政策提言・要望

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政策委員会提言:『少子化問題とその対策について ~「出産・子育てに優しい経済社会」の実現に向けた戦略~』

2003年6月12日
東京商工会議所

 

提言

【1.少子化対策の重要性】

  少子化は、高齢化の着実な進行も併せ考えると、今世紀にわたり我が国の経済・社会に国力低下や安全保障上の問題等で、未曾有のインパクトを与えることが確実である。したがって、少子化対策は我が国の最重要課題であるといえる。しかしながら、少子化はすでに1970年代前半にはじまり、その後90年代に入ってからは政府も様々な対策を講じてきたが、出生率の低下はその後も加速し、2001年には1.33を記録している。これは我が国の少子化対策が個別分野での対応にとどまり、抜本的な対応が行われてこなかったことが大きな要因である。この反省に立ち、少子化対策を国の重要戦略と位置付けて、これに本腰で取り組むことが必要である。
 我が国がこれまでの人口増加を前提とした経済・社会システムのままで、急激な人口減少社会へ突入することの混乱を避けるためには、少子化対策として二つの課題に対応していく必要がある。一つは人口の急激な減少に歯止めをかけ、出生率を高めていくという課題であり、もう一つは経済・社会システムを人口減少社会に適応するものへと変えていくという課題である。
第一の課題については、若い世代に「結婚し、子供を持ちたい」という欲求が広く存在するにもかかわらず、現実には「未婚化、晩婚化」が進んでいる実態には目を向けるべきである。すなわち、少子化対策として、家族を持ちたいという願望を阻害している経済的・社会的要因を解決し、家族や子育てを大切にしたいという価値観を実現できる「出産・子育てに優しい経済社会」を政策目標とするべきである。
第二の課題については、少子化対策として、21世紀半ばには確実に到来する人口減少社会への備えをいまから講ずることが併せて必要である。それは、「出産・子育てに優しい経済社会」を実現したとしても、我が国の経済社会が成熟化するなかで、再び出生率が人口を増減なく維持できる2.0以上に回復することは極めて困難であると予想されるからである。このため、人口・労働力の増加を前提とした現在の経済・社会システムを早急に見直し、労働政策、社会保障制度、教育政策等について多面的な見地からの構造改革に着手することが必要である。例えば、人口減少社会では、労働人口の減少による総GDPの縮小が予想される。これに対しては、外国人労働や女性・高齢者労働力の一層の活用などが検討されるべきである。一方で、人口の減少や地域への分散により、都市部において混雑の緩和、職住接近等、全般において、ゆとりがある生活環境となる面もあるので、その価値を生かすことも考慮する必要がある。我が国の経済全体のパイを拡大するというこれまでの前提を離れて、国民一人ひとりの豊かさを維持・拡大する視点がより重視されるべきである。

【2.少子化の要因について】

 少子化の背景としては、次のような多様な要因が指摘できる。

① 未婚化・晩婚化(30~39歳女性の未婚率は1975年13.0%⇒1995年29.7%、パラサイト・シングル現象など)
② 夫婦の出生力の低下(結婚しても子どもを作らない、欲しくても子どもができないなど)
③ 男女雇用機会均等法による女性の就業率上昇・男女賃金格差の縮小(20~24歳女性の労働力率は2001年75.1%、女性の経済的自立で結婚する必要性が低下、妻の出産退職が生活水準の低下につながるなど)
④ 出産による退職後、再就職する場合の不利益(35~44歳女性の労働力率は2001年66.4%)
⑤ 厳しい経済環境(長時間労働、有給休暇を取る余裕がない:1人当たり平均8.8日で6年連続減少、不安定な雇用情勢など)
⑥ 日本的雇用環境(有給休暇を取る事について職場の理解が得られない、同僚に迷惑をかける、昇進に影響する、収入が減少し家計に影響するなど)
⑦ 育児休業の活用が不十分(1999年度の育児休業取得率:女性56.4%、男性0.55%)
⑧ 出産・育児の経済的・精神的・体力的負担感(育児不安、児童虐待など)
⑨ 保育サービスの不足(保育所、学童保育など)
⑩ 育児・教育費の負担大(子供1人で大学卒までに2000万円必要)
⑪ 生活環境の悪化(狭い住居、小児科医の減少、学校の減少など)
⑫ 家族の価値観の希薄化と高齢者による幼児教育の減少(核家族化の進展など)
⑬ 子どもの健康、情操、教育問題、住環境、就職など将来に対する不安
⑭ 仕事優先の価値観・人生設計
⑮ 自分の時間を優先する価値観(結婚や出産・育児で自由な生活を犠牲にできない)
⑯ 「少なく産んで立派に育てる」という傾向の強まり

