会頭コメント

会頭コメント

平成27年年頭挨拶(東商新聞掲載)

2015年1月1日
東京商工会議所

明けましておめでとうございます。平成27年の新春を迎え、謹んでお慶び申しあげます。

東京・日本商工会議所の会頭に就任して、2回目の新年を迎えました。就任以来、被災地も含めた各地の商工会議所、都内各ブロック、女性会、青年部、会員各企業など、多くの関係者と意見を交換し、数多くの課題について議論を重ねてきました。
人口減などにより存立の危機に直面している地域や、円安がコストアップに直結して苦しむ中小企業を目の当たりにしました。同時に、明確な将来ビジョンを描き活力を生み出している地域や、イノベーションに果敢に挑戦し成功している中小企業にも接することができ、強い感銘を受けました。いずれの場面においても、商工会議所が地域の大きな期待に応えるべく、積極果敢にリーダーシップを発揮しており、その任務の大切さを実感いたしました。

 
■官民ともに実行・断行を
わが国経済は、多くの経済指標が改善を示すなど、全体としては明らかに回復の道をたどっており、20年続いたデフレを脱却しつつあります。私は、アベノミクスの本質は需要創造政策だったと思います。大規模な金融緩和、財政支出、民間活動の活性化により需要が増加し、需給ギャップは大きく改善されました。
マインド転換局面にある今こそ、資本蓄積、労働力、トータル生産性の3要素を向上させ、中長期的な経済成長を確実なものにしなければなりません。やるべき課題は既に明らかですので、本年は、官民ともに覚悟をもって、その解決に向けて実行・断行するときです。
政府には、安定政権でなければ実行できない痛みを伴う政策を断行し、日本の明るい未来への確かな道筋を示して欲しいと思います。社会保障給付の重点化・効率化は待ったなしであり、成長戦略は論ずる段階は過ぎ、実行あるのみです。一層の規制改革によるイノベーションの喚起、国際的な立地競争力の強化、低廉で安定したエネルギーの確保、人口減少の歯止めと地方創生などの山積する諸課題に対する適切な政策が、間断なく実行されることを期待します。
われわれ民間企業は、デフレマインドからの転換をチャンスと捉え、リスクをとりながら事業展開し、事業収益を次の設備投資や賃金増に結び付けなければなりません。経済の好循環を実現する原動力にして、これまでの貯蓄主体から本来の投資主体に転換し、積極的に行動することが求められているのです。

 
■外需の積極的な取り入れへ
日本は、GDPに占める輸出比率が2012年実績で13.4%と、先進国では9.9%の米国に次いて低い国です。GDPの6割を占める個人消費が日本の成長をけん引、つまり日本はこれまで内需主導で成長してきた国なのです。
しかし、今後の人口減少トレンドを考えると、内需の伸びは、ありとあらゆる努力をしても、せいぜい1~2%程度と多くを望めず、企業の成長のためにはどうしても外需を積極的に取り入れることが必要です。現状、売上高輸出比率が2%台の中小企業も、14%程度の大企業も、さらなるグローバル化の余地は大であり、新興国の需要等を積極的に捉えていくことが求められます。
海外現地生産という選択肢もありますが、わが国の人的資源や技術力の高さといった強みに加え、円安メリットも生かしながら、国内設備投資により供給能力を高め、輸出競争力を強化することも重要な戦略です。円安は、中小企業にとっては恩恵をフルに享受できるものではなく、むしろ原材料コスト増につながります。しかしながら、現在の円安はしばらく定着すると覚悟せざるを得ません。何とか円安をメリットにつなげられるように知恵を絞らなくてはなりません。いくつかの中小企業が、生産拠点を海外から日本に戻した、あるいは戻す計画だという話も聞いております。もちろん、そのための環境整備として、TPPの締結、主要国とのEPA締結、法人税の減税なども急務ですので、政府等に積極的に働きかけてまいります。
このようにわが国は、デフレマインドから脱却し、成長に向けた施策を実行することが急がれますが、二つの大きな構造的課題にも直面しています。ひとつは、「人口急減と超高齢化の加速化」、もうひとつは「地方疲弊の深刻化」です。

 
■50年後の日本の未来を選択
私は、経済財政諮問会議のもとに設置された「選択する未来」委員会の委員長として、50年後の日本の未来像と2020年までに取り組むべき課題をまとめ、昨年11月に報告書を公表しました。
本報告の第1の目的は危機感の共有です。政府、地方自治体、民間企業、大学等の学術機関、市民など、あらゆる関係者が直面する人口急減、地方消滅の危機感を共有化し、一体的な取り組みを推進すべきことを提言しました。第2は、希望の持てる日本の未来は選択することができる、そのためには、われわれは未来ではなく今取り組まなければならない課題に直面していることから、その解決の方向性を提示することでした。
選択する未来委員会で提言した「50年後に1億人程度の安定した人口構造を保持すること」が、政府の「骨太の方針」に盛り込まれました。その実現のためには、少子化対策支出の倍増、生産性の飛躍的向上、男性の働き方改革など、ありとあらゆる対策を総動員する必要があります。各地の商工会議所が取り組んでいる婚活イベントなども直接的な効果の期待できる重要な取り組みですので、ぜひ積極的に推進していただきたいと思います。

 
■創意と熱意で地方創生を
地方創生は大変困難な課題です。何しろ30年に亘る少子化、20年に及ぶデフレが地方の疲弊をもたらしたわけで、簡単に解決できるものではありません。
地方には、観光、農林水産業、地方大学など、まだ十分に活用しきれていない資源があります。こうした資源をいかにうまく地域の活性化に結び付けていくか、そしてそれをいかに若者の働く場につなげていくかが創生の鍵です。まさに、商工会議所が重点的に取り組んでいる「地域の再生」と直結する課題であります。
全国約1,800の市区町村には1,800の処方箋があるはずです。地方創生は、その地方が自ら知恵を絞り、解決策を生み出す、すなわち当該地方の主体性、創意と熱意なくして成しえません。それゆえに、中立的な立場で多くの関係者をまとめ上げる強みを持つ商工会議所への期待は非常に大きくなっています。地方創生においても、各会議所が強いリーダーシップを発揮していただきたいと思います。
また、災復興の加速化に向けては、全国514商工会議所の絆をもとに実施している「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」や「販路回復・拡大」などの活動を精力的に継続しなければなりません。一日も早い本格復興に向けて、現地が必要としている施策を丁寧に取りまとめ、政府などへ提言してまいります。


■大いなる気概と自信と明るさを持って
われわれ商工会議所が、自治体の首長や地域住民などあらゆる関係者とともに危機感を共有化した上で、知恵を絞り、実行する力を発揮すれば、現下の危機は乗り越えられるはずです。514商工会議所のネットワーク力など自らの強みに改めて自信を持ち、中小・小規模企業の活力強化や地域再生に積極果敢に邁進すれば、地域から日本の底力を上げる大きな原動力となります。東京においては、人口減少問題の克服、国際競争力の強化、災害に強いまちづくりなどに取り組んでまいります。
本年は戦後70年という節目の年でもあります。日本の新たな再出発に向けて、大いなる気概と自信と明るさを持ち、「実行あるのみ」を合言葉に、前に向かって動き出しましょう。皆さまの一層のご支援とご協力を心からお願い申しあげます。

以上