生特別措置法」を有効に活用し、都市再生を強力に推進するために、都市再生緊急整備地域内での同法に基づく事業においては、事業区域からの転出者、土地や建物の取得者や事業者、開発後の入居企業や施設所有者などに対する税制上の優遇措置を講じるべきである。
4.消費税の免税点制度等の維持存続
そもそも免税点制度や簡易課税制度は、主に中小事業者の事務負担への配慮から設けられた制度であるが、中小事業者の中には、経理を専門とする社員のいないところもあり、免税事業者や簡易課税事業者の事務処理負担能力は依然として十分なものとは言えず、これまで通りの政策的配慮が必要であると考える。加えて、免税事業者は、デフレ経済が進展し、価格競争が激化している現状において、仕入に関わる消費税分すら販売価格に転嫁できていない状況もあり、こうした状況での課税事業者への移行は、当該事業者の収益を圧迫することになる。また、簡易課税制度は、これまでの二度にわたる見直しの結果、みなし仕入れ率の細分化により、ほぼ実態にあったものとなっている。
したがって、これらの制度を縮小・廃止することは、当制度対象事業者の事務負担を増大させ、経営に重大な悪影響を及ぼすことから、現行の免税点制度および簡易課税制度は、維持存続すべきであると考える。
5.事業承継円滑化のための税制の確立
中小企業は、多くの従業員の雇用を維持・創出し、事業の遂行により多くの付加価値を生み出しながら成長・発展しつづける継続事業体である。そのため、多くの場合、事業を展開していく過程で相続が発生することは避けられないが、相続とは言いながら、その実態は経営を継承することであって、財産の取得とは本質的に意味合いが異なる。むしろ、ただでさえ後継者への世代交代により経営者としての対外的信用力が低下して、先代から引き継いだ事業の維持が厳しくなるほか、相続税という資金負担が求められ、事業継続の基盤が損なわれかねない。
経済を活性化させて、わが国が将来にわたり持続的な成長過程を歩むためには、中小企業が、後継者への事業承継に腐心することなく、安心して、技術革新や新規分野へのチャレンジを図り、いかにダイナミックに発展を遂げられるか、さらには、後継者が経営資源を活かして新規事業を展開できるかにかかっている。
そのため、現行の相続税・贈与税を見直して、たとえ相続が発生した場合にも、過大な相続税負担により事業体を毀損することなく、円滑な事業継続、発展を可能とする新たな事業承継税制を、一刻も早く構築することが必要である。
(1)事業用資産に対する包括的な事業承継税制の確立
平成14年度改正において、取引相場のない株式等について、一定の要件のもと初めて相続税の課税価格の10%の軽減措置が講じられたことは、新たな事業承継税制の確立へ向けた第一歩として評価できるものである。しかしながら、わが国経済の持続的成長発展のためには、これにとどまることなく、現行の相続税・贈与税を見直し、中小企業の事業用資産(事業の用に供している土地・建物および未上場自社株式等)の承継については、本来非課税とすべきと考えるが、当面、欧州諸国の例に見られるように、5年程度の事業の継続を前提に、少なくとも課税対象額の5割を控除するといった制度を創設し、抜本的な事業承継税制の確立を図るべきである。
(2)取引相場のない株式の評価の更なる改善等
取引相場のない株式の評価については、平成12年度税制改正で、類似業種比準方式による評価方法がより収益性を加味したものとなるとともに、小・中会社の斟酌率の引き下げが行われたが、一部の収益性の高い企業については、株式評価額が改正前よりも上昇してしまうケースが見られる。
斟酌率については、会社の規模が小さくなれば、評価の不安定性の蓋然性が高まるとの考え方から、会社の規模により格差が設けられたが、会社の評価に伴う各種のリスクは、必ずしもその会社の規模に比例するものではない。このため、類似業種比準方式での評価に際しては、大会社・中会社ともに、小会社と同様に斟酌率を0.5とする等、取引相場のない株式の評価の更なる改善を図るべきである。
なお、本年4月より連結納税制度が導入されたが、連結法人の株式評価にあたっては、連結納税制度を選択したことが不利にならないよう、評価方式を検討されたい。
また、取引相場のない株式を物納する場合について、平成14年度税制改正において物納の要件およびその取扱いが明確化されたところであるが、依然として買い戻し条件がなければ事実上認められないことから、運用基準を緩和すべきである。
(3)相続税の累進税率構造の見直しと贈与税の基礎控除額の引き上げ等
相続税の最高税率は、諸外国と比べ著しく高い水準にあり、また、税率構造も極めて累進的であることから、経済活力の阻害要因となっている。
このため相続税と贈与税について、最高税率(現行70%)の50%への引き下げを含め、累進税率構造の緩和を図るとともに、贈与税の基礎控除額の引き上げを図るべきである。
なお、現在、政府税制調査会において検討されている相続税と贈与税の一体化については、制度の具体化にあたり、取引相場のない株式も対象とするなど、円滑な事業承継に資する制度となるよう、十分な検討が必要である。
東京商工会議所