政策提言・要望

政策提言・要望

少子化対策予算の抜本的拡充に関する意見 「子どもをもちたい人が安心して育てられる経済・社会環境を実現する」

2005年7月19日
東京商工会議所

 政府は平成7年度から11年度にエンゼルプラン、平成12年度から16年度に新エンゼルプランに基づいて保育関係事業を中心に少子化対策を進めているが、充分な効果が挙がっているとはいえず、出生率は2003年に続いて2004年も過去最低の1.29にまで落ち込み、出生数も2001年から4年連続で低下している。

 昨年12月に策定された「子ども・子育て応援プラン」も、従来の各省施策の延長線上でまとめられるに止まっている感を否めず、ハイペースで進んでいる少子化に歯止めをかけることができるのか甚だ疑問である。

 一方、現在の人口構成において相対的に層が厚い団塊ジュニア世代が、今後5年ほどの間に出産年齢期を迎えることを勘案すると、今をおいて少子化に歯止めをかけるチャンスはないといえる。

 したがって、政府は少子化対策を最重点の国家プロジェクトと位置づけ、戦略的に推進すべきであり、内閣府に権限を有する副総理格の少子化対策専任大臣を置くとともに、今後5年間を重点強化期間とし、子育て世代への予算の重点配分、府省連携の実効ある対策の推進と併せ、政府による大々的キャンペーンを展開することが必要である。

 さらに、各種調査によると、夫婦が最初のあるいは二人目、三人目の子供をもたない大きな理由として、出産・育児費用の負担が重いことや将来の教育費用が高いことなどの経済的負担があげられており、出産・育児環境を改善するためには児童手当等の拡大、出産への健康保険適用などとともに、保育所のサービスの充実・料金の低廉化や育児休業制度の充実を望むものが多数を占めている。この点に関して、4月末に発表された内閣府の調査は、手厚くきめ細かな児童手当、子どもをもつ家庭に有利な税制、多様な保育サービスなどの政策努力がフランスの高い出生率を支えていると指摘している。少子化対策に成功しているフランスでは、家族・子供向けにGDPの2.8%に当たる公的支出を振り向けているのに対し、わが国ではGDPの0.6%しか配分されておらず、公的支出の面でも少子化対策は名ばかりである。

 以上のような状況に鑑み、少子化対策を名実ともに充実するため予算総額を大幅に増額するとともに、いま子育て支援として最も必要とされている「子供を持つことの経済的負担の軽減」ならびに「子育てと仕事の両立への支援」に重点的に配分することを提案する。また、少子化対策予算の拡充に際しては、現在社会保障給付費の約7割を占めている高齢者向け配分を削減し少子化対策に廻すという、「高齢者による次世代支援」の発想も有効であり、さらには、将来の国を支える人材への先行投資という観点から、償還期間が建設国債並みの特別国債の発行によることも考慮すべきである。

提言要望

1.「子供を持つことの経済的負担」の軽減
 児童福祉法第2条には、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」とうたっており、また、第4条では、「児童とは満18歳に満たないものをいう」と規定している。この法の定めるところに基づいて、児童の扶養者等の経済的負担を国及び地方公共団体で分担する趣旨から、以下の対策を講じることが望まれる。

(1)児童手当の充実
  支給額を第一子月額1万円、第二子月額2万円、第三子以降月額3万円に増額するとともに、支給期間を義務教育終了までに延長する。また、所得制限を大幅に緩和する(例えば、年所得800万円程度)。

(2)税制面での優遇
  義務教育終了までの児童を対象に、新たに「児童税額控除」(仮称)を創設し、扶養者の税負担を軽減する。 なお、控除額については児童手当の額と相俟って実効ある少子化対策となるよう政策調整を行う。

(3)医療費の軽減
  現在、子どもの医療費の自己負担を軽減するため、全都道府県で「乳幼児医療費助成制度」が実施されているが、対象年齢、所得制限の有無、助成額などが千差万別である。いかに地方公共団体が独自に実施しているとはいえ、少子化対策として全国的に一定水準以上のサービスを維持することが必要と考えられるので、少なくとも児童手当支給期間中は医療費の軽減が行われるよう、国による指導・助成を行うべきである。 また、出産費用および不妊治療への健康保険の適用、出産一時金の増額についても実施に向けて検討を進めるべきである。

(4)高等教育への奨学金制度の充実
  大学等への進学率が急速に高まるなか、入学金や授業料など親の教育費負担が増えており、これが経済的負担を大きくする一因となっている。この負担を軽減するためには、公的な奨学金制度の充実に加えて、企業の育英基金の設立や円滑な運営を促進するような税制面での措置をとるべきである。  なお、公立の小・中学校や高校における教育力の低下等から公立離れ傾向が進み、私立学校に進学する子どもが増えているため、従来より教育費負担が大きくなっているのではないかとの批判が強くなっているが、この点については長期的視点に立って地道な教育・学校改革の努力を続けていくことが求められる。

