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平成16年度税制改正に関する要望

2003年9月11日
東京商工会議所

基本的考え方

バブル崩壊後10年余を経た今日もなお、わが国経済は景気低迷の渦中にある。株価は一時的に持ち直し傾向にあるものの、依然として地価は継続的な下落傾向にあり、厳しい雇用情勢のもとで個人消費は低迷し、日本経済は真性のデフレスパイラルの状況に陥りつつある。
このような状況を打破するためには、企業の経営革新や技術革新に向けた自助努力が必要であることは言うまでもないが、政府においても日本経済が非常時であることを強く認識し、財政、税制、金融のあらゆる政策手段を講じるべきである。官民一体となったこうした取組みが、経済のダイナミズムを引き出し、わが国経済の持続的な回復への足取りを確かなものとする。
税制面では、平成15年度税制改正において、研究開発税制や設備投資税制をはじめとして民間需要を引き出すため数々の減税措置が講ぜられたが、厳しい景気実態を踏まえ、今後もその一層の拡充あるいは時限措置の恒久化を図るべきである。とりわけ総需要拡大のキーファクターとなる個人消費を喚起するとともに、景気に対してマイナスに作用する資産デフレを解消するための税制を重点的かつ集中的に実施すべきである。
他方、わが国が直面するグローバル化、少子高齢化、技術革新の進展といった中長期的な経済社会の変化が、日々の企業活動や個々人のライフスタイルに及ぼす影響は少なからぬものがある。現在のわが国社会を取り巻く閉塞感を払拭し、企業や個人の活力を引き出していくためには、このような環境変化に対して明確な政策やビジョンを示しそれを着実に実行していくことが必要である。
特に税制が企業活動や個人の生活行動に及ぼす影響は大きい。企業や個人が新しい分野に果敢に挑戦し、努力した者が報われる、真に豊かで活力溢れる社会を実現するため、既存の税制の姿を検証し、新時代にふさわしい税制を構築していく必要がある。
東京商工会議所は、以上の観点を踏まえ、平成16年度の税制改正において、下記の諸点が実現するよう要望する。

要望



Ⅰ.景気回復のための緊急対策と資産デフレ対策

デフレを克服し、一日も早い景気回復を目指すことがわが国の最優先課題である。そのためには財政・金融・税の各政策を総動員することが必要であり、税制面では土地や株式などの資産デフレを解消し、景気回復の鍵を握る個人消費をはじめとする国内需要を喚起するための思い切った措置が必要である。

(1)住宅税制の拡充

平成15年度税制改正では、相続税・贈与税の相続時精算課税制度の創設により、生前贈与の非課税枠が拡大されるなど、住宅取得資金を確保しやすくする措置が講じられた。
今後、更に進む少子・高齢化や環境問題に対する意識の向上などを踏まえると、バリアフリー化、省エネ化、耐震化のための建替えや改築需要の高まりが見込まれることから、住宅への潜在的な消費や投資を顕在化させるための下記税制措置が必要である。
①今年末で期限切れとなる住宅ローン減税の3年間の延長と拡充。例えば2戸目住宅等への適用拡大や中古住宅の築年数に関わる条件緩和など。
②今年末で期限切れとなる居住用財産の買換えに伴う譲渡損失繰越控除制度の3年間の延長。
③今年末で期限切れとなる特定の居住用財産の買換え特例の3年間の延長。
④住宅ローン利子所得控除の導入(現行住宅ローン減税との選択制)。
⑤住宅その他の建物に対する消費税のゼロ税率の適用。

(2)株価浮揚のための税制

証券税制については、平成15年度改正で一定の整理・合理化が図られたが、より一層、個人投資家による株式への投資を促進し、株価浮揚を図るため、緊急対策として例えば今後3年間に取得した上場株式等を対象に下記の措置を早急に講じるべきである。
①上場株式等に係る相続税評価を1/2に軽減。
②所得税・住民税の譲渡益・配当の非課税。
③上場株式等の譲渡損失について給与・事業所得を含む他所得との通算を可能とすること。

(3)固定資産税の負担軽減等

土地に係る固定資産税のあり方については、与党3党の平成15年度税制改正大綱において「今後の土地を巡る諸情勢や地方税体系全体のあり方等を踏まえつつ、幅広い観点から、直ちに具体的な検討を進めるもの」とされ、平成16年度改正の重要課題と認識している。
現状では、長期にわたる地価の下落にもかかわらず、現行の評価方法においては、特に大都市の商業地等を中心とした負担感が依然として高止まりしており、土地に係る固定資産税の見直しは急務である。
そこで、過度な負担を廃し適正な負担水準にするため、固定資産税の実効負担率を評価額上昇以前の最高水準である0.4%程度にするとともに、課税標準の算出方法を地価の動向に連動した簡素でわかりやすい方法に改めるべきである。
そのため、実効負担率を0.4%程度とするため、現行の7割評価を基とした複雑な課税標準算出方法に代え、課税標準を時価(地価公示価格)の3割程度とすべきである。

