政策提言・要望

政策提言・要望 イメージ画像

Ⅰ.教育機関・保育機関と地域の企業の協力・連携の推進にあたって

平成11年11月15日
東京商工会議所

地域ぐるみで子育てを

 子どもの育成には、親や家族の役割が最も重要ですが、バランスの取れた人間形成にあたっては、教育機関・保育機関(以下「学校等」)や地域社会における生活を通して多くのことを体験させることが不可欠です。
それには、親・家族や学校等、ならびに地域社会が新たな協力関係を築いて地域ぐるみで子育てを進めていく必要があり、そのため、以下の提案をいたします。

1.家庭の役割

 子どもたちが、その成長過程で基本的な躾や健全な生活習慣を身に付けたりしっかりした職業観を醸成するにあたり、家庭は最も重要な役割を担っています。親や家族が基本的なマナーを身に付けていなかったり、社会の規則を守らなかったり、あるいは学校や先生との良好な関係を築けなかったりでは、子どもの躾などは十分にできません。この点において、親の再教育や、そのためのプログラムの開発の必要性を唱える意見も少なくありません。また、進路や職業の選択にあたっても、親の考えを押しつけるのではなく、子どもの自主性を尊重しつつ、適切な情報とアドバイスを与えることが大切です。
一方、最近、子育てに自信を持てない親、子どもを虐待する親が増えてきております。また、もとより「父性」や「母性」両性の存在は大事ですが、女性の社会進出が進んで夫婦共働きの世帯が増え、さらに、死別・離別等により片親や両親がいない世帯も増えつつあるなど、家族の形態や構成が変化してきており、こうした傾向は今後一層強まるものと思われます。その際、概して子育てが母親のみの負担となりかねないことから、父親の積極的な子育て参加を促すとともに、保育所・幼稚園や学校と地域・企業が連携して子育て中の親を支え、子どもたちが健やかに育つ環境を作り出していく必要があります。
さらに、今の経済社会が熱望している創造力豊かな人材を育てるためには、特に幼児期において、人間の知恵が蓄積され示唆に富んだ「昔ばなし」や良質な歴史書・文学書を親や家族が直に話し聞かせることなどを通じてコミュニケーションを図りながら、想像力を鍛えるようなことも有効と思われます。

2.教育機関・保育機関の役割

(1)基礎的な知識・技能の習得と地域社会との連携

 学校等では、特に幼少年期において、遊びの一環として多様な芸術・スポーツに慣れ親しむことが大切です。しかし、コンピューターの普及により一人だけで、あるいはごく少数の者としか遊ばない子どもが見受けられるようになり、コミュニケーションの不得手な子が多くなっていることから、基礎的な集団活動に参画できる能力を身に付けることがより一層必要となっております。そこで、学校等の中でも、同年齢や異年齢の子どもたちと交わり遊ぶ時間を十分に確保することが重要です。
また、いわゆる「読み・書き・算盤」は、社会に出ていくための必要最小限の能力であり、より高度な思考や学習を可能にするための「基礎的ツール」でありますので、個々の子どもたちにあった学習法に配慮して、しっかり習得させることが重要です。
さらに、国際化・情報化の進展に対応して、世界共通語としての英語の会話力や情報に対する判断力・選択力は、できるだけ幼い頃から、遊びを通して習得できるよう、カリキュラムを工夫する必要があるでしょう。子どもたちが集団活動による葛藤やそれを解消する取り組みを通じて、社会性や規範精神を身に付けられるように働きかけることも重要です。
学校等は、地域住民が「自分たちの学校や園」との認識を持てるよう、学校等の現状や希望・期待について情報発信するとともに、空き教室の保育施設等としての提供、放課後・休日の教室や図書館・校庭等の開放や器具等の貸し出しなどを通じて、地域との交流を深める必要があります。
地域との連携を図っていく場合には、同じ地域にある全ての学校等と連携を密にするとともに、学校外の子どもたちの指導・育成機関や団体等(ボーイスカウト、ガールスカウト、スポーツ等の少年団、科学クラブ、各種NPO※等々)との連携を図ることが望まれます。
また、子どもたちの職場体験の受け入れ先や社会人講師を探すには、事前に卒業生や地域内の協力者を組織化したり、生徒・児童・園児たち自身が地域内の産業や特技を持った人たちを調べて「人物・企業マップ」を作成しておくなどの取り組みも必要です。