【3.現在の少子化対策の問題点】
 日本社会全体が出産、育児に理解を示し、協力するシステムを構築し、それを着実に実行することにより、急激な少子化傾向を食い止めることが必要である。厚生労働省の「少子化対策プラスワン」はその方向に向けて具体的な施策を示したものとして評価される。但し、以下の問題点を指摘したい。

(1)国民の理解を求めるためのPRが不十分である。
(2)育児休業取得率の目標設定など、企業への期待は中小零細企業に負担が大きい。
(3)総花的であり、プライオリティを付けて重要なものから着実に実行するべきである。
(4)対策が厚生労働省の権限内に限定されており、政府一体の総合的取り組みが必要である。
(5)目標となる社会ビジョンを提示するべきであり、そのビジョンと政策との整合性の検証が必要である。
(6)財政的な裏付けがはっきりしていない。
(7)具体的施策の策定には若い世代を参加させ、彼らの意見を基に策定されるべきである。

 さらに、将来の人口減少社会への備えとして、現在の人口・労働力の増加を前提とした経済・社会システムを抜本的に見直すことが必要である。それを基に、50年先を見通した我が国の長期的ビジョンを国民に提示するとともに、政府内に「少子化対策担当大臣」を置き、長期アクションプランに基づき、構造改革を着実に実行して行くことが必要である。
 しかも、この少子化対策は、行政、地方自治体、企業が一体となって、社会全体で知恵を出し合い、役割を分担し積極的に実行することが大切である。すなわち、行政は50年後の我が国の経済・社会ビジョンを掲げ、地方自治体、企業はそれぞれの立場から、地域コミュニティーとの連携を持って、その実現に取り組まなければならない。中でも、行政や地域が強力なリーダシップを発揮することが求められる。

【4.少子化対策の具体的提言】

<短期的対策>

(1)「子育てと仕事の両立」への支援
 男女を問わず、自己実現や経済的理由などのため、働くことが子供を産み、育てることの障害とならないように対策を講じるべきである。そのためには、就労形態の多様化や就労時間のフレックス化など、日本的雇用における意識改革が重要である。保育サービスの面では、画一的なやり方ではなく、親の事情や考え方にあわせて柔軟に選択できるシステムを整えるべきである。広く民間企業や地域社会、NPOなどの力を活用することも重要である。

