政策提言・要望

政策提言・要望

地域社会(コミュニティ)再生とその方向性~「健康なまちづくり」から「健康な日本」へ~

平成16年12月16日
東京商工会議所

(本文)

【1.はじめに】

 戦後60年を経過しようとしているが、わが国はこの間目覚しい発展を遂げ、人々は豊かな生活を享受するに至ったが、他方、科学技術の進歩と都市化の進展や社会構造の変化に伴う人々の行動様式の変化や価値観の多様化が進む中で、わが国の地域社会(コミュニティ)は、多くの大切なものを失ってきた。そのなかでも、大きなものは地域の伝統・文化を受け継いだ温もりや賑わい、そして何よりも安全・安心が確保される地域社会の基盤的機能の低下である。この原因としては、戦後の個人主義や自由主義的風潮の浸透に加えて、産業化・都市化と高度情報化、さらには核家族化と少子高齢化の進展など様々な要因が考えられる。その結果、日本人本来の美徳が失われ、教育の荒廃、犯罪の多発、地域住民間の連帯感の希薄化などの現象が露呈し始めている。
特に地方都市部における地域の防犯や環境、教育、文化面での都市機能の確保に主導的な役割を担ってきた中心市街地商店街の衰退は、これに拍車をかけている。

21世紀において「健康な日本」のさらなる飛躍のためには、基盤的機能を取り戻し、地域社会の再生を通じて、住民、なかでも若者が生まれ育った土地に愛着を持ち、誇りを持って仕事をし暮らしたいと思うまちづくりを進め、新時代にふさわしい地域社会を構築していく必要がある。
地域社会の再生を図るにあたっては、次の3点が重視されるべきであろう。

(a) 安全・安心なコミュニティづくり
(b) 住民の創意・工夫が活きるコミュニティ・ビジネスの育成
(c) 中心市街地に賑わいと潤いのあるコミュニティづくり

このうち(c)については、殆どの中心市街地の核となる商店街で衰退が進んでいることから、全国の商工会議所を挙げて強力に取り組むべき課題といえる。日本には約18,000ヵ所の商店街があり、その大部分が衰退に直面している。中心市街地が活力に溢れ、賑わいが醸成されていれば自ずから多くの人々が集い、触れ合いが生まれ、そこに地域の実情に合った文化も育まれ、潤いのある地域社会も再生することが期待される。但し、ここで言う中心市街地の再生とは、昔のままの賑わいを取り戻そうというものではないし、またそのことは不可能といえる。特に大都市部においては大規模な都市開発等により都市の構造が大きく変貌を遂げている。従って、ここで言う中心市街地に賑わいを取り戻すということは、時代の変化に即応した新しい都市計画構想に基づき形成される中心地域の賑わいの創造を含むものでなければならない。

地域社会の再生は、その構成員たる住民・企業の主体的な活動が中心になって進めなければならない。そして、そうした活動を成功に導くためには、まず地域社会共通の課題に対する問題意識を住民が共有することが第一である。また、志のある地域住民を中心とする民と地方自治体のパートナーシップが不可欠である。すなわち、総合的まちづくりビジョン作りの時点から地域住民や、NPO、TMO、民間企業そして地方自治体など多様な主体の参画と協働による、「参画協働型地域社会の再生」が目指されるべきである。
地域社会がその本来もてる多様な個性と伝統・文化を活用し、中心市街地に賑わいと潤いが回復すれば、安全・安心も確保され、多くの人々を惹きつけて離さない魅力的なまちづくりが実現する。そしてそれなくしては、「健康な日本」の創造はないともいえるのである。

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【2.現状と課題】

 コミュニティを支えてきた共通の価値観が変貌し、少子高齢化が確実に進行する中で、長期のデフレ経済や、モータリゼーションの進展、郊外宅地開発などを背景として中心市街地が寂れ、地域社会が崩壊しつつあり、その結果として次のような様々な社会問題が増大しつつある。

(a) 治安の悪化
(b) 青少年の非行の増大
(c) 高齢者が暮らしづらい街
(d) 子育て不安や幼児虐待
(e) 中心市街地商店街の衰退(空き店舗の増加)
(f) 景観・環境の悪化
(g) 伝統・文化の喪失
(h) 優良農地・田園景観の喪失

