東商からの重要なお知らせ

攻めの脱炭素事例集

金属製品製造業

省エネ診断と「攻めの脱炭素“塾”」によって
脱炭素化を推進する省エネ工場を建設

株式会社桑山

  • 東商脱炭素“塾

事業概要と取り組みの背景

富山工場での省エネ診断をきっかけに脱炭素化に注力

1964年の創業以来、「心と夢を、輝きでむすぶ - Brilliance Comes To Life -」というテーマのもと、貴金属チェーンやカットリング、キャスト製品、デザインチェーンなどの企画・デザイン、製造、販売をトータルに手がける桑山は、総合ジュエリーメーカーとして、国内トップシェアを誇る。オリジナル製品のほか、国内外の多数のジュエリーブランドのODM/OEM製品の製作を担い、高い評価を得ており、現在は、日本国内、タイ、中国に生産拠点を展開。すべての拠点でインゴットの溶解から製品完成まで一貫生産を行っている。

同社が脱炭素化の取り組みを始めたきっかけは、基幹工場の富山工場で省エネ診断を受けたことだ。同工場が所属する工業会で、診断費用を補助してくれる制度があったことから、2022年12月に診断を受けた。

日本を代表するジュエリーメーカーとして、海外でも高い評価を獲得する桑山

日本を代表するジュエリーメーカーとして、海外でも高い評価を獲得する桑山

取り組み内容

省エネ化を徹底した新工場建設へ

富山工場を対象とした省エネ診断では、多くの問題点を指摘され、様々な改善策を提案された。

一つは、一般的な工場に比べて、熱効率が悪いという点だ。

ジュエリー加工の工場内では集塵機を使用しているため、吸い込んだ空気を外に排出する際、気圧の関係でどうしても外気が入り込むことがその原因だった。エネルギー効率改善のためデマンド装置の導入等の提案を受けたが、富山工場は1970年竣工であり、インバーター式エアコンでないなどの理由で断念せざるを得なかった。

その他に提案を受けたシーリングライトのLED照明化については一部実行に移すなど、省エネ診断結果への対応を進めると同時に、当時富山工場の隣に建設予定だった第2工場と研究開発棟に関しては、徹底した省エネ化を図りたいと考えた。

そこで省エネ診断で得たアドバイスを取り入れた「省エネ工場」を実現するために、生産技術部を中心に工場建設プロジェクトが本格化。施工業者との打ち合わせを重ねていった。

総務人事部 次長 澤田太氏

総務人事部 次長 澤田太氏

東商脱炭素“塾”受講のきっかけ

富山での新工場建設準備が進む中、本社のある東京で、東商「攻めの脱炭素“塾”」が開催されることを知り、広く情報を収集し体系的に知識を深めて新工場建設に生かすため、生産技術部部長の田城彰氏と経営企画部特命担当部長の立道穂高氏が参加することにした。

塾は、「金属製品製造業コース(※2023年度のみ実施)」に参加。自社のCO2排出量の正確な現状把握と、実態に即した適切な削減計画の求め方を学ぶなど実践的な内容で、最新の補助金・助成金などの情報提供もあり極めて有意義なものだった。「カーボンニュートラル」や「脱炭素」という言葉の表面的な理解を超えて、客観的に自社の現状を見つめ新工場建設計画を含めた今後の方向性を定める絶好の機会となった。

生産技術部 部長 田城彰氏

生産技術部 部長 田城彰氏

成果と今後の展望

東商脱炭素“塾”受講の成果

省エネ最適化診断と「攻めの脱炭素“塾”」で得た知識とアドバイスを生かした第2工場と研究開発棟は2024年8月に完成。同年9月から本格稼働を開始した。「省エネ工場」の実現のために取り入れたことは主に5つある。

1つは、「照明のLED化」。ジュエリー製造では目視による官能検査が多いだけに、ちらつきのある蛍光灯では色味を正確に確認しづらいといった課題があった。それゆえ、LED化は脱炭素だけでなく、職場環境の改善や製品のクオリティ向上にもつながる。LEDの導入にあたっては、製品によって色や照度などの違いがあるため、生産に影響がない廊下から導入を開始。問題点を明らかにした上で最適なものを生産現場に設置した。 