 ①保育所の整備・充実
 待機児童ゼロの早期実現と、低コストで利用でき、しかも働く女性のニーズにあわせて延長保育などの木目細かな保育サービスを提供する保育所の整備・充実が、特に都市部や都市部への通勤者が多い郊外市町村で必要である。その際、利用者のニーズに合わせた認可基準の緩和は必要であるが、保育の質を維持することも肝要である。具体的な方法としては、認可保育所で対応するほか、幼稚園の預かり保育の充実、現在東京都などで行っている認証保育所の制度を全国に広げる方法、企業内保育所の設置を税制上の優遇策によって支援する方法などが考えられる。また、競争原理を導入して、サービスの充実や利用料金引き下げを促進すべきである。さらに、ベビーシッターの利用に、国または自治体がバウチャー・システムなどによって、回数を制限の上で費用の一部を負担する制度なども併せて検討されるべきである。
 ②幼稚園・保育所の制度一元化の推進
少子化の進展に伴って幼稚園に通う幼児数は減少している一方で、保育所については年々入所希望者が増加し、待機児童の問題が生じている。働く母親の増加に伴い、利用者のニーズに対応したサービスを提供するとともに、待機児童ゼロ作戦を実行するため、幼稚園における預かり保育の充実を図ることが求められている。また、保育所においても、幼稚園におけるのと同様の幼児教育の実施を求めるニーズも存在しており、障害となる規制を緩和し、制度の一元化によって幼稚園と保育所の一体的運営を推進すべきである。
 ③託児所や保育所などの第3者評価機関の設置
 子供の保育に関わる専門職の質や保育環境を均一な水準に保つための仕組みが必要である。このため、託児所や保育所などの施設を定期的にモニタリングし、チェック項目に基づいて評価する中立的な立場の評価機関が設置されるべきである。例えば、民間からの出資をもとにしたNPO形態で、「子育て支援オンブズマン(仮称)」を設置することを提案したい。NPOによる運営により、会計などの情報開示の透明性や、中立的立場が確保され、信頼できる評価機関として積極的な取り組みが期待できる。
 ④学童保育の充実
 就学前の保育のみならず、小学生が授業終了後の時間を過ごす学童保育についても、設置数を増やすとともに、延長保育を拡充するための措置を講ずるべきである。
⑤保育士の資質の向上
 これからの保育士には、子どもを安全に預かることに加え、子どもに将来の学習の土台となる力を身につけさせることや、親が子育てに自信を持てるようにすることなど、様々な専門的な技能が求められる。保育士の再教育プログラムを充実させるなど、保育士の資質の向上を目指すべきである。
 ⑥親が働いている子どもの病気への対応の充実
 子育てと仕事とを両立させる上で、大きな問題となるのが子供の病気である。そのための施設として病児保育所があるが、設置されていない市町村も多く、その充実が望まれる。病児保育室での保育のほか、登録制のヘルパーが子供の看病をするような柔軟なシステムの整備も望まれる。また、子供が病気になった場合、両親のどちらかが休むことができる看護休暇を充実させるために、看護休暇のための公的給付制度の検討も期待される。
 ⑦病院の小児科削減への歯止め
 病院の経営効率化から、小児科を削減・統合する動きが進行しており、子育ての不安感を高めている。行政は重大な関心と責任を持って、この病院の小児科削減に対して、小児医療に対する診療報酬単価の引き上げ等何らかの歯止めを講じるべきである。例えば、計画的かつ効率的な小児科の運営を行政が指導することも必要である。また、病気にかかる率が高い小学校就学までの医療費の無料化も検討されるべきである。予防医学の観点から、病院の小児科の医師が各保育所などへの訪問医療することも検討されるべきである。
⑧育児休業制度の見直し
 現在(1999年度)0.55%の男性の育児休業取得率を、「少子化対策プラスワン」の目標数値10%へさらに上昇させるには、企業の相当の協力が必要である。その際、従業員が育児休業を取得する企業に対する助成金の支給などが検討されるべきである。特に、中小企業に対する支援策(人員確保、コスト対策など)が必要である。また、休業中の所得補償のあり方、育児休業中も生涯研究が必要な専門職ではインターネットなどを使った研修ができるシステム作り、復帰後の仕事量に対するワークシェアリング制度導入なども検討されるべきである。
 ⑨子育てのための時間確保の推進
 子育て期間中の時間外業務の縮減、育児短時間勤務制度、育児休業を時間単位で取得する仕組み(有給休暇の時間単位の取得など規制緩和や育児休業を利用した短時間勤務など)、子どもの夏休み等に合わせた長期休暇の制度化などが必要である。
 ⑩女性労働力の活用
 出産を機に能力のある女性が退職し、キャリア中断を理由に同等の条件での職場復帰を困難にするような雇用慣行を一日も早く是正する必要がある。育児のための退職者への再就職支援、出産後のスムーズな職場復帰の支援、中途採用市場の整備、非労働力化した女性に対する職業教育への支援などが必要である。
 ⑪結婚の環境作り
 我が国では出産の98%は婚姻内という実態を鑑みて、まずは結婚生活を楽しめるような環境を作り、未婚化・晩婚化に歯止めをかけることも期待される。そのためには、長時間労働や有給休暇が取得できないような働き方を改め、個人生活を楽しめる時間を作る施策が検討されるべきである。その一つの方策として、明るい自由時間を増やすサマータイム制度の導入なども、仕事優先の人々の価値観を変えるという意味で検討が期待される。