(4)土地税制の見直し

平成15年度改正において、登録免許税、不動産取得税の税率の引下げ、特別土地保有税の課税停止、事業所税の新増設分の課税廃止等、バブル期税制の大幅な見直しが行われたが、依然として土地取引に係る諸税の負担は過重である。そこで今や存在意義の不明確な税制は廃止し、不動産取得・保有・譲渡に伴うコスト引き下げを通じて土地取引の活性化を図るため、下記の措置を早急に講じるべきである。
①不動産取得税・事業所税の廃止。
②今年末で停止期間が期限切れとなる法人土地譲渡益重課の廃止。
③今年末で期限切れとなる長期所有土地等から土地・建物等への事業用資産の買換え特例の3年間延長。
④登録免許税の手数料化。

Ⅱ.中小企業の経営基盤の維持・強化のための税制

地域の中小企業の多くは、長引く景気低迷や途上国の生産技術の向上などによる追い上げ、あるいは事業承継問題に直面するなど、近年に例を見ない厳しい状況にある。中小企業がわが国のものづくりの基盤を支え、次代を担う起業家を育む苗床となり、長い歴史に培われてきた地域の町並みやコミュニティーの核であり続けるため、その経営基盤を維持・強化する税制措置を講じるべきである。

1.企業経営をより安定化させるための税制措置

(1)中小同族非公開会社に対する留保金課税の廃止

留保金課税については、平成14年度、平成15年度の税制改正において、一部の企業に対する課税停止措置が講じられた。しかしながら、中小企業の資本蓄積と発展を阻害していること、法人税とは別に税を課すことから明らかに二重課税であることに加え、法人税と所得税の最高税率の格差が大幅に縮小されている今日、制度そのものの存在意義が既に失われている。
企業の前向きな社内留保の蓄積に税が抑制的に作用しないよう留保金課税は、資金調達手段の乏しい中小同族非公開会社については廃止すべきである。

(2)中小企業投資促進税制の延長と拡充

中小企業の設備投資意欲を促し、国内産業の空洞化を防ぐため、今年度末で期限切れとなる中小企業投資促進税制を延長するとともに、その拡充を図るため以下の措置を講じるべきである。
①税額控除の適用対象企業を「特定中小企業者等(資本金3000万円以下)」に限定せず「中小企業者等(資本金1億円以下)」にも拡大すべきである。
②機械・設備等に対する特別償却率(30%)及び税額控除率(7%)を大幅に引上げるべきである。
③中小企業の環境対策や省エネに配慮した設備投資に対する税制措置を新たに検討すべきである。

(3)費用性の明らかな支出に対する課税の見直し

平成15年度税制改正において交際費課税の損金算入の特例が拡充されたが、企業において社会通念上必要な費用や業績拡張に資する透明性の高い費用については、私的な饗応などいわゆる一般的にイメージされる接待費と一線を画し、一定の要件のもとで、損金算入枠を設けることで、企業経営の実態に即した税制措置を講じるべきである。

(4)消費税の免税点制度、簡易課税制度の維持存続

平成15年度税制改正で免税点制度、簡易課税制度の適用上限が引き下げられたが、多くの中小事業者が販売価格に消費税分の転嫁ができていない、あるいは事務処理負担能力が必ずしも十分でないなどの現状を考慮し、両制度は今後も維持存続すべきである。
また、今回の改正の対象となる事業者が制度改正に適切に対応できるよう、現在実施中の消費税円滑化対策事業の終了後も必要な措置を講じるべきである。

2.事業承継円滑化のための税制

(1)事業用資産に対する包括的な事業承継税制の確立

平成14年度税制改正で取引相場のない株式等についての相続税の課税価格の計算の特例が創設され、平成15年度税制改正においてはその内容が拡充されたことは、かねてから商工会議所が主張してきた包括的な事業承継税制の確立へつながるものとして評価するところである。
しかしながら、そもそも事業用資産は、企業が継続的に活動していくための基本的な基盤であり、そこに一般的な相続財産と同様の担税力を見出して課税することは適当ではない。事業の承継とは、継続的に活動している企業の経営そのものを引き継ぐことであり、事業用資産の相続は、一般的な財産の相続とは本質的に意味合いが異なることから、相続税の課税対象とすべきではない。
このため、相続により承継される事業用資産については非課税とすべきである。その実現へ向け、平成16年度税制改正にあたっては、少なくとも欧州諸国の例に見られるように、5年程度の事業継続を前提に課税対象額の5割を控除するといった制度を現行制度との選択制のもとで創設し、過大な相続税負担により事業体を毀損することなく円滑な事業の継続、発展を可能とする税制の構築を図るべきである。