このうち、犯罪増加・治安悪化の主な要因としては、まず根深い問題として次の2点が指摘される。

(a) 地域社会における近隣関係の変化
(b) 共助精神や連帯感の希薄化

これらは、主に核家族化や少子高齢化の進展と戦後の個人主義・自由主義の恩恵の浸透により、町内住民間のコミュニケーションや良い意味での「おせっかい」が極端に減少していったためであり、例えば、町内における不審者のチェック、さらには子供たちに対する非行防止、高齢者や目上の人たちに対する礼儀あるいは躾といった従来地域のコミュニティが担っていた重要な役割が果たされなくなったことが大きな要因である。
さらに、最近の犯罪増加・治安悪化を加速化させているものとして、長期にわたる経済不況、外国人犯罪の増加、さらには深夜・早朝営業、24時間営業の増大による青少年の深夜徘徊の増加などが指摘される。

また、コミュニケーションやおせっかいの減少は、同時にコミュニティにおける共助も減退させており、子育ての不安を相談できる相手もなく幼児虐待が起きたり、独居老人の死が何ヶ月も分らなかったりという事例も見られるようになっている。もとより、核家族化や少子高齢化そして価値観の多様化は、元には戻せない現実であることから、昔の隣組のようなコミュニティに戻すことは無理である。しかし、少なくともお互いに助け合い支えあうことによって安心で安全な地域社会に再生していくためには、住民や事業者相互のコミュニケーションや良い意味での現代において必要と思われる住民同士の関わり方など新たなコミュニティ文化の再構築が必要と考えられる。そして、中心市街地の衰退の主な要因としては、次の点が指摘される。

(a) モータリゼーション進展下でのロードサイド型商業施設など、販売効率や集客上の便宜さだけで、地域社会や環境への影響に配慮を欠いた郊外立地
(b) 中心地の地価高騰などに起因する中心市街地から郊外への住み替えによる居住人口の郊外移転
(c) 地元商業者自身の郊外居住や高齢化に伴う後継者難などによる商業活動の衰退
(d) 行政機能の郊外移転など市街地の外延的拡大

もとより、こうした問題を引き起こしてきたのは、個々の事業者や消費者にとっては経済合理的な行動であっても、全体的な都市機能の発揮や環境の観点からは大きなマイナス効果をもたらしているといういわゆる「合成の誤謬現象」の結果である。また他方、中心市街地商店街の衰退については、消費者のニーズに合致した品揃えやサービス、さらには営業時間の延長など商店街側での努力が不足していたことも否定できない。2000年6月から施行されている「大規模小売店舗立地法(大店立地法)」は周辺の環境条件(交通渋滞=駐車場、騒音、廃棄物処理、荷捌き等)がクリアされれば大型店の開店は許されることになっている。このため、環境条件のクリアが比較的容易な郊外に大型店の立地が促進される一方で、中心市街地の核店舗であった大型店が閉鎖されるケースが目立っている。
こうして、大型店の郊外立地の影響を一因として中心市街地が衰退し、これに伴い地域社会が衰退し、伝統・文化の継続が困難となったり、治安や青少年問題など様々な社会問題が増大している。また、都市機能のスプロール化により既成市街地への官民投資が無駄になったり、大規模な農地転用や無秩序な郊外開発によって新たなランニング・コストが発生するとともに、良好な農地や田園風景が失われつつある。

以上を総括すると、戦後の様々な構造変化と経済効率優先主義を基調とする経済社会政策の実施により、従来、地域社会の安定や成長のため、その構成員が共同して対応してきた地域社会の基盤的機能(防犯力、危機対応力、地域教育力や文化維持創造力など)が弱体化を続けてきている。このため、治安の悪化、教育の荒廃や伝統文化の継承難など様々な問題が出ている。他方、これを公共部門(行政)によって対処することが求められることになるが、国も地方も財政難が深刻化しているのが実情である。従って、この問題を打開するには、地域コミュニティの基盤的機能を回復させる以外に道がなくなっているといえる。
コミュニティ再生への取り組みはすでに各地で始まっており、住民による主体的な取り組みが全国に広がっていくことが望まれる。特に、「健康な日本」を創造するためには、次のような方向でコミュニティの再生を進めるべきである。なお、その際、特に大都市部においては、中心部の再開発などにより住宅も高層化し、かつ住民もライフスタイルや価値観が多種多様な人々で構成されており、加えて住民の流動化も激しいことから、地縁による共同体意識をつくる契機に乏しい実情にある。このため、こうした地域においては共有できる趣味(例:ガーデニング)、共益的共同作業(例:清掃、朝市の開催)などを通じて触れ合いや交流を促進していくことも有効であろう。