(2)「子供を持つことの経済負担」の軽減
 国が子供の育成に責任を持つという観点から、子どもにかかる費用について、出産から奨学金制度までの一貫した体系的な支援策が検討されるべきである。さらに、教育費を引き下げることも重要である。特に、大学在学中の子供を持つ親の負担が大きいのでこれを軽減すべきである。

 ①児童手当の充実や扶養控除の見直し
 児童手当制度は、子供の数によって誰もが等しく享受できるように改めるべきである。給付額(第1子、第2子は月額5千円、第3子以降は月額1万円)を増やすとともに、親の所得による支給制限を撤廃した制度に改めるべきである。また、扶養控除についても、子供1人につき38万円とするのではなく、第2子、第3子と子供の数に応じて1人当たりの控除額が増額される仕組みを導入すべきである。
 ②高等教育への奨学金制度の充実
 奨学金制度の充実に加えて、新たな貸付制度の導入、企業の育英基金とそのための税制面(税控除等)での支援等が必要である。そうした環境整備により、親の学費負担が軽減されると同時に、子どもが自ら学費を負担することで、学習意欲が高まるという効果も期待できよう。
 ③年金制度における子育ての評価
 子供を育てた人は、老後保障にそれなりの優遇があって然るべきである。子育てのために仕事をしていない期間を一定の収入があったものとして年金加入期間に算入する、子どもの数に応じて年金給付額に差をつけるなど、年金制度において子育てを評価することについて検討すべきである。

(3)子育て不安の解消
 核家族化の中で薄れつつある祖父母の協力の代わりになる高齢者とのつながり、子育てをしている親同士のつながり、良きアドバイザーとしての子育てを経験した人とのつながりなど、地域において、気軽にいつでもコミュニケーションがとれる仕組み作りによって、親の子育て不安を解消していくことが必要である。

 ①「集いの場」の形成促進
 家族や隣人とのコミュニティーによる子育てが失われつつあり、様々な人との関わりを通じた人格形成や社会性の醸成などが行われなくなっている現状を鑑み、これに代わる町会のような小さな「集いの場」の形成が促進されるべきである。特に、子供を持つことへの不安を解消するのは、地域の先輩達のアドバイスが有効である。保育士など有資格者とともに、高齢者のボランティアの協力などで、小さなコミュニティー作りの促進が望まれる。その際、きっかけづくりとしてはインターネットの活用も効果的であろう。
 ②複数世代の同居家族促進
 二世代、三世代が近くに住むことで、家族の支えあいの機能を復活させる方向も検討すべきである。多世代同居型の住まいづくりに、住宅ローン優遇などの公的インセンティブ供与による促進策が検討されるべきである。
 ③NPOによる子育て支援促進
 子を持つ親が子をこれから持とうとする夫婦に対して子育てについてアドバイスをしたり、定年退職者が地域社会の子育て世代の支援を行ったりできるような制度作りが検討されるべきである。このような子育て経験者からなるNPOの柔軟性のあるサービスや情報の提供活動に対して、政府による支援策が検討されるべきである。