2つめは、「エアコンのインバーター化」。インバーター搭載のエアコンを設置したことで、温度調節が的確にでき、快適かつ省エネとなる職場環境を実現した。

3つめは、「二重折板屋根の採用」。二重折板屋根とは、上下2枚の折板の間に断熱材を挟んだ屋根構造のことで、断熱性や遮音性が高い。これにより熱効率が上がり、エアコンによる電気使用量を抑えることができた。

4つめは、「集塵機排気の内気循環化」。指輪などを研磨する際、バフ粉が発生するが、このバフ粉には金やプラチナが含まれており、それらを回収し精錬することで、再び金やプラチナに戻すことができる。高価な原材料だけに、無駄にしないためにも集塵機が欠かせない。しかし、従来タイプでは外気が入りこみ、工場内の温度が上がったり下がったりして一定にならずエネルギー使用量も増えることから、同社初の内気循環タイプを導入し、職場環境の改善と原材料のリサイクルを実現させた。

5つめは、「デマンド装置の設置」。拠点ごとの電力使用量を把握するために、第2工場と研究開発棟のそれぞれにデマンド装置を取り付けた。

いずれも始めたばかりの取り組みで、明確な成果が出ているわけではないが、実感として十分手応えは感じている。今後は、ベースとなる初年度の数値を把握し、ベンチマークとした上で改善成果の測定や進捗管理に活用していく考えだ。

脱炭素化対策として天井に設置した熱交換器、ロスナイ(中央)とLED照明

脱炭素化対策として天井に設置した熱交換器、ロスナイ(中央)とLED照明

省エネ・脱炭素を追求した第2工場。職場環境が改善されて従業員からも好評

省エネ・脱炭素を追求した第2工場。職場環境が改善されて従業員からも好評

省エネ取組の他拠点への横展開と、地域連携による再生エネルギー活用の検討

新工場での省エネ化が順調に進んだことを踏まえ、元々の製造拠点である富山第1工場でも照明器具の全面LED化や断熱性能の向上、インバータ式エアコンへの更新など、省エネ対策を段階的に推進する計画だ。さらにジュエリー製造においてはバフ粉や切りくずも貴重な資源であることから、社内リサイクルを強化して一層の有効活用を図るなど資源循環を意識した取り組みも行っていく。その他、富山県が提案する地域でのグリーンエネルギー開発についても導入を前向きに検討している。富山県の地形条件を活かした水力発電など、再生可能エネルギーを活用し、将来的には工場全体の電力供給を水力由来へ切り替えることも脱炭素経営のシナリオのひとつと考えている。

生産技術部 部長 常務取締役兼管理 本部長 堀功氏

常務取締役兼管理本部長(現顧問) 堀功氏

これから取り組みを始める方へメッセージ脱炭素化することで企業価値を上げていく

脱炭素を進める大きな理由が2つあります。一つは、エネルギーコストの削減であり、明らかに経営上の効果があります。そしてもう一つは、環境への責任を果たすこと志向していくことで、同じ志をもつ取引先や地域の皆様との関係をより強固すること、だと考えています。これらは簡単に目に見えるものではないものですが、取り組む必要性は確実にあると思います。気候変動の影響が表面化している昨今、脱炭素の取り組みは待ったなしで進めるべきではないでしょうか。「この取り組みを進める先には、必ず成長がある」という強い信念を持って推進することが必要だと思います。

株式会社桑山 常務取締役兼管理本部長(現顧問) 堀 功

堀 功

私たちを取り巻く環境が目に見えて悪化していくと、脱炭素の取り組みは“推進”から“義務”にシフトするのではないかと懸念されます。そうなる前に、できるところから脱炭素化を始めることが大事。「何から始めればいいかわからない」事業者にとって、「攻めの脱炭素“塾”」は強い味方となるはずです。

生産技術部 部長 田城 彰

田城 彰

脱炭素化を進めていくにあたり、地域資源に目を向けていくことが今後より重要になっていくと思います。地域資源に光を照らしていけば、地球環境の保全だけでなく、自社のブランディングにもつなげられるかもしれません。当社でもそうした可能性を模索していきたいと考えています。

総務人事部 次長 澤田 太

澤田 太

株式会社桑山

本  社 東京都台東区東上野2-23-21
設  立 1970年
従業員数 1,237名(2025年3月現在)
事業内容 ジュエリーの企画・製造・販売

東京商工会議所事業の活用等

  • 2023年度東商脱炭素“塾”「金属製品製造業」コースに参加
     東商脱炭素“塾”とはこちら

取材:2025年5月

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