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【3.目指すべき再生の方向性】

1.地域住民共同による安全・安心の確保
地域住民の安全と安心を確保することは地域コミュニティが果たすべき最重要の役割であるといえよう。現状は、犯罪は強盗・殺人などの凶悪犯罪が増加するとともに、犯罪発生率とそれに対する検挙率は共に最悪の傾向を強めており、かつては世界一と言われた安全・安心な日本は失われようとしている。治安悪化に対する住民の不安感が拡大しているのには、複合的な要因が絡んでいるが、特に少年犯罪(14歳~19歳)の影響が大きく、少年犯罪は圧倒的な件数に上っている。この急激な治安の悪化は社会システムに組み込まれた様々な抑止力の低下が大きな要因として指摘されている。なかでも地域社会の防犯力の低下が著しい。加えて、近年は地震や洪水などの自然災害も多発してきており、コミュニティとしての危機対応能力の向上が求められている。そもそも、地域のコミュニティは、従来青少年に対する社会教育、人間教育、躾の場として、また子育て支援や高齢者の介護、更には防災などに共同して助け合う共助の場として重要な機能を担っており、コミュニティの結びつきの再強化や、学校、家庭の力をより強化することによって対応する必要がある。
特に、安全・安心なコミュニティの再生には、次の点を中心に地域の力で犯罪を減らすことが基本的な戦略であるべきである。なかでも、「地域住民の連帯感の再強化」と、「健全な家庭の確立」は長期的な視点に立った取り組みが必要である。

(1)地域住民の連帯感の再強化
地域社会の連帯感が希薄化して近隣住民の交流が少なく、互いが疎遠・無関心な地域になりつつあり、これが犯罪増加の温床となっている。こうした中で、中高年層を中心に地域住民の間から、近隣の防犯連携やあいさつ運動など自然発生的に地域安全活動に取り組む動きが広がっている。このような地域住民自身が独自に防犯活動に立ち上がることなどによって地域住民の連帯感を回復させ、「犯罪は無理だと思わせる街」にすることが強く求められている。

(2)地方自治体の取り組み強化
従来、防犯は地方自治体の問題でありながら、警察当局の専管分野ということで、特に、市町村の一般行政部門において重要性の認識が薄かったことが指摘される。(財)日本都市センターの最近の調査では、約6割の都市自治体で「安全・安心」に関する相談・苦情があったという事実に対して、「安全・安心」に関する担当部課を設置している都市自治体は約3分の1であるという調査結果があり、地方自治体は安全・安心に対する取り組みを積極的に強化していくべきであろう。最近は、東京都や神奈川県などが警察出身者を副知事に迎え入れ、地方自治体として防犯推進体制を整備しているところもあり、こうした体制造りを一層広げていくことが必要である。

(3)住民、NPOなどボランティア団体と警察の協力
自治会・町内会・有志を中心として防犯活動を行うボランティア団体の活動が広がりを見せている。昨年、警察庁が行った実態調査によると、活動が月1回以上で、構成員が5人以上の防犯ボランティア団体は全国に約3000あり、約17万8000人が警察と協力して活動している。例えば、福島県では他県からの産業廃棄物投棄に悩まされていたことから、こうした場所に青年団や婦人会や消防団に対して福島県が監視を委託して不審者がきたら直ちに警察へ通報するようにした。また、小名浜の税関では周辺の漁協と協力して不審船や不審物の監視を委任し警察に通報するなど地域を自分で守ろうとするNPOが数多くできている。