(4)「地方での特別な問題点」とその解決策
 各自治体が「産みやすく、育てやすい環境」を創意工夫により構築することは、自治体の魅力、競争力に繋がることが認識されるべきである。また、各自治体の魅力を引き出すための取り組みを支援する仕組み作りも必要である。さらに、地方での就業、子育ての環境を整備して地方への移住を誘導するべきである。

 ①女性の地域定住化の促進
 地方では若い女性が都市に移り、地元に残る男性の結婚難という状況も生じている。地方における女性起業の支援、新たな地場産業の創出、豊かで魅力ある地域作り、安心して安全に暮らせ地域作りなど、女性の地域定住化の促進が必要である。
 ②農業の近代化
 地方の魅力を高め、若い世代が住みつづけるようにするためには、農地の定期借地権化や農業への株式会社の受け入れなども効果があると思われる。

<中・長期的対策>
(1)「子供を産み、育てる」価値観の育成
 まず、「出産・子育てに優しい経済社会」の実現が、わが国の重要な課題であるという認識を広めることが必要である。社会的な経済優先の考え方を含め、変えていく必要があり、長期的に取り組むことが必要である。その際、結婚や出産は個人の自由に当然のことながら委ねられるべきであり、国や社会の干渉を極力排除する配慮が必要である。

 ①結婚や子育ての楽しさを伝える
 若い人達に見られる自分達の生活や時間を子育てに優先させる考え方や家族の価値観は、家庭や学校での教育や大人の生き方が反映されたものでもある。学校教育や地域での活動、職場などの様々な場面で、子育てを通じて親が成長する様子や、子どもの面白さ、育児の楽しさの伝達する機会を作っていくことが推進されるべきである。学生の地域活動への参加促進や、乳幼児に接する機会を学校生活に組み込むなど、異年齢間の交流を推進するべきである。
 ②結婚や子育ての社会的意義を認識する
 将来の親となる世代が出産・子育ての社会的意義について認識し、責任感や誇りを持って子育てや教育ができるようにすることも重要である。そのためには、出産前後の親のための学習会などのほか、地域や職場などの人が、子育て中の人を評価し応援する姿勢も重要である。

(2)少子化を含めた日本社会の長期ビジョンの策定
 少子化社会のプラス面、マイナス面を充分吟味した、50年先の豊かで活力ある日本社会の将来設計としての「長期ビジョン」を政府が国民に示す必要がある。すなわち、一概に少子化イコール望まざることと限定せず、過去の歴史的な視点からも考察し、人口減少と少子高齢化時代の到来により、我が国が遭遇する新しい社会構造のグランドデザインやビジョンを長期的な視点に立って描くことが重要な課題となろう。そのビジョンを踏まえて、少子化を前提としても活力を失わない社会・経済の仕組みや政策を講じることが重要である。

(3)多様な労働力の活用
 将来の労働力不足に対応するための制度改革や雇用慣行の見直し、さらに外国人労働者受け入れのための制度やインフラ作りなどを視野に入れた労働力の安定確保が検討されるべきである。