※NPO(Nonprofit Organization=民間の非営利組織)

(2)教師・保育士の能力・資質の向上

 子どもたちの育成にあたって、教育者としての情熱に燃え、能力の高い教師・保育士の存在は重要です。教師・保育士の養成段階や任用後においても、社会や企業の実態に触れる研修制度を拡充したり社会経験を積んだ者の採用拡大を図ることなどにより、子どもたちに伝える内容等が社会の実情から乖離しないよう配慮をする必要があります。
また、教師や保育士、学校等の管理者個々人が自己研鑚に努めるとともに、自ら進んで地域の人々と交流し、地域を歩いて地域の実情への理解を深めたり、地域の社会的な行事に参加することなどにより、地域社会に溶け込む努力をすることが望まれます。

3.地域の役割

 幼少年期が社会へ出るための準備期間であることを考えれば、この間に子どもたちにできるだけ多くの社会体験・自然体験あるいは集団活動やボランティア活動の場を提供して、社会がどのように成り立っているのかを体感させ、他者との協調や無償の奉仕などが持つ意味を理解させることが必要です。また、多くの大人たちの様々な生き方や働き方を目にさせたり、一緒に活動したりするなどの経験を積ませることは、子ども自身の将来の可能性や選択肢を広げる上で非常に重要です。
子どもたちがこのような経験をするためには、家庭や学校等だけでは十分な場を与えることが難しいと思われます。そこで、地域社会の協力が必要となってくるのです。地域社会は子どもたちに様々な触れ合いの場を提供することができる存在です。しかし、地域社会が教育力を持ち得るためには、学校等関係者も含めて「お互いに顔の分かる関係」でなくてはなりません。まずは大人同士が様々な活動を通して「顔見知り」になり、地域の教育を共に考えることのできる土壌を作り上げることが是非とも必要です。
また、現在文部省が各地に設置しようとしている「子どもセンター」(p.15参照)などの施設においては、情報の収集・提供だけでなく、地域内の専門家などによる子ども向けの体験教室や高齢者との交流の会などを開くこともできるよう、運営に積極的に関与していくことも必要です。さらに、子どもやその親たちが必要とするのであれば、学校等において地域の企業人や専門のアドバイザーによる進路等の指導を受けられるようにすることも一案です。

4.行政の役割

 教育は、家庭と学校等が中心となって地域社会の協力を受けて行われるべきものと思いますが、行政には関係者相互の協力関係を支援していただきたいと思います。特に職場体験を受け入れる企業などには、安全管理や生産管理などの面で大きな負担が生まれます。万一の事故等に対する保険料の支払いなどをはじめ予算措置が必要で、また協力・連携を推進したいと考えている地域がある場合には、関係者が協議をする場の設定や適宜必要な情報の提供・アドバイスをお願いしたい。
加えて、子どもたちの育成支援のため地域企業との協力・連携を必要とする事業は、関係者がその趣旨をしっかりと理解した上で進めていくことが重要であり、特に学校等の現場の教師・保育士には、意義を十分に理解していただくための研修を望みます。
なお、現在、地域における教育の推進は、文部省で言えば、学校教育に関する部分としては初等中等教育局が、学校の外で行われる取り組みについては生涯学習局が、それぞれに地域協議会などの設置によりモデル事業などを行うことを検討しており、これが末端の行政組織の施策に反映される結果、企業を含めた地域住民にとっては混乱の元になります。したがって、類似の施策を実施している中央省庁間や同一省庁内、あるいは国と地方との連携により、窓口の一本化と施策内容の総合化、情報の共有化による推進体制の整備を図る必要があります。
また、様々な経験を積んだ社会人の教員採用の拡大や産業界の定年退職者の活用を図るとともに、優秀な人材確保のため、教師・保育士が魅力ある職業となるよう処遇条件の一層の改善、小人数教育等の推進や施設・備品の整備を図るなど、教育投資の拡大も望まれます。
さらに、少子化の進行に伴う小中学校の統廃合による廃校舎や跡地には、PFI※などの手法により民間の力も活用しながら、子どもたちの保育施設や子どもたちが地域の住民、とりわけ経験ゆたかな高齢者との交流ができるような施設作りも考慮していただきたいと思います。

※PFI(Private Finance Initiative=民間資本主導の社会資本整備)

以上