(4)職域防犯活動の強化
業種や業態によって、犯罪発生傾向に格差が存在するが、その原因は多額の現金を準備しておく必要性がある業種・業態の場合、犯罪を誘引する危険性が高いにも拘らず、防犯設備や対策が弱いために、犯行を惹起し易い状況にあることを示している。例えば、警察庁の統計によると、深夜スーパーマーケットの犯罪件数(指数)は平成6年の100に対し、平成15年は403である。消費者金融も平成6年の100に対し平成15年は265である。また、駐車(輪)場は強盗から車上狙いまで犯罪が多く、自動車盗の全体の63%、オートバイ盗の47%、部品盗の70%、車上狙いの66%など、特定の犯罪が駐車(輪)場で多く発生している。このような業種では防犯体制の不十分なケースが多く、警察庁が出している職種に対応した防犯基準に沿うかたちで、職域ごとの防犯体制整備に経済界として取り組みを強化する必要がある。

(5)外国人労働者及びその家族への配慮
外国人の数は日本人と比べると圧倒的に少ないので、外国人犯罪の絶対数は少ないが、凶悪犯のなかで占める外国人犯罪の割合は高い。来日外国人の中には、日本人の無防備な隙を狙った出稼型犯罪も少なからず見られており、この対応策も必要であるが、少子化による労働力不足を補う外国人労働者の受け入れには、それが外国人犯罪の増加につながらないような対策が十分に考慮される必要がある。特に、言語や習慣も異なり、日本の生活環境に馴染めず、疎外されやすく、また、社会保障制度も利用困難な状況にあることから、教育や医療をはじめとする外国人労働者本人及びその家族への配慮など、きめ細かな対策が必要である。

(少年犯罪防止のための家庭環境の重要性の認識)
更に加えて、少年犯罪は社会全体で取り組む必要がある。なかでも、家庭が不安定になることが少年犯罪の根本的原因であり、親の権威は犯罪抑止のために重要である。親の権威や家庭の規範意識を高めるような本来の家庭像を再認識することが必要である。さらに、雇用の安定なくして治安回復はあり得ない。親がしっかりとした職業を持つことが少年犯罪を減らすために重要であり、健全な家庭と地域をつくり少年犯罪を未然に防止するためには雇用の安定が欠かせないことは言うまでもない。その意味で地域の雇用を支える中小企業の経営の安定は不可欠である。

2.住民の創意・工夫によるコミュニティ・ビジネスの活用
 コミュニティの再生には、基本的には、戦後、社会構造と価値観が大きく変化する中で失われてきた住民同士のコミュニケーションや触れ合いを活発化させることによって形成された共助(助け合い、支え合い)の精神を、新しい社会に対応した形で構築していくことが重要である。そのためには、イベントの開催や一定の目的に共感する住民同士による共同作業など新たな交流活動の展開が望まれる。
また、高齢者や障害者の支援、子育て支援、環境・美化対策、さらには特産品の販路の拡大など地域の抱える様々な課題の解決やニーズに対応していくため、地域の資源や人材を発掘・活用した住民の創意と工夫による自発的なコミュニティ活動が各地において拡大し始めている。このため、こうした自発的なエネルギーを開花・持続させる手法として、地域のニーズに敏感な生活者をベースにした「コミュニティ・ビジネス」の育成と普及が重要である。
このような動きはすでに、各地域で始まっており成功例も見られるが、コミュニティ・ビジネスは、本来ビジネスとして自立できることが望ましい。しかしながら、その事業自体は地域のニーズや課題に応えるものであっても、純粋のビジネスとして採算性に乏しいため、地域の定年退職者や若者など地域住民のボランティア活動によって支えられる事業も多く、事業主体はNPO法人や任意団体であるケースも多い。こうした事業に対しては地方自治体等の公的部門による人材、資金、場所の提供などの支援が必要とされる。地域住民による地域貢献型事業の代表的な事例としては、大別すると次のようなものがある。

(1)地域ニーズ対応貢献型事業
コミュニティ・ビジネスの手始めは地域住民が、通常の民間ビジネスによっては充足されない地域のニーズに対して、自分たちでできること、奉仕精神で立ち上げる「ボランティア事業」である。これは、子育て後の女性や、退職した中高年男性、学生などの小さな創業者による地域に根ざしたビジネス活動である。例えば、多摩ニュータウンの空き店舗を拠点にした、中高年男性達による地域への環境情報サービスや、学生ベンチャーのパソコン教室、横浜のNPO法人による商店街空き店舗を利用した子育てサービスなどがある。

