政策提言・要望

政策提言・要望 イメージ画像

Ⅱ.地域企業にできること

平成11年11月15日
東京商工会議所

 学校等や行政が地域の教育力に期待を寄せるようになってきた今、地域社会の一員としての企業による協力・支援の広がりも切望されてきております。
企業や企業人との交流は、子どもたちに自立する意欲を持たせ、起業家的精神の醸成や資質の向上にも役立つものであります。また、子どもたちの健全な成長のために企業が協力することは、わが国の社会全体の将来の発展はもとより、地域や地域企業にとっても将来の優良な後継者や従業員の確保につながるなど、有益なことと考えます。
したがって、以下に提案している具体策を参考に、できることから積極的に対応していただければと思います。

1.従業員の子育てを支援する

様々な要因から子どもを持ちにくくなっている現在、従業員が就業と子育てを両立しやすいような環境を整えることは企業の社会的責務となりつつあり、求職者や投資家にとっても企業を選定する際の重要な社会的評価基準の一つともなると思います。
東京商工会議所では、平成9年4月に公表した『「少子化対策」に関する提言』において、育児休暇制度の充実や勤務形態の多様化を進めるなど、子育て中の社員にやさしい職場づくりを提言いたしました。企業の経営環境が極めて厳しい現在、社内的な子育て支援策を拡充することは困難な企業も多いことと思われます。しかし、労働法制が変化し情報技術も発達した今日、職種によっては勤務時間の多様化や在宅勤務等、勤務形態を柔軟にすることで協力することが考えられますので、各企業・各職場それぞれの状況に応じて、また、業界や地域と協力し合いながら、子育て中の従業員の支援に取り組むことが望まれます。

2.社会的責任を自覚した企業経営、仕事の大切さを伝えることのできる企業人を目指す

企業が地域社会の一員として子どもたちの成長を支援していくにあたっては、まず経営者自身が、企業の発展とともに社会的役割と責任を担うという経営理念に則った経営を目指し、企業の従業員も、子どもに働くことの大切さや仕事上の喜びが伝わるよう日々の業務にあたることが望まれます。

3.企業の採用方針や人事考課制度の多様化・柔軟化を推進する

 社会的に影響力が大きい多くの有力企業や官庁において、長年にわたり採用・昇進時に有名大学出身者が優遇されてきたことにより、「いい大学を出ていい就職を」という偏った学歴信仰意識が生まれ、結果として受験戦争を激化させてきたという意味では、企業も責任の一端を負うべきであると言えるでしょう。 企業では近年、出身校不問あるいは在学中の習得内容や体験による人物本位の入社試験、入社後の実績を評価対象とする実力本位の人事考課を行う方向にありますが、この動きを一層強め、求める人材や資質を明確に世間にアピールするとともに、社内での実践を徹底することが必要です。企業としても、「偏差値の高い大学」を出ることだけが必ずしも「いい就職」の条件ではないという意識を、世間に浸透させていく必要があります。

4.地域の子どもたちの育成支援に参画する

 わが国経済社会のこれまでの発展を支えてきたものは、企業の経営者や従業員が保ってきた高い水準の技術や技能とサービス精神です。一方、企業は地域の活性化や文化・伝統の中核的担い手でもあります。したがって、将来の優良な後継者や従業員の育成は、経営面だけでなく地域にとっても継続的に取り組んでいかなければならない課題となっております。
文部省では、地域社会の持つ教育力に期待を寄せ、地域ならびにその一員である企業に対して協力を求め始めています。すでに、都内でもいくつかの地域で、企業は社会人講師の派遣や就業体験の受け入れに協力しており、来年度以降、受け入れの一層の拡大が求められます。
しかし、企業も地域社会の一員として、「地域による教育」に参画したいと思っても、なかなかきっかけがないという声を聞きます。そこで、協力・連携活動が長期に継続して行われるように、次のような活動を参考に、ご一考いただければと思います。

(1)「顔の見える関係」づくり

 「地域による教育」を実現可能にするためには、住民、企業と子どもや学校等とが「顔の見える関係」を築いて、徐々に活動を広げていくいく必要があります。
①地域における挨拶運動等の推進
挨拶運動を通して、お互いが「顔見知り」になることから始めてはいかがでしょう。街中の人たちが「会えば挨拶をする関係」を作っておくことが、地域の教育力を付けるための基礎になるのではないでしょうか。
ある学校で、生徒の親たちが中心となり、学校周辺で掃除をしながら登校・下校時の子どもたちに挨拶を始めたところ、次第に子どもたちからも挨拶が返って来るようになったとの報告もあります。地味ではありますが、着実に成果を上げる運動でもあります。