(2)非上場株式に係る譲渡益課税の税率の軽減等

事業承継は、継続事業体として成長・発展を続ける企業の経営の継承であることから、中小企業の承継は必ずしも相続によるものばかりとは限らず、第三者が後継者として事業を引き継ぐこともありえる。この場合、事業の承継は、経営権の譲渡、すなわち株式の譲渡によることとなるが、その際、譲渡益が発生する。
株式譲渡益課税については、平成15年度税制改正において、上場株式等の税率が縮減されたが、非上場株式については見直しが行われていない。相続によらない中小企業の事業承継の円滑化を図るため、非上場株式の譲渡益課税の税率を10%に軽減すべきである。
あわせて、相続人が相続税の納税資金確保のために会社へ自己株式を売却した場合、現行では、上場株式は譲渡益課税されるのに対し、非上場株式はみなし配当とされて総合課税されており、納税しようとする者に対して過重な税負担となっている。このため、非上場株式の会社への売却について、上場株式と同様に譲渡益課税とすべきである。

(3)取引相場のない株式の評価方法の改善

取引相場のない株式については、評価の不安定性の蓋然性の観点から、会社の規模に応じ斟酌率に格差を設けて評価を行っているが、会社の評価に伴う各種のリスクと会社の規模の間には相関性はない。このため、現行では大会社・中会社・小会社ごとに定められている斟酌率を小会社の0.5にあわせるなど、取引相場のない株式の評価の更なる改善を図るべきである。
また、平成13年以降、企業組織再編成にかかる税制の見直しが行われてきたが、株式の評価において企業組織を再編成したことが不利にならないよう、評価方式を検討されたい。

Ⅲ.わが国の経済社会の変化に対応した税制

政府税制調査会の中期答申では少子高齢社会に対応した税の将来像が示されたが、少子高齢社会を支える財源確保という色彩が濃く、国民が抱く将来の税負担や社会保障負担増に対する不安はむしろ高まっている。今後、こうした不安を払拭するためには、加速する国際競争に伍していくための環境整備、少子化のなかで次代を担う子供を育む世帯や雇用の担い手となる女性への支援策、そしてベンチャー・新規創業を促す仕組みなど、税制上の措置を幅広く講じていく必要がある。

1.企業の活力・国際競争力の維持・強化のために

(1)法人実効税率の引き下げおよび法人事業税への外形標準課税の廃止

わが国の法人税の実効税率は、累次の税率引き下げにもかかわらず、欧州ならびにアジア諸国と比較すると依然として高い水準にある。今や企業が国を選ぶ時代であり、国内産業の空洞化を防ぐためにも、更なる法人実効税率の引き下げを行うべきである。
また、平成16年度から資本金1億円超の法人を対象に法人事業税への外形標準課税が導入されることとなったが、当所が従来から指摘してきたとおり制度そのものに様々な問題がある。従って本来的には廃止すべきであるが、少なくとも今後、対象範囲が資本金1億円以下の中小企業に拡大されるべきではない。

(2)欠損金の繰越控除期間の延長と繰戻還付の適用

企業損失の算出方法については、現下の経済状況や国際的な状況等に鑑みる必要がある。損失や減価償却の処理を行った後の企業の法人税負担を軽減するため、さらに企業再生への取り組みを支援するため、以下の措置を講じるべきである。
①繰越控除期間(現行5年)を10年に延長すべきである。
②繰戻還付制度の停止措置は早急に廃止して本則に戻すとともに、期間の大幅な延長(現行1年)を図るべきである。
③企業再生に取り組む企業に対しては、再生支援のため抜本的な税制措置を講ずべきだが、当面、期限切れ欠損金や資産の減損部分の損金算入を大幅に認める等の措置を講じるべきである。
④設備の使用実態に即した耐用年数の見直しや残存価額制度の見直し等を含め、減価償却制度を抜本的に見直すべきである。

(3)地球環境問題への対応

温暖化ガス排出に課税する環境税を導入しようとする動きがあるが、これは、環境意識の高まりに乗じた便乗増税であり、政府の進める構造改革の本旨に反するものである。政府の地球温暖化対策推進大綱では、ステップ・バイ・ステップのアプローチをとることになっており、税や課徴金は、第一ステップの取り組みを評価・見直したうえで検討されるべき対策である。また、現下の経済情勢において新たな税負担を課せば、政府が明言している「環境と経済の両立」を実現することは到底不可能となる。わが国だけが国際競争力の低下を余儀なくされるような税の安易な導入はするべきではない。