(2)住民の能力、経験活用型コミュニティ支援事業
企業がOB会を設けて、災害ボランティア活動などの地域貢献を行うケースや、退職した高齢者がNPOを形成し、現役時代の経験や知識を生かして中小企業支援や海外ボランティア、さらには地域の課題解決に取り組む事例が増えている。間近に迫った、全国800万人規模の団塊世代の退職時期を前に、このような動きはさらに活発化すると予想される。例えば、三井物産のOBは独自に「経営支援NPOクラブ」を結成し、販促や販路開拓などを中心に中小企業の経営支援を行っており、栃木県の鹿沼商工会議所などの協力を得て地域コミュ
ニティへの浸透も図っている。

(3)まちづくり型のTMO、NPOが主導する地域住民の視点に立つ事業
量から質へと消費者の価値観が変化する中で、NPOやTMOが中心となり地域住民の視点に立った店舗経営や、地域交通システムの整備などに取り組む動きが広がっている。例えば、長野市ではダイエーが撤退したビルの1階にTMO(まちづくり機関)の認定を受けた(株)まちづくり長野(長野商工会議所や商店主で構成)が「TOMATO食品館」を出店し、中心市街地の活性化を目指している。また、三重県四日市市では地域住民が事業主体になったNPO法人「生活バス四日市」がお年寄りや主婦を主な対象に駅や病院、店舗などを直接結ぶ市民共同バスを運行している。

(4)健康志向の自然との共生型事業
高齢者の増加や生活の成熟化から、健康な暮らしへのニーズが高まりつつある。このニーズに対応したコミュニティ・ビジネスは主婦を中心とした天然素材を使ったケーキなどの食品の製販、商店街全体での地域健康サービス、生ごみの肥料化による農産地との共同ビジネスなど自然との共生がテーマになる。例えば、山形県長井市では商店街が生ごみを収集・肥料化して農村に提供し、できた有機野菜などの安全農産物を買入れて販売している。

(5)伝統・文化を重視した地域資源活用型事業
日本各地には古いまち並みや歴史的施設、美術館、伝統職人などの地域資源が数多く存在しており、これらをコミュニティ・ビジネスの核にするとともに、歴史的景観の整備も目指す活動が広がっている。例えば、滋賀県長浜市の中心市街地にある「黒壁ガラススクエア」は地域住民の手によって開発され、平成14年度は年間210万人が訪れ、中心市街地の再生モデルの1つとなっている。

(6)特産品による地域ブランド戦略事業
従来は、個々の生産者に委ねられていた地域の特産品を、「地域ブランド」として育成し全国に売り込むと共に、観光振興にも役立てる地方自治体主導のコミュニティ・ビジネスへの取り組みも広がっている。例えば、青森県は同県産の農林水産物の認証制度を導入し、品質を保証すると共に、東京飯田橋にアンテナショップ「北彩館」を開き、同県産品の販売を支援している。工業分野では東大阪商工会議所と東大阪市が同市所在の高い技術力とユニークな工業製品を持つ中小企業を「きんぼし東大阪」企業として認定する共に、ホームページや冊子によって認定企業を海外に紹介し国際的な販路開拓の側面支援を行っている。

3.都市計画的ビジョンに基づく行政主導のまちづくりの必要性
中心市街地再生は、これまでに述べた住民主導の取り組みのほかに、地方自治体が積極的な役割を果たすことも重要になってきている。すなわち、地方自治体の役割は地域住民のコミュニティ再生活動を後方ないしは側面から支援するだけではなく、地域全体のまちづくりの基本ビジョンの策定やそれに基づく中心市街地再生のための規制、インフラ整備等に必要な資金助成がすでに始まっており、このような動きがさらに全国に広がっていくことが望まれる。