②地域住民や親子を対象とした企業主催行事の開催や所有施設の貸し出し
商店など一部の企業を除けば、企業がどのような活動をしているのか、どのような人がどのように働いているのか、ということは意外と地域社会に知られていないのではないでしょうか。
自社の魅力を地域社会にアピールし、ひいては優秀な人材の確保につなげることをも視野において、例えば年に1度「企業開放デー」といったものを設けて、地域の人を職場見学や即売会に招待するような取り組みも効果的です。自社のみで行うことが困難であれば、近隣の企業と協力し合ったり、地元の産業展やお祭りに参加したりと、工夫の余地はあるように思われます。
また、企業が使用していない間のグラウンドや寮・会議室の空室を地元の人たちに貸し出すようなことも、考えてみてはどうでしょうか。
あるいは、学校・企業の週5日制が広まり、親子で過ごせるこの2日間の休日に企業が場と機会を提供して、例えば「親子サッカー大会」「親子英語教室」などを開催し、企業・学校から指導者を出すような取り組みも喜ばれるでしょう。

③地域の子育て支援事業への協力
保育施設等における親自身に対する教育や保育指導、地域の高齢者を活用しての子どもに対する紙芝居やお話の会などの行事への協力や地域の子ども育成団体などによる子ども中心の行事開催を促し、企業はそれを支援することも一案です。
また、社員の希望があれば、幼稚園や保育所等の現場の手伝いのため、終業後に社員や家族をボランティアとして参加させることも考えられます。

④ 学校等が主催する懇談会等への積極的な参加
最近では、各学校等でも地域に自らを開く取り組みとして、地域の住民を招いて懇談会や講演会などを行う試みも始まっています。文部省も学校運営を地域の人たちとともに考えるため、各学校に「学校協議会」を設置したり、全国1,000箇所程度に地域内の様々な人たちによる協議会を作って「子どもセンター」を設置し、各種情報の収集・提供活動を行おうとしております。
企業もこうした機会を積極的に捉え、企業の事業内容や求める人材像などを学校等や地域社会にアピールしていくとともに、地域の子どもたちの生態や学校等・地域社会の行事や活動にも関心を持ち、参加していくことが重要です。

(2)子どもの「生き方」のアドバイス・職業観の醸成

新教育課程では、新しく「総合的な学習の時間」が設けられます。この学習の中には、地域の特色に応じた課題を取り上げて、観察・実験・見学やものづくり、生産活動など、校外での体験的な学習も行われます。こうした学習に、企業としても可能な範囲で積極的に協力していただければと思います。
①社会人講師・アドバイザーの派遣
子どもが「働くということ」の意義を理解し、将来に対する夢を抱くには、幼少年期の体験や経験が大きく左右します。できるだけ多様な大人たちの生き方や仕事に出会うことで正しい職業観を身に付ければ、職業を選択していく際の重要な参考になると思われます。
現在、多くの学校等では、仕事や芸術・趣味など様々な分野の専門家や一般社会人たちを講師に招いて、子どもたちに話を聞かせたり実習をさせるような取り組みを始めています。企業も学校等の求めに応じて講師を派遣したり、経営者自身が学校等に出向いて自らの経験を話し聞かせたり技術を伝えたりすることで、子どもたちに貴重な機会を提供できるものと考えられます。

②職場体験・職場訪問などの受け入れ

子どもたちが働くことの大切さを理解したり自らの進路について深く考えたりするためには、職場を実際に体験させることが効果的です。文部省では、大学生・高校生だけでなく、全国の小中学生についても1週間程度の職場体験をさせようと考えており、既にいくつかの研究指定校で取り組みが始まっております。学校から児童・生徒の体験学習の受け入れを求められる機会が多くなると思われますが、できるだけ受け入れていただきたいものです。
また、米国では「ファザーズ・デー」「マザーズ・デー」と称して父親・母親の職場を訪問させ、親の仕事を理解させる日が設けられています。親がどのように働いているのかを知ることは、子どもにとっては貴重な経験となるはずです。
さらに、教師・保育士や教育行政の担当者等についても、企業で働く体験は子どもたちを指導する上でとても貴重な経験となりますので、企業内研修の受け入れには可能な範囲で協力をしていただければと思います。

(3)教育機関・保育機関に対する教材・備品の提供

 学校等が様々な取り組みを進めていくにあたっては、相応の経費がかかります。企業を含めた地域住民が「自分たちの学校」を支えるために、それぞれができる範囲で教材や備品などを提供することも大きな意味を持ちます。

以上