(4)固定資産の減損会計への対応

現在、企業会計基準委員会において固定資産への減損会計適用に向けた準備が進められているが、当所ではその導入に関しては強い疑念を有しており、慎重かつ多面的な検討を要望しているところである。その根拠のひとつとして、そもそも現行の法人税法上、原則として固定資産の減損損失の損金算入が認められていないという問題がある。この解決なくして減損会計を適用することは、固定資産を売却して実現損失として損金算入する方が税制上有利となり、各企業は減損対象の固定資産を処分することを急ぐことになる。買い手がほとんどいない現状でそのような状況になれば、わが国の不動産市場は機能しなくなる惧れがある。

2.わが国の社会構造の変化に対応した税制の見直し及び課税環境の整備等

(1)子育て支援の税額控除制度とパート就労に中立的な配偶者控除制度の実現

次世代の担い手である子供の扶養へ配慮することを目的に、育児世帯への経済的な負担を軽減すべく給付面での手当てとともに、税額控除制度を創設するなど国税、地方税双方あわせた税制面での措置も講じるべきである。
また、パートタイムで働く主婦の多くは、配偶者控除の適用、社会保険料の免除、さらには企業の配偶者手当の支給などを受けるために、年収や労働時間の調整を余儀なくされている。こうした状況は働く主婦にとっては自由な就労環境とは言えず、企業にとっても計画的な雇用を行うことができない。
こうした問題を解決するために税制面については、配偶者控除は存続するものの、例えば所得要件を撤廃し、所得の多寡にかかわらず配偶者控除ができる(但し、夫婦いずれか一方に適用)ようにするなど、就労が税によって抑制されないよう制度を改めるべきである。

(2)個人所得税の累進税率構造の緩和と課税最低限の引き下げ

政府税調の中期答申は、個人所得税の空洞化を解消し、基幹税としての機能を回復するため、特別控除や非課税措置を縮小、整理し、「広く薄い」税とする必要を指摘している。しかし、課税最低限を引き下げるだけでは、「広く厚い」税になりかねない。個人の働く意欲を引き出し、経済活力を高めるため、累進構造を緩和して中高所得者層への負担の偏在を是正したうえで、景気が持続的成長軌道に乗った段階で課税最低限の引き下げを行い、より広く薄い税とするべきである。

(3)創業・ベンチャー企業支援のためのエンジェル税制の拡充

わが国経済の活力を将来にわたって維持・強化していくためには、ベンチャー企業や新規創業の存在が極めて重要であり、個人投資家の投資意欲を高め、リスクを軽減するエンジェル税制の拡充が必要である。平成15年度税制改正において、ベンチャー企業への投資額を他の株式譲渡益から控除する特例の創設とともに適用要件が一部緩和されたが、以下のような一層の制度拡充が必要である。
①投資時点での一定割合の税額控除を認めるべきである。
②売却時点での譲渡損失や会社解散に伴う損失が発生した場合、他所得との通算を可能とするとともに、損失の5年間の繰越控除を認めるべきである。
③売却時点で譲渡益が生じた場合、非課税とするべきである。
④制度の利用率を高めるため、申請手続きの簡素化をはかるべきである。

(4)納税者番号制度の導入と総合課税制度の検討及び公示制度の見直し

課税に対する不公平感を是正し、徴税の公正化を確保するために、納税者番号制度の早期導入に向け、検討を進めるべきである。あわせて、将来のわが国税制や国民負担を考える上では、総合課税制度の是非や税と社会保険料との一括徴収について検討すべきである。
また、公示制度については、納税意識の高揚、税務調査技術の進歩など制度創設時と現在では納税環境は大きく変化しており、プライバシーの侵害など弊害を指摘する声もある。高額納税者公示制度の廃止も含め、公示制度のあり方を見直すべきである。

おわりに

わが国の中小企業の実態に即した税制の実現を目指して
-中小企業を対象とした独自の法人税制の構築-

現行のわが国の法人税制は、主に株式を公開した大企業を前提とした制度となっており、圧倒的多数を占める中小企業の自由な経営活動や経営基盤の安定強化と必ずしも調和していない。かねてより当所では中小企業の実態を踏まえた税制上の措置を個別に要望してきたが、現行税制の個々の改善を積み重ねるだけでは限界がある。また、商法の分野では、現在、会社類型や会社区分のあり方を見直すなど、現代企業の実態を勘案した法改正の検討が行われている。加えて、会計の分野においても中小企業の望ましい会計のあり方について検討が行われている現状を鑑みれば、税制の分野においても現実に即した変貌を遂げる必要がある。
このようなことから、現行税制とは別に、中小企業を対象とした法人税制を新たに創設するべきである。これにより従来の中小企業関連税制の整理や様々な問題の解決が可能になるとともに、本則を基本とするシンプルな税制が実現される。そして何よりも、わが国の中小企業の真のダイナミズムを引き出すことができると考える。

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所