(1)中心市街地への商業施設の誘導
中心市街地再生の取り組みとしては、街並みの中の商業空間を維持するために、地方自治体が条例で低層階に店舗設置を義務付ける特別用途地区を導入する動きが見られる。例えば、東京都杉並区は荻窪駅北口地区を「にぎわいの芯」と位置づけ、「低層階商業業務誘導地区建築条例」を2003年11月に制定した。これは「まちづくり3法」の一つである改正都市計画法で2001年5月から導入された特別用途地区制度を活用したもので、マンションなどの建築制限を加えることで、商業施設などの立地を誘導し、街並みにおける商業景観の連続性を確保することが意図されている。同様な取り組みは京都市でも見られ、建築基準法に基づいて建物の用途を制限する条例によって、御池通の沿道両側を特別用途地区の適用区域として、この通りにふさわしい商業施設の集積を誘導し、賑わいのある街並みの形成を目指している。

(2)商業ゾーニングによる大型店の出店誘導と規制
さらに、大規模小売店舗立地法では、大規模小売店(大型店)の無秩序な立地に歯止めをかけることはできないため、店舗面積に制限を加える「商業ゾーニング」導入の動きも広がってきている。京都市、金沢市に次いで、兵庫県尼崎市が2004年3月に改正住環境整備条例を制定した。「まちづくり3法」の抜本的見直しが必要であるが、この自主条例に基づく商業ゾーニングはそれまでの過渡的な取り組みとして有効性が期待される。
尼崎市では、工場跡地への大型店の無秩序な立地が相次いでいることに対して危機感を強め、まちづくりの観点から大型店の出店抑制のためのゾーニングが必要と判断し、尼崎市としての商業立地ガイドラインを纏め、その運用のために条例を制定した。この商業立地ガイドラインは、市内を8種類のゾーンに区分し、各ゾーンごとにまちづくりと商業集積の方向性を示し、大型店の誘導・規制を行っている。
さらに、欧州では都市計画的な視点から法律や条例による大型店の立地をゾーニング規制する流れが主流であり、特にドイツは大型店の立地について近隣市町村間の広域的調整を行っている。わが国でも、このような事例を参考にまちづくりや中心市街地再生の観点から、広域調整による大型店の出店のあり方の枠組み造りも必要である。
また最近では、わが国においても県が大型店の立地について広域的に調整する仕組みを作ろうという動きが出ていることは好ましいことである。大型店は住民にとって必要なものであり、中心商店街もまたコミュニティの維持のために必要である。このため、大型店の立地調整は、大型店の排除ではなく中心商店街と大型店との共生を目指したものでなければならないし、調整の理念も地域の住民が理解し納得してもらえるものでなければならない。例えば、判断基準としては、環境(マイカーを利用する消費者の長距離購買型集客方式をとる大型店の郊外立地は、CO2抑制による環境対策や大量の人の流れの変化と都市機能全体に及ぼす影響から見て適切なのか―など)や高齢者問題(お年寄りも車で郊外に買物に行かなければならなくなることは良いことなのか)など、広域的な都市計画ビジョンから評価して、必要な規制規準の採用が求められる。

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【4.地域社会再生の具体的提言】

地域社会の再生には3つの切り口から具体的施策を提言する。

1.安全・安心な地域社会づくり
安全・安心な地域社会づくりのためには、地域住民の自覚と連携並びに行政との協力ともに増加傾向にある少年犯罪と外国人犯罪への対策が急務といえる。このため具体的対策として、以下の点を提言する。

(1)地域住民の自主努力及び地方自治体・警察当局との協力による犯罪防止活動の強化
街頭犯罪や窃盗などの侵入犯罪は日頃の住民による防犯連携が大きな抑止力となる。住民と地方自治体や警察との連携による防犯活動の強化に取り組むことが必要である。また、地域の特性に応じて、防犯灯や防犯カメラの整備、家屋への警報機設置などハード面からの防犯環境整備も進めるべきである。

(2)地方自治体の「安全・安心」への取り組み体制の整備
都市自治体を中心に「安全・安心」への取り組みが遅れており、この体制作りを早急に整備する必要がある。具体的には、都市自治体内に、地域の安全対策を策定し、住民に「安全・安心」の確保・啓発を行う専門担当部課を設置すると共に、「安全・安心まちづくり条例」の制定を通して、具体的な規制や防犯体制の整備に取り組むべきである。