①女性の労働力化
 女性の就業率が子育て期(25~39歳)に大きく落ち込む、M字型パターンの解消がまず目指されるべきである。この年齢層の就労希望率は高水準であるにもかかわらず、育児との両立が困難なために就業を諦めているのが実態である。前述した保育所の充実や短時間勤務制度など、子育てのために仕事を辞めなくてもすむ環境づくりが最優先されるべきである。さらに、子育てを終えた女性を労働力として生かすことも必要である。これは、この層の殆どが一旦キャリアを中断したという理由でもとの職場に復帰できず、生産性の低いパート労働に甘んじているのが実態である。このような再就職の障害を取り除くことが必要である。このためには、政府が提案する、性別に関わりなく、能力と仕事内容に応じた報酬体系を基本とした、効率的で多様な男女共同参画型の働き方を実現することが必要である。企業においても、旧来の雇用慣行や仕組みで不合理となった部分を精査し、例えば、パートタイマーの処遇改善、短時間正社員制度の導入などにより、働き方を変えていく必要がある。
 ②高齢者の労働力化
 高齢者の労働力化のためには、「高齢者」の定義を弾力化し、年齢中立的な社会制度を再構築することが検討されるべきである。すなわち、現在の高齢者の定義は65歳以上という年齢による定義になっているが、これを「高齢者は労働市場からの引退者」と再定義することである。こうして、健康で労働意欲があれば、その能力に応じて何歳でも働き続けることができる環境を作りだし、これに対応して退職金や年金の支給開始年齢を上げていくように、雇用・社会制度を再構築することが検討されるべきである。
 ③外国人労働力の選別的受け入れ増大の検討
 女性、高齢者の労働力強化策と平行して、外国人労働力の選別的な受け入れ増大策が検討されるべきである。「選別的」とするのは、未熟練の外国人労働者の急激で野放図な増加は、国内治安などの問題の他に、我が国の産業構造に3Kを残存させることが懸念されるなど、さまざまな問題を生じると予想されるからである。従って、諸外国の例を参考にして、混乱が生じない様に対応すべきである。外国人労働力の活用を考える時は、高度なスキルを有する者などに極力限定することが必要である。ただし、これから需要の増大が予想される看護・介護、メイド、建設工事などの分野では、二国間協定に基づき、受け入れ業種・職種や人数の上限など一定の条件を課すと共に、滞在期間中の管理の徹底などを条件に、受け入れを検討すべきである。

(4)社会保障給付費の高齢者と子どもの比率の見直し
 我が国の社会保障制度においては、年金や医療など高齢者関係への給付が多い一方で、子どもに関する給付は、欧米先進国と比較しても遅れている。社会保障給付費の中で、高齢者人口の増加に伴って高齢者関係給付の伸びが近年顕著であり、子どもへの給付が一層抑えられてしまうと、少子化が一層加速することも懸念される。従って、年金・医療制度改革において高齢者に対する給付額を削減するとともに、子供を持つ家族、特に若い世代に対する支援を増額し、社会保障給付の子育て支援比率(1999年度の給付費に占める高齢者対策予算は67%に対して児童・家庭関係は3%)を10%(スウェーデン並み)まで増加し、高齢者対策から少子化対策にウェイトをシフトする措置が講じられるべきである。

(5)職住接近の環境整備
 通勤時間の短縮など、子育てと仕事の両立の観点から都市再開発や都市活性化策を通して、職住接近のまちづくりが積極的に推進されるべきである。都市再開発に当たっては、子育てする上で住みやすいかどうか、環境面での配慮を十分に行い、ファミリー向けの良質な住宅供給を促す施策も必要である。

【5.商工会議所の役割について】
 商工会議所の立場は地域に根差した集まりであること、そして、その会員企業は中小企業が多いこと。さらに、経済団体として行政への政策提言能力も有していることにある。このような会議所の「結節点」としての特徴を鑑み、少子化に対する商工会議所がとるべき施策は次の点であり、「できることから始める」ことが肝要である。


① 少子化対策の重要性を訴えるキャンペーンの展開
② 国・地域の取り組みへの支援と必要な対策の提言
③ 職住接近のまちづくり
④ 会員企業の問題提起への解決策策定と提案
⑤ 情報提供(パンフレット制作配布、シンポジューム開催、ホームページの運営等)
⑥ 企業経営者の啓発・意識改革の推進
⑦ 中小企業の少子化対策ハンドブック(中小企業の工夫事例や公的助成の活用法など)の作成
⑧ 育児休業期間の代替要員人材バンクの整備・紹介事業
⑨ 育児休業制度利用に伴う中小企業の負担軽減策の策定
⑩ 育児支援設備の運営事業を推進
⑪ 育児休業の取得や長時間労働の解消などについての啓発活動
⑫ 男女共同参画支援施策としての各種講座(お父さんのための家事講座シリーズ、家庭にやさしい企業育成講座など)の開催
⑬ 会員中小企業に少子化対策の基本方針を提示する

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所