会頭コメント

会頭コメント

政府税調「あるべき税制の構築に向けた基本方針」について

2002年6月14日
東京商工会議所

1.今回の基本方針は、戦後半世紀を経た税制の抜本的な改革として、21世紀前半をも視野に入れた「あるべき税制の全体像についての基本的な方針」を示したものとしているにもかかわらず、全体を通じて、財政再建の観点から、いかに税収を確保するかということに主眼がおかれたものとなっており、我々としては、到底賛成できない。
  日本経済が国際競争力を回復し、地域経済が再び活性化し、わが国経済が持続的成長軌道に乗るためには、まずは、景気を回復させ、経済を安定させることが何よりも求められる。税制改革は、新技術や新商品の開発、新規創業促進等のサプライサイドの構造改革を促進するとともに、冷え切った国内需要を喚起し、経済社会の活力を増進するための極めて有効な手段であり、「活力」の視点からの思い切った改革が必要である。
  また、財政収支に関しては、単年度ごとの税収中立にとらわれるのではなく、まずは減税を先行させて景気回復を図り、その後の税の自然増収で収支均衡を目指すなど中長期的な視野に基づくべきである。

2.法人事業税への外形標準課税について、「早急に導入すべき」と明記されたのは、極めて遺憾である。基本方針では、「外形標準課税を導入すると、法人所得課税の実効税率は下がることとなる」とあるが、外形標準課税は、所得以外の外形基準によって課税されることにより、特に現下の不況時においては、法人に対する課税の強化に他ならない。中でも長引く不況により赤字を余儀なくされている中小企業に対して到底負担できないような重税を課すとともに、黒字を計上している中小企業の多くに対しても増税となるものである。こうした税負担の増大を無視し、所得部分に係る税負担率の低下だけに着目して、法人所得課税の実効税率が下がるとするのは、国民に誤解を与えるものであり、到底納得できない。法人事業税への外形標準課税導入は、絶対に反対である。

3.消費税の免税点制度に関しては、デフレ経済が進展し、価格競争が激化している中で、小規模零細事業者である免税事業者は、仕入れに係る消費税分の価格転嫁さえ、より困難になっており、いわゆる「益税」どころか、むしろ「損税」となっているのが実態である。また、簡易課税制度については、これまでの二度にわたる見直しの結果、みなし仕入れ率は細分化され、ほぼ実態にあったものとなっている。したがって、これらの制度の見直しは、転嫁不能のコスト増を小規模零細事業者に強いるとともに、事務負担を増大させ、経営に重大な悪影響を及ぼすことから、現行制度を維持存続すべきである。

4.資産課税に関しては、相続税最高税率の引き下げや、高齢者の保有する資産の次世代移転の観点からの生前贈与の円滑化が盛り込まれたことは評価できる。しかし、事業承継税制について、この基本方針では一定の評価をしながらも、そのあり方を見直していくとしているのは、残念である。継続事業体である中小企業が、事業継続の基盤を損なうことなく、円滑に事業を継続し、成長・発展していけるよう、抜本的な事業承継税制を確立すべきである。

5.地球温暖化防止対策については、小泉内閣総理大臣の施政方針演説にある「環境と経済の両立」が重要である。現下の経済情勢においては、環境対策のための増税は産業の空洞化を加速し、国際競争力を削ぐことにもなりかねない。まず政府がなすべきことは、企業をはじめ、国民各層による自主的な取り組みを最大限に尊重するスタンスに立ち、京都議定書の締結によって、国民生活や経済活動においてどの程度の努力を行わなければならないかを具体的に明らかにし、その道筋を明確に示すことである。まず環境税ありきということであってはならない。

以上