(3)家庭の躾や教育の強化と雇用の安定
少年犯罪は家庭、学校、地域社会の対応を強化することによって改善できる。このため、まず、健全な家庭の重要性と家族の価値観を再認識することが必要である。またそれらを支えるために雇用の安定がはかられる必要があり、政府は経済運営や地域経済の振興のために、取り組むべきである。

(4)企業による外国人労働者への支援
特に、外国人労働者は、子弟の教育や家族の医療問題で困難に直面しているケースも多くみられるので、雇用を行なっている企業を中心に、国及び地方自治体の協力を得て、子弟教育など外国人労働者の家族への支援を強化することが望まれる。

2.住民の創意・工夫が活きるコミュニティ・ビジネスの育成
官民協力したコミュニティ・ビジネスの育成のための支援の取り組みが重要である。しかし、コミュニティ・ビジネスには、

(a) 市場のニーズと収益性があり工夫や努力によって将来自立したビジネスが展開できるもの
(b) ビジネスとして自立することはできないが、それが存在することによって、例えば高齢者や障害者にやさしい商店街になるといった公共性の高い効果が見込まれるもの、
(c) ビジネスとして自立することよりも地域の住民や企業の人たちにまちの再生やまちづくりのあり方について考えるきっかけづくりを目指すもの、

など多様な形態がある。このため、地方自治体や商工会議所の支援内容も、例えば、

(a) については、ビジネスの立ち上げと自立までの支援、
(b) については、行政と連携して人材、資金、場所などの提供を継続して支援、
(c) については、市民を巻き込んだ研究会などの設置と、共同事業の展開
など、一律ではなく、コミュニティ・ビジネスの性格に応じて適切な支援を行う必要があろう。

(1)人材育成への支援

事業主体としては、女性、若者、中高年者が多く、企業経営に関してのノウハウの研修や提供などの支援が必要とされるケースも多く見られる。また、まちづくりや特産品の開発などに関しては、コーディネーターやタウンマネージャーなど仲介支援者の発掘・支援とともにインキュベーションや事業連携などの支援機関も必要であろう。このため、地方自治体が中心になって、人材育成機関の設立などの支援も考慮すべきであろう。

(2)資金不足への支援

コミュニティ・ビジネスは、通常の起業と同様に、初期投資や運転資金の調達が困難である場合が多くみられることから、既存の金融機関などの融資に代わる、コミュニティ・ファンドの充実も必要であろう。また、採算のとれないコミュニティ・ビジネスに対しても、国や地方自治体は、コミュニティ再生という長期的視点に立った経済支援を行うべきである。なお、コミュニティ・ビジネスの円滑な遂行に必要なインフラなどの環境整備事業に、PFI活用も有効であろう。

(3)施設不足への支援

コミュニティ・ビジネスを起業する場合、特に福祉関連の地域貢献型事業においては施設の確保に苦労することが多くみられる。このため、商店街に於いては空き店舗などの提供を、国及び地方自治体に於いては学校跡地などの公共施設をコミュニティ・ビジネスへの施設の提供に活用すべきであろう。

3.中心市街地に賑わいと潤いのあるコミュニティづくり

変革のためには市民が自分のまちに誇りを持ち、文化の創造や継承に生きがいを持つ必要がある。まちづくりの担い手は市民であるが、商工会議所や行政の役割も大きい。行政の役割としては次の点を中心に、中小企業4団体(日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会、全国商店街振興組合連合会)の「まちづくりに関する要望」(2004年7月26日)並びに東京商工会議所の「地域の力によるコミュニティ再生に関する提言」(2004年4月8日)の実現が望まれる。

(1)「まちづくり3法」の抜本的見直し

競争一辺倒による「まちづくり3法」は全国の中心市街地の疲弊を深刻化させ、地域の伝統・文化が衰退、治安や青少年問題が悪化し、高齢者にとっても暮らしづらい町になっている。このような状況を踏まえ、政府・与党は、衰退した地域社会再生のために、以下の点を中心に現行制度の総合的、抜本的な見直しを行うべきである。