2.「子育てと仕事の両立」への支援
 子育てと仕事の両立支援については、企業の側でも中小企業を含め企業の社会的責任を果たすという考え方から積極的に取り組んでいく所存である。特に中小企業においては、従業員に占める女性のウェイトが大きく、また、出産後も継続して働く女性の割合が高いことなどから、子育て支援への取り組みは大きな経営課題になるものとみられる。しかしながら、もともと中小企業は経営資源が豊富ではないため、子育てと仕事の両立を支援する余力がほとんどないのが現状である。  国・地方公共団体においては、子育てと仕事の両立のためとり得る対策を総動員して早急に推進するとともに、子育て支援に取り組む企業、特に中小企業への助成に十分配意すべきである。  なお、雇用保険や雇用保険三事業のあり方については再検討することとし、少子化対策は将来の国を支える人材への先行投資等と位置付けて、別途新たな財源を検討すべきである。

(1)企業における子育て支援策充実へのインセンティブ付与
a.育児休業支援給付金の創設
 育児休業や短時間勤務など従業員の子育てと仕事の両立を積極的に進めようとする中小企業を対象に、人員確保やコスト対策等を支援するための育児休業支援給付金制度を新設する。
b.企業内保育所に対する助成の拡充ならびに税制上の優遇措置
 21世紀職業財団からの事業内託児施設助成金を拡充するとともに、企業内保育所の設置・運営コスト(企業の持ち出し分)の法人税からの控除および企業内保育所分の固定資産税の免除など、税制上の優遇措置を講じる。
 

(2)保育環境の整備・改善
a.大都市圏に重点を置いた保育所の整備・充実
 全国の待機児童数24,245人のうち、東京都内での待機児童数が最も多く 5,223人、1都3県を合わせると10,912人と半数近くを占めており、大阪圏も5,000人近くにのぼっている。一方、待機児童数ゼロ~100人未満の地域が全国に19県あり、大都市と地方との格差が大きいのが実状である。また、核家族化の進行や様々な勤務形態を背景とする、大都市に特有の多様な保育ニーズが存在すると考えられることから、今後の保育所整備・充実に当たっては、大都市に重点を置くことが肝要である。この点、東京都では現在の認可保育所だけでは応えきれていないニーズに対応し、かつ民活によりコストを押さえる試みとして「認証保育所」を推進しており、このような独自の取り組みを国としても後押しすべきである。
b.幼稚園・保育所の制度一元化の推進
 少子化の進展に連れて幼稚園に通う幼児数が減少している一方で、保育所の入所希望者は増加しており、また、働く母親の増加に伴って幼稚園や保育所のサービスへのニーズが多様化している。いまこそ幼・保一元化を進めるべきときである。
c.学童保育の充実
 就学前の保育のみならず学童保育についても、保育所の設置数の拡大ならびに延長保育の拡充に引き続き努めるべきである。
d.ベビーシッターの利用助成
 わが国においては、これまで日常的にベビーシッターを利用するという習慣がなかったためかこの分野のサービスは総体的に成熟しておらず利用料金が高止まりしている。国・地方自治体がバウチャー・システムなどによって、費用の一部を助成する制度も検討すべきである。
e.親が働いている子どもの病気への対応の充実
 仕事をもっている親にとって、子どもの急病は大きな問題であり、その対応の施設として病児保育所が設けられているが、設置されていない市町村も多いので今後一層の充実を進めるべきである。その際、病児保育室での保育のほか、登録制のヘルパーが子どもの看病にあたるような柔軟なシステムを地域、ボランティア、NPOなどと連携して整備することも検討すべきである。また、最近病院の経営効率化から小児科を削減・統合する動きが目立っており、子育ての不安感を高めている。小児医療・小児救急医療については、診療報酬の見直しも含め各地域において計画的に拡充すべきである。
 

(3)育児休業給付の拡充
 現在の育児休業基本給付金と育児休業者職場復帰給付金の額は、両方合わせて育児休業開始前の賃金の40%相当額となっているが、国が育児休業取得を奨励している男性にとって十分な所得保障とはいえず、また、家計の相当部分を支えている女性にとっても不十分である。したがって、男女を問わず、家計を主として支えている者は賃金の80%程度、そうでない者は賃金の50%程度を確保できるよう給付金を増額すべきである。
     
平成17年度 第7号
平成17年年7月14日
第561回常議員会決議

以上
【本件担当・問い合わせ先】

東京商工会議所
企画調査部
担当 島津・山内・寺田
TEL 03(3283)7661