(a) 土地利用に関するタテ割り行政の弊害を排する
(b) ヨーロッパ諸国の制度も参考に、都市と農村を通じて公共的な見地に立ったゾーニングなどの計画的な土地  利用制度を確立
(c) 大型集客施設の立地に関する広域調整の仕組みを創設

特に、中心市街地衰退の主因は、土地利用についての国のこれまでの施策の不十分さと地方自治体の覚悟の無さにある。国は地方自治体が取り組む土地利用に関する諸事業の後ろ盾となるよう、例えば大阪商工会議所の「大阪における小売商業活性化政策に関する要望」(2004年7月20日)で提言されている「まちづくり基本法」の制定の検討など、一層の取り組みが必要である。また、地方自治体は、土地利用に関する広域調整や円滑な土地利用に資する地籍調査の推進などによる強力な取り組みが必要である。

(2)立地企業と地域との共生によるまちづくりの推進

地域社会の再生を図るためには、住民、事業者、行政などが連携・協力し、それぞれの立場で社会的責任を果たすことが不可欠である。この視点に立って、チェーン店等においては、地域におけるインフラ整備、防犯・防災活動、地域の歴史的・文化的なイベントやコミュニティ活動、まちづくり活動に積極的に参加・協力して、地域社会と共生しながら、地域の商慣習、伝統、文化に沿った形でビジネスを展開されることが強く望まれる。
なお、大都市圏の繁華街では、風俗店の進出が問題となっているケースも見られる。このため、魅力的なまちづくりには、誘導・抑制したい業種・建物・景観などについて、商業者をはじめとする事業者・住民・地権者など「まちづくりの主体となる者」の合意づくりが重要である。

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【5.商工会議所の役割】

 商工会議所の立場は地域に根差した集まりであること、そして、その会員企業は中小企業が多いこと。さらに、経済団体として行政への政策提言能力も有していることにある。このように会議所は「まち育て」の中核であり、コミュニティの「結節点」としてまちづくりの側面的な支援や環境づくりに積極的な役割を果たしていくべきである。特に会員企業に対し社会貢献活動の一層の推進や社員のコミュニティ活動への参画が行いやすい環境の整備を提唱していくべきであろう。
また、コミュニティの再生とまちづくりは、コミュニティを構成する住民、企業など全ての人々の問題であることから、それを自分達の問題としてとらえ、解決策を考え実行していかないと成功しないことは言うまでもないが、商工会議所は特に地域の活性化のために、様々な仕掛けづくりに取り組んでいる。例えば、足利商工会議所が次のようなプロジェクトに取り組んでいる。

(a) 地域づくりや業界振興に取り組む意欲あるグループを応援する「まちおこし探偵団事業」を展開
(b) 新ファッションタウン構想の推進のための「足利ブランド・ニューデザインコンクール」の開催
商工会議所は、全国で多数のコミュニティ・ビジネスの振興やボランティア活動に対する支援にも取り組んでいる。例えば、まちづくり支援としては東京商工会議所が次のようなプロジェクトに取り組んでいる。

(a) まちづくり支援組織・地域創造センター(仮称)の具体的事業展開
(b) 警視庁との安全・安心まちづくりに関する定期的な情報交換会の設置
(c) 落書き消しを推進する「コミュニティ・クリーン・プロジェクト」(仮称)推進
商工会議所の警察や防犯協会との連携による犯罪防止活動への取り組みとしては、次の3つの分野がある。

(a) 各業種や各業界団体の協力による固有の犯罪防止対策の実施(バス、タクシー会社の営業車を活用したパトロールの実施など)
(b) 事業所という一つの活動単位、集団に着目した防犯活動の推進(事業所単位での従業員による見廻りの実施など)
(c) 地域住民と一体となった防犯活動(住民全員参加による防犯当番員制度の実施など)
このような、商工会議所の具体的取り組みの代表事例は別紙の通りであるが、今後さらに、全国の商工会議所において地域住民や自治体との結節点として、特に地方自治体と強力なタッグを組んで、地域再生計画や構造改革特区の活用を含め、地域社会再生に向けて積極的な活動を展開していくことを期待するものである。

<商工会議所の主なコミニティビジネス取り組み事例>(PDFファイル:15.4KB)